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ITER中性粒子ビーム

ITER neutral beam

ITER中性粒子ビーム(ITER neutral beam、iter nbi)は、核融合・プラズマ物理学の工学。核融合実験炉ITERのプラズマ加熱・電流駆動を担う中性粒子入射装置である。1MeVの負イオンを加速・中性化し、17MW以上のビームを入射する。大面積RF負イオン源や1MV真空絶縁など、実現には高度な工学的開発を要する。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは106本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.50%を占めた。直近の2025–2029年では0.08%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4よく登場する装置
  5. 5この数字の作り方

解説

ITER中性粒子ビーム(ITER NBI)とは、核融合実験装置ITERに備わる中性粒子入射システムであり、負の水素イオン(H⁻またはD⁻)を約1 MeVまで静電加速した後、水素ガス標的で中性化して高速中性粒子としてプラズマに注入する装置である。各ビームラインは16.5 MWの加熱・電流駆動出力を持ち、当初2基が設置され、後日に第3基を追加できる。ITERの燃焼到達とHモードへの遷移にはこの全出力の利用が不可欠であり、ITERの成否を左右する主要な追加加熱システムの一つである。

ITERにおける中性粒子入射の役割

ITERの研究計画では、波動加熱のみに頼る初期運転段階の後、「DT-1」段階で2基の中性粒子入射装置が合計33 MWまでの入射を実現する。この段階の目標は、重水素・三重水素プラズマでQ(核融合出力と追加加熱出力の比)10以上を達成することであり、そのためにはHモードへのアクセスが必須で、中性粒子ビームを含む全追加加熱出力の利用可能が前提となる。さらに後の「DT-2」段階では第3基の追加により入射電力を増強できる。

加熱と電流駆動のほかに、低出力(約2.2 MW)の診断用中性粒子ビーム(DNB)が別途設けられる。これはヘリウム灰分の測定に用いられる共鳴散乱分光のためのプローブビームを供給するもので、加熱用ビームと同じイオン源を使いながら、水素イオンを100 keVに加速し、3秒入射・20秒停止あるいは100 ms入射・1.4秒停止という矩形波変調を1000秒以上繰り返すという、加熱用とは異なる運転様式が求められる。

高エネルギー中性粒子の入射には固有の制約もある。1 MeVの重水素ビームはプラズマ外周部で十分に電離されず、未電離のまま第一壁やダイバータに直接入射する「シャインスルー」損失が生じうる。この損失は入射エネルギー、粒子種、プラズマの密度・組成分布に依存するため、プラズマ対向壁の劣化を避けるためには最小プラズマ密度の条件が課され、これが入射可能な運転領域と実効的に利用できるビーム電力を決める。この制約は軸上・軸外しの両入射幾何で評価されており、ITERの運転シナリオ設計に直接組み込まれている。

ITER neutral beam injection geometry in configuration ‘off/on’ with one injector in the off-axis vertical tilt configuration (blue) and one in the on-axis configuration (red). (a) Shows a poloidal projection, while (b) a view from above the torus, with the circumference of radius Rtang represented in cyan.

fig.1 ITER NBI operational window and power availability constraints due to shine-through losses (2025) · CC BY 4.0

ITER neutral beam injection geometry in configuration ‘off/on’ with one injector in the off-axis vertical tilt configuration (blue) and one in the on-axis configuration (red). (a) Shows a poloidal projection, while (b) a view from above the torus, with the circumference of radius Rtang represented in cyan.

図はITER中性粒子入射の幾何配置を示す。一方の入射装置を軸外しの垂直傾斜配置(青)、他方を軸上配置(赤)とした場合の、(a) ポロイダル断面への射影と (b) トーラス上方から見たビーム経路が描かれ、シアン色の円は接線半径の軌跡を表す。入射幾何の選択はビームのプラズマ中での吸収分布や高速粒子損失に影響するため、運転シナリオと直結する設計要素である。

負イオン源とその要求仕様

ITERの入射装置は、現在の大型トカマクで主流なアーク放電式陽イオン源とは根本的に異なる、高周波(RF)駆動の負イオン源を採用している。負イオンが選ばれた理由は、1 MeV級の高エネルギーでは陽イオンの中性化効率が極端に低下するのに対し、負イオンは電子を1個外すだけで中性化でき、高エネルギーでも実用的な効率を保てるためである。2007年、マックス・プランク研究所で開発されたRF駆動源がITER理事会により基準源として採択された。その利点は、フィラメントを用いないため長パルス運転での保守が原理的に不要なことにある。

要求仕様は厳しい。加熱用ビームライン(HNB)のイオン源は、1.9 m × 0.9 mという大型の引出し面積を持ち、0.3 Paという低い源圧力で、水素では66 Aを1000秒、重水素では57 Aを3600秒にわたりプラズマグリッドの孔へ供給しなければならない。低圧運転は中性化ガス標的でのビーム損失を抑えるために必要だが、低圧のプラズマから負イオンを効率よく生成・引出すことは技術的に最も難しい部分である。負イオンは主に水素分子との振動励起衝突によって表面近傍で生成されるため、プラズマ化学と引出し系近傍のプラズマ挙動の制御が性能の鍵となる。また、1.9 m × 0.9 mの全面積にわたってビームレットの均一性を保つことも、ビーム発散角の要求を満たすうえで不可欠である。

引出しと1 MeV加速

負イオンの引出し・加速は多段のグリッド系で行われる。プラズマグリッドから引出されたイオンは、複数段の加速グリッドを順に通過して最終的に1 MeV(水素では870 keV)に到達する。この電圧は既存の中性粒子入射装置の数倍であり、高電圧絶縁とグリッド間の電気ブレークダウン抑制が中心的な技術課題である。グリッドは磁場により電子の逆流を防ぐと同時に、その磁場がビーム光学系に及ぼす影響も考慮しなければならない。ビームの発散角はイオンの垂直温度(約1 eV)と磁場による偏向の寄与の和で決まり、ITERのHNB目標値は7ミリラジアン(mrad)である。発散角が小さいほどビームは細く絞られ、中性化器やビームラインの口径、そしてプラズマへの入射効率が決まる。

(a) Arrangement for the plasma grid mask at BUG to obtain the IR footprint of an isolated beamlet at the backside of the CFC calorimeter. (b) Divergence as a function of the beam energy for the seven-grid system at ITER, taking into account the perpendicular temperature of the negative ions (1 eV) and the contribution of the magnetic field on the beam optics [13]. The ITER HNB target is indicated. Stars represent measured divergences at BUG and SPIDER at 40 kV acceleration.

fig.10 Contributions of the extended ELISE and BATMAN Upgrade test facilities to the roadmap towards ITER NBI (2024) · CC BY 4.0

(a) Arrangement for the plasma grid mask at BUG to obtain the IR footprint of an isolated beamlet at the backside of the CFC calorimeter. (b) Divergence as a function of the beam energy for the seven-grid system at ITER, taking into account the perpendicular temperature of the negative ions (1 eV) and the contribution of the magnetic field on the beam optics [13]. The ITER HNB target is indicated. Stars represent measured divergences at BUG and SPIDER at 40 kV acceleration.

図はビーム光学の実験的検証を示す。(a) は小型試験装置BUGにおいて、プラズマグリッドにマスクを設けて単一ビームレットの赤外線熱画像を分離して測定する配置であり、(b) はビームエネルギーに対する発散角の依存性で、イオン垂直温度の寄与(青)、磁場の寄与(赤)を積み上げ、40 keVでの測定値(星印)とともにITERの7ミリラジアン目標(黄線)を示している。エネルギーの上昇とともに発散角が低下し、目標値に漸近する様子が読み取れる。

中性化、残留イオンダンプとビームライン

加速された負イオンは中性化器で水素(または重水素)ガス標的と衝突させ、電荷交換によって中性粒子に変換される。負イオンの中性化効率はガス標的で数十パーセント程度に留まるため、ビームの残りは依然として荷電したままであり、これを磁場で偏向してビームラインから取り除くのが残留イオンダンプである。ダンプには数百MW級の瞬間熱負荷がかかるため、専用の高電圧電源系と高熱流束部材が必要となる。ビームラインにはまた、ガスとビームの相互作用による損失を最小化するための圧力設計が求められ、中性化器内のガス流は直接シミュレーションモンテカルロ法などで詳細に解析されている。ガス加熱による密度低下もビーム損失に影響する要素である。中性化後のビームは、中性粒子のみが磁場を素通りしてトカマクプラズマへ入射する。装置全体を貫く真空・冷却・高電圧系の統合設計と、遠隔保守を可能にする組立・保守計画も、ITERの中性粒子ビームセル設計の重要な部分を占める。

試験施設と開発ロードマップ

ITERのHNB開発は欧州と日本が分担して進めている。日本は1 MV電源と1 MeV加速器の設計・技術を担当し、欧州はイオン源、1 MeV加速器設計、補助電源、残留イオンダンプ、クライオポンプ、およびHNBシステム概念の最終試験を担当する。この分担のもと、イタリア・パドヴァに中性粒子ビーム試験施設(NBTF、PRIMA)が建設された。同施設は二つの実験装置からなる。一つはSPIDERで、ITERと同一寸法のイオン源を100 kVの低電圧引出しで運転し、イオン源性能の最適化に専念するもので、2018年に運転を開始した。もう一つはMITICAで、ITER加熱用ビームラインの完全な原型であり、1 MV電源系を含む全パラメータ・全パルス長の実証を目指す。MITICAの加速器グリッド設計は、物理・工学の全側面を統合的に扱う手法で最適化され、欧州各国の中性粒子ビーム研究所の実験データに基づいて検証されている。

イオン源開発は「階段方式」で進められてきた。すなわち、プロトタイプ源を用いる小型装置から、ITER半寸法源を用いる中間装置を経て、ITER実寸法源へと段階的にスケールアップする方式である。

Step ladder approach for the ion source scaling, showing the modular ion source, the arrangement of the beamlet groups and the corresponding test facilities: BATMAN Upgrade (BUG) with the prototype source, ELISE with the ½ size ion source and SPIDER at Consorzio RFX with the full size ion source used for MITICA and the ITER HNB and DNB.

fig.1 Contributions of the extended ELISE and BATMAN Upgrade test facilities to the roadmap towards ITER NBI (2024) · CC BY 4.0

Step ladder approach for the ion source scaling, showing the modular ion source, the arrangement of the beamlet groups and the corresponding test facilities: BATMAN Upgrade (BUG) with the prototype source, ELISE with the ½ size ion source and SPIDER at Consorzio RFX with the full size ion source used for MITICA and the ITER HNB and DNB.

図はこの階段方式を示したもので、モジュール構造のイオン源とビームレット群の配置、およびそれに対応する試験装置が並んでいる。プロトタイプ源を用いるBATMAN Upgrade(BUG)、半寸法源を用いるELISE、そしてパドヴァのRFX研究所に置かれるITER実寸法源を用いるSPIDER(MITICAおよびITERのHNB・DNBに用いられる源と同一)である。BUGとELISEは水素・重水素の両方で定常運転互換性を持ち、ITER要求への到達に向けた段階的検証と、人材育成の役割を担っている。このほか、JT-60SA向けのMeV試験施設が500 keV・118秒のパルスで154 A/m²の引出し電流密度を実証しており、高エネルギー長パルス運転の実現可能性を裏付けている。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Physical performance analysis and progress of the development of the negative ion RF source for the ITER NBI systemNuclear Fusion 2009
  • [2]Detailed design optimization of the MITICA negative ion accelerator in view of the ITER NBINuclear Fusion 2016
  • [3]Progress in the ITER neutral beam test facilityNuclear Fusion 2019
  • [4]Contributions of the extended ELISE and BATMAN Upgrade test facilities to the roadmap towards ITER NBINuclear Fusion 2024
  • [5]ITER NBI operational window and power availability constraints due to shine-through lossesNuclear Fusion 2025

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推移

0.00.30.6ITER中性粒子ビーム197019801990200020102020%
図1 — ITER中性粒子ビームが、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1995–20049本 · 0.09%

設計とR&Dの開始期

この時代はITER中性粒子ビームの設計とR&Dが中心であり、全ての論文がITERに関連している。中性粒子ビーム、負イオン、ビームプラズマ、モンテカルロ、線量率などと共に現れ、2000年から2001年にかけて負イオンビームプラズマ中性化器の開発が継続的に報告された。タイトルに占める割合は0.09%と小規模である。

同時に語られた主題中性ビーム、中性粒子入射、負イオン、イオンビーム、ビームプラズマ、モンテカルロ法

この時代の論文から

  • [1]ITER neutral beam systemNuclear Fusion 2000
  • [2]The development of a negative ion beam plasma neutralizer for ITER NBINuclear Fusion 2000
  • [3]The next step in the development of a negative ion beam plasma neutralizer for ITER NBINuclear Fusion 2001
  • [4]European contributions to the beam source design and R&D of the ITER neutral beam injectorsNuclear Fusion 2000

2005–201461本 · 0.40%

要素技術の詳細設計と進展

この時代は構成要素の詳細設計と物理性能解析が進み、RF負イオン源、高電圧電源、中和器内ガス加熱、トモグラフィ診断などが扱われた。中性粒子ビーム、中性粒子ビーム入射、負イオンに加えて、電源、遠隔操作、トリチウムなどが共に現れる。全論文がITERに関連し、タイトルに占める割合は0.4%とピークに達した。

同時に語られた主題中性ビーム、中性粒子入射、負イオン、電源、遠隔操作、負水素

この時代の論文から

  • [1]Progress of the development of the IPP RF negative ion source for the ITER neutral beam systemNuclear Fusion 2007
  • [2]Physical performance analysis and progress of the development of the negative ion RF source for the ITER NBI systemNuclear Fusion 2009
  • [3]Design of a −1 MV dc UHV power supply for ITER NBINuclear Fusion 2009
  • [4]Gas heating in the neutralizer of the ITER neutral beam injection systemsNuclear Fusion 2006

2015–202636本 · 0.14%

テスト施設と実証試験の時代

この時代はテスト施設と試作試験が中心となり、MITICA負イオン加速器の設計最適化、ITER中性粒子ビームテスト施設、SPIDER運転、1 MV絶縁実証、3Dシミュレーションなどが報告された。遠隔保守、モックアップ、真空容器、ステンレス鋼など実機に関わる語彙と共に現れ、概念実証から工学的実装へ移行した様子を示す。タイトル占有率は0.14%に低下したが、件数は35件と依然として多い。

この記述以降に論文が追加されている

同時に語られた主題中性ビーム、中性粒子入射、遠隔操作、遠隔保守、負イオン、モックアップ

この時代の論文から

  • [1]Detailed design optimization of the MITICA negative ion accelerator in view of the ITER NBINuclear Fusion 2016
  • [2]Progress in the ITER neutral beam test facilityNuclear Fusion 2019
  • [3]The ITER Neutral Beam Test Facility towards SPIDER operationNuclear Fusion 2017
  • [4]Towards a realistic 3D simulation of the extraction region in ITER NBI relevant ion sourceNuclear Fusion 2015

よく登場する装置

iter106

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(ITER neutral beam、iter nbi など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文30本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、5本の論文(うち全文2本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

ITER中性粒子ビーム

種別
工学
論文数
106 本
初出
1995–1999 年(1本)
最盛期
2005–2009 年0.50%
直近
2025–2029 年0.08%
ほかの綴り
iter nbi
主な装置
iter

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