渦電流(Eddy current、eddy currents)は、核融合・プラズマ物理学の現象。プラズマを取り巻く導体構造物に磁束の時間変化によって誘起される電流であり、真空容器や受動構造体を流れる。プラズマの位置・形状制御や壁安定化、熱負荷評価に強く影響し、核融合装置の設計・運転にはその三次元的な分布の正確な評価が不可欠である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは51本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.16%を占めた。直近の2025–2029年では0.08%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
渦電流とは、導体を貫く磁束が時間的に変化するとき、電磁誘導の法則に従って導体内部に誘導される閉じた環状の電流のことである。誘導加熱や金属探傷など広く産業的に利用される現象だが、核融合研究においては特に重要な意味を持つ。トカマクやステラレータなどの磁気閉じ込め装置は、プラズマ電流や外部コイルが作る強い磁場の中に、真空容器やシールドブロック、支持構造物といった巨大な導体を配置するからであり、これらの構造物に流れる渦電流は、装置の運転そのものと安全設計の両方を左右する要素となる。
基礎物理と表皮効果
渦電流の起源はファラデーの電磁誘導則にある。導体を貫く磁束が変化すれば、導体内部に起電力が生じ、電気抵抗の低い経路に沿って電流が閉ループを描いて流れる。この電流はレンツの法則に従い、もとの磁場変化を打ち消す向きの二次磁場を作る。図に示すように、交流コイルが作る一次磁場がタングステン板に作用すると、板の表面には渦電流が誘導され、その渦電流が二次磁場を発生してコイルのインピーダンスを変化させる。この相互作用こそ、後述する渦電流探傷の原理である。

fig.3 Evaluation of 4-point probe and eddy current methods as plasma facing components erosion measurement methods (2026) · CC BY 4.0
(a) Schematic of the primary and secondary magnetic fields generated by the presence of a tungsten plate with alumina interlayer.
渦電流の強さと分布を決めるのは、導体の電気伝導率、磁場の変化速度、そして表皮効果である。交流磁場では電磁拡散のために電流が導体表面の薄い層に集中し、その深さ(表皮深さ)は周波数の平方根に反比例して減少する。つまり周波数が高いほど渦電流は表面近くに集中し、表面近くの情報に敏感な測定が可能になる。一方で、厚い導体を薄板近似して数値計算すると、この表皮効果による電流の集中を正しく表現できず、計算誤差の主要な原因となることが実験的に確認されている。表皮効果が無視できない場合には、導体を二重殻としてモデル化するなどの工夫が必要であり、狭い隙間を含む形状ではメッシュ寸法を隙間幅の数分の一以下に取るなど、離散化の精度が計算の信頼性を直接左右する。
融合装置における渦電流:受動導体と真空容器
磁気閉じ込め装置の周囲には、真空容器、二重殻構造の導体殻、クライオスタット、超伝導コイルの構造材など、多数の導体が存在する。プラズマ電流の立ち上げや平衡磁場コイルの急速な通電、そして異常終了(ディスラプション)時の急速な電流消滅は、これらの構造物に大きな渦電流を誘導する。誘導された渦電流は、構造物の幾何形状、特にトロイダル方向の切れ目(ギャップ)や非軸対称な支持構造の影響を強く受ける。軸対称な導体殻でも電流は軸対称に流れるが、分割された殻では電流がギャップを回り込む三次元的な経路を取り、長寿命で非軸対称な電流パターンが生じる。
渦電流は導体のL/R時定数で決まる時間スケールで減衰する。真空容器のような大型導体では、減衰時間は数十ミリ秒からそれ以上に及ぶことがあり、図は超伝導トカマクの真空容器を対象に数値計算で求めた、最も長寿命の電流パターンと、上下で逆向きに流れる反対称パターンを示したものである。両者で減衰時定数が異なるように、導体の幾何形状ごとに固有の電流モードとその減衰時間が存在し、装置の過渡応答はこれらのモードの重ね合わせとして理解される。パルス長がこの減衰時間より十分に長い定常運転では渦電流の影響は相対的に小さいが、立ち上げ・停止・ディスラプションといった過渡相では、渦電流が磁場計測やプラズマ制御に無視できない影響を与える。

fig.1 Design of passive and structural conductors for tokamaks using thin-wall eddy current modeling (2024) · CC BY 4.0
The structure and current decay time-scales of the longest lived (left) and top-down anti-symmetric (right) current patterns for the SPARC vacuum vessel as calculated by the ThinCurr code.
帰結:電磁力、発熱、ディスラプション荷重
渦電流がもたらす第一の問題は電磁力である。渦電流は外部磁場中でローレンツ力を受け、構造物に大きな荷重を与える。特にディスラプション時には、プラズマ電流が数ミリ秒から数十ミリ秒の間に消滅するため、真空容器や炉内機器に巨大な渦電流と電磁力が生じる。トロイダル方向の渦電流が非対称に分布すると、装置全体を横に押す「サイドフォース」が発生しうることが大型装置の解析で示されており、これは局所的な電流分布の非対称性に起因する。また、ディスラプション時にプラズマから導体壁へ直接つながるハロ電流が、渦電流と重なって局所的な力を増大させる場合もある。炉内遮蔽ブロックのような部品では、ディスラプション誘起の電磁力に対する機械的信頼性の評価が設計上の主要課題となっている。
第二の問題はジュール発熱である。渦電流が導体の抵抗で消費する電力は熱となり、超伝導コイルの構造材やコイルケースを加熱する。超伝導トカマクを想定した解析では、通常放電でもコイル構造に数メガジュール規模の渦電流による発熱が生じ、ディスラプション時にはその十倍程度に達しうると計算されている。超伝導マグネットは極低温に保たれて初めて機能するため、このような熱侵入はクエンチ(超伝導状態の喪失)のリスクとなり、実験運転を数日規模で中断させかねない。クライオスタットのような遠くの導体に流れる渦電流が作る垂直磁場も、プラズマの平衡制御に対して無視できない大きさになりうることが示されている。
一方で渦電流は必ずしも有害ではない。導体壁に誘導される渦電流は、キンク不安定などの磁気流体力学的不安定性の成長を遅らせる受動安定化の役割を果たす。分割された導体壁の渦電流による安定化効果は理想磁気流体理論と比較して検証されており、壁の導電率と配置が安定化性能を決める。また、ランナウェイ電子の閉じ込めを意図的に乱すためのコイルの応答性能も、周囲の導体に流れる渦電流による遮蔽効果に左右される。このように渦電流は、装置設計において制御すべき負荷であると同時に、利用すべき物理機構でもある。
数値モデリング
渦電流の予測には数値計算が不可欠であり、核融合分野では主に有限要素法に基づく電磁場解析が用いられる。課題は、トカマクの真空容器や炉内機器という複雑な三次元幾何形状において、広いスケール比(薄板、狭い隙間、巨大な導体)を扱うことにある。前述のとおり表皮効果の取り扱いとメッシュ解像度が計算精度を支配するため、薄板近似の適用限界を見極めるためのベンチマーク実験が行われ、密接に置かれた導体箱を用いた実験データが計算コードの検証に使われてきた。
近年では、薄壁近似に基づく三次元渦電流ソルバーが発展し、真空容器や導体殻の電流応答を効率よく計算できるようになった。この手法では導体を面要素で表現し、表面に流れる電流の固有モードをあらかじめ求めておくことで、任意の外部磁場変化に対する応答を高速に評価できる。図は、そのようなソルバーで構築された超伝導トカマクの三次元モデルを示したものであり、真空容器、極向き場コイル、中心ソレノイドが一体の電磁回路としてモデル化されている。この種のモデルは、ディスラプション時の電磁力評価や、ランナウェイ電子緩和コイルの設計、逆磁気流体平衡の初期化など、幅広い解析の基盤となる。

fig.7 Design of passive and structural conductors for tokamaks using thin-wall eddy current modeling (2024) · CC BY 4.0
Visualization of the ThinCurr model of SPARC including the vacuum vessel (purple), poloidal field coils (orange), and the central solenoid coils (blue).
軸対称性が破れた導体構造では、渦電流の分布そのものが三次元的になる。図は、分割された導体殻を持つ小型トカマクの殻に生じた三次元渦電流分布の計算例であり、矢印で表された電流が殻の表面をギャップを回り込みながら流れる様子が分かる。このような非軸対称電流は、磁気プローブやフラックスループの測定値を歪めるため、平衡再構成において明示的にモデル化する必要がある。

fig.9 Systematic analysis of magnetic equilibrium reconstruction with eddy currents on LTX-β (2025) · CC BY 4.0
Example of three-dimensional eddy current response computed using ThinCurr for the LTX-β shell geometry. The arrows indicate the eddy currents generated in the shell, and are scaled relative to the peak magnitude. This 3D response serves as a physics-informed current pattern used in the hybrid reconstruction workflow.
応用:平衡再構成と渦電流探傷
渦電流の知識は、プラズマの磁気平衡を測定から推定する「平衡再構成」にも直結する。トカマクの平衡解析は通常、軸対称性を仮定したグラド・シャフラノフ方程式の逆問題として解かれるが、分割導体殻を持つ装置では、殻の渦電流が作る非軸対称磁場が磁気診断の信号に混入し、再構成結果に系統的な誤差をもたらす。これに対処するため、主要な渦電流モードを固有モードとして明示的に平衡ソルバーに組み込む手法が開発され、実験データに対する検証が進んでいる。また、カルマンフィルタを用いて渦電流の状態をリアルタイムに推定し、平衡再構成コードに反映させる試みもなされており、渦電流効果の考慮は制御系設計にも及んでいる。パルス長が渦電流の減衰時間より長くない装置では、この考慮が再構成精度を左右する決定的な要素となる。
もう一つの応用は非破壊検査である。ダイバータのタングステンモノブロックや冷却配管の溶接部など、炉内機器のきず検出に渦電流探傷が適用されており、交流の周波数を選ぶことで表面近くのきずに感度を持たせられる。さらに、プラズマ対向材の侵食量の計測にも渦電流法が検討されている。タングステン層の下に絶縁層を挟んだ多層構造の試料では、渦電流のインピーダンス応答が導電層の厚さに依存するため、周波数を調整してインピーダンスを測定すれば、数マイクロメートルから数十マイクロメートルの範囲の被膜厚さ、すなわち侵食量を非破壊で推定できる。この手法は部品を取り外す必要がなく、ロボットアームによる炉内検査と組み合わせられるため、運転中の炉内状態を監視する診断として期待されている。
この解説が根拠にした論文から
- Design of passive and structural conductors for tokamaks using thin-wall eddy current modelingNuclear Fusion 2024
- Eddy current experiments with closely placed solid boxes simulating a next step fusion deviceFusion Engineering and Design 2002
- Computational study on eddy current characteristics in a super conducting tokamakFusion Engineering and Design 2002
- Systematic analysis of magnetic equilibrium reconstruction with eddy currents on LTX-βNuclear Fusion 2025
- Evaluation of 4-point probe and eddy current methods as plasma facing components erosion measurement methodsNuclear Fusion 2026
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推移
研究の変遷
1985–19945本 · 0.09%
構造解析と平衡制御への応用
この時代の論文は、JT-60SAやITERのコイルケース、プラズマ容器における渦電流加熱・応力解析を扱い、逆転磁場ピンチ装置の渦電流解析にも及んでいる。3次元有限要素法の改良が進められ、プラズマ平衡制御への影響が検討された。全タイトルに占める割合は0.09%である。
この時代の論文から
- Eddy current heating analysis of the ITER TF coil casesFusion Engineering and Design 1992
- Eddy current effect study on the JT-60 plasma equilibrium controlFusion Engineering and Design 1992
- Eddy current and stress analyses of plasma vessels in a reversed field pinch deviceFusion Engineering and Design 1988
- Eddy current analysis by incanet for a reversed field pinch deviceFusion Engineering and Design 1989
1995–20048本 · 0.08%
プラズマ不安定性と制御への展開
この時代の論文は、分割壁における渦電流によるキンク不安定性の安定化を理想MHD理論と比較して論じ、プラズマ擾乱と結合した3次元渦電流コードによる軸対称動的シミュレーションを行っている。また、トロイダル対称モデルによる3次元構造の渦電流近似や、プラズマ制御との関連が検討され、第一壁の渦電流探傷検査にも応用された。全タイトルに占める割合は0.08%である。
同時に語られた主題プラズマディスラプション、プラズマ制御、電磁流体力学、理想MHD、第一壁、エルゴディックダイバータ
この時代の論文から
- Stabilization of kink instabilities by eddy currents in a segmented wall and comparison with ideal MHD theoryNuclear Fusion 1998
- Approximation of eddy currents in three dimensional structures by toroidally symmetric models, and plasma control issuesNuclear Fusion 1997
- Axisymmetric dynamic simulation of a plasma disruption coupled with a 3-D eddy current codeNuclear Fusion 1998
- Application of eddy current testing inspection to the first wall of fusion reactor with wavelet analysisFusion Engineering and Design 1995
2005–20149本 · 0.06%
球状トカマクとMHD平衡結合
この時代の論文は、ETE球状トカマクの真空容器や中心柱における渦電流の解析・シミュレーションを扱い、MHD平衡の線形摂動と3次元渦電流の結合を制御曲面法で調べている。また、トロイダル・ポロイダル磁場変動とハロー電流によって誘起される渦電流の詳細な電磁的数値評価が行われた。関連装置としてQUEST、KSTAR、ITERが登場する。全タイトルに占める割合は0.06%である。
同時に語られた主題真空容器、プラズマディスラプション、プラズマ診断、電磁流体力学、磁気計測、容器内機器
この時代の論文から
- Eddy currents in the vacuum vessel of the ETE spherical tokamakNuclear Fusion 2005
- Simulation of eddy currents in spherical tokamaksNuclear Fusion 2006
- Linearly perturbed MHD equilibria and 3D eddy current coupling via the control surface methodPlasma Physics and Controlled Fusion 2008
- Eddy currents in the central column of the ETE spherical tokamakFusion Engineering and Design 2005
2015–202629本 · 0.12%
実時間制御と力評価への応用
この時代の論文は、JETにおける非対称トロイダル渦電流(ATEC)が横力を説明することを示し、JT-60SAの平衡制御器に大渦電流と電源電圧飽和を考慮した高度なISO-FLUX制御を導入している。さらに、P-EFIT磁気平衡再構成コードのためのカルマンフィルタに基づく渦電流推定器の実装や、トカマクの受動・構造導体の薄壁渦電流モデリングによる設計が行われた。W7-X、ITER、KSTAR、JETなどの装置が関連している。全タイトルに占める割合は0.12%である。
同時に語られた主題プラズマディスラプション、平衡再構成、真空容器、遮蔽、電源、プラズマ平衡
この時代の論文から
- Asymmetric toroidal eddy currents (ATEC) to explain sideways forces at JETNuclear Fusion 2016
- Development of JT-60SA equilibrium controller with an advanced ISO-FLUX control scheme in the presence of large eddy currents and voltage saturation of power suppliesNuclear Fusion 2021
- Implementation of a Kalman filter-based eddy current estimator for the P-EFIT magnetic equilibrium reconstruction codeNuclear Fusion 2022
- Design of passive and structural conductors for tokamaks using thin-wall eddy current modelingNuclear Fusion 2024
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Eddy current、eddy currents など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文20本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、5本の論文(うち全文3本)と4枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
