モックアップ(Mock-up)は、核融合・プラズマ物理学の工学。核融合炉の構成要素を模擬した試験体であり、実機に先立って熱負荷、中性子工学、製造技術などを検証するために用いられる。プラズマ対向機器やブランケットなど多岐にわたり、実規模または縮尺モデルとして製作される。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは158本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.48%を占めた。直近の2025–2029年では0.40%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
モックアップ(mock-up)とは、実機の一部または全体を模した試験用の実物大模型であり、核融合工学においては、プラズマ対向機器や増殖ブランケットなど、実機では直接試験できない部材・部品の設計検証と製造技術の確立を目的として製作される試験体のことを指す。核融合炉の炉内機器は、高熱流束、強い中性子照射、複雑な冷却構造といった過酷で重畳的な負荷に同時にさらされるため、設計コードや材料データだけでは性能を保証できない。そこで、実機と同じ材料・接合構造・製造工程を用いて作製した模型を、電子ビーム照射装置や中性子源などの地上試験設備にかけ、実機条件に対応する負荷に対する健全性を確認する、という手順が開発標準となっている。モックアップは単なる形状模型ではなく、後の量産に移れる製造技術そのものを検証対象とする点に特徴がある。
モックアップとは何か、なぜ作られるのか
核融合炉の炉内機器、例えばダイバータや第一壁、増殖ブランケットは、数メガワット毎平方メートルに及ぶ熱流束、強い中性子場、そして冷却材の高圧流れを同時に受ける。これらの部材は一般に、耐プラズマ材料(タングステン、炭素繊維複合材、ベリリウムなど)と銅合金の熱シンク、さらにステンレス鋼構造体を接合した多層構造であり、この接合界面こそが最も壊れやすい箇所となる。設計計算は熱伝導や応力を予測できるが、接合部の実強度や繰り返し熱負荷に対する疲労挙動は、実物と同じ工程で作った試験体を実際に加熱して初めて分かる。モックアップはこの目的のために作られる。
モックアップ試験には段階がある。まず小規模モックアップで製造法そのものをふるい分け、次に実機寸法に近い大型モックアップやプロトタイプで全体性能を確認する。欧州のITER高熱流束機器開発では、ベリリウム・カーボン・タングステン装甲と各種接合技術の組み合わせで50体以上の小規模モックアップが製作され、うち20体が高熱流束試験に供された。このように、モックアップは一つの試験体ではなく、材料選定と製造オプションの絞り込みを進めるための一連の実験系として運用される。
モックアップの対象は熱負荷を受ける機器に限らない。ITERの中性ビームダクトライナ、電子サイクロトロン加熱の起動器、分光診断の光学系、電流リード、トリチウムペレット注入器など、炉内・炉周辺の多様な機器について、実機と同寸法・同構造の試験体が製作され、性能試験や据付手順の確認に使われている。また設計段階では、実体を作る前に三次元設計模型(デジタルモックアップ)を用いて保守・交換手順や干渉を検証することも一般的になっている。
モックアップが実機と同じ製造工程を経る意味は二つある。第一に、試験結果が「その製造法で作れば実機も同じ性能を持つ」という保証になること。第二に、試験を通じて製造工程自体の問題(接合条件、加工公差、品質検査手法)が明らかになり、量産技術が成熟することである。このためモックアップ試験は、単なる性能確認ではなく調達技術の資格認定(qualification)プロセスの中核をなす。
モックアップの内部構造は、実機ブランケットの単位構造をそのまま縮小・模擬したものになっている。次の図は、超臨界二酸化炭素冷却リチウム鉛ブランケットの中性学試験用に製作されたモックアップの構成を示したものである。
図はモックアップの全体組成と各構成要素を示す。左側に第一壁(FW)、増殖領域(BZ)、プラズマ対向部(PFC)からなる約500ミリメートル角の試験体全体が、右側にこれを構成する各パネル部材が分解して並んでおり、炭化ケイ素製の流路仕切り部材なども確認できる。このようにモックアップは、実機の単位セル構造を模擬した箱型試験体として組み上げられる。
製造・接合技術
モックアップ開発の中心課題は、異種材料の接合である。プラズマ対向機器では、タングステンや炭素系装甲材を銅合金熱シンクに、熱シンクをステンレス鋼冷却構造に接合する必要があり、各界面は熱サイクル下で大きな熱応力を受ける。接合にはろう付けが広く用いられるが、銀系ろう材は中性子照射下での材料特性やトリチウム管理の観点から好ましくないため、非銀ろう材の開発も進められた。また、装甲材と熱シンクの間に機能傾斜材料(FGM)の中間層を設けて熱応力を緩和する構造の最適化も行われている。
装甲の形状と配置も接合信頼性を左右する。平らな装甲タイルを貼り付ける構成では、接合技術と装甲材の種類に応じて熱流束5〜16 MW/m²で接合部の破損が生じたのに対し、モノブロック構造(冷却管の周りに装甲材をリング状に組み上げる構成)では炭素材で最大24 MW/m²の吸収熱流束を2000サイクル耐えるという結果が得られ、これがITERダイバータの基本構成選定の根拠となった。モノブロックが強いのは、装甲が冷却管を取り囲むことで接合界面が圧縮応力側に働き、熱流束を冷却管周りの小さな面積で効率よく除去できるためである。この構成はその後、JT-60SA向けの炭素繊維複合材モノブロックダイバータ装甲などにも引き継がれている。
接合品質の確保には非破壊検査が不可欠であり、モックアップ製造では超音波やX線による接合部検査が工程に組み込まれる。また近年は、ウェンデルシュタイン7-X向けのパネル試験体に積層造形を適用し、その熱流動・構造性能を検証するなど、製造技術自体の多様化が進んでいる。モックアップ試験は、こうした新しい製造法が従来の機械加工・ろう付けと同等の信頼性を持つかを判定する場にもなっている。
高熱流束・熱流動試験
製作されたモックアップは、電子ビーム照射装置やイオンビーム装置を用いて実機と同等の熱流束を負荷され、繰り返し熱サイクルに対する健全性が評価される。試験の指標は、破損までの熱流束と、許容熱流束での繰り返し回数である。日本のITER機器開発では、並列冷却管型のダイバータモックアップが、定常状態に相当する5 MW/m²・15秒の負荷を1万サイクル、過渡状態に相当する20 MW/m²・15秒の負荷を1000サイクル耐え、この結果を受けてダイバータ板ほぼ全長を持つ大型モックアップが製作された。このように小規模試験で得られた耐久限界が、大型試験とプロトタイプ製作への進断基準として使われる。
熱流動試験では、冷却構造が設計どおりの流量・圧力損失で熱を除去できるかを確認する。ジャイロトロン共振器の実寸大モックアップに細小冷却流路を設けて冷却試験を行い試験装置の校正を行う例や、ブランケット冷却系の熱流動解析コードを実機配管系を模擬したモックアップで検証する例がある。後者では、液体金属ブランケット特有の磁場中流動(MHD)による圧力損失が、水冷却液体リチウム鉛ブランケットのモックアップを用いて実測され、ブリーデングユニット内の流れ分布が電位測定から推定されている。磁場中を流れる導電性液体金属には電磁気的な制動が働き圧力損失が大幅に増えるため、この種の実証は解析コードの信頼性確保に不可欠である。
高熱流束試験は機器の機能部品にも及ぶ。中性ビームダクトライナに埋め込まれた熱電対のモックアップ試験では、高熱流束下で温度測定系が実用に耐えるかが確認される。診断機器の光学系やミラーについても、実機と同構造のモックアップを用いて光学的性能や、プラズマによるミラー洗浄の効果が検証されている。
中性学・トリチウム増殖モックアップ実験
増殖ブランケットの設計では、トリチウム増殖比(TBR)が1を超えること、すなわち炉が消費する以上のトリチウムを炉内で生産できることが絶対条件である。しかしモンテカルロ輸送計算や核データライブラリには模型近似と断面積データの不確かさが伴い、計算値の信頼性を実験で検証しなければならない。そのための核となる実験が、ブランケット構造を模擬したモックアップにD-T中性子を照射し、トリチウム生成率や中性子・ガンマ線スペクトルを実測して計算と比較するものである。
実験では、リチウムガラスシンチレータや炭酸リチウムペレットによるトリチウム生成率測定、ジルコニウムや金の活性化箔による中性子束測定が組み合わされる。D-T中性子源の強度は標的内のトリチウム深さ分布から精密に求め、計算との比較の誤差源を減らす。またリチウム鉛合金の偏析が計算誤差を生むため、増殖材の成分分析による補正も行われる。この種の実験はブランケット概念ごとに構造が異なるため、対象概念に合わせた専用モックアップの設計・製作から始まる。
モックアップ実験はブランケット概念ごとに実施されてきた。水冷却セラミック増殖ブランケットのモックアップ実験では中性学設計の信頼性が確認され、超臨界二酸化炭素冷却リチウム鉛ブランケットでも専用モックアップによるD-T中性子照射実験が行われた。次の図は、その照射実験の配置を示したものである。
図の左が実験装置の写真、右が同じ配置の中性学計算モデルであり、D-T中性子発生装置のビーム軸がモックアップ前面の測定窓に向かって配置されている様子が分かる。写真と計算モデルを対応させることで、実験幾何の不確かさを抑えた計算・実験比較が可能になる。
欧州では、水冷却液体リチウム鉛(WCLL)やヘリウム冷却ペブルベッド(HCPB)の試験ブランケットモジュール(TBM)について、中性子・ガンマ線スペクトルやトリチウム生成率のモックアップ実験が行われ、液体シンチレーション法による新しいトリチウム生成率測定手法も開発されている。これらの実験は、ITERのTBM計画やDEMO設計に先立って、ブランケットの核性能予測の精度と不確かさ余裕を確定する役割を担う。
資格認定戦略と技術成熟度
モックアップ試験は、技術成熟度(TRL)を段階的に引き上げる仕組みの中に位置づけられている。欧州の評価では、最も成熟したブランケット概念でもTRL 3程度、すなわち実験室レベルでの概念実証段階にあり、実機条件での統合試験がまだ行われていない。このため開発戦略では、単一効果の特性評価(接合強度、熱流動、材料特性など個別の現象の確認)を先に行い、その後に複合効果・統合試験へ進むという順序が明確にされている。モックアップはこの各段階をつなぐ共通の試験体であり、小規模モックアップによるふるい分け、実寸大モックアップによる性能確認、プロトタイプによる調達前資格認定、という流れで進む。
ITERの調達では、この流れが実際に運用されている。トロイダル場コイルの調達ではモックアップ試験を経てプロトタイプ製作に進む段階的資格認定が行われ、電流リードについてもモックアップによる資格認定とプロトタイプ製造が実施された。資格認定の対象は性能だけでなく製造能力そのものであり、実機と同じ工程・検査で要求品質を達成できることが示されて初めて量産調達に移れる。
ブランケットについては、中性子源の制約が資格認定戦略の中心課題である。既存の核分裂研究炉は照射環境の中性子スペクトルが核融合炉と異なり、ITERのTBM試験も重水素・トリチウム運用まで時間を要する。このため、ブランケットモックアップを炉心関連の中性子源に照射してトリチウム技術を検証する計画が進められている。次の図は、IFMIF-DONESの試験セルにブリーデングユニットモックアップを組み込む構想を示したものである。
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図は、試験セル内で増殖材・増殖材倍率材を試験できる体積(約400×400×900ミリメートル)と、汎用ブランケットセグメントにおける試験体の位置関係を概念的に示す。実寸大に近いブランケット単位構造を中性子源に曝すことで、照射下での統合挙動を地上で検証する道が開ける。
このように、モックアップは核融合工学の開発において、設計計算の検証、製造技術の確立、そして実機調達前の資格認定を一貫して担う手段であり、高熱流束機器から増殖ブランケットまで、炉の成立を左右する主要機器のほぼすべてでその製作と試験が行われている。
Fusion Engineering and Design 1998
モックアップ(Mock-up)の研究史 — FusionPapers