Wiki / 装置 ITER (iter tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の装置。国際熱核融合実験炉の略称で、フランスに建設中の超伝導トカマク型実験炉である。重水素とトリチウムの燃焼によりQ=10の核融合出力を実証し、核融合エネルギーの科学的・技術的実現可能性を示すことを目的とする。プラズマ物理や工学の各分野でITERを対象とした設計・予測研究が行われている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは3,697本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の9.99%を占めた。直近の2025–2029年では4.67%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 ITER(国際熱核融合実験炉、International Thermonuclear Experimental Reactor)は、フランス・サンポール=レデュランス(カダラッシュ)に建設中の世界最大のトカマク型核融合実験装置である。目的は、重水素 と三重水素の核融合反応によって約500 MWの融合出力を生み出し、エネルギー増倍率 Q ≈ 10 の燃焼プラズマ を数百秒規模で持続させ、次世代炉に向けた工学的・物理学的基盤を確立することにある。中国、欧州、インド、日本、韓国、ロシア、米国の7つのメンバーがそれぞれ国内機関を通じて部品を調達する、史上最大級の国際共同科学事業でもある。
fig.1 Evaluation of ITER divertor shunts as a synthetic diagnostic for detachment control (2023) · CC BY 4.0
Render of the planned divertor shunts along the body of a ITER divertor cassette. Cable leads (shown here in red) run from 8 junction boxes (also in red) along the cassette body to 9 shunt test locations, forming 8 shunt pairs in total (shown the detailed view). The shunt voltage pairs relevant to SOL current measurements are labelled as \Delta V_1, \Delta V_2, and \Delta V_3.
図は、プラズマ中で最も過酷な熱負荷 を受けるダイバータ ・カセットの本体に沿って、8組のシャント(電圧測定用の導線対、赤で示す)が配された様子を描いたレンダリングである。このようにITERは、プラズマを閉じ込める磁場コイル系から、熱を受けるダイバータ、計測・制御系に至るまで、極めて多様なシステムを一つの装置に統合する巨大な工学計画となっている。
概要と使命
ITERの中心的な使命は、15 MA(1500万アンペア)のプラズマ電流を誘導駆動のみで維持し、高閉じ込めモード(Hモード )で Q ≈ 10、融合出力約500 MWを数百秒間持続する「ベースライン運転」を実証することである。これは、これまでのトカマクが到達した規模を一桁上回るものであり、プラズマ中で生じた の自己加熱が外部加熱を上回る「 」を初めて長時間制御できるかを試す場となる。
ITER
種別 装置
論文数 3,697 本
初出 1985 –1989 年(3本)
最盛期 2005 –2009 年 9.99%
直近 2025 –2029 年 4.67%
ほかの綴り iter tokamak ITERは発電を目的としない実験炉である。三重水素 を増殖するブランケットは試験モジュール(TBM )の形で各国が持ち込み、発電に直結する技術は次の段階(DEMO と総称される原型炉)に委ねられている。それでもITERは、核融合炉として初めて核施設規制の下に置かれる装置であり、真空容器 は核安全上の一次封止障壁として設計されている。このため、中性子による発熱や構造材の照射損傷、放射性廃棄物の見通しなど、純粋なプラズマ物理を超えた炉工学上の課題が設計の中心にある。
装置と主要システム 装置の心臓部は二重壁ステンレス鋼 製のトーラス状真空容器 であり、内部は遮蔽材で満たされ、水で冷却される。容器は周方向40°の9つのセクターに分割され、欧州と韓国が分担して製造する。各セクターはさらに4つの極方向セクターと三角形状の支持構造からなり、赤道面には中性ビーム入射装置 専用のポートなど、加熱・計測・真空・遠隔保守 用の多数の開口が設けられる。中性子による容器内の体積発熱密度は冷却系の設計上限(約0.6 W/cm³)を超えないよう、装置全体の詳細な中性子解析によって管理されている。
図は真空容器セクター1基分の極方向分割(PS1からPS4)と三角支持構造(TrS)を示した模式図である。このように巨大なセクターを工場で製造し現地で溶接接合する方式が、建設の基本方針となっている。
プラズマを閉じ込める超伝導磁石 系は、中央ソレノイド、トロイダル場コイル、極方向場コイルからなり、その製造・組立・試験は各国に分散して進められている。例えば中央ソレノイドの導体接合部や、極方向場コイル用クライオスタット貫通部の受入試験など、一つひとつの部材レベルで厳格な品質管理が要求される。プラズマ加熱 は中性ビーム 入射と高周波加熱(電子サイクロトロンおよびイオンサイクロトロン帯)の3系統で担い、それぞれ大電力電源 や長距離の高速データ伝送など、炉規模の補助システムを必要とする。
プラズマ対向機器 のうち、第一壁 ・ブランケットは真空容器内面を覆う遮蔽兼熱除去部材であり、ダイバータ はタングステン 製モノブロックを水冷銅チューブに並べた垂直ターゲットで構成される。タングステンは溶融点が高く侵食が少ない一方で脆く、熱負荷 の制御が運転の成否を分ける。このため、ITERと同じモノブロック技術・形状・水理条件を用いたダイバータを搭載したトカマク(フランスのWEST など)で、実規模部材の長パルス運転下での性能が事前検証されている。
運転シナリオ
ベースラインとなる15 MA誘導運転シナリオは、プラズマ立ち上げ 、電流立ち上げ、燃焼、立ち下げに至る全過程を通じて、コイル系と電源 の許容範囲内に収まるよう自己無撞着な輸送シミュレーションで仕様化されている。Hモード ではプラズマ縁に高い温度・密度の台地(ペデスタル )が形成され、エッジ局在モード(ELM )が縁の圧力を制限する一方、ペデスタル部では大きなブートストラップ電流 が生じる。この電流を形状制御と垂直安定性の制御に組み込むことが、長パルス運転設計の要点である。
fig.1 Predicting core transport in ITER baseline discharges with neon injections (2026) · CC BY 4.0
Baseline ITER 15 MA single-null equilibrium and initial kinetic profiles used as the starting point for all simulations in this study. From left to right: magnetic geometry with the separatrix indicated; electron pressure profile; and safety-factor profile q(r), characterized by a broad region of flat q (q_0 \lt 1) typical of the ITER baseline scenario.
図はベースライン15 MA単極性平衡の磁面構造(左)、電子圧力分布(中央)、安全因子qの半径分布(右)を示す。q分布が中心部で1未満から広い平坦領域を持つことが、このシナリオの特徴である。
燃焼プラズマ の性能は、縁から流入する不純物 やダイバータ での放射冷却と強く結合する。ダイバータの熱負荷 を材料の許容限界以下に保つためには、ネオン等の種不純物を注入してダイバータプラズマ 中で体積的に放射損失を起こさせ、ターゲットから部分的に「剥離(デタッチメント)」させることが不可欠とされる。分離面を横切る熱流は約100 MWに達すると見積もられており、その大部分をダイバータで放射として捨てる一方、不純物が中心部に侵入して燃料を希釈し融合出力を下げないよう、中心輸送と縁運転の整合性を同時に満たす運転点の探索が現在のシナリオ研究の中心課題となっている。
プラズマ物理と運転上の課題
ITER規模のプラズマが直面する物理課題は多岐にわたるが、その代表がディスラプション(プラズマ電流の急速な喪失)とその回避・緩和である。特に新古典テアリングモード (NTM )は、有理磁面近傍で磁気島 を成長させ、最悪の場合ディスラプションに至る主要な不安定化要因である。既存装置のITERベースライン相当プラズマを対象とした研究では、q=1面とq=2面のプラズマ回転 差が約0.8 kHzを下回ると、鋸歯振動が種とした2/1モードの島が成長しやすくなることが示され、回転差を保つようガス注入と電子サイクロトロン加熱 を組み合わせる制御手法が開発されている。この種の知見は、炉規模で実用可能な作動手段を用いてテアリング安定な定常運転を構築する道を示すものである。
縁の制御も同様に重要である。ELM の抑制には真空容器 内に設置されたELM制御 コイルによる共鳴磁場摂動 (RMP)が用いられる予定であり、その効果はトロイダル系のプラズマ応答モデルで評価されている。また、ダイバータ の剥離状態を実時間で監視する手段として、カセット本体に沿った電圧降下からスクレイプオフ層 電流を測るシャント診断が注目されており、プラズマ近傍に置かないため寿命の制約を受けない簡素な計測手法として、既存装置でのフィードバック制御実績を踏まえて検討が進んでいる。ディスラプションが避けられない場合に備え、破砕ペレット注入による緩和系も既存装置での開発が進められている。
建設・組織・研究計画
ITER機構(IO)がカダラッシュで全体を統括し、各メンバーの国内機関が担当部材を供給する「現物調達」方式が採られている。建設用地となるトカマク複合施設の基礎スラブは2014年に完成し、約40万トンの構造物と機器を支える。磁石、真空容器 、クライオスタット、熱遮蔽、第一壁 ・ダイバータ 構造物が各メンバー国で製造・試作段階から量産段階へ移っており、イタリア・パドヴァの中性ビーム 試験施設のように、装置本体を支える周辺施設も整備されている。
運転に先立って、ITER研究計画(ITER Research Plan)が初プラズマ以降の各運転段階に必要なプラント構成、主要なプラズマ試運転活動、建設に並行して進める研究開発の需要を定義している。計測・制御系(CODAC )や診断装置、遠隔保守 用の接続器やマニピュレータの開発も進行中であり、遠隔実験に向けた長距離データ伝送の実証など、運転段階を見据えた準備が各国で行われている。さらに、各国はITERを足がかりとした自国の核融合戦略を策定しており、TBM 試験施設の整備や次世代炉に向けた材料・技術開発が並行して進められている。ITERが生む知見は、単一の実験結果というより、燃焼プラズマ の制御、核融合炉の工学、そして国際共同事業としての巨大科学の運営という三つの層で、次の段階の炉設計の基盤となるものである。
ITERの研究史 — FusionPapers