キンクモード(Kink mode、kink modes)は、核融合・プラズマ物理学の現象。磁力線に沿った電流を持つプラズマ柱が、らせん状に変位して成長するMHD不安定性。トカマクでは内部キンクモード(m=n=1)と外部キンクモードに大別され、理想MHDから抵抗性MHDまで多様なモデルで扱われる。プラズマの閉じ込め劣化やディスラプション、鋸歯状振動と深く関わる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは88本ある。比重が最も大きかったのは1975–1979年で、その期間の論文の0.47%を占めた。直近の2025–2029年では0.15%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
キンクモード(kink mode)とは、磁場で閉じ込められたプラズマ柱が、その柱を貫く電流自身が作る磁場によって柱の軸から外へ「たわむ」ように変位する磁気流体力学(MHD)不安定モードである。柱を曲げると電流の作る磁気圧の分布が非対称になり、曲がりをさらに増長する向きの力が働くため、電流がある臨界値を超えると変位は指数関数的に成長する。トカマクでは断面内のモード番号 m と周方向のモード番号 n で分類され、特に m/n = 1/1 の内部キンクモードと、プラズマ表面を変位させる外部キンクモードが、性能限界や放電破壊に直結する最重要の長波長MHD不安定性として研究されてきた。

fig.14 Equivalent rotational control of coupled tearing-kink modes through magnetic and simple tomographic tracking (2026) · CC BY 4.0
Edge kink shape and control coil radial fields2 during decelerating feedback. The mode rotates counterclockwise.
図は、壁で安定化された回転するエッジキンクモードに対して制御コイルが作る半径方向磁場の位相分布を示したもので、プラズマ断面の外周に沿って m = 1 の変位の空間形状が描かれている。このようにキンクモードはプラズマ柱全体がらせん状にずれる変位モードであり、その変位の位相が時間とともに回転するのが普通である。
内部キンクモードと鋸歯状振動
トカマクの中心部では、安全係数 q(磁力線が一周する間に周回する回数の逆数に相当する量)が 1 を下回ると m/n = 1/1 のキンクモードが不安定になる。中心電流が増えて q = 1 面が形成されると、コアのプラズマが螺旋状に変位し、磁気面がつながり合って再結合が起きる。この再結合によって中心の温度と電流分布が急速に平坦化されるのが鋸歯状振動(sawtooth oscillation)であり、キンクモードの非線形発展がその物理的実体である。カドムツェフ(Kadomtsev)による古典モデルでは、q = 1 面の内側と外側の磁気面が完全に再結合して電流分布が平坦化されるとされ、初期の小型トカマクの観測と整合した。
しかし現代の大型トカマクでは、プラズマの抵抗が極めて小さい(ルンドクイスト数が 10^8 を超える)ため、このモデルでは説明できない観測事実が知られている。クラッシュの時間スケールがモデルの予測よりはるかに速いこと、再結合がしばしば不完全に終わることである。低抵抗プラズマでは再結合層が極端に薄くなり、二次的なテアリング不安定性(プラズモイド不安定性)が発生して再結合が加速される。また電子・イオンの反磁性ドリフトという二流体効果が効くと、キンクモードの線形成長率が下がって不安定化の閾値が上がり、鋸歯状振動は「トリガーの問題」として扱われるようになる。さらに反磁性ドリフトはモードを極方向に回転させるため、大きな二次島が形成される場合の非線形ダイナミクスも単一流体モデルとは大きく変わる。数値シミュレーションでは、粘性の大きさに応じて、カドムツェフ型の周期的鋸歯振動、脈動する m/n = 1/1 磁気島、定常的な磁気島という異なる非線形状態への遷移が示されており、脈動・定常の状態は部分鋸歯や「スネーク」と呼ばれる観測現象の解釈に関係すると考えられている。再結合層の幅を決める物理も、高温プラズマでは半衝突的な電子ダイナミクスやイオン軌道効果を通じて精緻化されており、鋸歯クラッシュのトリガー条件は Δ'(テアリング安定性パラメータ)とベータ値の平面上で整理される。
外部キンクモード、ベータ限界と壁安定化
プラズマ表面を変位させる外部キンクモードは、プラズマの圧力(ベータ値)と電流が高い領域で不安定化し、運転可能な性能の上限を直接決める。プラズマを囲む導体壁は、変位に伴う磁場の変化を渦電流として妨げることでモードを安定化する方向に働くが、壁の電気伝導は有限であり、壁が理想導体の位置より遠くにあると、理想壁では安定でも壁の拡散時間より遅い成長率で不安定になる抵抗壁モード(RWM)が現れる。このため壁安定化されたキンクモードの安定性は、壁の位置とプラズマ・壁間の結合の強さに依存する。JET の高ベータ放電では、プラズマ縁近くに局在する摂動「アウターモード」が、軟X線観測のモード構造と理想 MHD の n = 1 外部キンクモードの予測との一致によって外部キンクモードと同定され、縁が理想外部キンクの安定境界近くにあることが示された。また非線形に飽和した外部キンクモードはプラズマ柱を一様に横に押しやる方向の力を生み、破壊時の装置への横方向荷重の起源の一つとされる。
高エネルギー粒子駆動のキンクモードとフィッシュボーン
中性子ビーム入射や高周波加熱で作られる高エネルギー粒子は、キンクモードに対して安定化と不安定化の両方の効果を持ちうる。m/n = 1/1 内部キンクモードに対しては、高エネルギー粒子の存在が安定窓を作りうることが理論的に示されており、これが一部の実験で鋸歯振動が抑制される理由の説明となる。一方、高エネルギー粒子のドリフト運動がモードにエネルギーを供給するのがフィッシュボーン不安定性である。フィッシュボーンの周波数は粒子のドリフト周波数に結び付くため、通常の抵抗的キンクモードより高い周波数で振動し、粒子を断続的に排出しながらプラズマを安定側へ戻す。 捕捉(trapped)粒子の旋回ドリフトが駆動する非共鳴的な外部キンク型の不安定性も、理想壁条件下でも起こりうることが数値的に示されており、この場合も周波数は高エネルギー粒子のドリフト周波数に結び付き、成長率は壁の抵抗にほとんど依存しない。熱イオンの通過粒子による共鳴はむしろ安定化に働く。これらの粒子駆動モードは抵抗壁モードと共存あるいは結合しうる。実験面では、EAST における高ベータ H モード放電で、飽和した m/n = 1/1 キンクモードが高速電子を再配分して中心安全係数を平坦化し、内部輸送障壁の長時間維持に寄与する「フラックスポンピング」的な役割を果たすことが観測されている。このモードによる電子温度摂動は中心部で約 10 % に達する。
キンクモードのフィードバック制御
抵抗壁モードとして成長が遅くなったキンクモードは、成長時間内に能動制御が可能になる。制御では、プラズマ表面近くに置いたコイルでモードの位相に応じた磁場を作り、変位を打ち消す。鍵となるのは回転するモードの瞬時の位相を正確に追跡し、摂動磁場に正しい位相差を与えることであり、制御アルゴリズムはモードの回転周波数(数 kHz 程度)に追従できる帯域を持つ必要がある。実験的には、フェライト鋼壁の挿入や壁の後退によるプラズマ・壁結合の弱化が起こると同じ抑制レベルを得るのに必要な制御利得が増すこと、内部のバイアス電極でモードの回転を遅くしても広い帯域で抑制が達成されることが示されている。また、2/1 テアリングモードと縁の 3/1 キンクモードがトロイダル結合した系では、磁気プローブの代わりに光学診断のトモグラフィー再構成からモード位相を求めて制御できることが示されており、燃焼プラズマ環境では磁気プローブの設置が困難であることを考えると、このような非磁気診断に基づく制御は炉を念頭に置いた重要な方向である。制御の目的はモード振幅の抑制を通じて放電破壊の開始を遅らせることにある。
この解説が根拠にした論文から
- Identification of external kink modes in JETNuclear Fusion 1998
- Effect of energetic trapped particles on the 'ideal' internal kink modeNuclear Fusion 1989
- Excitation of external kink mode by trapped energetic particlesNuclear Fusion 2016
- Linear and nonlinear simulations of the visco-resistive internal kink mode using the M3D codeNuclear Fusion 2018
- Unified theory of the semi-collisional tearing mode and internal kink mode in a hot tokamak: implications for sawtooth modellingPlasma Physics and Controlled Fusion 2012
- Improved feedback control of wall stabilized kink modes with different plasma–wall couplings and mode rotationPlasma Physics and Controlled Fusion 2016
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推移
研究の変遷
1970–19848本 · 0.32%
非線形飽和と第二安定領域の探究
この時代の論文は内部キンクモードの非線形飽和や第二安定領域、電流分布の影響を扱い、トカマクやz-pinch、イオンリングといった配位での線形・非線形安定性解析が中心である。関連語として内部キンクモードや電流分布が並び、トカマク以外の配位も見られる。
この時代の論文から
- Non-linear saturation of the internal kink modeNuclear Fusion 1980
- Second stability region against the internal kink mode in a tokamakNuclear Fusion 1982
- Influence of the current profile on the growth rate of m = 1 kink modes in a pure z-pinchNuclear Fusion 1984
- Kink mode stability of strong ion ringsNuclear Fusion 1977
1985–199416本 · 0.29%
高エネルギー粒子とリコネクションへの展開
この時代は高エネルギー粒子閉じ込め粒子と内部キンクモードの相互作用が主要テーマとなり、qプロファイル平坦化や抵抗性キンクから磁気リコネクションへの遷移、有限ベータ効果が調べられた。関連語では内部キンクモードが突出し、逆転磁場ピンチやELMなど他の現象と併置される。
同時に語られた主題内部キンクモード、逆磁場ピンチ、ピンチプラズマ、磁気リコネクション、ラーモア半径、周辺局在モード
この時代の論文から
- Effect of energetic trapped particles on the 'ideal' internal kink modeNuclear Fusion 1989
- Stability of internal kink modes with energetic trapped particlesNuclear Fusion 1991
- Numerical simulations of ideal internal kink modes with flat central q-profileNuclear Fusion 1988
- Transition from a resistive kink mode to Kadomtsev reconnectionNuclear Fusion 1991
1995–20048本 · 0.08%
装置特定の解析と低下する占有率
この時代は論文数・占有率ともに低下するが、JETにおける外部キンクモード同定や、中性粒子ビーム入射を意識した異方性流体内の内部キンクモード、アスペクト比依存性など、装置・配位を特定した解析が目立つ。
同時に語られた主題内部キンクモード、断面積、三角形度、プラズマ回転、中性ビーム、電流分布
この時代の論文から
- Identification of external kink modes in JETNuclear Fusion 1998
- Current profile flattening and hot core shift due to non-linear development of resistive kink modeNuclear Fusion 1995
- The internal kink mode in an anisotropic flowing plasma with application to modeling neutral beam injected sawtoothing dischargesPhysics of Plasmas 2003
- Aspect ratio dependence of the ideal internal kink mode stability in a toroidal plasma with circular cross sectionPhysics of Plasmas 2004
2005–201423本 · 0.15%
高ベータ装置とフィードバック制御の時代
占有率が上昇し、高ベータ装置NSTXやEAST、HL-2Aでの実験とモデリングが登場する。内部キンクモードが主要な関連語であり、抵抗性壁やフィードバック制御、高エネルギー電子による不安定化、プラズマ回転の効果などが扱われる。
同時に語られた主題内部キンクモード、鋸歯状振動、テアリングモード、安全係数、プラズマディスラプション、電磁流体力学
この時代の論文から
- Internal kink mode dynamics in high-β NSTX plasmasNuclear Fusion 2005
- Destabilization of the internal kink mode by energetic electrons on the HL-2A tokamakNuclear Fusion 2009
- Effect of the resistive wall on the growth rate of weakly unstable external kink mode in general 3D configurationsNuclear Fusion 2005
- Experiments and modelling of external kink mode control using modular internal feedback coilsNuclear Fusion 2007
2015–202633本 · 0.13%
ディスラプションと高エネルギー粒子励起の並存
この時代は論文数が最多となるがシェアは横ばいで、プラズマディスラプションや逃走電子、タングステンといった装置工学的・安全性的話題と関連する。高エネルギー粒子励起の内部・外部キンクモード、M3Dコードによる粘性抵抗性内部キンクの線形・非線形シミュレーションが行われている。
同時に語られた主題内部キンクモード、プラズマディスラプション、テアリングモード、逃走電子、プラズマ流、電磁流体力学
この時代の論文から
- Resonant and non-resonant internal kink modes excited by the energetic electrons on HL-2A tokamakNuclear Fusion 2017
- Three dimensional boundary displacement due to stable ideal kink modes excited by external n = 2 magnetic perturbationsNuclear Fusion 2017
- Reduced fluid simulation of runaway electron generation in the presence of resistive kink modesNuclear Fusion 2017
- Excitation of external kink mode by trapped energetic particlesNuclear Fusion 2016
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Kink mode、kink modes など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文56本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、9本の論文(うち全文3本)と1枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
