ディスラプション緩和(Disruption mitigation)は、核融合・プラズマ物理学の手法。ディスラプション時に生じる熱負荷、電磁力、逃走電子を抑え、装置損傷を防ぐ手法である。不活性ガス大量入射や凍結ペレット破砕注入で熱エネルギーを放射散逸させ、電流クエンチを緩和する。ITERに必須の安全技術として開発が進む。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは63本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.21%を占めた。直近の2025–2029年では0.21%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
ディスラプション緩和(disruption mitigation)とは、トカマクプラズマの突然の終息であるディスラプションが装置に与える被害を、あらかじめ不純物を大量に注入してプラズマを制御された形で冷却・終息させることにより軽減する技術である。ディスラプションが起きると、蓄えられた熱エネルギーがミリ秒程度の熱クエンチで第一壁やダイバータに集中して流入し、続く電流クエンチではハロー電流や渦電流が真空容器に大きな電磁力を及ぼす。さらに高エネルギーの逃走電子が生成されると、数百ミリ秒にわたって第一壁を局所的に打撃しうる。緩和の基本原理は、ネオンやアルゴンなどの不純物原子を大量に注入して放射損失を急増させ、蓄積エネルギーを広い面積にわたって等方的に放射として放出させ、熱負荷・電磁力・逃走電子の三つの脅威を同時に抑えることにある。代表的な手法は大量ガス注入(MGI)と破砕ペレット注入(SPI)であり、後者がITERの標準技術に選定されている。
ディスラプションと緩和の目標
ディスラプションは三つの相に分けて理解される。まず熱クエンチで、コアの熱エネルギーが約1ミリ秒(EASTの場合)という短時間で失われ、その多くは第一壁側面に、残りのごく一部がダイバータに流入する。次に電流クエンチで、冷却によって抵抗が増大したプラズマ電流が数ミリ秒から十数ミリ秒で消滅し、この間にプラズマと真空容器の間を流れるハロー電流と渦電流が容器にねじれ力や上下方向の力を及ぼす。特に垂直変位イベント(VDE)に伴うディスラプションでは非対称な横力が問題となる。第三に、電流クエンチ中の高いループ電圧によって生じる逃走電子であり、これは生成すれば数百ミリ秒のオーダーで存続し、第一壁に集中的なエネルギー堆積をもたらす。
緩和技術に求められる目標は、この三つすべてを抑えることである。すなわち、熱負荷を放射によって分散させて低減すること、ハロー電流と電磁力を抑制すること、逃走電子の生成を回避するか、生成してしまったビームのエネルギーを散逸させることである。JETでの測定により、熱クエンチ時にダイバータに向かうのは熱エネルギーの小さな割合(fraction)にとどまり、かなりの部分が外壁側に向かうことが確認されており、この種のエネルギー流路の知見がITER設計指針の基礎となっている。
不純物注入による緩和の物理は次のように働く。注入された中性不純物はプラズマに侵入して電離し、電子密度を急増させるとともに線放射でエネルギーを奪う。冷却されたプラズマは抵抗が増すため電流クエンチが加速され、ループ電圧の上昇が抑えられて逃走電子の種生成が減る。ただし注入量が少なすぎると放電を終息させられず、MHD活動を触発するだけにとどまる。EASTでのヘリウム注入実験では、プラズマ粒子数の40倍程度の注入で熱エネルギーの一部を効果的に放射でき、電流クエンチ時間と垂直変位がともに大幅に短縮され、逃走電子生成のリスクが低下することが示された。一方、注入量を増やしてもガスの侵入時間はゆるやかに減少して数ミリ秒程度で飽和する。これは中性ガスがプラズマ前面で電離して自己遮蔽層を形成するためで、ガス注入の根本的な制約となっている。
MGIの実装には高速バルブが要となる。EASTに設置されたバルブは150マイクロ秒以下の応答時間で、プラズマ粒子数の300倍に相当する粒子を注入できる。図はその実例で、(a) はEASTにおけるMGIシステムの設置位置、(b) は高速バルブの断面図、(c) は渦電流反発による駆動原理の模式図である。バルブの開弁を電磁石ではなく渦電流の反発力で行う方式は、機械的可動部が少なく高速応答と長寿命を両立できるため、ITER原型バルブの開発でも同様の考え方が採られている。

fig.1 Characteristics of plasma disruption mitigation achieved by MGI and SPI on EAST (2025) · CC BY 4.0
(a) Installation location of the MGI system on EAST. (b) Cross-sectional view of the fast valve. (c) Schematic of eddy-current repulsion in the fast valve.
大量ガス注入
MGIは、高速バルブから数ミリ秒の時間スケールで高圧の不純物ガス(ヘリウム、ネオン、アルゴンなど)を一気に吹き込む手法である。JETではヘリウム・ネオン・アルゴンの各ガスを用いた緩和実験が行われ、ガス種と注入量が時間スケールと緩和効率にどう影響するかが系統的に調べられた。低Zガス(ヘリウム)は放射効率が低い代わりに電子密度を大きく増やして抵抗を上げる方向に働き、高Zガス(アルゴン)は少ない量で強い放射を得られるが、放射の非対称性や逃走電子の種供給という副作用の検討が必要となる。
MGIの弱点は前述の侵入深度の限界である。中性ガスはプラズマ縁で電離して遮蔽されるため、不純物がコアまで到達しにくく、熱クエンチ前の待ち時間(pre-TQ)が長くなりがちである。J-TEXTでの比較では、MGIの冷却フロントは q = 2 面までしか届かないのに対し、SPIでは q = 1 まで達することが示されており、これはDIII-DやHL-2Aの結果とも整合する。コアに近い不純物堆積は pre-TQ を短縮し、より確実な全体的な冷却をもたらす。また、注入した不純物の分布と 1/1 キンクモードの位相が放射の偏り(radiation peaking)を決めることがシミュレーションと実験の両方から示されており、熱負荷の非対称性を評価するうえでMHDモードの位相が重要な役割を果たす。
破砕ペレット注入
SPIは、低温の固体不純物ペレット(ネオンやアルゴン、あるいは重水素との混合)をガスガンで高速度発射し、飛行経路中のシャッターチューブ(内径の細い彎曲管)に衝突させて破片の雲に砕いてからプラズマに注入する手法である。破片は固体のままであるため中性ガスのような自己遮蔽を受けず、プラズマコアの深くまで侵入して不純物を効率よく堆積できる。これがMGIに対するSPIの本質的な利点であり、より短い pre-TQ、高い不純物取り込み効率、より制御された電流クエンチをもたらす。破砕の仕方は緩和性能を直接左右する。破片サイズはペレット速度に強い逆相関を持ち、速度が遅いと破砕エネルギーが足りず1ミリメートルを超える大破片の割合が増え、取り込み効率と侵入深度が低下する。シャッターチューブの形状も影響し、円形断面は平行性の高い破片噴流を、角形断面は扇状の広がりを作る。曲げ角については、角度が大きい(例えば30度)と低速注入と組み合わさって破片雲の時間的広がりが伸び、角度が小さい(例えば20度)と短く密な雲になる。ただしペリダイナミクス模型による数値シミュレーションは、破砕パターンを支配するのは管の幾何形状よりも法線方向の衝突エネルギーであることを定量的に確認している。混合組成(ネオンと重水素)は放射効率と電流クエンチ速度の制御を両立させる最適化の手段であり、ネオン量を増やすと pre-TQ と電流クエンチ時間が一貫して短縮されるが、放射エネルギーは熱エネルギーが全量放射されるところで飽和する。
EASTでは、シャッターチューブを曲りのない水平直管に置き換えて破片を十分に砕かずに注入する「不十分破砕注入(ISPI)」という手法も用いられた。これは大粒径破片のオフアクシス注入が緩和効率に与える影響を分離して調べるための工夫であり、高速可視カメラによって pre-TQ 相中に破片がプラズマへ進入しアブレーションする過程が直接撮影された。図はその連続撮影で、上段がISPI、下段がSPIのショットに対応し、t = 0 前後の各時刻で破片の発光雲がプラズマ縁から侵入していく様子が見える。この種の観察は、破片サイズと堆積位置が緩和の時間スケールや放射分布をどう決めるかを結びつける実験的基盤を与える。

fig.4 Effects on characteristics of plasma disruption mitigation using shattered pellet injection with different shatter tubes on EAST (2025) · CC BY 4.0
The process of pellet fragments entering the plasma during pre-TQ phase, captured by the fast visible camera at port J. Panels (a)–(a) to (a)–(h) correspond to shot #128674 with ISPI, and panels (b)–(a) to (b)–(h) correspond to shot #116762 with SPI.
SPIシステムの技術的要素としては、多銃身から共通の注入ラインへペレットを導くファネル、ポンプブレークをまたぐ浅い角度での衝突試験に基づくガイド設計、破片サイズ分布の計測などが確立されてきている。JETとKSTARに向けたSPIシステムの設計・特性評価では、純アルゴンや純ネオンの大型ペレットを重水素混合の有無にかかわらず加速できるところまで開発が進んだ。
逃走電子の抑制
逃走電子は、電流クエンチ中の高ループ電圧下で電子が電場から十分なエネルギーを得て衝突損失を上回る加速を受けることで生じる。抑制の戦略は大きく二つに分かれる。第一は生成の回避であり、不純物注入によって電子密度を十分に高めると臨界エネルギーが上がり、種電子が加速されにくくなる。種電子の数を減らすこと自体を緩和の設計原理とする研究もある。第二は、生成してしまったビームのエネルギーを散逸させることであり、SPIによる追加注入でビームを放射的に冷却・減衰させるアプローチがJETで検証されている。
逃走電子の抑制は歴史的に最も難しい緩和目標である。TEXTORでの実験ではMGI下での逃走電子の生成と抑制が調べられ、J-TEXTではディスラプション緩和相における二次MGIによる逃走電流の抑制が示された。また、ビームに対してタングステン微粒子をスタンドオフで注入してビームを終息させるという、ビームに直接触れずに高Z材料を供給する新しい構想もシミュレーションで検討されている。種逃走電子の確率的輸送と堆積のシミュレーションなど、ビームの生成から終息までを一貫して扱うモデル化も進んでいる。ITER規模のプラズマ電流では逃走電子が持ちうるエネルギーが装置への深刻な脅威となるため、この分野は緩和研究の中心課題の一つであり続けている。
ITERディスラプション緩和システム
ITERでは、ディスラプション緩和は装置保護のために必須の機能であり、専用のディスラプション緩和システム(DMS)が設計されている。基線技術はSPIであり、複数の銃身からネオン・アルゴンと重水素の混合ペレットを発射し、破砕してプラズマに注入する構成が採られている。システム設計では、ペレットの生成・発射技術、破片の飛行と破砕の制御、注入ポートを通じた導入、そして熱負荷・電磁力・逃走電子の三目標に対する緩和性能の検証が課題となる。
ITERに向けた工学開発は多方面で進んでいる。ディスラプション緩和バルブの原型開発、異なる直径のガイド管内でのガス流の特性評価、純ヘリウム冷却による低温ペレット生成の実現可能性検討、そして差動排気系を備えた注入ポートの高速シャッターの選定研究などである。差動排気は、大量の不純物ガスを注入しながらトカマク本体の真空度を保つために必要となる。またTOKESコードによるシミュレーションでは、ITER規模のプラズマに対するガス注入とペレット注入の比較が行われ、SPARCでのMGI緩和の拡張MHDシミュレーションなど、次世代装置を対象とした予測計算も進められている。実機規模での緩和性能を確実にするため、JETでのSPI実験シリーズがITERのDMS設計を支援するデータを提供しており、熱負荷緩和、逃走電子回避、熱クエンチ中の放射非対称性、電磁負荷制御、逃走電子エネルギー散逸が広いパラメータ範囲で検証されている。
この解説が根拠にした論文から
- Disruption mitigation by massive gas injection in JETNuclear Fusion 2011
- Shattered pellet injection technology design and characterization for disruption mitigation experimentsNuclear Fusion 2019
- Shattered pellet injection experiments at JET in support of the ITER disruption mitigation system designNuclear Fusion 2022
- Disruption mitigation with high-pressure helium gas injection on EAST tokamakNuclear Fusion 2018
- Disruptions and disruption mitigationPlasma Physics and Controlled Fusion 2003
- Characteristics of plasma disruption mitigation achieved by MGI and SPI on EASTNuclear Fusion 2025
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推移
研究の変遷
1995–20042本 · 0.02%
初期の概念確立
この時代の論文は、ITERにおけるハロー電流や逃走電子との関連でディスラプション緩和を取り上げており、装置としてはiterが登場する。対象論文は2本のみで、プラズマディスラプションと逃走電子が同時に議論されている。
同時に語られた主題プラズマディスラプション、逃走電子
この時代の論文から
- Halo current, runaway electrons and disruption mitigation in ITERPlasma Physics and Controlled Fusion 1997
- Disruptions and disruption mitigationPlasma Physics and Controlled Fusion 2003
2005–201417本 · 0.11%
大量ガス入射による実験的展開
この時代には、大量ガス入射が主要な手法として並列され、DIII-D、Alcator C-Mod、JET、MAST、Tore Supraなどの各装置での実験が報告されている。不純物や熱ダイナミクスの計測、ペレット入射やELM制御との関連も見られ、ITER向け技術開発の文脈が強まる。
同時に語られた主題プラズマディスラプション、大量ガス入射、不純物、逃走電子、燃料供給、周辺局在モード
この時代の論文から
- Disruption mitigation by massive gas injection in JETNuclear Fusion 2011
- Measurements of impurity and heat dynamics during noble gas jet-initiated fast plasma shutdown for disruption mitigation in DIII-DNuclear Fusion 2005
- Gas jet disruption mitigation studies on Alcator C-Mod and DIII-DNuclear Fusion 2007
- Experimental study of disruption mitigation using massive injection of noble gases on Tore SupraNuclear Fusion 2010
2015–202644本 · 0.18%
分裂ペレット入射と実機統合
この時代には、分裂ペレット入射が新たに重要な手段として現れ、従来の大量ガス入射と並行して研究が進む。ITER向け設計やJET、EAST、DIII-D、ASDEX-Upgradeでの実験が行われ、逃走電子やタングステン、トカマクディスラプションといった主題と結びついている。適応予測によるリアルタイム緩和制御の試みも登場する。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題プラズマディスラプション、破砕ペレット入射、ペレット入射、大量ガス入射、逃走電子、タングステン
この時代の論文から
- Shattered pellet injection technology design and characterization for disruption mitigation experimentsNuclear Fusion 2019
- Adaptive predictors based on probabilistic SVM for real time disruption mitigation on JETNuclear Fusion 2018
- Shattered pellet injection experiments at JET in support of the ITER disruption mitigation system designNuclear Fusion 2022
- Injection of multiple shattered pellets for disruption mitigation in DIII-DNuclear Fusion 2019
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文39本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文2本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
