真空容器(Vacuum vessel、iter vacuum vessel)は、核融合・プラズマ物理学の工学。核融合炉のプラズマを囲むトーラス状の真空境界構造であり、二重壁のステンレス鋼製で、炉の安全障壁としても機能する。プラズマ崩壊や垂直変位事象時の電磁力に耐え、真空漏れを防ぐとともに、核遮蔽と水冷却の役割を担う。トカマクやヘリカル装置など磁気閉じ込め核融合装置に共通の主要構造である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは280本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.73%を占めた。直近の2025–2029年では0.42%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
真空容器(vacuum vessel, VV)は、トカマクなどの磁気閉じ込め核融合装置において、プラズマを高真空状態で閉じ込めるためのドーナツ状(トロイダル状)の金属容器である。単なる真空容器にとどまらず、放射性物質の漏えいに対する第一の安全障壁としての役割を担い、炉心に近接する主要機器の中でも設計・製造・検査の要求水準が最も高い部類に属する。ITERでは全高13.8 m、幅6.6 m、重量約375トンのセクター9個で全体が構成され、その製造には核融合工学の中でも最先端の溶接・成形・検査技術が結集されている。以下では、ITER真空容器の全体構成と、製造された最初のセクター(セクター#6)を示す。

fig.1 Evaluation of the functional acceptability of the ITER vacuum vessel (2023) · CC BY 4.0
ITER vacuum vessel: (a) the ITER vacuum vessel consists of nine vacuum vessels, eighteen upper ports, seventeen equatorial ports, and nine lower ports. Precisely, one vacuum vessel consists of four poloidal segments. (b) Manufactured the first sector (sector #06) of the ITER vacuum vessel. It is 13.8 m high (the height of D-shape is 11.4 m) and 6.6 m wide. The total weight of the vacuum vessel sector is 374 tons. The first sector was delivered to the ITER site in August of 2020.
図に示されるように、真空容器は9個のセクターと18個の上部ポート、17個の赤道面ポート、9個の下部ポートからなり、各セクターは4つのポロイダルセグメントに分割される。この大規模で複雑な構造物が、真空密閉性と構造健全性の両方を同時に満たさねばならない点が、本分野の技術的骨子である。
機能と安全上の役割
真空容器の第一の機能は、プラズマ維持に必要な高真空環境を提供することである。核融合プラズマは不純物に極めて敏感であり、容器内は運転中に高い真空度に保たれる。第二の機能は、第一安全障壁としての役割である。重水素と三重水素の核融合反応で生成する14 MeV中性子によって炉内構造材が放射化されるため、容器はトリチウムや放射化生成物の環境への漏えいを防ぐ密閉境界となる。第三に、ブランケットやダイバータなど炉内機器の機械的支持体であり、第四に、循環冷却水によって核加熱を除去する熱除去機能を持つ。
これらの機能から、真空容器は安全重要機器・保護重要機器に分類される。ITERではフランスの圧力機器政令(ESP)でカテゴリーIVの圧力機器、核圧力機器に関する命令ではN2レベルに指定され、設計・建設の技術基準としては核融合炉用設計基準RCC-MR 2007が適用される。運転中は最大1.1 MPaの加圧冷却水が容器内を流通するため、通常の真空容器ではなく「加圧された核安全機器」として扱われる点が特徴である。
構造:セクター、二重壁、ポート、壁内遮蔽
真空容器はトロイダル方向に9個のセクターに分割され、各セクターはポロイダル方向に4つのセグメント(上部・赤道部・下部)と、上下ポートのスタブ延長部から組み立てられる。容器壁は二重壁構造をとり、内殻と外殻の間に冷却水の流路と壁内遮蔽(in-wall shielding, IWS)ブロックの空間が設けられている。IWSは中性子とガンマ線を遮蔽して超伝導磁石や外部機器の放射線損傷・発熱を低減するとともに、二重壁間を剛性高く結合する構造要素でもある。IWSブロックは冷却チャネルを形成するため、製造後に内視鏡を用いて流路の閉塞がないか内部検査が行われる。

fig.3 Evaluation of the functional acceptability of the ITER vacuum vessel (2023) · CC BY 4.0
Double inside wall and visual inspection of the vacuum vessel: (a) installation of the IWS blocks in vacuum vessel sector #6. (b) Schematic diagram of the double-wall interior visual inspection. We examined the cooling channels created by the IWS blocks using an endoscope to check for blockages.
図はセクター#6へのIWSブロックの設置状況と、二重壁内部を内視鏡で検査する様子を示す。トロイダルリブやFSH(フィールドジョイント支持構造)とともにIWSブロックが組み込まれ、内視鏡視野には溶接裏波や内殻面が確認できる。
ポートは上部・赤道部・下部の三種類があり、それぞれ加熱装置、診断、遠隔保守、ブランケット交換などの用途に供される。ポートは真空容器の密閉性を保ちながら炉内へのアクセスを可能にする要であり、後述の通り事故解析上はポートシール部が空気侵入のクリティカルな箇所とされる。
荷重と構造設計
真空容器が受ける荷重は多岐にわたる。第一に電磁気力である。プラズマの垂直不安定性(vertical displacement event)やプラズマ中断(disruption)、とりわけ熱クエンチ時には、プラズマ電流の急減と位置の急変動が容器壁に誘導電流を生じさせ、巨大な電磁力が容器およびその支持構造に作用する。DIII-Dでは垂直不安定時に容器壁へのポロイダル電流流入が観測されており、KSTARなどでも容器と周辺機器の界面に作用する電磁力の解析が設計課題となっている。熱クエンチ時の容器への局所力・積分力はITERでも詳細に評価されており、この種の電磁構造連成解析は設計の標準手法となっている。
第二に熱荷重である。容器はベーキング(高温での真空脱ガス処理)を運転前に行うが、SST-1ではベーキング時のプラズマ対向壁と容器壁間の放射伝熱が評価され、TCABRでもベーキング過程の熱・構造解析が行われるなど、高温化に伴う熱変形と熱応力の管理が共通課題である。第三に核荷重として、14 MeV中性子による核発熱、材料の放射化、照射損傷がある。DEMOの真空容器設計では中性子線遮蔽性能を確保するための中性子学解析が行われ、CFETRでは冷却水にホウ酸を用いて遮蔽効率を高める検討もなされている。さらに冷却水系の破断を想定した冷却材喪失事故(LOCA)時の圧力上昇にも耐える設計が要求される。
これらの荷重に対し、容器はRCC-MR 2007に基づくクラス2溶接箱形構造として設計され、支持・漏えい防止部材を含む構造解析によって各荷重条件での構造健全性が検証される。
製造:成形、溶接、公差管理
真空容器製造の最大の難所は、巨大かつ複雑なD断面二重壁構造を、厳しい製造公差と100%の体積検査要求を満たしながら溶接組み立てる点にある。ITERではまず実物大モックアップ3基を製作し、精密溶接、三次元冷間成形、体積検査、溶接変形、治具システムという主要製造技術を実証した上で、製造準備状況審査を経て実機製造に移行した。
殻板は厚手のステンレス鋼(316L系、板厚40〜60 mm級)を三次元曲面に冷間成形した後、深溶込み溶接で接合される。CFETRでは1/8スケール実機大模型(22.5°セクター2個)の製造を通じて、双曲線殻の高精度成形、50 mm厚全溶込み構造の溶接変形制御、複雑溶接部の全容積非破壊検査、高精度三次元計測基準網の構築という技術課題に取り組んだ。ITERでは、セグメントPS1の溶接治具を有限要素法による溶接変形解析でインプロセス制御したり、電子ビーム溶接の溶接順序が原型セグメント(VATS)の変形に与える影響を評価したり、NG-TIG溶接を1/8セクター模型に適用するなど、溶接変形の予測と抑制が製造技術の中心に置かれている。厚板316LのTIG溶接部については機械的特性と組織の評価も行われている。
製造公差は、セクター間の溶接合わせや磁石系との界面精度から数mmオーダーに抑えられる要求があり、重量375トン級の構造物でこれを実現するため、高精度三次元計測とフィデュシャル(基準点)網による管理が不可欠である。プロジェクト管理の面でも、欧州が担当するセクター調達では複数国内機関とITER機構の間の複雑なインターフェース管理が課題とされた。
受入試験と安全解析
製造されたセクターは、工場受入試験(factory acceptance test, FAT)と呼ばれる一連の試験で機能受容性が確認される。ITERの最初のセクター(#6)では、目視検査、予備ポンプダウン評価、耐圧試験、ヘリウム漏れ試験(真空漏れ試験)、最終寸法検査が実施され、すべてが仕様および技術基準に適合することが示された。真空漏れ試験はITER真空容器セクターとして初めて実施されたものであり、真空密閉性と構造健全性という機能要求の検証の中核をなす。
安全解析の側では、真空容器に関わる設計基準事故・設計基準超過事故が系統的に評価される。欧州DEMOのヘリウム冷却ペブルベッド(HCPB)ブランケット概念では、真空容器のポート貫通部破断による真空喪失事故(LOVA)が代表的な初期事象(想定頻度1.0×10⁻⁴〜1.0×10⁻²/年)として解析され、システムコードMELCORを用いてトリチウムやタングステンダストの移行、タングステン壁面と水蒸気の反応による水素生成が評価される。LOCA時には容器内で生じたダストや除染水が圧力抑制槽内に堆積する挙動も実験的に分析されており、真空容器は単体の容器としてではなく、圧力抑制系やクライオスタットを含む安全系全体の中で評価される。
また、真空容器は遠隔保守の対象でもある。炉内での溶接・切断作業を行う多自由度マニピュレータや並列機構ロボット、水圧駆動の溶接切断ロボットなど、容器内での保守作業に適合するロボット工学の開発が各装置で進められており、容器の構造設計はポート寸法・アクセス経路の面からも保守性を考慮して決められる。
この解説が根拠にした論文から
- R&D achievements for vacuum vessel towards CFETR constructionNuclear Fusion 2020
- Manufacturing completion of the first ITER vacuum vessel sectorNuclear Fusion 2022
- Evaluation of the functional acceptability of the ITER vacuum vesselNuclear Fusion 2023
- Preliminary accident analysis of the loss of vacuum in vacuum vessel for the European DEMO HCPB blanket conceptNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1985–19942本 · 0.04%
真空容器とプラズマ不安定性の接続
この時代の2件は、DIII-Dトカマクにおける垂直不安定性時の容器壁へのポロイダル電流流出入と、NET真空容器におけるプラズマディスラプションの電磁効果を扱っており、真空容器がプラズマ現象と結合した工学的対象として現れる。全タイトルに占める割合は0.04%とごく小さい。
同時に語られた主題プラズマディスラプション
この時代の論文から
- Observation of poloidal current flow to the vacuum vessel wall during vertical instabilities in the DIII-D tokamakNuclear Fusion 1991
- Electromagnetic effects induced by plasma disruptions in the NET vacuum vesselFusion Engineering and Design 1991
1995–200436本 · 0.36%
ITER開発を中心とする真空容器設計
真空容器はITER設計・R&Dの主要項目となり、容器内機器、ブランケットモジュール、トリチウム、熱遮蔽体、低放射化フェライト/マルテンサイト鋼などと並んで論じられる。機械別ではITERが20件と大半を占め、KSTARやLHDも現れる一方、TCVトカマクの能動コイルのように容器内外のコイルに関する報告も見られる。
同時に語られた主題容器内機器、ブランケットモジュール、垂直変位、トリチウム、熱シールド、逆磁場ピンチ
この時代の論文から
- Feedback stabilization of axisymmetric modes in the TCV tokamak using active coils inside and outside the vacuum vesselNuclear Fusion 1998
- Design improvements and R&D achievements for vacuum vessel and in-vessel components towards ITER constructionNuclear Fusion 2003
- ITER-FEAT vacuum vessel and blanket design features and implications for the R&D programmeNuclear Fusion 2001
- Progress and achievements of R&D activities for the ITER vacuum vesselNuclear Fusion 2001
2005–201488本 · 0.57%
詳細設計と数値解析の展開
ITER真空容器の設計解析、製作技術、ポート設計が進み、熱遮蔽体、プラズマ対向機器、モックアップ、熱流動解析、CFD、中性粒子入射、プラズマ診断などと共に論じられる。機械別ではITERが61件と突出し、JT-60SA、EAST、KSTAR、Wendelstein 7-Xなど多様な装置での検討も含まれる。ETE球状トカマクの渦電流やSTARDUSTのダスト再浮遊実験のように、実験と数値解析を組み合わせた研究も現れる。
同時に語られた主題熱シールド、プラズマ対向機器、モックアップ、熱水力、プラズマ診断、中性ビーム
この時代の論文から
- STARDUST experimental campaign and numerical simulations: influence of obstacles and temperature on dust resuspension in a vacuum vessel under LOVANuclear Fusion 2011
- Eddy currents in the vacuum vessel of the ETE spherical tokamakNuclear Fusion 2005
- Manufacturing technology development for vacuum vessel and plasma facing componentsFusion Engineering and Design 2005
- Analyses of the ITER vacuum vessel with the use of a new modelling techniqueFusion Engineering and Design 2005
2015–2026154本 · 0.62%
製作完了と安全評価の時代
ITER最初の真空容器セクターの製作完了や機能適合性評価が報告され、CFETR建設に向けたR&Dも始まる。熱遮蔽体、モックアップ、垂直変位、プラズマディスラプション、冷却材喪失事故、第一壁、熱流動、遠隔操作などと並び、構造健全性と安全評価が主要な論点となる。ITERに加えてJT-60SA、KSTAR、EAST、Wendelstein 7-Xでの検討も引き続き見られる。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題熱シールド、モックアップ、垂直変位、プラズマディスラプション、冷却材喪失事故、第一壁
この時代の論文から
- R&D achievements for vacuum vessel towards CFETR constructionNuclear Fusion 2020
- Manufacturing completion of the first ITER vacuum vessel sectorNuclear Fusion 2022
- Evaluation of the functional acceptability of the ITER vacuum vesselNuclear Fusion 2023
- Local and integral forces on the vacuum vessel during thermal quench in the ITER tokamakPlasma Physics and Controlled Fusion 2016
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Vacuum vessel、iter vacuum vessel など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文31本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、4本の論文(うち全文3本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
