冷却材喪失事故(Loss-of-coolant accident、LOCA、loss of coolant accident)は、核融合・プラズマ物理学の工学。冷却材が冷却配管の破断等により真空容器内あるいは外部へ流出し、炉心構造物の過熱や圧力上昇、放射性粉塵の再浮遊を引き起こす設計基準事故である。水冷却炉では蒸気・水素生成、ヘリウム冷却炉では高マッハ噴流を伴い、閉じ込めバリア健全性の観点から安全評価が行われる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは64本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.24%を占めた。直近の2025–2029年では0.17%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
冷却材喪失事故(LOCA、loss-of-coolant accident)とは、核融合炉のブランケットやダイバータなど炉内機器を冷却する高圧冷却系に破断が生じ、冷却材が本来の回路外へ漏えいする事故のことである。核融合炉では、冷却材が真空容器内へ噴出する「炉内LOCA」と、容器外の機器室へ放出される「炉外LOCA」に大別され、いずれも設計基準事故として炉の安全設計の中心に置かれている。真空容器は放射性物質を閉じ込める第一の障壁であり、冷却材の噴出による容器の加圧、活性化ダストの再懸濁、水素の発生といった現象を定量的に予測することが、ITERや各国のDEMO設計で盛んに解析されている。以下、冷却材が破断点から噴出し真空容器内へ広がる様子を、高圧力比条件下での噴流発達の模式図として示す。

fig.2 Numerical study of thermohydraulics induced by highly under-expanded jet during in-vessel LOCA for the CFETR WCCB concept (2025) · CC BY 4.0
Schematic of coolant jet development under high pressure ratio conditions.
図は、漏えい点から噴出した冷却材が、未膨張噴流領域、吸引と熱交換の領域、噴流発達領域を経て完全に発達した噴流領域へ至る過程を、速度分布の変化とともに四つの帯に分けて描いたものである。このように炉内LOCAの物理は、単純な漏えいではなく、超音速の複雑な噴流と二相流の力学として理解される。
定義と核融合安全における位置づけ
核融合炉の安全設計では、放射性物質の閉じ込めを多層障壁で担う。内側から順に、真空容器、容器を包む建屋、そして排気系のフィルタであり、LOCA解析の目的はこの第一障壁である真空容器の機能が保たれることを確認することにある。炉心プラズマそのものは常温の固体燃料と異なり事故後は自然に消滅するため、核分裂炉のような臨界や炉心溶融の問題は存在しない。代わりに核融合炉特有の危険源が支配的になる。すなわち、プラズマ対向面に蓄積した核分裂生成物由来の核発熱(崩壊熱)、中性子照射で活性化した構造材やタングステンダスト、そしてトリチウムである。
崩壊熱は運転停止後も長時間にわたり発生し続けるため、冷却材を失った炉内機器は受動的に過熱が進む。ITERを対象とした全冷却材喪失を想定した解析では、事故後の崩壊熱過渡期における機器温度の上昇が主要な評価項目となる。一方、冷却材が高温のプラズマ対向面に触れる、あるいは高温の表面に水が噴射される状況では、水素発生や高温黒鉛と蒸気の反応といった化学的課題も生じる。したがってLOCAは、熱水力学、構造強度、放射化学の三つを横断する総合的な評価対象であり、プラズマの急速停止系が作動してプラズマを消すことで入熱を止め、その後の崩壊熱をいかに除去するかというシナリオとして解析される。
炉内LOCAとボックス内LOCA
炉内LOCA(in-vessel LOCA)は、真空容器の内側に冷却材が放出される場合を指す。水冷却ブランケットでは、第一壁の冷却管破断により高圧の水が真空容器へ噴出し、急激なフラッシュ蒸発(過熱水の爆発的沸騰)によって容器内圧力が急上昇する。ヘリウム冷却の場合は相変化はないが、高圧のヘリウムが狭い破断口から真空へ噴出する際、強い未膨張噴流(under-expanded jet)が形成される。これは出口圧力が背圧をはるかに上回るため、噴流が出口直後で過出口直後で過剰膨張し、衝撃波と膨張波の格子構造(マッハ円盤を含む)を形成しながら広がる現象である。

fig.13 3D transient CFD simulation of an in-vessel loss-of-coolant accident in the EU DEMO fusion reactor (2020) · CC BY 4.0
Structure of a (a) moderately and (b) highly underexpanded jet. The main features are labelled.
図は、中程度に未膨張な噴流(a)と強く未膨張な噴流(b)の構造を示す。膨張扇、噴流境界、三重点、反射衝撃波、マッハ円盤、スリップ流線、圧縮波といった噴流を構成する要素が描かれており、圧力比が高くなるほどマッハ円盤下流の構造が複雑化する様子が分かる。この噴流構造は事故の進行とともに変化する。容器圧力が上昇して背圧が高くなるにつれ、噴流は縮み、マッハ円盤の位置や速度・温度・圧力の空間分布が時間とともに移り変わる。

fig.11 Numerical study of thermohydraulics induced by highly under-expanded jet during in-vessel LOCA for the CFETR WCCB concept (2025) · CC BY 4.0
Structural changes of under-expanded jet and their influence on thermal-hydraulic parameters at different times.
図は、炉内LOCAの三次元計算で得られた噴流の構造変化と、それに伴う熱水力学的諸量の変化を複数時刻で並べたものである。速度場のマッハ円盤下流の高温・高速領域が時間とともに後退し、軸上の速度・温度・圧力分布が容器圧力の上昇に応じて再形成されていく過程が読み取れる。
ブランケット内部での破断、すなわち増殖材ボックスの内部で冷却管が破れ、冷却材が増殖材領域(リチウム鉛やペブルベッド)へ漏れる場合は、特にボックス内LOCA(in-box LOCA)と呼ばれる。この場合、冷却材は真空容器へ直接出るのではなく、まず閉じたボックス内で加圧し、その圧力でボックス壁が破れて初めて容器内へ放出される。水冷却リチウム鉛ブランケットでは、漏えいした水が高温のリチウム鉛と反応して水素を発生させる可能性があり、ボックス内圧力上昇と水素生成の両方が評価対象となる。この現象を模擬する実験が専用の試験施設で行われ、システム解析コードの検証データとして使われている。中国のCFETRや欧州DEMOでも、水冷却セラミック増殖ブランケットやヘリウム冷却ブランケットを対象にボックス内LOCAの事故解析が設計段階から実施されている。
炉外LOCAと破断位置の影響
炉外LOCA(ex-vessel LOCA)は、真空容器の外側、すなわち機器室や遮蔽領域内で冷却系配管が破断する場合である。この場合の主要な懸念は、機器室の加圧、活性化腐食生成物やダストの移行、そして破断後の二次的な炉内破断である。破断位置によって事故の帰結が大きく変わる点は、ITERダイバータ冷却ループを対象としたパラメトリック解析で明らかにされている。熱交換器の上流側での破断は機器室の加圧と活性化生成物・タングステンダストの放出に対して最も厳しく、ポンプ出口での破断は真空容器内の水素生成を最大化し、ポンプ入口での破断はすべての観点で最も影響が小さい。これは、破断位置によって冷却材の流量、容器へ至る経路、機器室への放出量の配分が変わるためである。
炉外LOCAが炉内破断に発展する経路も重要である。冷却材喪失によりポンプ流量が低下すると、プラズマ急速停止系が作動してプラズマディスラプションが誘発される。ディスラプションによる熱的・電磁的負荷がダイバータ垂直ターゲットの冷却管に熱応力による亀裂を生じさせ、結果として炉内への二次漏えいが起こりうる。この連鎖を断つため、膨張チャンバの設置や遮蔽シャッタの利用といった対策が提案されてきた。炉外LOCAが増殖ブランケットの取付構造に与える熱的・構造的影響も、DEMO設計の一環として過渡熱解析と構造評価の対象になっている。
真空容器の応答とダストの再懸濁
真空容器は冷却材噴出による圧力上昇に対して閉じ込め機能を維持しなければならない。設計上の破損基準は局所的な量で定められる。例えばEU DEMOでは、ジャイロトロン用ダイヤモンド窓の圧力が約2気圧を超えないことが基準とされる。容器内の圧力分布は噴流の存在により強く不均一となるため、系統解析コードが与える体積平均値をそのまま破損判定や安全系(破断板、弁)の作動遅延評価に使うと、過小評価や過大評価のリスクがある。このため、破断板の作動遅延や局所ピーク圧力の評価には三次元の流れ解析が不可欠となる。
炉内LOCAのもう一つの重要な帰結は、容器内に堆積した放射性ダストの再懸濁である。タングステンはプラズマ対向機器の主要材料であり、運転中のプラズマとの相互作用で生じたマイクロメートル級のタングステンダストは、トリチウム汚染により高い放射能と化学毒性を持つ。ヘリウム冷却ブランケットの炉内LOCAでは、破断から噴出する高速ヘリウム流が底部に堆積したダストを再懸濁させ、容器全体に急速に運搬する。これらの粒子は圧力逃がし過程で真空容器圧力抑制系へ移行し、環境への放射学的放出の原因となりうる。さらに、高温条件下でのダストの移行・堆積は粉塵爆発のリスクももたらす。
ダストの輸送を支配するのは粒子に働く空気力学的抗力であるが、炉内LOCAの流れ場は通常の工学的流れと大きく異なる。破断直後の流れは高マッハ数の圧縮性流れと希薄気体流れの二重の性質を持ち、衝撃波による圧縮は抗力を増大させる一方、希薄化に伴う速度すべりは抗力を減少させる。このため、従来のストークス抗力やその補正式をそのまま適用できず、マッハ数とクヌーセン数の両方を考慮した抗力モデルが、分子動力学的手法(直接シミュレーションモンテカルロ法)と連続体解析のハイブリッドによって構築されている。また、水冷却系のLOCAでは、高温の構造材表面への水の噴射が冷却として有効に機能するかどうかも、崩壊熱除去の観点から評価される。
解析手法と検証
LOCA解析には、核分裂炉向けに開発されたシステムレベルの熱水力学コードが広く用いられてきた。RELAP5、MELCOR、CATHARE、TRACといったコードに、核融合炉特有のモデル(真空容器、プラズマ停止、水素生成、ダスト移行)を加えたものが標準的な道具立てであり、欧州ではGETTHEMのようなブランケット系統解析専用コードも開発されている。これらは集中定数モデルで真空容器を一つないし少数の節点にまとめて扱い、事故全体の圧力・温度過渡を短時間で計算できる一方、局所的なピーク値は原理的に与えられない。
この限界を補うため、三次元の計算流体力学(CFD)解析が導入されている。ヘリウム冷却系の炉内LOCAでは、高圧力比の未膨張噴流を正確に表現するために、実破断口を等価な仮想源に置き換える手法が用いられる。水冷却系ではフラッシュ蒸発と二相流を伴うため計算はさらに困難であり、背圧の時間変化に対応できる二相仮想源モデルの開発が進められている。三次元解析により、容器壁面の局所ピーク圧力・温度や、安全系の作動遅延の妥当性が定量的に評価できるようになっている。
コードの信頼性は実験との比較によって確かめられる。ボックス内LOCAを模擬した専用試験施設での一連の試験(例えば水冷却リチウム鉛ブランケットを対象とした試験系列)では、SIMMERコードの予測能力が事前解析・事後解析の両面から検証されている。また、真空容器内でのLOCAシナリオを複数コードで比較するベンチマーク解析も行われており、系統コード間の差異と、三次元CFDとの対比による系統コードの保守性の確認が進められている。さらに、高温黒鉛と蒸気の反応実験や、高マッハ数・希薄流中のダスト抗力の数値的研究など、個別の物理過程ごとの検証が積み重ねられ、LOCA全体のシナリオ評価を支えるデータベースが構築されている。
この解説が根拠にした論文から
- 3D transient CFD simulation of an in-vessel loss-of-coolant accident in the EU DEMO fusion reactorNuclear Fusion 2020
- Analysis for loss of coolant accident in a fusion reactorFusion Engineering and Design 1996
- Influence of the break location in the loss of coolant accident analyses for the ITER divertor cooling loopFusion Engineering and Design 2002
- Numerical study of thermohydraulics induced by highly under-expanded jet during in-vessel LOCA for the CFETR WCCB conceptNuclear Fusion 2025
- Drag characteristics of micron-sized tungsten dust in high-Mach rarefied flow during in-vessel LOCA of fusion reactor with Maxwell slip/DSMC hybrid modelingNuclear Fusion 2026
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推移
研究の変遷
1985–19942本 · 0.04%
ITER安全設計におけるLOCA解析の開始
この時期の論文はすべてITERに関連し、総冷却材喪失事故後の過熱過渡解析やNET/ITER安全設計ガイダンスのためのLOCA、LOFA、LOVA解析が行われている。件数は少なく、事故影響評価の初期段階を示している。
この時代の論文から
- Afterheat transient in ITER after a total loss of coolant accidentFusion Engineering and Design 1991
- LOCA, LOFA and LOVA analyses pertaining to NET/ITER safety design guidanceFusion Engineering and Design 1991
1995–20047本 · 0.07%
事故影響評価の詳細化とITERへの適用拡大
高温黒鉛と蒸気の反応実験、可燃性混合気生成の三次元多体積解析、破断位置の影響評価、多分散粒子輸送モデリングなど、LOCA影響を詳細に評価する研究が現れた。Pebble bedやIn-vessel componentsと関連付けられ、引き続きITERを対象とした解析が中心である。
この時代の論文から
- Experiments on high temperature graphite and steam reactions under loss of coolant accident conditionsFusion Engineering and Design 1995
- Analysis for loss of coolant accident in a fusion reactorFusion Engineering and Design 1996
- A three-dimensional multi-volume analysis of combustible mixture generation due to in-vessel LOCA of ITER using the gasflow codeFusion Engineering and Design 2002
- Influence of the break location in the loss of coolant accident analyses for the ITER divertor cooling loopFusion Engineering and Design 2002
2005–20144本 · 0.03%
テストブランケットモジュールへのLOCA解析の集中
韓国および欧州の固体増殖ブランケットTBMを対象としたインボックスLOCAや容器外LOCAの安全解析が行われ、構造健全性や感度分析が検討された。Test blanket module、Solid breeder、Helium-cooled pebble bed、Heliumといった概念と並行して議論されている。
同時に語られた主題テストブランケットモジュール、固体増殖材、ヘリウム冷却ペブルベッド、ヘリウム
この時代の論文から
- LOCA analysis for Korean helium cooled solid breeder TBMFusion Engineering and Design 2009
- Preliminary safety analysis of ex-vessel LOCA for the European HCPB TBM systemFusion Engineering and Design 2012
- Investigation into the in-box LOCA consequence and structural integrity of the KO HCCR TBM in ITERFusion Engineering and Design 2014
- Sensitivity study on in-box LOCA for a Korean HCCR TBM in ITERFusion Engineering and Design 2014
2015–202651本 · 0.20%
DEMOや多様な実験装置への展開と大規模数値解析
LOCAに関する論文が大幅に増加し、対象がITERからDEMO、Wendelstein 7-X、EASTに拡大した。水冷鉛リチウム増殖ブランケット、真空容器、In-vessel componentsなどと関連し、三次元過渡CFDシミュレーション、プラズマ容器加圧評価、ダスト再浮遊の解析など多様な事故シナリオが扱われている。
同時に語られた主題水冷却鉛リチウム、容器内機器、テストブランケットモジュール、鉛リチウム共晶、ヘリウム冷却セラミック増殖材、増殖ブランケット
この時代の論文から
- Thermohydraulic responses of a water-cooled tokamak fusion DEMO to loss-of-coolant accidentsNuclear Fusion 2015
- 3D transient CFD simulation of an in-vessel loss-of-coolant accident in the EU DEMO fusion reactorNuclear Fusion 2020
- Highly underexpanded helium jet and its effect on dust resuspension under in-vessel loss of coolant accident of fusion reactorNuclear Fusion 2022
- Assessment of W7-X plasma vessel pressurisation in case of LOCA taking into account in-vessel componentsFusion Engineering and Design 2015
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Loss-of-coolant accident、LOCA、loss of coolant accident など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文12本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、5本の論文(うち全文3本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
