Wiki / コード SOLPS-ITER は、核融合・プラズマ物理学のコード。核融合トカマクの周辺プラズマであるスクレイプオフ層とダイバータを模擬する二次元輸送コード群である。流体プラズマ方程式とモンテカルロ中性粒子輸送を結合し、ドリフト・電流・不純物シーディング・非接触ダイバータ状態などを扱える。現存・将来のトカマク装置の境界プラズマ設計・解釈に広く用いられる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは88本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.70%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2015年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 SOLPS-ITERは、トカマクなどの磁気閉じ込めプラズマの最外殻領域、すなわちスクレイプオフ層 (SOL)とダイバータ 領域のプラズマ輸送を解析するために開発された、二次元流体シミュレーションコードパッケージである。国際熱核融合実験炉(ITER )機構を中心として旧来のコードSOLPS4.3を置き換える形で開発され、現在ではプラズマ境界領域の標準的な解析ツールとして、ITERはもとより各国の装置や将来炉の設計研究に広く用いられている。プラズマを流体方程式で解くB2.5と、中性粒子をモンテカルロ法 で追跡するEIRENEを結合した構成をとり、不純物輸送 、ドリフト流、原子・分子過程を自己無撞着に扱える点が特徴である。
コードの構成と物理モデル
SOLPS-ITERは、プラズマの振る舞いを記述する流体コードB2.5と、中性粒子の輸送を扱うモンテカルロコードEIRENEから構成される。B2.5は、磁力線に沿った方向の輸送をブラジンスキー流体方程式に基づいて解き、磁力線に垂直な方向の輸送は異常輸送 係数と呼ばれる経験的な拡散係数で表現する。これは、境界プラズマの乱流輸送 を第一原理から解く乱流コードとは対照的なアプローチであり、SOLPS-ITERは定常状態 の解を比較的少ない計算資源で得られる一方、輸送係数は入力として与える必要がある。EIRENEは、中性水素分子や不純物 原子の電離、再結合、電荷交換などの原子分子過程をモンテカルロ法 で追跡し、プラズマ流 体方程式のソース項としてフィードバックする。この流体-運動論結合計算により、ダイバータ 内での中性粒子の再循環や の効果を自己無撞着に評価できる。
SOLPS-ITER
種別 コード
論文数 88 本
初出 2015 –2019 年(6本)
最盛期 2025 –2029 年 0.70% 索引にもどる
計算格子は、プラズマに対してはセパラトリックスに沿った構造格子(B2.5格子)、中性粒子に対しては装置全体を覆う非構造格子(EIRENE格子)が用いられ、後者は真空容器 壁やポンプ、ガスインジェクションの位置を幾何学的に正確に反映できる。図に示すように、B2.5格子はセパラトリックスを挟んでSOL とコア領域を覆い、EIRENE格子はその外側の真空容器領域まで含む広い範囲をカバーする。コア境界からの流入パワー、ガスパフ、ポンプ面といった入力条件が、この二つの格子を介して計算に与えられる。
従来のSOLPS4.3では、ドリフト流やSOL電流は考慮されていなかったが、SOLPS-ITERではこれらを活性化できるようになった。E×Bドリフトやダイアマグネティックドリフトによる横方向の粒子・熱輸送 は、内側ダイバータと外側ダイバータの間の非対称性や、磁場方向の反転(Bt反転)によるパワー分配の変化など、実験で観測される現象の説明に不可欠である。ダブルヌル配置やスノーフレーク配置といった複雑な磁気配置での解析では、ドリフトの効果が特に重要となる。また、不純物(Ne、Ar、N2、Wなど)の輸送も扱え、シードイング不純物による放射損失やタングステン 壁材のスパッタリング評価が可能である。
数値計算上の課題
流体-運動論結合計算では、EIRENEが生成するソース項の統計ノイズが収束性に影響する。特に粒子保存則の収束率はこのノイズレベルに依存するため、十分な統計精度を確保するためのモンテカルロサンプル数の確保や、ノイズ低減手法が実用上重要である。また、B2.5ではイオンの平行運動量にコロケート離散化を、内部エネルギー方程式を採用しており、これは旧来のB2(スタッガード格子、全エネルギー方程式)とは異なる離散化スキームであり、両コードの比較ではこの違いが結果の差として現れることがある。
計算コストの観点から、SOLPS-ITERの定常解を得るには数百から数千回の反復を要することが多く、特にドリフト活性化時や不純物 多種混合時には収束が難しくなる。このため、収束を加速する手法や、時間発展を扱う際の計算時間短縮が活発に研究されている。また、格子解像度が結果に与える影響を定量的に評価する格子収束解析も、信頼性の高い予測を行う上で重要な手続きとなっている。
検証・ベンチマーク・バリデーション
SOLPS-ITERの信頼性を確保するため、複数のレベルでの検証・バリデーションが行われている。コード対コードのベンチマークとしては、ITER ダイバータ設計の参照データベースを構築したSOLPS4.3との比較が代表的であり、同一の物理モデル設定下で両コードの差を定量的に評価することで、離散化スキームの違いや数値誤差の影響が切り分けられた。また、SOLEDGE2DやUEDGEといった他の境界プラズマコードとの比較も行われており、DTT (Divertor Tokamak Test facility)の低パワー scenario を対象に複数コードで同一の入力条件を与えて結果を比較する取り組みも報告されている。さらに、SOL の一次元簡約モデルDIV1DをSOLPS-ITERの二次元解とベンチマークし、動的モデルの物理的妥当性を検証する試みもなされている。
実験データに対するバリデーションでは、TCV トカマクのLモード プラズマを対象としたTCV-X21参照ケースが標準的なテストベッドとして用いられている。このケースでは、実験で測定された多数の観測量(プロファイル、ターゲット熱流束、分光データ、中性圧力など)とシミュレーション結果を定量的に比較し、一致度を単一の指標χで評価する手法が採用されている。この枠組みにより、中性粒子の取り扱いや輸送係数の設定が一致度に与える影響が系統的に調べられ、モデル改善の指針が得られている。
応用:パワー排気とダイバータ設計
SOLPS-ITERの最大の応用分野は、将来炉のパワー排気 問題である。ITER やCFETR 、EU-DEMO 、STEP といった将来装置では、コアからSOL へ流入するパワーが100 MWを超える規模に達し、ダイバータターゲット の熱負荷 を材料限界(定常で10 MW/m²程度)以下に抑えることが設計上の必須条件となる。このため、低Z不純物 (Ne、Ar、N2)のシードイングによる放射損失の増大、ダイバータ 閉じ込め幾何の最適化、ダイバータ脚長の延長といった手法の評価がSOLPS-ITERを用いて行われている。
特に重要な運転領域は「デタッチメント」である。これは、ダイバータターゲット近傍のプラズマを低温・低圧力化し、ターゲットへの熱負荷を大幅に低減する運転様式である。SOLPS-ITERは、デタッチメントへの遷移とその制御を解析する主要ツールであり、デタッチメント閾値の上流密度依存性、不純物シードイングの効果、中性圧力の役割などが調べられている。図は、MAST-U の従来型ダイバータとSuper-Xダイバータにおける電離ソースの空間分布の変化を示したものである。デタッチメントの進行に伴い、電離フロントがターゲットから離れてX点 近傍へ移動する様子が、両配置の比較で描かれている。Super-X配置では、ターゲットでの磁場強度の低下(フラックス拡大)と中性粒子の閉じ込め強化により、デタッチメント閾値密度が従来型より低密度側へ下がることが示されている。
fig.5 Comparison between MAST-U conventional and Super-X configurations through SOLPS-ITER modelling (2022) · CC BY 4.0
SOLPS-ITER 2D plots of the ionization source Sion evolution for both configurations, with the ionization front detaching from the target as detachment progresses. In (a) and (b) both are in attached conditions (i.e. the upstream density is ne,up ∼ 3.5 × 1018 m−3). (c) and (d) are the conventional and Super-X at the Super-X rollover point (ne,up ∼ 7 × 1018 m−3) indicated on figure 3. In (e) and (f) both are in detached conditions (ne,up ∼ 1.45 × 1019 m−3).
磁気配置の工夫も重要な研究テーマである。MAST-UのSuper-X配置やスノーフレーク配置、ダブルヌル配置など、代替ダイバータ概念の評価が進められている。また、ASDEX Upgrade で発見されたX点ラジエータ(XPR)は、X点近傍に局在した強放射領域を形成し、ELM の抑制や完全デタッチを実現する現象として注目されており、SOLPS-ITERはその形成機構(中性粒子の役割、磁力線接続長、ドリフトの効果)の解明に用いられている。さらに、核融合炉で不可避的に生成されるヘリウム 灰の排気と、それがデタッチメント閾値やタングステン スパッタリングに与える影響の評価も、ITERの運転計画に関連して進められている。
これらの応用研究を通じて、SOLPS-ITERは単なる解析ツールにとどまらず、ITERやDEMO 級装置のダイバータ設計と運転シナリオ策定における予測モデリングの基幹ツールとしての地位を確立している。一方で、異常輸送 係数を入力とする依存性、乱流輸送 の自己無撞着な記述の欠如、動的現象(ELMや乱流)の直接的な扱いの限界など、モデルの適用限界も認識されており、BOUT ++などの乱流コードとの結合計算や、機械学習を援用した高速化など、これらを補完する取り組みが進められている。
Nuclear Fusion 2021
SOLPS-ITERの研究史 — FusionPapers