Wiki / 工学 増殖ブランケット (Breeding blanket)は、核融合・プラズマ物理学の工学。核融合炉においてトリチウムの自己供給を担う機器で、中性子とリチウムとの核反応により燃料を生産する。同時に核熱の除去と放射線遮蔽も果たし、液体金属や固体セラミックスを増殖材とし、水冷・ヘリウム冷却等の多様な概念が設計・研究されている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは208本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.86%を占めた。直近の2025–2029年では0.33%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 増殖ブランケット(breeding blanket)とは、核融合炉のプラズマを囲む第一壁 の直後に置かれ、トリチウム増殖 ・中性子遮蔽・発電用の熱回収という三つの機能を一体的に担う機器である。重水素―トリチウム (DT)反応を燃料とする融合炉では、消費されるトリチウム を炉内で自ら補給する必要があり、その「増殖」を担うのがこのブランケットである。プラズマから飛び出した14 MeV中性子はリチウム 核と反応してトリチウムを生成すると同時に、その運動エネルギーを核加熱としてブランケット内に放出する。このためブランケットは、単なる熱交換器ではなく、燃料自給という炉の存立条件を支える、最も新規性の高い炉内機器と位置づけられている。
fig.3 Conceptual design of solid-type PbxLiy eutectic alloy breeding blanket for CFETR (2023) · CC BY 4.0
WCCB blanket structure design.
図は水冷却セラミック増殖(WCCB )型ブランケットのモジュール構造を示したものである。第一壁(FW)とタイルで覆われた約2 m四方の箱型モジュールの内部に、増殖材ペブル床と冷却パイプ(CTA、DWT)、マニホールドが配置され、プラズマ側から入射する中性子と熱を処理する単位構造が描かれている。
炉内での位置づけと機能
トカマクでは、ブランケットは第一壁 の裏側、真空容器 とトロイダル場コイルの間の空間に、プラズマを取り囲むように環状に配置される。第一壁がプラズマからの放射と粒子流を直接受けるのに対し、ブランケット本体は主に14 MeV中性子を処理する。中性子は電荷を持たないため磁場で閉じ込めることができず、そのまま構造物に突き入ってくる。このためブランケットは、炉心から出る融合出力の大部分(8割程度)を核加熱として受け止め、冷却材で運び出すとともに、真空容器と超伝導コイルを中性子による放射線損傷や核発熱から守る遮蔽体としても機能する。
増殖ブランケット
種別 工学
論文数 208 本
初出 1985 –1989 年(3本)
最盛期 2020 –2024 年 0.86%
直近 2025 –2029 年 0.33% 索引にもどる
図はトカマクの半径方向断面の模式図で、プラズマから外側に向かって第一壁、トリチウム増殖 領域、遮蔽体、真空容器、コイルが順に積層する様子を示している。半径方向の厚みはコイル設計と直結しており、遮蔽と増殖に必要な厚さ(1.3〜1.4 m程度とされる)がそのまま装置全体の大型化とコストに効くため、増殖性能と遮蔽性能を薄い層で両立することが設計上の中心的な制約となる。
ここで重要な指標がトリチウム増殖比(TBR)である。これは炉内で消費するトリチウム に対して増殖されるトリチウムの比であり、燃料自給のためには1を超える必要がある。ただし実際には、トリチウム取出し系での損失や燃焼に伴う滞留を考慮した実効値で1を確保しなければならず、設計目標はそれ以上に設定される。ITER のような実験炉では、運転初期は遮蔽ブランケットを用い、増強運転段階で増殖ブランケットに交換してTBR 0.8以上の増殖を実証する、という段階構成が採られている。DT反応で消費されるトリチウムは天然にほとんど存在しないため、増殖ブランケットなしに商用融合炉は成立しない、というのがこの分野の共通認識である。
増殖材と中性子増倍材 トリチウム はリチウム 6の中性子捕獲反応(Li-6 + n → T + He-4)で生成される。天然リチウム中のLi-6は約7.5%に過ぎないため、増殖材のリチウムをLi-6に濃縮して用いるのが一般的である。濃縮により増殖性能が上がり、ブランケットを薄くできる、増殖材量を減らせる、増殖材の熱応力を下げられる、という設計上の利点が重なる。
DT反応で生じる中性子は1個のトリチウム生成 に1個で足りるが、構造材や遮蔽材での吸収・漏損があるため、実効TBRを1に保つには中性子を「増やす」必要がある。これが中性子増倍材の役割で、しきい値の低い(n, 2n)反応を利用する。固体増殖設計ではベリリウム (Be、Be12Ti)が標準的な増倍材であり、液体金属 設計では鉛がその役割を果たす。ベリリウムは資源が限られ高価であるため、必要量を削減する工夫(増倍材体積率を半径方向に分布させる、鉛系材料で置き換える等)が活発に研究されている。
固体増殖材 には、チタン酸リチウム (Li2TiO3)やオルトケイ酸リチウム (Li4SiO4)などのリチウム含有セラミックが用いられ、直径1 mm程度のペブル(小球)床として充填される。ペブル床とするのは、中性子照射 と熱サイクルによる膨張・収縮を粒の再配置で吸収するためと、トリチウムをヘリウム パージガスで床中を流通させて回収するためである。一方、液体増殖材としては鉛リチウム共晶 合金(Pb83Li17、融点約235 ℃)が広く採用されており、液体であることを利用して炉外へ循環させ、オンラインでトリチウムを取出せるのが最大の利点である。近年は、Pb/Li比を調整して融点を高めた固体状のPb-Li合金を増殖・増倍兼用材として使う構想も再評価されている。
冷却方式による設計概念 ブランケット設計は、冷却材と増殖材の組み合わせでいくつかの系統に分かれる。図は代表的な三つの概念のモジュール内部構造を並べたものである。(a)はヘリウム 冷却ペブル床(HCPB )型、(b)は水冷却リチウム 鉛(WCLL )型、(c)は水冷却鉛・セラミック増殖(WLCB)型であり、それぞれ増殖領域と冷却路の配置が異なる。
HCPB型は、ヘリウムを冷却材とし、セラミックペブル床とベリリウム 増倍材のペブル床を鋼構造の中に積層したものである。ヘリウムは化学的に不活性で高温運転に向き、発電効率の面で有利だが、加圧ガスの循環動力が大きい。WCLL型は、増殖・増倍を兼ねる液体PbLi を静的に保持し、水で冷却する構成で、水冷却技術の成熟度を活かせる一方、PbLi中のトリチウム 取出しと水側への透過防止が課題となる。さらに、液体PbLiを自らも冷却材として流すとともにヘリウムで構造と第一壁 を冷却する二重冷却(DCLL )型は、PbLi出口温度を高く取れるためプラント熱効率の向上を狙った概念であり、欧州で設計が進められてきた。ただし高温のPbLiに対する構造材の耐食性と、液体金属 中を流れる際の磁場によるMHD 圧力損失が、この概念固有の課題である。欧州DEMO ではこれらの候補から絞り込みが行われ、HCPBとWCLLが主概念として選定された経緯がある。
構造材はいずれの概念でもオーステナイト系ステンレス鋼 (316LN-IG等)あるいは低活性フェライト/マルテンサイト鋼 が基準であり、冷却材の選択は構造材の使用温度上限(水冷却では約300 ℃台、ヘリウム冷却ではより高温)と強く結びつく。冷却系の設計は、一次熱輸送 系の熱水力 解析、冷却水の放射化評価、炉外での冷却材喪失事故 (LOCA)時の過渡熱解析と構造評価にまで及ぶ。
トリチウム取出しと燃料サイクル
増殖されたトリチウム は、ブランケットから回収して燃料としてプラズマに戻す必要がある。固体増殖床では、低濃度の水素を含むヘリウム をパージガスとしてペブル床中を流通させ、生成したトリチウムをH2OやHTの形で運び出す。トリチウムの放出率は増殖材の温度と粒の微構造に強く依存するため、床の温度窓(低温すぎるとトリチウムが滞留し、高温すぎると材料上限を超える)を保つ熱設計が本質となる。強磁場下でのトリチウム放出 挙動への影響も研究対象である。
液体増殖材では、PbLi 中に溶解したトリチウムをガス吹込みやパーメーター(薄膜透過膜)を用いた取出し系で分離する。トリチウムは構造鋼を透過して冷却水側へ漏れ出す(透過・汚染の問題)ため、増殖材中のトリチウム濃度を低く保つことが系全体の設計条件となる。水冷却概念では冷却水中へのトリチウム移行が特に重要であり、動的なトリチウム輸送 モデルを用いて増殖・取出し・透過を一体で評価する手法が整備されている。このようにブランケットは、炉内増殖から燃料精製・再注入までを含むトリチウム燃料サイクルの入口を担う系として設計される。
実証への道:テストブランケットモジュールとDEMO設計
増殖ブランケットは、実機と同じ中性子環境(14 MeV中性子による体積発熱)でのみ本来の性能を検証できる。このためITER では、各国が独自の概念を提案し、等価的な核加熱・磁場・冷却条件下で部分モジュールを試験するテストブランケットモジュール (TBM)計画が進められている。TBMは実機ブランケットの縮小試験体であり、ヘリウム 冷却固体増殖、水冷却リチウム 鉛などの概念が候補として挙がっている。製造技術の面でも、第一壁 のような熱流束の高い部材の接合(熱交換器管と鋼の拡散接合等)や、モジュールの機械接続・遠隔保守 手法が開発課題であり、試験ループ(例えばカールスルーエのHELOKAのようなヘリウムループ)を用いた機能試験が進められている。
DEMO (実証炉)では、TBMでの部分実証を経て、増殖・熱回収・遮蔽を全炉心規模で統合し、長期にわたる信頼性と規制上の適合性を満たすことが求められる。欧州DEMOではHCPB とWCLL の二概念が主候補として設計成熟度の評価が進み、一次熱輸送 系の概念設計、モジュールの熱構造解析、放射化解析、保守概念の検討が体系的に実施されてきた。また、設計検証には中性子工学 データ(DT中性子源 を用いた増殖材・増倍材を含むブランケット組立での中性子スペクトル測定など)が用いられ、解析コードの検証が重ねられている。トリチウム 自給と発電を同時に成立させるという要求は、融合工学の中でも最も統合性の高い開発課題であり、その成否がDEMO以降の商用炉への道を決めるといってよい。
増殖ブランケット(Breeding blanket)の研究史 — FusionPapers