Wiki / 現象 周辺局在モード Edge localized mode
周辺局在モード (Edge localized mode、ELM、ELMs)は、核融合・プラズマ物理学の現象。トカマクのHモードプラズマ周辺部に発生するMHD不安定性で、ペデスタルに蓄積されたエネルギー・粒子を周期的に放出する現象である。ELMと略され、間欠的な熱・粒子損失によりダイバータへの過大な熱負荷をもたらすため、ITERなどの核融合炉では抑制・緩和が課題となる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは896本ある。比重が最も大きかったのは2010–2014年で、その期間の論文の2.13%を占めた。直近の2025–2029年では1.35%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 周辺局在モード(edge localized mode, ELM)とは、高閉じ込めモード(Hモード )プラズマの端部で周期的に発生する磁気流体力学(MHD )不安定であり、ペデスタル と呼ばれる端部の高圧力層に蓄積したエネルギーと粒子を断続的に外部へ放出する現象である。HモードはITER が基本運転方式とする優れた閉じ込め状態だが、その本質的な帰結としてペデスタルが形成され、大型装置ではこの放出が耐熱材料の限界を超えうるため、ELMの制御・緩和・抑制は現代トカマク研究の中心課題の一つとなっている。
ELMとHモード・ペデスタル
Hモード は1982年にASDEX トカマクで発見された。入熱出力がある閾値を超えると、プラズマ端に輸送障壁 が形成され、温度・密度の急峻な勾配を持つペデスタル が生じる。この端部圧力の高い層がコアの閉じ込め性能向上を担うが、同時に自由エネルギーの源でもあり、勾配が臨界を超えるとELMとして崩壊する。ELMを伴うHモードはELMy Hモード と呼ばれ、標準的なHモードの姿とされている。
ELM放出の様子は、端部から放出される光の強度変化として直接観測できる。
fig.5 (2023) ·
(a) Time history of VUVI emission intensity in an ELM crash, and (b)–(g) experimental image of filamentary structures captured by the VUVI system after subtraction.
図は、ELMクラッシュ時の真空紫外域発光強度の時間変化(上)と、その前後に撮影されたフィラメント状構造の画像(下)である。発光強度が数ミリ秒のうちに急増大して崩壊し、画像には磁力線に沿って伸びるフィラメントの縞模様が、クラッシュの進行とともにその間隔(モード間隔)と傾きを変えながら現れている。
ELMのエネルギー放出は、全蓄積エネルギーの数%から十数%に及ぶことがあり、大型装置では1回のELMがダイバータ のターゲットプレートに許容限界を超える熱負荷 を与える。このため、ELMの物理理解は単なる学術的関心を超え、炉設計の前提条件となっている。
ピーリング・バルーニング安定性とELMサイクル
type-I ELMの発生機構は、理想MHD のピーリング・バルーニングモード (peeling–ballooning mode, PBM)によって定量的に説明されている。バルーニングモードは端部の急峻な圧力勾配と磁場曲率によって駆動され、プラズマ外側(悪い曲率側)で振幅が最大になる。一方、ピーリングモードはペデスタル のエッジ電流によって駆動される低いトロイダルモード数(n)のキンク的な不安定である。この両者が結合したピーリング・バルーニングモードが、圧力勾配とエッジ電流の増大に対する安定性境界を定める。
ELMサイクルは次のように進行する。ペデスタルの圧力勾配とエッジ電流(主にブートストラップ電流 )が時間とともに増大し、安定性境界に達するとPBMが爆発的に成長してELMクラッシュが起こる。クラッシュはペデスタルを一気に弛緩させ、圧力勾配と電流を境界内の値まで下げる。その後、加熱と輸送によって再びペデスタルが成長し、次のELMまでの準周期が繰り返される。このサイクルの時間スケールは、放出過程自体が0.5〜3ミリ秒程度であるのに対し、ELM間の待ち時間は加熱出力やペデスタル輸送に依存して数十ミリ秒からそれ以上の範囲で変化する。
この安定性描像はELITEやMISHKAなどの線形MHD安定性 コードを用いた検証研究によって実験と定量的に比較され、ELM発生とペデスタル高さの予測モデル(EPEDモデル)へと発展した。安定性図は、規格化圧力勾配を横軸、エッジ電流密度を縦軸とした平面上に、安定領域と不安定領域を分ける境界として描かれる。
図は、このペデスタル安定性図の模式図であり、(a) にはtype-I ELMy Hモード の典型的な運転点(黄色の星)が境界近くの高圧力勾配・高電流側に、QHモード (緑)やIモード (マゼンタ)の運転点が安定領域内に、(b) にはtype-II ELM(シアン)やグラッシーELM(オレンジ)の運転点が示されている。プラズマ形状の制御(図中の矢印)が境界を押し広げ、type-I ELMを回避しながら高いペデスタルを許す仕組みが読み取れる。
クラッシュの非線形位相では、不安定モードは磁力線に沿ったフィラメント構造へと発達し、ペデスタル物質を刮起して刮起層(SOL )を経てダイバータ へ運ぶ。非線形MHD シミュレーション(JOREK、BOUT ++、NIMRODなど)は、このクラッシュ動力学、抵抗性やプラズマ流 の役割、繰り返しELMサイクルの再現へと進んでいる。
ELMの分類とエネルギー損失
ELMはその振る舞いによって型に分類される。type-I ELMは最も大きく、ペデスタル がピーリング・バルーニング限界に達したときに起こる準周期的な崩壊であり、最も深刻な問題となる。type-III ELMはより低いペデスタル温度で発生する小規模で高頻度のELMであり、type-II ELMやグラッシーELMはtype-Iよりはるかに小さく、ペデスタルを大きく損なわずに継続的な輸送を提供する。これらの小ELMは、後に準連続排気(QCE)レジームとして再分類されるなど、その実体はフィラメント輸送の増強として理解されつつある。
エネルギー損失の観点では、type-I ELMは全蓄積エネルギーの5〜15%、条件によっては最大30%を1回で放出しうる。放出はミリ秒以下の短時間に集中するため、瞬間熱負荷 が問題となる。一方、同じ平均的な排出率でもELMの頻度を上げれば1回あたりの損失は減る。この単純な関係が、後述のペレット・ペーシングによるELM制御 の原理である。ELM放出物は刮起層を通ってダイバータ に非対称に流入し、内側・外側ターゲットの負荷の不均衡も炉設計上の考慮点となる。
自然なELMフリーレジーム
能動制御によらず、運転条件の選択だけで大型ELMを回避するHモード 変種が複数存在する。QHモード(quiescent H-mode)は、端部回転の制御によってペデスタル をピーリング・バルーニング限界の下に保つレジームであり、観測される端部高調波振動(EHO)は飽和したキンク・ピーリングモードとして理解されており、この振動が継続的な輸送を駆動して定常的な端部状態を実現する。Iモード はエネルギー閉じ込め は高いが粒子閉じ込めは低いレジームで、ペデスタル圧力勾配がELM限界に達しない。EDA Hモードは準波動的な端部振動による継続輸送でELMを回避する。
これらのレジームは、安定性図上ではtype-I ELMy運転点から安定領域側へ移動した点として位置づけられる(前節の図参照)。ただし、それぞれが成立する運転窓は狭く、壁材の変更(例えばタングステン 化)によってアクセスが失われる例もあり、ITER 以降の装置への外挿可能性の評価が現在の研究課題となっている。非線形MHD シミュレーションによるこれらのレジームの第一原理的理解の構築が進められている。
能動ELM制御:RMP、ペレット・ペーシング
能動制御の主役は共鳴磁気摂動(resonant magnetic perturbation , RMP)である。外部コイルで非軸対称な三次元磁場を意図的に印加すると、ペデスタル に追加輸送が誘起され、密度ポンプアウトと呼ばれる粒子排出とともにペデスタル圧力勾配がELM発生閾値以下に保たれる。適切に制御すればELMの完全抑制が達成され、ITER では専用の三次元コイル列が設計に組み込まれている。抑制に必要な摂動振幅が抑制の維持に必要な振幅より大きいというヒステリシスを利用し、リアルタイムフィードバックで最小限の振幅を保つ制御系の開発が進んでいる。コイルのトロイダルモード数(n)の選択も重要で、短波長の摂動はコアへの影響が小さい一方、減衰が速いため炉側ではコイル配置との兼ね合いが課題となる。
図は、RMP用三次元コイルの配置例として、KSTAR の3行×4個の炉内コイル(左)とDIII-D の2行×6個のコイル(右)を示し、下段には各コイル電流位相に対応するプラズマ表面での法線磁場分布が描かれている。コイル電流の振幅と位相の自由度が、抑制窓の最適化に直接結びつくことがわかる。
もう一つの制御法はペレット・ペーシングである。小型の固体ペレット(水素やリチウム など)を注入すると、その局所的な密度擾乱がELMを意図的に誘発する。前述の通り、一定の排出率をより高頻度の小さなELMに分散でき、1回あたりの熱負荷 を下げられる。RMPやペレットに加え、垂直キックや超音速分子ビーム注入もELM誘発の手段として研究されている。これらの制御手法はペデスタル物理を非軸対称配置へと拡張するものであり、MHD ・ジャイロ運動論 ・新古典輸送 の統合的モデリングが、将来装置でのELM制御 シナリオ予測の基盤となっている。
周辺局在モード(Edge localized mode)の研究史 — FusionPapers