Wiki / 装置 超伝導磁石 Superconducting magnet
超伝導磁石 (Superconducting magnet、superconducting magnets)は、核融合・プラズマ物理学の装置。液体ヘリウム温度などの極低温で抵抗零となる超伝導線材を用いて強磁場を発生する装置で、トカマクやヘリカル型核融合装置のプラズマ閉じ込め磁場コイルとして不可欠である。定常運転を可能にし、核融合炉の実現に向けた主要機器となっている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは100本ある。比重が最も大きかったのは1990–1994年で、その期間の論文の0.44%を占めた。直近の2025–2029年では0.26%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 関連項目 6 この数字の作り方 解説 超伝導磁石は、超伝導線材を巻いて作ったコイルに大電流を流し、抵抗ゼロで強い磁場を持続的に発生する装置である。核融合研究では、プラズマを磁場で閉じ込めるための磁場源として不可欠であり、トカマクやステラレータ の主要機器の一つとなっている。常伝導の銅コイルではジュール発熱のため数テスラ級の磁場を長時間維持できないのに対し、超伝導コイルは冷却さえ続ければ定常運転が可能で、これが定常状態 プラズマ研究を目的とする装置で超伝導が選ばれる根本理由である。図は、トカマクの超伝導磁石システム が装置全体でどのように構成されるかを示したものである。
fig.1 Performance of the JT-60SA superconducting magnet system during integrated commissioning (2026) · CC BY 4.0
The schematic view of the JT-60SA magnet system and the related equipment.
図には、中央ソレノイド、平衡磁場コイル、トロイダル磁場コイル からなるコイル群が、熱シールド とクライオスタット(真空容器 )に囲まれて収められた様子が描かれている。以下、核融合装置における超伝導磁石の役割、システム構成、導体と材料、低温・構造上の課題、そしてクエンチと保護について述べる。
核融合装置における役割
磁気閉じ込め核融合では、高温プラズマを磁場の力で閉じ込める。必要な磁場強度は数テスラ程度であり、プラズマの閉じ込め性能は磁場の4乗に比例して向上するため、磁場をいかに高く、いかに長く維持できるかが装置の性能を直接左右する。常伝導磁石では消費電力と発熱が膨大になるため、大型装置で持続的な運転を行うには超伝導が必須となる。
実際、定常運転を目的とする大型装置では超伝導磁石が標準となっている。韓国の は16基のトロイダル磁場(TF)コイルと14基の極向き磁場(PF)コイル(うち8基が中央ソレノイド)で構成され、プラズマ中心で3.5 Tの磁場を発生する。日本の はTFコイル18基、中央ソレノイド4モジュール、平衡磁場(EF)コイル6基の完全超伝導システムであり、TFコイルは定格電流25.7 kAで運転された。国際協力による では、TF導体の25%、TFコイル巻線の約半分、TFコイル構造物の全部、中央ソレノイド導体の全部を日本が調達することになっており、産業レベルでの導体製作と性能実証、巻線と構造物の製作技術開発が進められている。
超伝導化の利点は電力の節約だけではない。TFコイルを細身にできれば、プラズマ計測のための大口径ポートを確保できる。JT-60SAでは、ケーシングから分離した新しい外側コイル間構造を採用することでTFコイルを細くし、計測ポートの空間を広げた。また、プラズマの形状・位置制御の精度はEFコイルの製作誤差に敏感であるため、誤差を最小化する製造法が確立されている。中央ソレノイドでは、限られた空間を有効に使うためのコンパクトな突き合わせ継手が開発され、プラズマパルスの持続時間の延長に寄与している。
磁石システムの構成 トカマクの超伝導磁石システム は、機能の異なる三種類のコイルから構成される。TFコイルはドーナツ状に並んでトロイダル(環向)磁場を発生し、プラズマ閉じ込め の主磁場を担う。中央ソレノイドは装置中心軸上に積まれたコイル群で、プラズマ電流を誘起するための磁束スイングを供給する。KSTAR のPFシステムが17 V·sの磁束スイングを持つように、この能力がパルス運転の規模を決める。EFコイルはプラズマの位置と形状を制御する平衡磁場を生む。ステラレータ では、回転変換を外部コイルだけで作るため、コイル自体が三次元的に複雑な非平面形状を持ち、これが設計・製作の最大の難所となる。
コイル設計は、まず目的のプラズマ平衡 を最適化し、次にその磁場を実現するコイル形状を求めるという二段階で進められる。古典的な手法では指定した巻線面上の表面電流を計算してコイルに離散化するが、巻線面を先に決める制約が解の自由度を狭める。このため、コイルを三次元曲線として直接表現し、巻線面なしで最適化する手法が開発された。さらに高温超伝導(HTS )材では、テープ面に垂直な磁場に弱い異方性や、曲げ・ねじり歪みの制限といった新たな制約が加わるため、臨界電流の歪み依存性や電磁力の制限を最適化に組み込んだ設計コードが提案されている。図は、そのような最適化で得られた非平面コイルの三次元形状と、コイル上の磁場強度分布を示したものである。
図の左は、回転角ゼロで設計したコイル群と、最大歪み0.4%に抑えるよう最適化したコイル群を内側から見た比較であり、右は最適化後のコイル上の磁場強度分布(約0.1 Tから約4.1 T)を色で表したものである。このように、物理的要件(磁場品質)と工学的制約(歪み、電磁力、製作可能性)を同時に満たすことが現代のコイル設計の核心である。
導体、超伝導材料、絶縁
核融合磁石の導体には、冷却剤の流路を含むケーブルを金属鞘に収めた導体が広く用いられる。代表例が、内部冷却型ケーブル・イン・コンジット導体(CICC)であり、KSTAR のTF・PFコイルの双方に採用されている。CICCは超伝導ストランドの束をジャケット内に収め、その隙間に液体ヘリウム を流すことで、大電流容量と強制冷却、そして高い機械強度を同時に実現する。ロシアでも大型超伝導磁石の強制流冷却の研究が進められてきた。
超伝導材料としては、液体ヘリウム温度で動作する低温超伝導(LTS)材、代表的にはニオブチタンとニオブスズ (Nb₃Sn)が成熟しており、LHD 、W7-X 、KSTAR、ITER など多くの装置で実績がある。Nb₃Snは歪みに敏感な材料であり、KSTARでは2008年からの長期運転後にもNb₃Sn磁石の特性が評価されている。一方、希土類バリウム銅酸化物(ReBCO)に代表されるHTS 材は、臨界温度が高く、はるかに高い電流密度と磁場に耐えられる。核融合出力が主要半径の3乗と磁場の4乗に比例することを考えると、高磁場化は装置を小型化し建設費を下げる道であり、HTSは将来のステラレータ にとって魅力的な選択肢となる。ただしReBCOはテープ状の材料で、テープ面に垂直な磁場には弱く、テープ面に平行な軸での曲げ(いわゆる「ハードウェイ」曲げ)への耐性も低い。このため、巻き角度の最適化、テープの向きの制御、コイルの従法線曲率とねじれへの制約など、HTS特有の設計指標が必要となる。また、機械的に継いだHTSコイルの提案のように、リード接続の工夫も研究されている。
コイルを覆う電気絶縁材も重要な要素である。絶縁はガラス繊維強化プラスチックが主流だが、核融合環境では中性子やガンマ線による放射線損傷に耐える必要がある。このため、シアネート系樹脂を用いた高耐放射線ガラス繊維強化プラスチックの開発や、シアネートエステル/エポキシ絶縁材へのガンマ線照射の影響評価が行われてきた。JT-60SA では、運転初期にEF1コイルの端子部で電気アークが発生し、コイル端子、給電配管、高温超伝導電流リードの絶縁補強が大規模に行われた。図は、その際の絶縁強化の対象と施工例を示したものである。
図の(a)はEFコイルの絶縁強化の対象箇所(ヘリウム入口とパンケーキ継手)を示し、(b)はヘリウム入口とパンケーキ継手カバーに対して充填樹脂で絶縁を補強した施工前後の写真である。絶縁不良はアーク放電という装置全体の停止につながる重大事象であり、絶縁施工後にはクライオスタット内の真空度を変えてパッシェン試験(放電が生じないことを確認する試験)を繰り返し実施して健全性を検証した。
低温、構造、機械・電磁負荷
超伝導磁石は極低温に保たれて初めて機能する。JT-60SA では、コイル群は熱シールド に囲まれ、クライオスタット内に収められ、コイル端子箱、バルブ箱、冷媒配管を通じて冷凍システムからヘリウム 冷媒が供給される。2020年10月に始まった初回冷却運転により、システム全体が極低温まで冷却された。冷却に伴う不均一な温度分布は熱応力を生むため、支持構造はこれに耐える必要がある。
電磁力の問題はより深刻である。数テスラの磁場と数万アンペアの電流が共存するコイルには、巨大な電磁力が働く。TFコイル同士は互いに引き合う方向の力を受け、コイル内部では導体を押しつぶす力が生じる。これらの力はコイル・ケーシング・コイル間構造物を通じて伝達されるため、TFコイルの構造物やコイル間構造の設計は磁石システム 設計の中心課題である。ITER のTFコイル構造物の全規模試作や構造材料データベースの整備、溶接手順の確立が技術開発の項目に挙げられているのはこのためである。コイルを複合梁としてモデル化して機械解析を行う研究も行われている。支持構造は、コイルの自重(ITERのTFコイルで約330トン)、冷却時の熱応力、放電時の電磁力、緊急時のコイル落下の衝撃荷重に加え、外部からの熱侵入を抑える断熱性能と、試験中に発生する渦電流 による熱負荷 を排出する能力を兼ね備えなければならない。図は、大型超伝導コイルの性能試験装置における支持構造の配置と内部構造を示したものである。
図の(a)は試験ベンチ内でのTFコイルとPF1コイルの支持配置を、(b)は二種類の支持構造の内部構造(上部接続板、G10板、4Kコールド板、底部支持、埋め込み板)を示す。断熱と冷却、電磁両立性、構造健全性の検証を統合的に設計する手法は、大型磁石システムではまだ確立された基準がなく、個別に検証が進められているのが実情である。
クエンチ、保護、運転性能
超伝導状態が失われて導体が抵抗を持つようになる現象がクエンチである。磁場・電流・温度・歪みのいずれかが臨界値を超えると局所的に超伝導が破れ、そこで発生するジュール熱が周囲に伝わってコイル全体の超伝導状態が崩壊する。大電流を流す巨大コイルでは、クエンチ時に蓄えられた巨大な電磁エネルギーを安全に放出しなければコイルが焼損するため、クエンチ検出とエネルギー抽出のための保護システム、および大電流電源 の設計が不可欠である。エネルギー貯蔵を組み込んだパルス用電源トポロジーの研究や、LHD やW7-X 向けの電源システムの設計・最終試験が行われてきたのはこのためである。トカマクでは、プラズマのディスラプション(急速な電流消失)時にプラズマ電流の急変がコイルに過渡的な電磁力や熱負荷 を与えるため、その影響評価も重要な設計課題である。
運転性能の検証は、コイル単体およびシステム全体の受入試験と統合試運転を通じて行われる。W7-Xでは超伝導磁石の受入試験の総括が行われ、JT-60SA では統合試運転においてTFコイルが定格電流25.7 kAで数時間連続運転され、PFコイルは個別に10 kAまで、プラズマ運転中は5 kAの組み合わせ運転まで達成された。その後の運転計画では、プラズマ電流5.5 MAを目標にPFコイルの定格20 kA運転が必要とされており、装置の安全性向上策が進められている。コイルの健全性監視には超音波を用いる手法の研究もあり、運転中の磁石状態診断の手段が広がりつつある。大型超伝導磁石の統合設計と性能評価については確立した設計基準がまだ整備途上であり、ITER やJT-60SAでの経験が後続装置の設計基準を形作っている段階である。
超伝導磁石(Superconducting magnet)の研究史 — FusionPapers