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トリチウム増殖

Tritium breeding

トリチウム増殖(Tritium breeding)は、核融合・プラズマ物理学の手法。核融合炉のブランケット内で、燃料として消費するトリチウムを中性子とリチウムの核反応によって生成する手法である。D-T反応で生じる中性子を利用し、6Li(n,α)Tや7Li(n,n'α)T反応によりトリチウムを増やす。燃料自給の鍵であり、増殖比(TBR)が1以上であることが炉設計の条件となる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは63本ある。比重が最も大きかったのは1985–1989年で、その期間の論文の0.32%を占めた。直近の2025–2029年では0.29%。

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4この数字の作り方

解説

トリチウム増殖(tritium breeding)とは、核融合炉のプラズマで消費されるトリチウムを、炉内のブランケットにおいてリチウムの核反応によって炉内で再生産することである。重水素–トリチウム(D–T)融合反応を燃料とする炉では、トリチウムは天然にほとんど存在せず、外部から調達できる量もギガワット級の発電に必要な量に遠く及ばないため、炉が自ら消費量以上のトリチウムを生産する「トリチウム自給」が成立しなければ発電炉として成立しない。その担い手が増殖ブランケットであり、プラズマと真空容器の間に置かれ、14 MeVの融合中性子をリチウムに衝突させてトリチウムを生産すると同時に、中性子の運動エネルギー(融合出力の約8割)を熱として回収し、外部の機器と人員を放射線から遮蔽するという三つの機能を一つの機器で担う。

Reference COOL blanket prototype for the mock-up design.

fig.1 Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiation (2026) · CC BY 4.0

Reference COOL blanket prototype for the mock-up design.

図は増殖ブランケットの原型となる設計例を示したものである。第一壁と増殖領域がトロイダル方向・半径方向にどのように積層され、鉛リチウム合金と二酸化炭素の流路がどのように配置されるかが描かれており、ブランケットが単一の均質な塊ではなく多数の機能層から構成される複合機器であることが分かる。

トリチウム自給と増殖ブランケット

D–T融合反応は約17.6 MeVのエネルギーを放出し、その約80%は中性子の運動エネルギーとしてプラズマの外へ飛び出す。この中性子がブランケット内の各種核種(増殖材、中性子増倍材、構造材、冷却材)と散乱・吸収反応を起こすことで、エネルギー沈積とトリチウム生成が実現する。トリチウム生成の主反応はリチウムの二つの同位体によるものである。6Li(n,α)t 反応は熱中性子領域で断面積が極めて大きく、7Li(n,n′α)t 反応は高エネルギー中性子に対して起こり、しかも反応の際に中性子を1個余分に放出するため中性子経済に寄与する。ブランケット内で中性子スペクトルを制御し、この二つの反応をバランスよく使うことが設計の基本となる。

ただし、炉が生産するトリチウムのすべてが燃料として使えるわけではない。増殖材内部へのトリチウムの滞留、構造材を透過するペネトレーション、トリチウム抽出系での損失、抽出・回収・分離・再循環の各工程での損失など、燃料サイクル全体で相当量が失われる。このため設計上要求される増殖比(required TBR)は1より十分大きく設定する必要があり、ブランケットが実際に達成できる増殖比(achievable TBR)がこれを上回ることが自給の条件となる。この差(設計マージン)をどれだけ確保できるかが、ブランケット設計の成否を直接左右する。

トリチウム増殖比

トリチウム増殖比(tritium breeding ratio, TBR)は、1個の融合中性子あたりに全ブランケットモジュールで生産されるトリチウム原子数の平均として定義される。TBRが1を超えれば理論上は燃料が自給できるが、前述のサイクル損失を考慮すると、設計目標は通常1より大きい値に置かれる。

TBRはブランケットの構造、幾何形状、材料組成(核反応断面積、密度、リチウム濃縮度、核種組成)、空間配置など多くの因子の複合的な影響を受ける。加熱装置・診断装置・保守機器がプラズマ周辺の空間を占有するため、ブランケットを完全な被覆にできず、そこから漏れる中性子は増殖に寄与しない。また6Li、7Li、構造材核種(例えば93Nb)の断面積の不確かさがTBRの計算値の不確かさに直接響くため、感度解析が設計の標準的な手順となっている。このためTBRの評価は単一の数値ではなく、「どの程度のマージンをもって1を超えるか」という確率的な問題として扱われる。

増殖材料とブランケット概念

増殖材には大きく固体と液体の二系統がある。固体増殖材としてはチタン酸リチウム(Li2TiO3)やオルトケイ酸リチウム(Li4SiO4)が代表的で、直径数ミリ程度のペブル(小球)として増殖領域に充填される。これらは結晶構造の制御や焼結条件の最適化によってトリチウムの放出特性を調整される。ペブルベッドの代わりに多孔質バルク材を用いる提案もある。一方、液体増殖材としては鉛リチウム合金(Pb–17Li)や溶融塩があり、リチウム密度が高く熱伝達特性にも優れる。鉛は中性子増倍材としても機能し、1個の中性子から複数の中性子を生み出すことでリチウムへの中性子供給を増やす。ベリリウムのペブルは固体増殖系における中性子増倍材として用いられる。

冷却方式と増殖材の組み合わせで、水冷却固体増殖(WCCB)、ヘリウム冷却固体増殖(HCCB)、ヘリウム冷却鉛リチウム(HCLL)、超臨界二酸化炭素冷却鉛リチウムなど、複数のブランケット概念が各国で提案されている。どの概念でも、増殖材・増倍材・冷却材・構造材をどのような層構成で半径方向に並べるかがTBRと熱除去性能の両方を決める鍵となる。

中性子工学設計と最適化

ブランケットの中性子工学設計では、モンテカルロ輸送計算(MCNP、OpenMC、TRIPOLI-4など)と核データライブラリ(FENDLなど)を用いて中性子スペクトル、反応率、TBRを評価する。設計変数として増殖材の組成とリチウム濃縮度、増倍材の厚さ、各層の幾何寸法を取り、TBRを目的関数として最適化が行われる。遺伝的アルゴリズム、登山法、ニューラルネットワーク、摂動論に基づく手法など、多様な最適化手法が適用されており、熱流体力学的な設計制限との連成(多物理連成)の下でTBRを最大化する枠組みが発展している。

設計上の注意点として、個々のモジュールの局所最適化の総和が必ずしも炉全体の最適化にならない点が挙げられる。隣接モジュール間の中性子のストリーミングや反射といったモジュール間結合効果があるため、三次元の全体的な放射線場を扱えない一次元・二次元の簡略モデルに基づく最適化では、真の大域最適に届かないことがある。このため近年は、パラメトリックCAD生成と進化的アルゴリズムを組み合わせて三次元形状を直接最適化する高忠実度ワークフローも登場している。

Neutronics model of a typical CFETR blanket module.

fig.4 MCINO: a multi-physics coupling and intelligent neutronic optimization code for tritium breeding blanket of fusion reactors (2026) · CC BY 4.0

Neutronics model of a typical CFETR blanket module.

図は典型的なブランケットモジュールの中性子工学モデルを示す。第一壁、増殖領域、バックプレート、キャップなどの構成要素と、増殖材・増倍材・冷却チャネルが半径方向に交互に並ぶサンドイッチ状の層構造が描かれており、最適化の対象となる設計変数の実体が分かる。

モックアップによる実験検証

計算によるTBR評価には、設計ツールの物理モデルの近似と核データライブラリの不確かさに起因する誤差が避けられない。このため、D–T中性子源(14 MeV中性子発生装置)を用いたモックアップ実験による検証が不可欠である。モックアップは実機ブランケットの構造と材料構成を模した試験体で、ブランケット概念ごとに専用のものが製作される。

Mock-up layout: (a) overall composition; (b) detailed configuration.

fig.2 Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiation (2026) · CC BY 4.0

Mock-up layout: (a) overall composition; (b) detailed configuration.

図はモックアップ試験体の構成を示す。全体が約500 mm角の箱型で、第一壁、増殖領域、プラズマ対向壁の各コンポーネントが積層され、測定チャネルが設けられている。中性子入射方向と測定位置が矢印と番号で示されている。

測定項目の中心はトリチウム生成率(TPR)である。Li2TiO3やLi2CO3のペレットをモックアップ内の各位置に挿入して照射後にトリチウム量を定量するオフライン測定と、小型化したリチウムガラスシンチレータによるオンライン測定を併用し、さらに金やジルコニウムの活性化箔による中性子束測定で補完する冗長な測定構成が標準的である。モンテカルロ計算との比較では、計算値と実験値の比(C/E値)が1近くに収まることが設計ツールの信頼性の目安となる。例えば水冷却固体増殖ブランケットのモックアップ実験では、TPRのC/E値が0.97–1.08と報告されており、計算手法の妥当性が確認されている。また、トリチウム標的の深さ分布をモデル化して中性子源強度を精密に決める手法も、C/E値の精度向上に寄与している。溶融塩増殖材を対象に、トリチウムの生成と放出を14 MeV中性子下で制御された条件で測定する実験も進められており、水素添加がスイープガス中のトリチウム放出挙動に与える影響など、増殖だけでなく回収側の現象理解も進みつつある。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Experimental study on tritium breeding in water-cooled ceramic breeder blanket mock-up under D–T neutron irradiation conditionsNuclear Fusion 2021
  • [2]Neutronics experiment of tritium breeding in supercritical CO2 cooled lithium-lead blanket mock-up by D–T neutron irradiationNuclear Fusion 2026
  • [3]MCINO: a multi-physics coupling and intelligent neutronic optimization code for tritium breeding blanket of fusion reactorsNuclear Fusion 2026
  • [4]BABY 1L: first tritium breeding campaign resultsNuclear Fusion 2026

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推移

0.00.20.4トリチウム増殖197019801990200020102020%
図1 — トリチウム増殖が、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1970–19841本 · 0.04%

核データ感度解析の端緒

核データの不確かさが融合炉ブランケットのトリチウム増殖率へ及ぼす影響を感度解析した論文が1本存在する。共存する主題はトリチウムのみで、この時代のコーパスではごく初期の検討として位置づけられる。

同時に語られた主題トリチウム

この時代の論文から

  • [1]Cross-section sensitivity of tritium breeding in a fusion reactor blanket: effects of uncertainties in cross-sections of 6Li,7Li, and 93NbNuclear Fusion 1974

1985–19949本 · 0.16%

多様な増殖手法と実験の展開

トリチウムに加えてリチウムや増殖ブランケットと共に現れ、D-D反応の利用、Pb-Li球状ブランケット、液体Pb-17Liの照射試験、He-3ブランケットなど多様な増殖手段が検討されている。実験測定と設計との組み合わせが進んだ時代である。

同時に語られた主題トリチウム、リチウム、増殖ブランケット、ヘリウム、重水素

この時代の論文から

  • [1]The use of deuterium-deuterium reactions to aid tritium breeding in tokamak fusion reactorsNuclear Fusion 1986
  • [2]Lithium loaded glass detectors for tritium breeding measurementsFusion Engineering and Design 1989
  • [3]Determination of tritium breeding ratio in a PbLi spherical blanket by leakage neutron spectraFusion Engineering and Design 1989
  • [4]Irradiation experiments on liquid tritium breeding material Pb17Li in the HFR PettenFusion Engineering and Design 1991

1995–20044本 · 0.04%

設計適用と液体壁概念

重水素核融合における内部トリチウム増殖、3He+Cブランケットの低エネルギーニュートロンスペクトルと増殖の時間依存、体積中性子源用ブランケット設計、厚い液体壁ブランケットの発熱・損傷特性と増殖が扱われている。特定の炉設計やブランケット概念への適用を意識した解析が中心となる。

同時に語られた主題トリチウム、中性子源、重水素、増殖ブランケット

この時代の論文から

  • [1]Effects of different nuclear reactions on internal tritium breeding in deuterium fusionNuclear Fusion 2000
  • [2]A study of time-dependent, low energy (2 × 10-4 eV<E<0.2eV) neutron spectra and tritium breeding in 3He + C blanket of a fusion reactorFusion Engineering and Design 1996
  • [3]Design of a tritium breeding blanket for volumetric neutron sourceFusion Engineering and Design 1998
  • [4]Heat deposition, damage, and tritium breeding characteristics in thick liquid wall blanket conceptsFusion Engineering and Design 2000

2005–201410本 · 0.06%

モックアップ実験とベンチマーク解析

ベリリウム、ヘリウム冷却鉛リチウム、リチウムチタネートと共に、HCPBおよびHCLLブランケットモックアップの中性子工学実験が行われた。TRIPOLI-4によるトリチウム増殖比ベンチマーク解析や、核発熱・遮蔽効率の評価も併せて実施されている。

同時に語られた主題トリチウム、ベリリウム、ヘリウム冷却鉛リチウム、トリチウム放出、遮蔽、中性子工学

この時代の論文から

  • [1]Neutronics experiments for uncertainty assessment of tritium breeding in HCPB and HCLL blanket mock-ups irradiated with 14 MeV neutronsNuclear Fusion 2012
  • [2]Tritium breeding experiments with blanket mock-ups containing Li6-enriched lithium titanate and beryllium irradiated with DT neutronsFusion Engineering and Design 2005
  • [3]Evaluation of nuclear heating, tritium breeding and shielding efficiency of the DEMO HCLL breeder blanketFusion Engineering and Design 2005
  • [4]The integral experiment on beryllium with D-T neutrons for verification of tritium breedingFusion Engineering and Design 2007

2015–202639本 · 0.16%

CFETR実機設計と照射検証

CFETRの増殖ブランケット温度制御、燃料サイクルモデルとトリチウム増殖解析、水冷却セラミック増殖ブランケットモックアップのD-T中性子照射実験など、実機設計との一体研究が多くを占める。リチウムチタネート粉末合成やコンプトン抑制ガンマ線検出器による中性子診断も並行して進められている。

この記述以降に論文が追加されている

同時に語られた主題トリチウム、増殖ブランケット、チタン酸リチウム、セラミック増殖材、増殖ブランケット、モックアップ

この時代の論文から

  • [1]Study on the temperature control mechanism of the tritium breeding blanket for CFETRNuclear Fusion 2017
  • [2]Experimental study on tritium breeding in water-cooled ceramic breeder blanket mock-up under D–T neutron irradiation conditionsNuclear Fusion 2021
  • [3]Tritium fuel cycle modeling and tritium breeding analysis for CFETRFusion Engineering and Design 2016
  • [4]Neutron diagnostics using Compton suppression gamma-ray spectrometer for tritium breeding blanket experimentsFusion Engineering and Design 2016

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文20本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、4本の論文(うち全文3本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

トリチウム増殖

種別
手法
論文数
63 本
初出
1970–1974 年(1本)
最盛期
1985–1989 年0.32%
直近
2025–2029 年0.29%

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