水冷却鉛リチウム(Water-cooled lead-lithium、WCLL、demo wcll)は、核融合・プラズマ物理学の工学。核融合炉の増殖ブランケット概念の一つで、液体鉛リチウム(PbLi)を増殖材とし、水を冷却材とする。ITERやDEMOでの実証が計画され、トリチウム生産と熱除去を担うが、MHD圧力損失や照射脆化の評価が設計の鍵となる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは109本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.66%を占めた。直近の2025–2029年では0.29%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2000年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
水冷却鉛リチウム(WCLL)ブリーディングブランケットは、核融合炉の増殖ブランケット方式の一つであり、増殖材として液体の鉛リチウム(LiPb)合金を用い、これを加圧水で冷却する構成を採る。欧州の DEMO 炉の設計検討ではヘリウム冷却固体増殖方式と並ぶ二大候補であり、発電用蒸気を直接得やすい軽水炉条件の冷却水を特徴とする。ブランケット内部の様子を示した次の図は、セグメント断面の温度、損傷率、ヘリウム生成率の分布である。

fig.2 Embrittlement of WCLL blanket and its fracture mechanical assessment (2023) · CC BY 4.0
(a) WCLL blanket segment with the position of the equatorial slice. (b)–(d) Temperature, dpa rate and He generation rate distribution in the equatorial slice, respectively.
図は(a)ユーロフェル鋼とタングステンからなるブランケットセグメントの形状と赤道面切片の位置、(b)温度、(c)dpa/全出力年(fpy)で表した原子当たりの変位損傷率、(d)ヘリウム生成率の赤道面内分布を示す。以下、この方式の設計概念、構造、熱流動、トリチウム、安全性の順に概観する。
WCLL ブリーディングブランケットの概念と DEMO における位置づけ
増殖ブランケットは、プラズマから漏れ出た中性子をリチウムとの核反応(Li-6 の(n,α)反応など)でトリチウムに変換し、燃料自給を実現するための炉心周辺機器である。DEMO のような商業原型炉では、増殖比を 1 以上に保ちつつ、ブランケットで生じた核融合出力(大部分は LiPb と構造材の熱として現れる)を発電に回す必要がある。WCLL ではこの熱回収を水で行うため、既存の加圧水型炉(PWR)で確立された蒸気サイクル技術をそのまま転用できる点が最大の利点とされる。冷却水条件は PWR 条件に準拠し、約 295~328 ℃、15.5 MPa である。一方、熱力学的には LiPb が比較的低温に保たれるため、後述するトリチウムの抽出や耐食性が課題となる。欧州 DEMO の予備概念設計段階では、一次熱輸送系(PHTS)として WCLL とヘリウム冷却ペブルベッド(HCPB)の二方式が並行して評価され、WCLL の場合、ランキンサイクルに基づく動力変換系(PCS)がトカマク特有のパルス運転(燃焼期と滞留期の繰り返し)に対応できるよう、小規模な蓄熱システム(溶融塩を用いる ESS)を組み込んだ構成が検討されている。
セグメント・モジュール設計:第一壁、増殖ユニット、二重壁管
ブランケットはトカマク周囲を覆う複数のセグメント(単一モジュールセグメント単位で核解析が行われる)に分割され、各セグメントはプラズマに面する第一壁(FW)と、内部に LiPb を収める増殖ユニットからなる。第一壁はタングステン保護層とユーロフェル(EUROFER、還元活性型フェライト・マルテンサイト鋼)構造材で構成され、高熱流束を受ける。LiPb は増殖材と同時に中性子増倍材(Pb の(n,2n)反応)として機能する。
冷却構造の特徴は、LiPb 中に二重壁管(Double-Walled Tubes, DWT)を配置する点にある。二重壁管は内管に冷却水、外管との間に微小隙間を設けた構造で、万一内管が破損しても水と LiPb の直接接触を外管が防ぎ、事故の緩和に寄与する。その一方で、管壁が増える分だけ熱抵抗が増し、LiPb 側の温度分布が変化する。このため DWT の配置(レイアウト)がブランケットモジュールの熱的挙動に与える影響が、パラメータ研究や CFD 解析で詳しく調べられている。また、蒸気発生器の模擬体を対象とした CFD 連成解析など、水側機器の設計も進められている。
熱流動と LiPb・水回路の MHD
WCLL の一次系は、LiPb をブランケット内で循環させる回路と、加圧水を循環させる回路からなる。LiPb は導電性液体であり、強磁場中を流れる際には磁場誘起の電磁流体力学(MHD)効果によって圧力損失が増大する。これは磁場中を動く導電性流体に生じる誘導電流と磁場の相互作用(ローレンツ力)が流れを抑制するためで、ポンプ動力や構造材への機械的負荷を左右する。WCLL では LiPb 流速が比較的低く抑えられるため MHD 圧力損失は HCLL などより緩和されるが、磁場コイル内部を通る配管(in-magnet ループ)での圧力降下の見積もりは設計上の重要項目である。
水側では、ブランケット冷却ループの動的な熱流動挙動(プラズマのパルス・滞留遷移に伴う過渡応答)を扱う系統モデルによる解析が行われており、パルス運転下での動力変換系の制御とプラント効率の確保が設計課題となっている。また、第一壁模擬体を水ループ試験施設で過渡条件下で試験するなど、実証試験による熱流動評価も進められている。
トリチウムの増殖・抽出・輸送
LiPb 中で生成したトリチウムは、液体中を拡散して移動し、最終的には抽出ユニット(TEU)で系外に取り出される。WCLL ではトリチウム透過性の低い二重壁管構造が水へのトリチウム漏えいを抑える一方、LiPb からのトリチウム抽出にはガス吹き込みによる脱離(パージ)や、真空抽出(PAV, プラズマ支援真空プロセス(plasma-assisted vacuum process)のような方式)が検討されており、抽出速度が表面反応律速か拡散律速かでモデル化の結果が変わるため、抽出ユニットの概念設計ではこの区別が重要となる。抽出ユニットの性能を実証するため、TRIEX-II のような実験施設が整備されている。
トリチウム輸送解析では、固体構造材中の水素トラップ(格子欠陥などへの捕獲)がトリチウム在庫量と透過フラックスに影響する。トラップ機構を考慮すると在庫量が約 15% 増加し、冷却チャネルへの透過が遅れる。また、LiPb 中の水素溶解度については文献値に 2 桁程度の不確かさがあり、これがユーロフェル中のトリチウム在庫量を約 25 倍、冷却チャネルへの透過フラックスを約 3 倍変動させるため、基礎物性の整備が設計精度を左右する。中性子学実験(フラスカト中性子発生装置でのモックアップ実験など)により、ブランケット内のトリチウム増殖分布の検証も進められている。
安全性:LOCA・LOFA 過渡、材料劣化とプラント統合
WCLL の安全性評価では、水と LiPb という反応性の組み合わせが特有の課題を生む。冷却水管の破断(In-box LOCA)では、LiPb と水の直接接触による化学反応(水素生成)と圧力上昇が懸念され、LIFUS5/Mod3 試験施設での模擬実験と SIMMER コードによる検証解析が行われている。また、冷却材流量喪失(LOFA)過渡については MELCOR コードを用いた解析、炉外での冷却材喪失(ex-vessel LOCA)後の崩壊熱除去については決定論的評価が行われている。崩壊熱は LiPb 中の活性化生成物に由来し、一次系冷却水中の活性化腐食生成物(ACP)の評価も ITER の WCLL 試験ブランケットシステム(TBS)を含めて進められている。
材料面では、ユーロフェル鋼の中性子照射脆化が重要な設計制約である。第一壁は冷却水に接するため比較的低温(約 350 ℃以下)で高中性子束にさらされ、2~3 dpa 程度の低い損傷量でも延性-脆性遷移温度(DBTT)が室温以上に上昇する。ヘリウム遷移がこれを助長する。このため、運転停止・冷却・再加圧時に構造材が DBTT 以下に置かれる可能性があり、破壊力学的評価により、このような脆化した状態で耐えられる荷重(自重、LiPb 貯留、地震加速度など)の見積もりが行われている。これらの安全性・材料課題の解決が、WCLL を DEMO の実用候補として確立するための前提となっている。
この解説が根拠にした論文から
- Influence of hydrogen trapping on WCLL breeding blanket performancesNuclear Fusion 2021
- Embrittlement of WCLL blanket and its fracture mechanical assessmentNuclear Fusion 2023
- The new layout and regulation of the 'pulsating' power conversion system of EU DEMO WCLL for an effective and safe control of pulse-dwell transitions and increase in plant efficiencyNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1995–20046本 · 0.06%
初期設計と安全性検証
この時代の WCLL 研究は、ITER 用テストブランケットモジュールの設計と安全評価が中心であった。二重管の照射試験装置や Pb–17Li/水相互作用、核特性設計などが扱われ、ヘリウム冷却ペブルベッドと並ぶ候補概念として位置づけられていた。代表的な論文として、WCLL テストブランケットモジュールの設計状況や DEMO ブランケットにおける水マイクロリークの影響が報告されている。
同時に語られた主題テストブランケットモジュール、鉛リチウム共晶、ヘリウム冷却ペブルベッド、ブランケットモジュール
この時代の論文から
- The fracture mechanics behaviour of the WCLL blanket segmentFusion Engineering and Design 2000
- Design of an in-pile device for testing of WCLL double wall tubesFusion Engineering and Design 2000
- Status of the design and performances of the WCLL test blanket module for ITER-FEATFusion Engineering and Design 2002
- Pb–17Li/water interaction in DEMO WCLL blanket: water micro-leaksFusion Engineering and Design 2003
2015–2026103本 · 0.41%
統合的ブランケット性能研究の時代
この時代には WCLL が breeding blanket の主要概念として広く研究され、MHD 圧力損失、喪失冷却事故、トリチウム輸送、モックアップ試験、熱流動など多岐にわたる課題が扱われた。ITER および DEMO を対象としたトリチウム抽出装置やマニホールド内の MHD 特性、水素捕捉の影響、破壊力学評価などが代表的な研究である。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題増殖ブランケット、テストブランケットモジュール、電磁流体力学、モックアップ、冷却材喪失事故、トリチウム
この時代の論文から
- TRIEX-II: an experimental facility for the characterization of the tritium extraction unit of the WCLL blanket of ITER and DEMO fusion reactorsNuclear Fusion 2022
- Magnetohydrodynamic velocity and pressure drop in manifolds of a WCLL TBMNuclear Fusion 2021
- Influence of hydrogen trapping on WCLL breeding blanket performancesNuclear Fusion 2021
- Embrittlement of WCLL blanket and its fracture mechanical assessmentNuclear Fusion 2023
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Water-cooled lead-lithium、WCLL、demo wcll など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文7本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、3本の論文(うち全文2本)と1枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
