Wiki / 装置 LHD は、核融合・プラズマ物理学の装置。世界最大級の超伝導ヘリカル装置であり、磁気軸の移動などにより多様な閉じ込め磁場配位を実現できる。電流を必要としないヘリオトロン方式の利点を生かし、定常運転や高ベータ閉じ込め、内部輸送障壁などの研究に用いられている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは304本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.95%を占めた。直近の2025–2029年では0.28%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Large Helical Device
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 大螺旋装置(LHD、Large Helical Device)は、日本の核融合科学研究所が建設・運用するヘリカル型(ヘリオトロン 型)の超伝導プラズマ閉じ込め 装置であり、現存する世界最大級の超伝導ヘリカル装置 である。プラズマ電流に頼らないステラレータ 系閉じ込めの実証、すなわち電流なしで高温度プラズマを定常的に維持することを主要な目標としており、1998 年から実験が開始された。LHD の最大の特徴は、コイル電流でなくコイル自体の三次元形状によって磁気面を直接作り出す方式を採り、トーラス内部に完整なヘリカル磁場をあらかじめ「外部で」定義できる点にある。このため、トカマクで問題となるプラズマ電流起因のプラズマディスラプション が原理的に存在せず、定常運転に適した閉じ込め方式として位置づけられている。
fig.1 ICRF plasma production at hydrogen minority regime in LHD (2023) · CC BY 4.0
Schematic view of the mid-plane cross-section of LHD.
図は LHD の中平面断面図であり、中央に十葉(m=10, l=2)状のヘリカルコイルの配置、その内側にプラズマ閉じ込め領域、外側にポロイダルコイルと真空容器 、そして周縁部に中性粒子ビーム(NB)入射ポートの位置が描かれている。以下、装置と磁場配位、超伝導磁石 系、ダイバータ と端部制御、加熱・計測、そして運転実績という LHD 研究の主要な柱に沿って概観する。
装置と磁場配位
LHD の基本的な諸元は、主半径 3.9 m、アスペクト比に換算した小半径 0.6 m 程度、最大磁場強度 4 テスラであり、ヘリカルコイルの極数 (multipolarity) は l=2、トーラス方向の周期数 (toroidal mode number) は m=10 である。 /トルサトロン方式では、この二つのパラメータの組み合わせによって磁気面の形成と安定性のバランスが決まり、LHD ではこの配位を基準としつつ、複数のポロイダルコイル電流比を変えることで、プラズマ中心(磁軸)の位置を大きく動かせる柔軟性を持つ。磁軸を内側に寄せる配位では閉じ込めが向上し、外側に寄せる配位では端部の制御性が変わるといった具合に、同一装置上で多様な実験が可能になっている。この「外部で定義された磁気構造の中に高温プラズマを閉じ込める」という研究手法は、ヘリカル系固有の物理理解を深めるとともに、トカマクと比較する上での対照的なデータを与えてきた。
LHD
種別 装置
論文数 304 本
初出 1990 –1994 年(8本)
最盛期 2005 –2009 年 0.95%
直近 2025 –2029 年 0.28% 索引にもどる
また、LHD はプラズマ電流をほとんど持たないため、電流が生む垂直磁場や変換磁場の制御が不要であり、磁場配位がほぼ静的に決まる。このため、例えば密度極限や平衡安定性(メルシエ安定性など)の研究では、コリジョナリティやブートストラップ電流 の効果を系統的に掃くような実験が可能であり、電流駆動 が本質的なトカマクではやりにくい系統的なパラメータ掃引が LHD の強みとなっている。実際、平衡におけるブートストラップ電流がメルシエ安定性に与える影響の衝突周波数依存性など、電流が小さいことに由来する固有の物理課題が研究されてきた。
超伝導磁石系 LHD の技術的亮点は、大型超伝導磁石システム の実現にある。ヘリオトロン 型では、磁場を生み出すコイル自体が複雑な三次元形状をしているため、常伝導コイルでは消費電力が膨大になり、定常運転の実証という目的に合わない。このため LHD は、建設時点で世界最大級の超伝導ヘリカルコイル(l=2/m=10)を含む超伝導磁石システムを採用した。具体的には、一対のヘリカルコイルに加え、三組(計五つ)の超伝導ポロイダルコイルを備え、全体の蓄積エネルギーは 1.6 GJ に達する。ヘリカルコイル電流は設計値で 7.8 kA 級であり、これらのコイル電流比を変えることで前述の磁軸移動を実現する。
超伝導化にあたっての主要な技術課題は、巨大な電磁力に耐えるコイル支持構造、極低温環境の維持、そして急速な励磁・消磁の制御にある。直流電源 システムは、各コイル電流を精密かつ安全に制御するよう設計されており、クエンチ(超伝導状態の喪失)を避けながら目標磁場まで立ち上げる運転が日常的に行われている。この大型超伝導ヘリカル磁石の技術的成立は、後に建設された他の超伝導ヘリカル装置 (例えばヴェンデュラシュタイン 7-X など)への道を開いた点でも意義が大きい。
ヘリカルダイバータと端部制御 LHD の端部構造の特徴は、閉じた(closed)ヘリカルダイバータ を備える点にある。ヘリカルコイルが生む磁場のわずかな外側の層で磁力線が確率的(stochastic)にふるまう領域、いわゆるエッジ表面層が自然に形成され、プラズマ表面付近の磁力線がこの層を通ってダイバータ板(divertor plate)へと導かれる。この三次元的で複雑な磁気構造は一見閉じ込めを損ないそうに見えるが、実際にはダイバータ機能を妨げないことが建設前の詳細な検討で示されており、むしろエッジ制御の強力な手段として機能している。
図は、リトラクタブル・マニピュレータを用いて LHD のダイバータレッグ(divertor leg)位置にタングステン 試料を曝露する実験の様子を示したもので、(c) に見えるようにダイバータレッグ(divertor leg)、SOL 、プライベートフラックス(private flux)領域の位置関係と、ヘリカルコイル・真空容器 に対するそれらの配置が分かる。
端部制御の具体的手法としては、ローカルアイランドダイバータ(local island divertor)が挙げられる。これは、外部コイルで共鳴摂動磁場を印加してプラズマ端に意図的に磁気アイランドを作り、そのアイランドの O 点に小型の粒子排気板を置くことで、粒子・熱流を局所的に排出する方式である。これは前述の磁気アイランドを「欠点」から「制御手段」へ転換した例であり、不純物 蓄積の抑制にも有効であることが示されている。このほか、三次元端部構造のモデル化(EMC3-EIRENE などのシミュレーション)によって、確率的(stochastic)層の厚さがエッジプラズマおよび不純物輸送 に与える影響が調べられ、端部の制御性がコアプラズマ性能に波及する経路が定量的に理解されつつある。
加熱系と計測
LHD の加熱は、電子サイクロトロン加熱 (ECH)、中性粒子ビーム入射(NBI )、および高周波加熱(ICRF )の三本柱である。ECH は低密度プラズマ の生成と加熱の両方に使える万能な手段であり、長パルス放電の主役でもある。NBI は図 1 に示したように複数のビームラインからプラズマ中心へ高エネルギー中性粒子を注入する主力加熱であり、正接(tangential)入射と垂直入射の両方が使える。
図は LHD の NBI システムの俯瞰図であり、5 台のビームラインの配置と、それぞれのビームエネルギー(50–170 keV)およびポート通過出力(約 2–6 MW)が示されている。ICRF は高投入密度・長パルス加熱の要であり、LHD ではポロイダルアレイ(PA)、ハンドシェイク型(HAS)、さらに磁場整合インピーダンス変成器付き(FAIT)という複数形式のアンテナが開発・運用されてきた。長パルス運転では、急激なエッジ密度変化に対してアンテナの負荷整合が崩れて反射が増大する問題が常につきまとい、これに対して in-vessel / ex-vessel インピーダンス変成器や、負荷変動に本質的に強い conjugate-T 回路の設計などが進められている。
計測面では、バルマーα線(Balmer-α)の高ダイナミックレンジ分光による中性水素輸送の研究、可視領域の禁制遷移線を用いたコア部タングステン 密度の定量、また重水素 運転開始(2017 年)に伴う中性子計測系の整備など、広範な診断が展開されている。さらに、リトラクタブル・マニピュレータによる第一壁 ・ダイバータ (divertor)位置への試料曝露実験が可能な点は LHD 特有の強みであり、プラズマ対壁材料相互作用の研究に幅広く活用されている。
プラズマ性能と長パルス運転
LHD は超伝導装置としての本領を発揮し、長パルス・高密度運転の実績を積み重ねてきた。エネルギー閉じ込め 時間は短パルス放電と遜色ない水準で長時間維持され、他装置での実績を上回る高性能プラズマの長時間維持が実証されており、ICRF 加熱を主軸とした長パルス運転では、装置への総注入エネルギーとして 3.36 GJ という世界記録が達成されている。長パルス運転はまた、短パルスでは見えない現象を露呈させた。水素放電の狭い密度帯域(2–3×10^19 m^-3)での金属不純物 の自発的蓄積がその例であり、能動的な不純物ペレット注入による輸送計測によって、この密度帯域で内側への対流(inward convection)が働いていることが確認された。この蓄積は、エッジに外部誘起の磁気アイランドを作ることで制御できることも示され、端部制御とコア不純物輸送 が結びついた好例となっている。
輸送障壁 の形成も LHD 研究の重要な主題である。イオン内部輸送障壁 (ion internal transport barrier)の形成されたプラズマでは、運動量輸送 の非対角項に由来する自発的なトロイダル回転 が観測され、電流で駆動されるトカマクとは異なる機構の回転生成が示された。また中空密度分布 を伴うプラズマでは不純物輸送障壁(impurity hole)の形成が見られ、不純物が中心に蓄積しにくい定常運転のシナリオとして注目されてきた。さらに、ペレット注入による運転領域の拡大や、電子温度勾配 を変えた電子スケール乱流の研究、TAE (Alfvén 固有モード)による高速イオン損失 の定量評価など、閉じ込めの微視的物理から高速イオン物理まで幅広い研究が行われている。重水素 運転の開始以降は、NBI 出力の増大に伴う高速イオン閉じ込めの劣化が中性子計測によって定量化されるなど、炉心プラズマに近い条件下での閉じ込め物理の検証が進められている。
これらの成果は、プラズマ電流を必要としないヘリカル方式が、定常運転と高閉じ込めを両立しうることを実証してきた経緯を示すものであり、LHD で確立された物理と技術は、現在運転中または建設中のヘリカル装置 、ひいては核融合炉の設計に引き継がれている。
LHDの研究史 — FusionPapers