プラズマディスラプション(Plasma disruption、disruption、plasma disruptions)は、核融合・プラズマ物理学の現象。トカマクプラズマにおける閉じ込めの急激な喪失現象で、MHD不安定性の成長により熱クエンチと電流クエンチが引き起こされる。装置壁への熱負荷や電磁力、逃走電子の生成を伴い、ITERでは予測・緩和が必須である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは611本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の1.63%を占めた。直近の2025–2029年では1.17%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
プラズマディスラプション(plasma disruption、プラズマの突然の崩壊・終息)とは、トカマク型核融合装置において閉じ込められていたプラズマが短時間のうちに急速に冷却され、プラズマ電流が失われる現象である。運転限界を超えたプラズマでは磁気流体(MHD)不安定性が成長し、数ミリ秒から数十ミリ秒の間に蓄積された熱エネルギーと磁気エネルギーが真空容器や第一壁に一挙に放出される。ディスラプションはトカマク運転における最大級のリスクとみなされており、ITER以降の炉級装置ではその予測・回避・緩和が装置の成立性を左右する課題となっている。

fig.7 Machine learning based disruption prediction using long short-term memory in KSTAR (2025) · CC BY 4.0
Example of a disruption prediction shot: (a) plasma current and disruption probability, (b) plasma current control error, (c) normalized beta, and (d) n = 1 rotating mode amplitude. The blue shaded region indicates the plasma unstable period and the thermal quench (TQ). The blue vertical dashed line marks the warning time generated by the LSTM model, using a threshold value of 0.9 and a persistence condition of four consecutive time steps (i.e. 40 ms).
図はディスラプション予測の実例で、プラズマ電流と機械学習モデルが出力するディスラプション確率、電流制御誤差、正規化ベータ、n=1 回転モード振幅を時間軸に沿って示す。網掛けの期間が不安定となり熱クエンチに至った区間であり、破線はモデルが閾値条件を満たして警報を出した時刻、矢印はそこから熱クエンチまでの警告時間を表す。このようにディスラプションは多くの場合、前兆となる信号の変化を伴って進行する。
何が起きているのか
トカマクではプラズマ電流が自らも磁場をつくり、その総合的な磁気面配位がプラズマを閉じ込めている。密度や圧力、運転領域を表す安全係数などが限界を超えると、磁気面のつなぎ変えを伴う不安定性が成長し、磁気島の成長やロックモード、垂直変位イベント(VDE)などを経て閉じ込めが崩壊する。崩壊は単一の出来事ではなく、時間スケールの異なる複数の相に分かれる。まず熱クエンチでコアの熱エネルギーがミリ秒程度で失われ、次に電流クエンチでプラズマ抵抗の急増により電流が減衰する。熱クエンチで失われたエネルギーはダイバータや第一壁に集中して入射し、電流クエンチの間には電磁力が容器に働く。さらに電流クエンチ中には後述の高速電子が生成されうる。熱クエンチ・電流クエンチ・高速電子という三つの負荷が、ディスラプション被害の基本構成である。
原因と運転限界
ディスラプションは、密度限界、ベータ限界(圧力と磁場の比で決まる限界)、低安全係数領域での運転、不純物蓄積、位置制御の喪失など、多様な条件で発生する。密度限界近傍では微視的乱流の増大と閉じ込め劣化が長時間の前兆として現れることがあり、低qプラズマでは内部ディスラプション(サワートゥース的な崩壊)が繰り返されたのち大崩壊に至る。誤差場による回転ブレーキとロックモードも主要な引き金であり、共鳴摂動磁場の補償が回避手段となる。このように発生条件が広範であることが、物理モデルだけですべてを記述することを難しくし、後述のデータ駆動型予測が発展した一因である。
熱クエンチ・電流クエンチ・ハロー電流
熱クエンチでは、MHD不安定性の非線形成長によって磁気面が乱され、コアの熱が縁方向へ急速に輸送される。入射熱負荷は壁材料の損傷を直接引き起こすため、炭素繊維複合材へのホウ素系コーティングなど耐熱負荷材料の試験が行われてきた。熱クエンチ後の低温・高密度プラズマでは抵抗が急増し、電流クエンチが進行する。電流の減衰に伴い、プラズマと真空容器の間にハロー電流と渦電流が流れ、容器壁に大きな電磁力が生じる。特にVDEを伴う非軸対称ディスラプションでは、ハロー電流が非対称に分布し、容器を上下方向に押し上げるような力が発生する。この電磁力の評価は解析モデルの相互検証や、電磁気・機械連成を含む多重物理モデルによる容器応力解析の対象であり、装置設計上の必須項目となっている。電流クエンチの時間スケールは装置によって異なり、中型装置では数ミリ秒から十数ミリ秒程度である。
高速電子
電流クエンチ中、プラズマの抵抗が上がる一方でトロイダル電場が維持されるため、一部の電子は衝突による減速を逃れて加速され、相対論的な「高速電子(runaway electron)」のビームを形成する。小さな種から衝突による増幅(アバランシェ)で電流の大部分が高速電子に移ることさえあり、炉級の大電流装置ではこの増倍が特に激しいと予測されている。高速電子ビームが第一壁に局所的に入射すると、熱負荷以上に深刻な損傷を与えうる。ディスラプション後には高速電子がプラズマ電流を担う「プラトー」状態が形成されることがあり、その制御には高Z不純物(ネオンやアルゴンなど)の注入による衝突散乱の強化が用いられる。ただし注入物質の組成が重要で、重い不純物に少量の重水素が混ざると再結合によって不純物効果が弱まり、減衰が損なわれることが示されている。高速電子の生成・減衰は流体モデルから完全運動論モデルまでを組み込んだ専用コードや三次元MHDコードで詳細に解析されており、ITERや球状トカマク炉概念での緩和設計に反映されている。
予測・回避・緩和
ディスラプションへの対処は三段階で考えるのが自然である。第一に回避であり、密度・ベータ・位置などの制御を通じてディスラプションに至らない運転領域を保つこと、電流立ち下げを安全に設計すること、ディスラプションへの近さを実時間で推定して運転点を修正することである。第二に予測であり、前兆信号(回転モードの成長、制御誤差の増大、閉じ込め劣化など)を監視して警告時間を得ることである。ニューラルネットによる予測は2000年代から複数装置で実現されており、近年は時系列データを扱う深層学習モデルや、複数装置のデータベースを用いた汎化・教師なし異常検知などへ発展している。予測は、緩和システムを作動させるための十分な警告時間を確保する点で意味を持つ。
第三に緩和である。現在の主流は不純物の大量注入であり、大量ガス注入(MGI)と破砕ペレット注入(SPI)が代表である。いずれも中性不純物をプラズマに導入して放射損失を急増させ、蓄積エネルギーを壁に到達する前に放射として分散させる。SPIは低温ペレットを管内で生成し、高圧ヘリウムガスで加速して破砕板で氷片に砕いて注入する方式で、MGIに比べて不純物がプラズマ深部まで到達しやすく、密度擾乱が速く強いという利点が複数装置で確認され、ITERの緩和システムの基本方式とされている。注入した不純物の同化率や放射のトロイダル分布はn=1モードの位相と結びつくことが示されており、注入位置や方向の最適化が課題である。ペレット片がプラズマに入りながら周囲を冷却していく過程は高速撮影で直接観測できる。

fig.7 First results of Ne shattered pellet injection for mitigating plasma disruption with full metal wall in EAST tokamak (2023) · CC BY 4.0
The penetration process of pellet fragments in plasma during cooling time phase.
図は冷却過程におけるペレット片の侵入を高速撮影したもので、フレームごとにプラズマ境界とペレット片の位置が描かれ、片の先端が中心から約35ミリメートルの位置へ数ミリ秒の間に進んでいく様子が分かる。このような深部への侵入が、熱クエンチの誘発と放射の均一化に寄与する。
緩和は熱クエンチの制御にとどまらず、電流クエンチの速度やハロー電流、そして高速電子の生成・減衰も対象とする。SPIによる高速電子プラトーの減衰が実証されており、注入種の選択が減衰効率を左右する。さらに、緩和用の大量注入はクライオポンプなど周辺設備にも影響を与えるため、装置全体としての緩和システム設計が求められる。ディスラプション研究は、物理理解・実時間予測・緩和技術の三点がそろって初めて機能する分野であり、ITER以降の炉級装置の運転信頼性を支える基盤技術となっている。
この解説が根拠にした論文から
- Dissipation of post-disruption runaway electron plateaus by shattered pellet injection in DIII-DNuclear Fusion 2018
- First results of Ne shattered pellet injection for mitigating plasma disruption with full metal wall in EAST tokamakNuclear Fusion 2023
- Disruption runaway electron generation and mitigation in the Spherical Tokamak for Energy Production (STEP)Nuclear Fusion 2024
- Characteristics of plasma disruption mitigation achieved by MGI and SPI on EASTNuclear Fusion 2025
- Machine learning based disruption prediction using long short-term memory in KSTARNuclear Fusion 2025
- MHD, disruptions and control physics: Chapter 4 of the special issue: on the path to tokamak burning plasma operationNuclear Fusion 2025
この解説は役に立ちましたか?
推移
他の項目を重ねる
研究の変遷
1970–198419本 · 0.77%
内部ディスラプションと壁保護の時代
この時代は内部ディスラプションとテアリングモードの関連が主要テーマであり、トカマクの壁保護も扱われた。W VII-Aステラレーターでの電流ディスラプション安定化など、装置固有の現象解析が中心である。コーパス全体に占める割合は0.77%と小さい。
同時に語られた主題テアリングモード、X線イメージング、トカマク平衡、鋸歯状振動、プラズマ診断、磁気島
この時代の論文から
- Internal disruptions in tokamaksNuclear Fusion 1978
- Internal disruptions in the TFR tokamak: A phenomenological analysisNuclear Fusion 1983
- Stabilization of the (2, 1) tearing mode and of the current disruption in the W VII–A stellaratorNuclear Fusion 1980
- Transport, instability and disruptions in tokamaksNuclear Fusion 1982
1985–199470本 · 1.28%
トカマクディスラプションの体系化
この時代はトカマクディスラプション自体が主要な共同出現語となり、MHD、第一壁、密度限界、逃走電子と並んで論じられた。JETやTEXTORなどの大型装置での実験と、密度限界ディスラプションのMHDモデリングが進んだ。コーパス内の割合は1.28%に上昇し、研究の活発化を示している。
同時に語られた主題トカマク崩壊、電磁流体力学、第一壁、密度限界、ステンレス鋼、不純物
この時代の論文から
- Disruptions in JETNuclear Fusion 1989
- Generation and loss of runaway electrons following disruptions in JETNuclear Fusion 1993
- MHD modelling of density limit disruptions in tokamaksNuclear Fusion 1991
- Impurity influx model of fast tokamak disruptionsNuclear Fusion 1992
1995–200478本 · 0.79%
予測・緩和と逃走電子の時代
この時代はニューラルネットワークによるディスラプション警報や、垂直変位事象、ハロー電流、熱負荷が注目され、逃走電子の生成・終端も調べられた。TFTR、ITER、ASDEX-Upgradeなどで研究が進み、JT-60UやJETでの逃走電子の直接観測も行われた。割合は0.79%と前期から低下し、他主題の成長と比べて相対的な比重がやや縮小した。
同時に語られた主題トカマク崩壊、ニューラルネットワーク、逃走電子、密度限界、垂直変位、電磁流体力学
この時代の論文から
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 1999
- Generation and termination of runaway electrons at major disruptions in JT-60UNuclear Fusion 1999
- Disruptions and halo currents in Alcator C-ModNuclear Fusion 1996
- Tokamak disruption alarm based on a neural network model of the high- beta limitNuclear Fusion 1997
2005–2014122本 · 0.79%
ディスラプション緩和と予測の本格化
この時代はディスラプション緩和が最大の共同出現語となり、大量ガス注入や予測、逃走電子の研究が活発化した。ITERとJETを中心に、ディスラプションの原因調査と運転ウィンドウの検討が進み、ITER-like wall条件下での緩和実験も行われた。割合は0.79%で横ばいだが、件数は増加している。
同時に語られた主題ディスラプション緩和、トカマク崩壊、逃走電子、大量ガス入射、ディスラプション予測、電磁流体力学
この時代の論文から
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 2007
- Survey of disruption causes at JETNuclear Fusion 2011
- Disruption scenarios, their mitigation and operation window in ITERNuclear Fusion 2007
- Disruption mitigation by massive gas injection in JETNuclear Fusion 2011
2015–2026322本 · 1.31%
機械学習予測と砕いたペレット注入の時代
この時代はディスラプション緩和、逃走電子、ディスラプション予測が主要な共同出現語となり、砕いたペレット注入やニューラルネットワークを用いたリアルタイム予測が登場した。ITER、JET、EAST、DIII-Dなど複数装置での機械学習による予測と、逃走電子ビームの形成・終端の研究が進展した。割合は1.31%に上昇し、コーパス内で最も大きな主題群の一つとなった。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題ディスラプション緩和、逃走電子、ディスラプション予測、トカマク崩壊、電磁流体力学、破砕ペレット入射
この時代の論文から
- Formation and termination of runaway beams in ITER disruptionsNuclear Fusion 2017
- Runaway electron beam generation and mitigation during disruptions at JET-ILWNuclear Fusion 2015
- Machine learning for disruption warnings on Alcator C-Mod, DIII-D, and EASTNuclear Fusion 2019
- A real-time machine learning-based disruption predictor in DIII-DNuclear Fusion 2019
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Plasma disruption、disruption、plasma disruptions など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文120本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、6本の論文(うち全文5本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
