Wiki / 装置 ステラレーター (Stellarator、stellarators)は、核融合・プラズマ物理学の装置。トーラス状の磁場配位を持つ核融合装置の一種で、外部コイルによる螺旋状磁場だけでプラズマを閉じ込める。トカマクと異なりプラズマ電流が不要なため定常運転に有利であり、W7-XやLHDなどの実験装置で研究が進められている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは858本ある。比重が最も大きかったのは1980–1984年で、その期間の論文の3.21%を占めた。直近の2025–2029年では2.03%。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 関連項目 6 この数字の作り方 解説 ステラレータとは、環状の磁場によってプラズマを閉じ込める核融合装置の一類型であり、閉じ込めに必要な磁場をすべて外部のコイル電流で発生させることを本質的な特徴とする。同じ環状磁場閉じ込め であるトカマクではプラズマ自身に流す電流が磁場の一部を担うのに対し、ステラレータではプラズマ電流が原理的に不要であるため、定常運転に本質的に適合し、電流駆動 のマクロ不安定化やディスラプション(プラズマの突然の喪失)が原理的に起こらない。その代償として磁場が軸対称性を持たない三次元構造になるため、粒子閉じ込めの観点で本質的な不利があり、これを磁場形状の設計(最適化)で克服することが現代のステラレータ研究の中心課題となっている。
原理と磁場幾何
ステラレータは、非平面コイルやヘリカルコイルを用いて、トロイダル(環状)方向の磁場にポロイダル(短軸方向)成分を重ね合わせる。これにより磁力線は環状面を一周する間にポロイダル方向にも回転し、この回転の割合を回転変換と呼ぶ。回転変換があると磁力線は異なるポロイダル角を通過しながら環状面を描き、その包絡面として一連の入れ子状の磁気面(フラックス面)が形成される。プラズマはこの入れ子状の磁気面に沿って閉じ込められる。トカマクではプラズマ電流がこの回転変換を作るが、ステラレータでは外部コイルがほぼすべてを担う。実際に建設されている装置では、非平面モジュラーコイル、環状方向磁場コイル、ポロイダル方向磁場コイル、炉壁側のプラズマ対向機器 を組み合わせてこの三次元磁場を実現しており、次の図はその装置全体の構成を示したものである。
fig.2 Construction progress of the Chinese First Quasi-axisymmetric Stellarator (CFQS) and preliminary experimental results on the CFQS-Test device (2025) · CC BY 4.0
Schematic of the CFQS main body, including non-planar MCs, a VV together with TFCs, PFCs, coil cases, supporting structure and water cooling pipes.
図は中国で建設が進められる準軸対称ステラレータCFQSの本体概要であり、非平面モジュラーコイル、真空容器 と環状方向磁場コイル、プラズマ対向機器、コイルケース、支持構造、水冷却配管がそれぞれ描かれている。コイル系が装置の体積の大部分を占め、真空容器と支持構造がそれを包み込むという構成は、ステラレータに共通する姿である。
ステラレーター
種別 装置
論文数 858 本
初出 1970 –1974 年(6本)
最盛期 1980 –1984 年 3.21%
直近 2025 –2029 年 2.03%
ほかの綴り stellarators ステラレータの物理的な困難は、磁場が軸対称でないことに起因する。磁場強度は一つの磁気面上でも磁力線に沿って変動し、この変化の谷間に捕らえられた捕獲粒子(バウンス運動をする粒子)は、バウンスの平均として磁気面を横切る方向にドリフトする。トカマクでは軸対称性のおかげでこの半径方向ドリフトの平均が零になり、捕獲粒子は衝突がなければ閉じ込められる。ところが一般的なステラレータでは捕獲粒子の軌道が磁気面から外れ、衝突と磁場の不均一性の組み合わせによる新古典輸送 が、衝突頻度の低い高温プラズマでは許容できないほど大きくなる。この損失は衝突頻度の逆数に比例して増えるいわゆる「1/ν領域」で特に深刻であり、これがステラレータの長年にわたる最大の弱点であった。したがって、捕獲粒子の半径方向ドリフトの軌道平均を零にするような磁場強度分布を持つ装置、すなわちオムニジニアス(omnigenous)な磁場を作ることが、最適化の中心的な目標となる。
歴史と装置の系譜 ステラレータの概念は1950年代初頭にプリンストンでリマン・スピッツァーらによって提案され、恒星のエネルギー源にちなんで命名された。初期の古典型ステラレータは、環状方向磁場コイルとヘリカル巻線を組み合わせたもので、回転変換と磁気シア をヘリカル巻線で生み出していた。その後、連続したヘリカルコイルを主役とするトーサトロン/ヘリオトロン 系が発展し、日本の大型ヘリカル装置 (LHD )はこの系譜の最大の装置として稼働している。一方、ドイツのウェンデルシュタイン7-X(W7-X )は、個別の非平面モジュラーコイルの組み合わせで三次元磁場を精密に作り込む「ヘリアス」設計であり、準等ダイナミック(quasi-isodynamic)と呼ばれるオムニジニアス磁場を実現する路線である。さらに、磁場強度の対称性の方向によって分類される準対称系の装置として、準ヘリカル対称のHSX(米国)、準軸対称のNCSX(米国、計画中止後に設計思想が継承)や、中国と日本の共同設計によるCFQSがある。CFQSは1テスラ運転・最大1.5メガワットの加熱(電子サイクロトロン加熱 0.5メガワット、中性粒子入射 1.0メガワット)を目標に建設が進められており、小型の準軸対称装置で高ベータ・高閉じ込めの物理を検証する役割を担う。
歴史的には、エネルギー閉じ込め 時間でトカマクが有利で装置も単純だったため、実験装置の数ではトカマクがステラレータの数倍に上ってきた。しかしステラレータには、電流を流さないプラズマがマクロ的に極めて安定であるという強みがあり、小型・中型装置でも乱輸送や閉じ込めスケーリングなどトロイダル閉じ込めに共通する物理を清浄に研究できる場として独自の役割を果たしてきた。実際、ステラレータで顕著に観測されてきた現象の多くは、後にトカマク実験でも重要であることが示されている。
最適化と準対称性 ステラレータの設計は、現代では「最適化」と呼ばれる計算機による探索プロセスを中心に進む。まず最外殻磁気面の形状を二重フーリエ級数で表し、新古典輸送 の低減、マクロ安定性(磁気井戸の形成など)、高速イオン閉じ込め、乱流抑制といった物理的な評価関数を満たすよう係数を最適化する(第一段階)。次に、その磁気面を実現するコイル系を工学制約の下で設計する(第二段階)。この高次元の設計空間を自由に使えることがステラレータの本質的な強みであり、逆に言えば、何を良くするかの指標の選択が装置の性格を決める。
新古典輸送を抑える磁場の条件は、磁場強度の磁気面上での分布の位相幾何で整理できる。ブーザー座標と呼ばれる磁気面座標で見ると、準対称な磁場では磁場強度の等高線が直線になる。対称方向が環状方向なら準軸対称、ヘリカル方向なら準ヘリカル対称、ポロイダル方向なら準ポロイダル対称と呼ばれる。準軸対称はトカマクに近い輸送・安定性の性質を保ちつつ電流なしで実現できるため「先進トカマク の利点を電流なしで」という思想の装置になる。次の図は、準軸対称平衡において磁場強度の等高線がブーザー座標上で直線に並ぶようすを示したものである。
fig.13 Tokamak to stellarator conversion using permanent magnets (2024) · CC BY 4.0
Left: the quasisymmetry of the found QA magnetic equilibrium is demonstrated by the straight contours of the field strength B on the s = 0.5 flux surface in the θ-φ plane in Boozer coordinates. The contours were calculated using the Booz_XFORM code [44]. Right: Superimposition of the target magnetic surfaces and the magnetic surfaces calculated with the near-axis expansion after the fitting of the parameters to the VMEC magnetic field.
図の左側は磁気面上のブーザー座標(横軸が環状角、縦軸がポロイダル角)で描いた磁場強度の等高線であり、等高線が縦の直線として整列していることが準軸対称性の直接的な証拠である。右側はこの平衡を近軸展開から再構成した磁気面と数値計算による磁気面が重ね合わされている。
準対称よりも緩い条件がオムニジニアスであり、その中で磁場強度の等高線がポロイダル方向に閉じるものを準等ダイナミックと呼ぶ。W7-X はこの準等ダイナミック路線であり、実験でステラレータ史上最高水準の核融合三重積と新古典輸送の大幅な低減を実証した。さらに近年、磁場強度の等高線がオムニジニアスに要求される位相幾何を厳密には満たさなくても、1/ν領域の輸送を小さく保てる「区分的オムニジニアス(piecewise omnigenous)」という概念が導入された。W7-Xの標準配置やLHD の内側シフト配置はこの概念に近いとされており、この枠組みは従来のオムニジニアスの定義から遠く、したがってコイルやプラズマ形状がより単純でありうる新しい候補配置の族の存在を示唆している。最適化の対象は新古典輸送にとどまらず、イオン温度勾配 型乱流の抑制、大きなプラズマ流 の許容、高速アルファ粒子 の閉じ込めなどへと広がっており、第一原理に基づくプラズマプロファイル予測と組み合わせて、装置建設前に性能を見通す設計手法が整備されつつある。
コイル・工学・ダイバータ
ステラレータの最大の技術的ボトルネックはコイルである。非平面モジュラーコイルは、目標とする三次元磁気面を再現するために極めて高い精度を要求される。W7-X ではコイル製造公差がコイル半径の約0.1%、磁気システムの設置公差が1.5センチメートル未満、コイル組立誤差は4.4ミリメートル未満に抑えられ、精密計測と段階的な再最適化によって初めて達成された。コイルと最外殻磁気面の距離(コイル表面距離)は設計の鍵となる量で、重水素―トリチウム 炉ではリチウム 増殖ブランケットと中性子遮蔽の空間を確保するため最低でも約1.2メートルが必要とされる。磁場勾配スケール長(磁場が変化する距離の尺度)を最外殻磁気面の形状から評価すると、それがコイル表面距離やコイル間距離といった工学指標の有効な予測子になることが多数の設計例で示されており、第一段階の最適化に工学側の指標を先取りさせることができる。コイルの複雑性の指標としてはコイル長、コイル間最小距離、最大曲率などがあり、これらをどう固定して装置間を比較するかが設計研究の実際的な課題である。コイル系を簡素化する方向として、永久磁石を併用し非平面コイルの役割を減らす、あるいは環状方向磁場コイルだけで準対称磁場を実現するという提案もある。現在のネオジム磁石は室温で1.4テスラを超える残留磁束密度と2.2テスラを超える保磁力を持ち、冷却で保磁力をさらに高められるため、小型装置では現実的な選択肢となりつつあり、既存トカマクの変換による小型ステラレータ構築も提案されている。
閉じ込められたプラズマから逃げる熱と粒子をどう受け止めるか(排気)も、磁場の位相幾何の問題である。トカマクはX点 と分離面によるダイバータ 構成が標準だが、ステラレータには固有の解がある。次の図は、磁気閉じ込め装置で使われる主な排気位相幾何を並べたものである。
fig.1 The topology of non-resonant stellarator divertors (2025) · CC BY 4.0
Schematic illustration of the most popular methods of diversion in magnetically confined fusion plasmas. In each case, nested flux surfaces of the confined plasma are shown in red and solid components are shaded grey, with the plasma-facing components (PFCs) outlined in dashed black. Upper left: A tokamak double null configuration. External coils (shown as orange squares) generate X-points (cyan crosses). This forms a separatrix (solid black line) which diverts plasma to the PFCs. Upper right: island divertor of a stellarator. The separatrix of the island chain (solid black line) intersects the PFCs. Lower left: a helical divertor. Helically rotating X-points (cyan crosses) with a helically rotating separatrix (black lines) are generated by helically rotating coils (orange squares). Lower right: the non-resonant divertor Hamiltonian, which is the focus of this work. Field lines beyond the confined plasma travel to the wall in collimated bundles (solid black lines).
図は四つの排気方式を示す。左上はトカマクのダブルヌル配置で外部コイルがX点を作り分離面がプラズマ対向機器 へ導く。右上はステラレータの島ダイバータ で、低次の有理数回転変換に共鳴してできる磁気島 の鎖の分離面が対向機器に交わる。左下はLHD のヘリカルダイバータで、ヘリカルコイルが回転するX点を作る。右下は非共鳴ダイバータで、磁気面の強い曲率の部分から束状の磁力線が壁へ向かう。
島ダイバータはW7-Xで実現され、磁気島に沿った長い接続長が熱排気に有利である。ヘリカルダイバータはLHDで長年運用されてきた。非共鳴ダイバータは、回転変換に共鳴しない磁場摂動 によって島を作らずに排気を実現する考え方で、磁気面の曲がりの鋭い場所にX点(対応するO点を持たない「対を持たない」X点)が現れ、逃げる磁力線が束(ターンスタイル)に集約される。この方式では打ち込み位置が回転変換プロファイルの変化に対して頑健であることが小型装置の実験でも示されており、将来装置への採用が検討されている。
炉としてのステラレータ
核融合炉の概念として、ステラレータはトカマクと対照的な長所と短所を持つ。長所は、定常運転が原理的に可能であること、大電流を流さないためディスラプションがなくプラズマ制御 が本質的に容易なこと、大型のポロイダル磁場コイルや中央ソレノイドを必ずしも必要としないこと、島ダイバータ 構成で長い接続長による排気の余裕が得られることである。短所は、三次元磁場に由来する新古典輸送 と乱輸送の制御、そして複雑な非平面コイル系の製造・組立コストであった。W7-X の建設と運転は、最適化された三次元磁場が要求される工学精度で実現できることを実証し、この路線の実現可能性を大きく前進させた。
炉設計の研究では、プラズマ物理と工学・経済の制約を一つの枠組みで評価するシステムコードが用いられ、トカマク向けに発達した手法がステラレータ向けに拡張されている。平衡解とコイル形状を入力として、超伝導磁体や中性子工学 の制約を含めた設計点の実現性を評価し、W7-Xの延長線上にあるヘリアス型発電プラントの概念設計や、トカマク・球形トカマクとのパイロット炉候補としての比較が行われている。最適化手法の進展は、準対称・オムニジニアス磁場の設計空間を広げるだけでなく、コイル表面距離のような工学制約を最適化の初期段階から織り込むことを可能にしつつあり、区分的オムニジニアス磁場や永久磁石併用といった新しい選択肢は、コイルの複雑さという歴史的な弱点を緩和しうるものとして注目されている。新古典輸送の低減という理論的課題が実験的に裏付けられつつある現在、ステラレータは「建設後の運転が容易で定常的な炉」として、トカマク主流路線に対する重要な代替選択肢の地位を保っている。
ステラレーター(Stellarator)の研究史 — FusionPapers