容器内機器(In-vessel components、in-vessel)は、核融合・プラズマ物理学の工学。真空容器内に設置され、プラズマに直接面する第一壁・ブランケット・ダイバータや、ELM制御コイルなどの機器群を指す。中性子照射と熱負荷に耐える構造設計と遠隔保守が核融合炉工学の主要課題となる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは265本ある。比重が最も大きかったのは2015–2019年で、その期間の論文の0.67%を占めた。直近の2025–2029年では0.42%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
容器内機器(in-vessel components)とは、核融合装置の真空容器の内側、すなわちプラズマに直接面する側に設置される機器類の総称である。ブランケットや第一壁、ダイバータ、容器内コイル、各種診断・加熱機器のプラズマ側部分、さらにそれらを遠隔で点検・交換するための装置までを含み、プラズマの閉じ込めと制御、熱の回収、機器の保全という装置運転の中核機能を担う。プラズマから最も近い位置にあるため、高熱負荷・高放射線環境・真空という、装置の他の部分よりはるかに過酷な条件にさらされる点がこの分野を特徴づけている。

fig.1 Research and development of copper joint for ITER In-Vessel Coils (2023) · CC BY 4.0
ITER In-Vessel Coils system overview.
図は、ITER で計画されている容器内コイル系統の全体構成を示したものである。プラズマの垂直位置を制御するための VS コイル、エッジ局在モード(ELM)を抑制するための各セクター 3 個の ELM コイルが、ブランケット裏側の環状配置で設置され、容器外の電源につながるフィーダが容器貫通部を通って引き回されている。容器内機器が単一の部品ではなく、プラズマ制御・熱回収・診断の機能が絡み合った系統群であることが分かる。
容器内機器が直面する環境
容器内機器を理解する鍵は、それが置かれた環境の特殊性にある。第一に熱負荷である。核融合出力の大部分は第一壁とダイバータに流入し、特にダイバータのターゲット板では通常運転でも数 MW/m²、付加加熱を考えれば 10 MW/m² を超える熱流束が局所的に生じる。これは実用的な水冷構造で連続的に除去できる限界に近く、ダイバータ設計の中心的な制約条件となっている。第二に中性子による放射線損傷と核発熱である。容器内の機器は高エネルギー中性子を直接受けるため、材料は照射脆化や膨張に耐える必要があり、電気絶縁材やセンサも照射下で特性が変化しないことが求められる。例えば容器内コイルの周囲では、放射線による発熱密度が数 W/cm³ に達し、絶縁材の選定は設計上の重要課題となる。第三に異常事象である。プラズマの垂直位置が制御を失って容器壁に衝突する垂直変位イベント(VDE)やディスラプションでは、電磁力による大きな構造荷重と、第一壁装甲の局所的な溶融が生じうる。容器内機器はこうした事象後も閉じ込め機能を維持するよう設計されねばならず、正常時・異常時の多様な荷重条件に対して構造応力が許容値内に収まることを確認することが設計審査の基本となっている。
さらに、いったん運転が始まると容器内は強い放射線環境となり、人の立ち入りは不可能になる。このため容器内機器は、設計段階から遠隔保守を前提とした構造、すなわちホットセルでの交換を想定したモジュール構成を採ることが原則となる。
真空容器・ブランケット・第一壁
真空容器は一次閉じ込め境界であり、容器内機器の中で最も基本的な構造要素である。ITER の設計では、二枚のトロイダル殻をリブで結んだ二重壁構造が採られ、壁間の空間には水冷された遮蔽板が充填される。二重壁とすることで、真空の保持と中性子の遮蔽を一つの構造で兼ねることができ、容器全体の厚さは数十 cm に及ぶ。容器は地震や VDE による変位、想定される内圧上昇に対しても構造完全性を保つよう設計されており、容器とトロイダル場コイル構造物を結ぶ支持部には、熱変形や電磁力による差動変位を吸収する機構が組み込まれている。
ブランケットは、第一壁の直後にあって中性子を遮蔽し、その熱を回収する機器群である。ITER の初期設計では約 700 個のモジュールからなり、各モジュールは数トンの重量を持つ。プラズマに面する第一壁は、ベリリウムのタイルを銅製の熱シンクに接合し、さらに水冷されたステンレス鋼の遮蔽ブロックに載せた多層構造をとる。銅層は熱をタイルから冷却水管へ伝える役割を果たし、この異種材料の接合技術がそのまま熱除去性能を左右する。モジュールはトロイダルな背板に機械的に固定され、ディスラプション時の電磁力は背板のフープ応力や支持構造を通じて容器へ伝えられる。温度分布による差動変位を吸収するため、モジュールと背板の間には可撓性の接続機構が用いられる。
将来の発電炉では、ブランケットは遮蔽機能に加えてリチウムとの核反応でトリチウムを増殖する役割を担う。固体増殖材を用いた増殖ブランケットでは、トリチウム増殖比が 0.8 程度となる設計が示されており、外部からのトリチウム供給と併せて炉の燃料自給を成立させる考え方である。増殖ブランケットは遮蔽ブランケットと同じ寸法枠内で交換できるよう設計されており、段階的な機器更新が可能になっている。
ダイバータと高熱流束機器
ダイバータは、プラズマの端部から逃げる熱と不純物を受ける、容器内で最も過酷な熱負荷を受ける機器である。従来型の高再循環運転ではターゲット板への熱流束が実用可能な冷却性能の数倍に達するため、現代のダイバータ設計はプラズマをターゲット板から離脱させる運転を前提としている。分離線近傍の密度を高めてプラズマを半離脱状態にすると、熱の大部分はダイバータチャネル内や X 点近傍で放射され、ターゲット板へのピーク熱流束は 30 MW/m² 以上から 5 MW/m² 程度まで低減できる。ただし ELM やディスラプションがこの放射層を突き破って装甲を侵食する可能性は残り、侵食寿命は依然として主要な設計懸念である。
ターゲット板そのものは高熱流束(HHF)機器と呼ばれ、水冷の銅製熱シンクに炭素繊維複合材(CFC)やタングステンのタイルを接合した構造をとる。異種材料接合の研究開発により、20 MW/m² 級の熱除去が試験で達成されており、これが半離脱運転との組み合わせで設計の成立性を支えている。第一壁にベリリウムを用いる一方、電荷交換中性子の流入が強い領域ではタングステンを選択的に使う考え方も検討されてきた。
ITER のダイバータは 60 個のカセットを容器底部のトロイダルレールに固定する構造で、高熱流束機器はカセットに機械的に取り付けられ、ホットセルでの交換を前提としている。カセット方式は遠隔操作での着脱に適した構成として選ばれたものである。なお、運転中のダイバータ領域からは大量のガスが排出されるため、容器内にクライオポンプ(極低温ポンプ)を設置して真空を維持する装置も容器内機器に含まれ、ダイバータの更新に合わせて新設・改良が行われることがある。
容器内コイルと磁気制御機器
プラズマの位置制御や MHD 安定化のために、真空容器の内側にコイルを設置する方式が大型トカマクで標準的になっている。容器内コイル(In-Vessel Coils)は、ブランケット遮蔽モジュールの裏側に設置され、垂直位置の安定化を担うコイルと、ELM を抑制するコイルから構成される。容器の外に置いたコイルに比べてプラズマに近いため小さな電流で大きな効果が得られる一方、容器内環境に耐えることが最大の課題である。
このため容器内コイルには、銅導体の周囲を酸化マグネシウムなどの無機絶縁材で被覆し、さらにステンレス鋼の外鞘で覆ったミネラル絶縁導体が用いられる。有機絶縁材は放射線下で劣化するためであり、この構造は冷却水の封じ込め、電気的導通、絶縁、真空密着性と構造連続性を一つの導体で同時に満たすものである。導体は運転中に高温に達し、定常および過渡的な磁場による電磁力にも耐えねばならない。コイルの製作上の難所は接続部にある。コイル、フィーダ、貫通端子を結ぶ接続部は数百箇所に及び、それらはブランケット設置後にはアクセスできなくなるため、容器内での現地施工が要求される。施工空間は導体表面から周囲まで数十 mm しかなく、限られた空間で銅の溶接を行い、しかも近接する機器の温度を許容値以下に保つよう入熱を抑えなければならない。このため溶接品質は高規格の認定試験に合格することが求められ、一度で良品を仕上げる技術開発が進められている。

fig.2 Research and development of copper joint for ITER In-Vessel Coils (2023) · CC BY 4.0
ITER IVC mineral insulated conductor.
図は、このミネラル絶縁導体の断面構造を示したものである。内側の水冷銅管、その周囲の MgO 絶縁層、最外殻のステンレス鋼(SS 316LN)外鞘の三層構造が見て取れる。
容器内コイルの用途は安定化に限らない。RWM(回転する抵抗性壁モード)のフィードバック安定化や、残留磁場誤差の補正を目的としたコイルが各装置で開発されており、サドル型コイルの設計・応力解析や、コイルの絶縁ブレーク、銅接合部の認定試験など、個々の要素技術の確立が次世代装置の設計を支えている。また、容器内の磁気センサ(磁気プローブ等)も容器内機器であり、その支持構造や、センサ素子の放射線照射試験による特性確認が進められている。
遠隔保守・点検と安全
容器内機器は運転中に人が近づけないため、その保全はすべて遠隔で行う。この前提が設計の最初から最後まで貫かれており、ブランケットモジュールやダイバータカセットはホットセルでの交換を想定した取り付け構造を持つ。ブランケットやマニホールド、遮蔽リングを容器内に吊り下げ・固定するための取付機構、あるいは機器を容器内で搬送するトロイダル搬送装置の概念設計など、遠隔交換を支える機構自体が独立した研究開発領域となっている。
運転中および停止後の容器内の状態を把握するため、レーザーを用いた容器内視認システム(In-Vessel Viewing System)が開発されている。これはレーザー光の走査により容器内面の三次元形状を計測し、第一壁やダイバータの損傷・侵食を遠隔で検査する装置であり、その制御・データ収集系や可視化ソフトウェアの統合も含めて一つのシステムとして設計される。小型トカマクでは、ポートを通して挿入する小型の点検装置による容器内観察も行われている。さらに、容器内面の熱イベント(ホットスポット)を赤外画像から自動的に検出・追跡・分類する深層学習ベースの手法が提案されるなど、機器の状態監視にも機械学習が導入されつつある。
安全の観点では、冷却材喪失事故(LOCA)をはじめとする容器内事故シーケンスの評価が次世代炉の設計で行われている。ブランケット内の冷却水が失われた場合の熱的挙動や放射性物質の閉じ込めを解析し、事故シーケンスのリスクを順位付けることで、設計上優先すべき対策を特定する。また、容器内機器の材料・構造そのものも安全に関わる。例えばステンレス鋼への厚い銅クラッドの形成技術は、容器内機器の熱除去構造や核融合炉周辺の機器への適用を目的としたものである。このように容器内機器の設計は、熱除去・磁気制御・遠隔保全・安全という四つの要求を一つの閉じた空間内で同時に満たすことを目指しており、ITER の建設と DEMO の設計が進む中で、その要素技術の確立が核融合開発の実用化を左右する重要な分野となっている。
この解説が根拠にした論文から
- ITER in-vessel system design and performanceNuclear Fusion 2000
- Research and development of copper joint for ITER In-Vessel CoilsNuclear Fusion 2023
- Progress in the design of in-vessel components for ITERFusion Engineering and Design 1995
- Design and issues of the ITER in-vessel components: ITER Joint Central Team and Home TeamsFusion Engineering and Design 1998
- Summary of the 29th IAEA Fusion Energy Conference under the topics materials, in-vessel components, next-step machines, and licensing and safety and socio-economic and environmentNuclear Fusion 2025
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推移
研究の変遷
1985–19942本 · 0.04%
初期の安全評価とコイル制御
この時代の論文は、次段階トカマクにおける容器内事故シーケンスのリスク評価と、核融合炉における容器内コイルによるセパラトリックス掃引を扱っていた。いずれも設計初期の概念検討であり、実験装置よりは将来装置を見据えたものである。
この時代の論文から
- Risk evaluation of critical in-vessel accident sequences for a next step tokamak machineFusion Engineering and Design 1991
- Separatrix sweeping by in-vessel coils on a fusion reactorFusion Engineering and Design 1992
1995–200433本 · 0.33%
ITER設計と安全性検討
この時代はITER建設に向けた容器内機器の設計と性能評価が中心であり、真空容器や動力炉、プラズマ擾乱、冷却材喪失事故などと関連して論じられた。設計基準の整備と統合圧力抑制システムの実験的検証が行われ、JETやDIII-D、ASDEX Upgradeといった既存装置と比較しつつ、主としてITERを対象とした設計改良が報告されている。
同時に語られた主題真空容器、核融合発電所、垂直変位、遠隔保守、プラズマディスラプション、冷却材喪失事故
この時代の論文から
- Design improvements and R&D achievements for vacuum vessel and in-vessel components towards ITER constructionNuclear Fusion 2003
- ITER in-vessel system design and performanceNuclear Fusion 2000
- Experimental verification of effectiveness of integrated pressure suppression systems in fusion reactors during in-vessel loss of coolant eventsNuclear Fusion 2001
- Design standard issues for ITER in-vessel componentsFusion Engineering and Design 1995
2005–201476本 · 0.49%
ELM抑制とプラズマ壁相互作用
この時代は、非軸対称ELM抑制コイルや能動容器内サドルコイルによるELM緩和が重要なテーマとなり、ASDEX UpgradeやKSTAR、EASTといった装置での実験結果が報告された。また、容器内光学系の堆積防止・洗浄技術、プラズマ壁相互作用による表面層の進化、熱酸化処理の効果など、材料・診断と結びついた研究が増えている。
同時に語られた主題周辺局在モード、トリチウム、プラズマ診断、電磁流体力学、真空容器、プラズマ対向機器
この時代の論文から
- Study of in-vessel nonaxisymmetric ELM suppression coil concepts for ITERNuclear Fusion 2008
- High-density H-mode operation by pellet injection and ELM mitigation with the new active in-vessel saddle coils in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2012
- Progress in the development of deposition prevention and cleaning techniques of in-vessel optics in ITERNuclear Fusion 2009
- The effect of thermo-oxidation on plasma performance and in-vessel components in DIII-DNuclear Fusion 2013
2015–2026154本 · 0.62%
多様な応用と較正・安全解析
この時代は、冷却材喪失事故の解析や反射計、プラズマ位置制御、タングステン材料、遠隔保守など、多岐にわたるテーマが扱われた。ITER関連が中心であるが、JETやEAST、ASDEX Upgrade、JT-60SAなど複数の装置での中性子検出器の較正やベリリウム液滴の挙動、燃焼制御といった実験・解析が報告され、機能性材料や加熱装置のアップグレードも対象となっている。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題冷却材喪失事故、リフレクトメトリー、プラズマ位置、プラズマ診断、タングステン、トリチウム
この時代の論文から
- Functional materials for tokamak in-vessel systems—status and developmentsNuclear Fusion 2017
- TCV heating and in-vessel upgrades for addressing DEMO physics issuesNuclear Fusion 2015
- 14 MeV calibration of JET neutron detectors—phase 2: in-vessel calibrationNuclear Fusion 2018
- Survival and in-vessel redistribution of beryllium droplets after ITER disruptionsNuclear Fusion 2018
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(In-vessel components、in-vessel など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文53本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、5本の論文(うち全文2本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
