CFETRの研究史 — FusionPapers
Wiki / 装置 CFETR は、核融合・プラズマ物理学の装置。中国の核融合開発計画でITERとDEMOの間を埋める次期トカマク装置であり、フェーズIで最大200MW、フェーズIIで1GW級の核融合出力とトリチウム自給を目指す。超伝導磁石や増殖ブランケット、ダイバータ等の工学設計と統合モデリングによる運転シナリオ開発が進められている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは333本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の1.89%を占めた。直近の2025–2029年では0.61%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2010年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
China Fusion Engineering Test Reactor
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 CFETR(中国融合工学実験炉、China Fusion Engineering Test Reactor)は、中国が核融合エネルギー実用化に向けて計画した超電導トカマク型装置であり、国際共同実験炉ITER と実証炉DEMO の間の物理的・工学的なギャップを埋めることを目的としている。当初は200 MW規模の核融合出力での定常運転とトリチウム 自給を達成し、最終的にDEMOに相当する1 GW級の核融合出力での運転を実証するという、二段階のミッションを掲げている。中国の核融合ロードマップにおける次期主要装置として、設計研究と各種機器の研究開発が進められてきた。
fig.2 Conceptual design of solid-type PbxLiy eutectic alloy breeding blanket for CFETR (2023) · CC BY 4.0
CFETR and blanket design.
図はCFETRの全体構成とブランケット設計を示したものである。プラズマを閉じ込める真空容器 、その内側のブランケット、外周を取り囲む超電導コイル系など、装置の中核をなす機器の配置が描かれている。
ミッションとロードマップ上の位置づけ
CFETRの運転は二つのフェーズに分けられる。第Iフェーズでは、ITER と同程度のプラズマ条件(プラズマ電流10 MA、大半径5.7 m、トロイダル磁場5.0 Tという初期設計が用いられた)で、燃焼デューティーサイクル50%程度の長パルスないし準定常運転を行い、核融合出力200 MW、エネルギー増倍率Q=3、トリチウム増殖 比TBR>1を実証する。ITERとの最大の違いは、トリチウム 増殖ブランケットを実装する点にあり、これによりITERでは実証できない燃料自給の技術を検証する。第IIフェーズでは、核融合出力1 GW、Q=12を目標に、 に必要な工学技術の実証を行う。
CFETR
種別 装置
論文数 333 本
初出 2010 –2014 年(5本)
最盛期 2020 –2024 年 1.89%
直近 2025 –2029 年 0.61% 索引にもどる
このロードマップの鍵となる課題は、定常運転(あるいは長パルス運転)と高いデューティーファクター(0.3〜0.5)の両立である。実用炉としての価値は、短時間の高出力実験ではなく、連続的あるいは高稼働率での発電に近い運転にあるため、プラズマ制御 ・機器の耐久性・燃料循環のすべてが定常条件で成立することが求められる。このためCFETRの設計では、物理設計と工学設計が一体的に進められてきた。
設計は段階的に更新されており、初期の大半径5.7 m、6.6 mという案を経て、2019年時点の最新設計では大半径R=7.2 m、小半径a=2.2 m、プラズマ体積1249 m³(ITERは840 m³)へと拡大された。プラズマ電流は14 MA、プラズマ縦横比に相当する伸長率は2、大半径位置でのトロイダル磁場は6.5 Tである。装置の大型化は、1 GW級の核融合出力と定常運転に必要なプラズマ性能を確保するためのものである。
装置構成と磁場システム CFETRは超電導コイルによる磁場閉じ込め を採用する。磁場システムは、中心ソレノイド (CS)コイル、トロイダル磁場(TF)コイル、ポロイダル磁場(PF)コイル、補正コイル、およびダイバータ コイルから構成される。最新設計ではTFコイル16基、PFコイル6基、6モジュールのCSコイルが置かれる。TFコイルにはNb₃Sn 系の導体が用いられ、ケーブル・イン・コンジット導体(CICC)の形で巻かれる。矩形断面のCICCを採用する案と円形断面を採用する案が検討され、矩形導体ではTFコイルの機械的安定性と巻線密度の向上が期待された。
図はCFETR磁場システムの構造と断面配置を示したものである。中心軸周りに配置されたCSコイル、その外側を取り囲むD字形のTFコイル群、プラズマの平衡を制御するPFコイルの配置が確認できる。
磁場システムの設計上の課題は、大電流密度と高磁場の両立から生じる巨大な電磁力と蓄積磁気エネルギーにある。正常運転時だけでなくクエンチ(超電導状態の喪失)や緊急遮断などの故障時を含めて、磁場強度・応力・ホットスポット温度が許容基準内に収まることを、電磁解析・構造解析・熱水力 解析で確認する必要がある。クエンチ時には導体内部の温度上昇とコンジット内ヘリウム 圧力の急上昇が生じるため、その伝播挙動の評価が安全性の要となる。また、TFコイルの内側脚部は半径方向に2.29 mから3.48 mという限られた空間に収められ、この制約が機械設計上の難題となっている。プラズマのトロイダル磁場リップル の評価と強磁性体インサートによる低減の検討も行われている。
超電導コイルを4.5 K程度に冷却するための極低温システムは、ヘリウムと窒素 の冷凍機、80 Kヘリウムループ、熱遮蔽、バルブボックスなどから構成される。このシステム自体が数十MW級の電力を消費するため、補機類が消費する再循環電力の一部として、装置全体の実効的な発電性能(Q)に影響を与える。特に定常運転を狙う装置では、再循環電力の評価が設計の妥当性判断に直結する。
運転シナリオとプラズマ物理
CFETRの物理設計の中心課題は、高核融合出力(1 GW級)、定常運転に必要な高ブートストラップ電流 比、そして熱・粒子排気と両立するプラズマ縁の三つを同時に満たす運転シナリオを構築することである。電流駆動 には、高周波電子サイクロトロン加熱 、下偏波電流駆動(および高速波)、そして軸外注入の負イオン 中性粒子ビーム入射(NBI )が組み合わせて用いられる。これらの加熱・電流駆動装置は、プラズマ電流分布 を能動的に制御し、定常状態 を実現する手段となる。
運転シナリオの候補として、通常のHモード と反転磁気せん断(RS)Hモードの二つが検討されている。コアと縁を結合した統合モデリングによる評価では、三角形状パラメータδの効果が二つのシナリオで逆になることが示された。通常Hモードではδを高めるほどペデスタル 温度が上昇し、コアの輸送が硬い(stiff)ことと相まって核融合性能が向上する。一方、RS Hモードでは低δのときに内部輸送障壁 (ITB)が強く形成され、ITB内側の密度・温度が高まることで高い核融合出力が得られる。ペデスタル密度を固定した場合のこの対比は、磁気せん断と衝突頻度が輸送に与える効果の違いから説明される。また、ペデスタル温度を固定した場合には、高δでペデスタル密度が上昇しコアまで及ぶことが支配的となり、いずれのシナリオでも核融合出力が大きく増大する。ただし、この高密度運転が効率的な熱・粒子排気に必要な縁密度条件と両立するかが、実用化の分かれ目となる。
不純物 の影響も統合モデリングで評価されており、コアへの不純物侵入が定常シナリオの性能を左右する要因として扱われている。これらのシナリオ研究は、個別の物理モデルではなく、輸送・平衡・加熱・縁プラズマを結合した多次元コード群による自己無撞着な解析に基づいて行われている点に特徴がある。
増殖ブランケットとトリチウム自給
ブランケットは、トリチウム増殖 、核熱の除去、放射線遮蔽という三つの機能を担うCFETRの中核機器である。トリチウム 自給を実証するというミッション上、TBR>1.0を達成できる設計であることが絶対条件となる。CFETRでは技術リスクを分散するため、固体増殖ブランケット と液体増殖ブランケットの二系統が並行して開発された。
固体増殖ブランケットの代表が水冷却セラミック増殖ブランケット(WCCB )であり、トリチウム増殖材としてリチウム 含有セラミックペブル(Li₂TiO₃ やLi₄SiO₄ )、中性子増倍材としてベリリウム 系ペブルを用い、冷却板で核熱を除去する構成である。ベリリウムは資源が限られ価格が高いため、使用量を抑える工夫が検討されてきた。一方、液体増殖ブランケットとしては中国の双機能リチウム鉛(DFLL)試験ブランケットモジュール が検討され、Pb₈₃Li₁₇共晶合金(融点約235 ℃)を用いて、液体の流動により核熱とトリチウムを炉外に取り出し、オンラインでのトリチウム回収 と燃料制御を行う方式が研究された。さらに、PbとLiの原子比を調整した高融点のPb-Li 系固体材料を増殖材と増倍材の両方に使う新しい固体ブランケットの概念も提案されている。
図はWCCBブランケットの構造設計を示したものである。増殖材・増倍材のペブルベッド 領域と冷却板の積層構造、およびモジュールを構成する支持構造が描かれている。
ブランケットの設計では、中性子工学 の観点からTBRの最適化が繰り返し行われた。第一壁 の設計、ポート開口がブランケットや超電導コイルに与える影響、加熱装置や診断装置との界面構成がTBRに及ぼす影響などが評価され、遮蔽設計がコイルと真空容器 の許容値を満たすまで複数回の中性子計算による反復設計が行われた。真空容器は16セクターから構成され、各セクターに内側ブランケット2セグメントと外側3セグメントが置かれ、上部ポートから遠隔保守 工具により着脱される。ブランケットと他システムとの界面設計は、熱膨張、電磁負荷、遠隔保守の実現可能性という制約の中で定義される必要があり、システム間の依存関係が強いことから設計上の重要課題とされた。また、炉内機器から発生するトリチウムダストの除染方法や、水素同位体分離 のための極低温蒸留塔の動特性と制御など、燃料循環に関わる研究も進められている。
ダイバータとパワー排気
1 GW級の核融合出力を達成するCFETRでは、コア領域からスクレイプオフ層 (SOL)へ約200 MWの熱が流れ出し、これをプラズマ対向機器 、とりわけダイバータターゲット で受けることになる。定常状態 でのターゲット熱負荷 を10 MW/m²以下に抑えることが設計上の最大の課題の一つであり、パワー排気 の解決策が詳細に検討されている。
図はCFETRの基準ダイバータ 形状とロングレグダイバータ形状の概念図である。X点 からターゲットまでのレグの長さが両者でどのように異なるかが対比して描かれている。
熱負荷低減の第一の手段は、アルゴン 、ネオン、窒素 といった低Z不純物 をシードしてSOL・ダイバータ領域での放射損失を増やすことである。SOLPS-ITER コードを用い、ドリフトを含む全項計算による評価では、これらの不純物シードによる放射冷却がターゲット熱負荷の低減に有効であることが確認された。第二の手段はダイバータ幾何形状の最適化であり、X点とターゲットの間のポロイダル距離(レグ長)を延長することで放射体積を増やし、熱をより広い領域に分散させる方式が検討された。これは日本のDEMO 設計でも採用が検討されてきた手法であり、CFETRでも不純物シードと組み合わせた効果が評価されている。ダイバータ部材の構造解析や、遠隔保守 に適合するダイバータ構造の概念設計も並行して進められている。
まとめ
CFETRは、ITER では実証できない定常運転・トリチウム 自給・工学課題の検証を担う、中国の核融合ロードマップの中核装置として設計研究が進められてきた。大半径7.2 m、プラズマ電流14 MA、トロイダル磁場6.5 Tという装置条件のもとで、超電導磁場システム、増殖ブランケット 、ダイバータ 、燃料循環、遠隔保守 の各システムが一体的に設計され、統合モデリングによる運転シナリオの構築と、主要機器の実証研究開発が並行して行われている。ITERとDEMO の間のギャップを埋めるという位置づけにおいて、CFETRは物理と工学の両面で次世代核融合炉に向けた技術基盤を形成する装置である。