トリチウム増殖(Tritium breeding)は、核融合・プラズマ物理学の手法。核融合炉のブランケット内で、燃料として消費するトリチウムを中性子とリチウムの核反応によって生成する手法である。D-T反応で生じる中性子を利用し、6Li(n,α)Tや7Li(n,n'α)T反応によりトリチウムを増やす。燃料自給の鍵であり、増殖比(TBR)が1以上であることが炉設計の条件となる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは60本ある。比重が最も大きかったのは1985–1989年で、その期間の論文の0.32%を占めた。直近の2025–2029年では0.26%。
解説
トリチウム増殖(tritium breeding)とは、核融合炉のプラズマで消費されるトリチウムを、炉内のブランケットにおいてリチウムの核反応によって炉内で再生産することである。重水素–トリチウム(D–T)融合反応を燃料とする炉では、トリチウムは天然にほとんど存在せず、外部から調達できる量もギガワット級の発電に必要な量に遠く及ばないため、炉が自ら消費量以上のトリチウムを生産する「トリチウム自給」が成立しなければ発電炉として成立しない。その担い手が増殖ブランケットであり、プラズマと真空容器の間に置かれ、14 MeVの融合中性子をリチウムに衝突させてトリチウムを生産すると同時に、中性子の運動エネルギー(融合出力の約8割)を熱として回収し、外部の機器と人員を放射線から遮蔽するという三つの機能を一つの機器で担う。

fig.1 Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiation (2026) · CC BY 4.0
Reference COOL blanket prototype for the mock-up design.
図は増殖ブランケットの原型となる設計例を示したものである。第一壁と増殖領域がトロイダル方向・半径方向にどのように積層され、鉛リチウム合金と二酸化炭素の流路がどのように配置されるかが描かれており、ブランケットが単一の均質な塊ではなく多数の機能層から構成される複合機器であることが分かる。
トリチウム自給と増殖ブランケット
D–T融合反応は約17.6 MeVのエネルギーを放出し、その約80%は中性子の運動エネルギーとしてプラズマの外へ飛び出す。この中性子がブランケット内の各種核種(増殖材、中性子増倍材、構造材、冷却材)と散乱・吸収反応を起こすことで、エネルギー沈積とトリチウム生成が実現する。トリチウム生成の主反応はリチウムの二つの同位体によるものである。6Li(n,α)t 反応は熱中性子領域で断面積が極めて大きく、7Li(n,n′α)t 反応は高エネルギー中性子に対して起こり、しかも反応の際に中性子を1個余分に放出するため中性子経済に寄与する。ブランケット内で中性子スペクトルを制御し、この二つの反応をバランスよく使うことが設計の基本となる。
ただし、炉が生産するトリチウムのすべてが燃料として使えるわけではない。増殖材内部へのトリチウムの滞留、構造材を透過するペネトレーション、トリチウム抽出系での損失、抽出・回収・分離・再循環の各工程での損失など、燃料サイクル全体で相当量が失われる。このため設計上要求される増殖比(required TBR)は1より十分大きく設定する必要があり、ブランケットが実際に達成できる増殖比(achievable TBR)がこれを上回ることが自給の条件となる。この差(設計マージン)をどれだけ確保できるかが、ブランケット設計の成否を直接左右する。
トリチウム増殖比
トリチウム増殖比(tritium breeding ratio, TBR)は、1個の融合中性子あたりに全ブランケットモジュールで生産されるトリチウム原子数の平均として定義される。TBRが1を超えれば理論上は燃料が自給できるが、前述のサイクル損失を考慮すると、設計目標は通常1より大きい値に置かれる。
TBRはブランケットの構造、幾何形状、材料組成(核反応断面積、密度、濃縮度、核種組成)、空間配置など多くの因子の複合的な影響を受ける。加熱装置・診断装置・保守機器がプラズマ周辺の空間を占有するため、ブランケットを完全な被覆にできず、そこから漏れる中性子は増殖に寄与しない。また6Li、7Li、構造材核種(例えば93Nb)の断面積の不確かさがTBRの計算値の不確かさに直接響くため、感度解析が設計の標準的な手順となっている。このためTBRの評価は単一の数値ではなく、「どの程度のマージンをもって1を超えるか」という確率的な問題として扱われる。

fig.4 MCINO: a multi-physics coupling and intelligent neutronic optimization code for tritium breeding blanket of fusion reactors (2026) · CC BY 4.0
Neutronics model of a typical CFETR blanket module.
図は典型的なブランケットモジュールの中性子工学モデルを示す。第一壁、増殖領域、バックプレート、キャップなどの構成要素と、増殖材・増倍材・冷却チャネルが半径方向に交互に並ぶサンドイッチ状の層構造が描かれており、最適化の対象となる設計変数の実体が分かる。
モックアップによる実験検証
計算によるTBR評価には、設計ツールの物理モデルの近似と核データライブラリの不確かさに起因する誤差が避けられない。このため、D–T中性子源(14 MeV中性子発生装置)を用いたモックアップ実験による検証が不可欠である。モックアップは実機ブランケットの構造と材料構成を模した試験体で、ブランケット概念ごとに専用のものが製作される。

fig.2 Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiation (2026) · CC BY 4.0
Mock-up layout: (a) overall composition; (b) detailed configuration.
図はモックアップ試験体の構成を示す。全体が約500 mm角の箱型で、第一壁、増殖領域、プラズマ対向壁の各コンポーネントが積層され、測定チャネルが設けられている。中性子入射方向と測定位置が矢印と番号で示されている。
測定項目の中心はトリチウム生成率(TPR)である。Li2TiO3やLi2CO3のペレットをモックアップ内の各位置に挿入して照射後にトリチウム量を定量するオフライン測定と、小型化したリチウムガラスシンチレータによるオンライン測定を併用し、さらに金やジルコニウムの活性化箔による中性子束測定で補完する冗長な測定構成が標準的である。モンテカルロ計算との比較では、計算値と実験値の比(C/E値)が1近くに収まることが設計ツールの信頼性の目安となる。例えば水冷却固体増殖ブランケットのモックアップ実験では、TPRのC/E値が0.97–1.08と報告されており、計算手法の妥当性が確認されている。また、トリチウム標的の深さ分布をモデル化して中性子源強度を精密に決める手法も、C/E値の精度向上に寄与している。溶融塩増殖材を対象に、トリチウムの生成と放出を14 MeV中性子下で制御された条件で測定する実験も進められており、水素添加がスイープガス中のトリチウム放出挙動に与える影響など、増殖だけでなく回収側の現象理解も進みつつある。
この解説が根拠にした論文から
- Experimental study on tritium breeding in water-cooled ceramic breeder blanket mock-up under D–T neutron irradiation conditionsNuclear Fusion 2021
- Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiationNuclear Fusion 2026
- MCINO: a multi-physics coupling and intelligent neutronic optimization code for tritium breeding blanket of fusion reactorsNuclear Fusion 2026
- BABY 1L: first tritium breeding campaign resultsNuclear Fusion 2026
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研究の変遷
1970–19841本 · 0.04%
核データ感度解析の端緒
核データの不確かさが融合炉ブランケットのトリチウム増殖率へ及ぼす影響を感度解析した論文が1本存在する。共存する主題はトリチウムのみで、この時代のコーパスではごく初期の検討として位置づけられる。
同時に語られた主題トリチウム
1985–19949本 · 0.16%
多様な増殖手法と実験の展開
トリチウムに加えてリチウムや増殖ブランケットと共に現れ、D-D反応の利用、Pb-Li球状ブランケット、液体Pb-17Liの照射試験、He-3ブランケットなど多様な増殖手段が検討されている。実験測定と設計との組み合わせが進んだ時代である。
同時に語られた主題トリチウム、リチウム、増殖ブランケット、ヘリウム、重水素
この時代の論文から
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文20本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、4本の論文(うち全文3本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
