高温超伝導体(High-temperature superconductor、HTS、high temperature superconductor)は、核融合・プラズマ物理学の材料。液体ヘリウム温度を超える比較的高い温度で超伝導を示す材料であり、REBCOやBSCCOなどの酸化物超伝導体を指す。核融合炉では強磁場磁石に用いることで装置の小型化や高磁場化を可能にし、従来の低温超伝導体では到達できない20テスラ超の磁場生成を実現する。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは45本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.16%を占めた。直近の2025–2029年では0.08%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2000年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
高温超伝導体(HTS)とは、臨界温度が液体ヘリウムの沸点(4.2 K)を大きく上回る、銅酸化物系の超伝導材料の総称である。ビスマス系(BSCCO、Bi₂Sr₂Caₙ₋₁CuₙOᵧ)と希土類系(REBCO、ReBa₂Cu₃O₇₋ₓ)が代表的で、液体窒素の温度(77 K)でさえ超伝導を保つものがある。核融合研究においてHTSが決定的に重要なのは、臨界温度だけでなく、従来の低温超伝導体(LTS、Nb₃SnやNbTi)よりはるかに強い磁場中でも高い臨界電流密度を維持できるためである。トカマクやステラレータの核融合出力は磁場の4乗にほぼ比例するため、18〜20 Tを超える磁場を生み出せるHTSは、装置を小型化し建設費を下げる「実現を可能にする技術(enabling technology)」と位置づけられている。HTSは一般に薄いテープ(幅数mm、厚み0.1 mm程度)の形で製造され、その機械的・電磁的特性が導体・コイル設計のすべてを支配する。テープに加わる三つの基本的な変形、すなわち厚み方向への曲げ(easy-way bending)、幅方向への曲げ(ハードウェイ曲げ、hard-way bending)、中心線まわりのねじれを模式的に示したのが次の図である。

fig.2 FOCUS-HTS: a new stellarator coil design code for three-dimensional high-temperature superconducting magnets (2025) · CC BY 4.0
Schematic diagrams of three types of strain. (a) The easy-way bending where the HTS tape bends in the thickness direction; (b) The hard-way bending where the HTS tape bends in the width direction; (c) the twist strain where the HTS tape twists along the central filament. Blue and red colors indicate the degree of compression and tension, both of which are considered as strains. (For better visualization, the thickness of the tape has been increased.).
図に見えるように、テープは厚み方向には容易に曲がるが、幅方向に曲げたりねじったりすると表面に大きな引張・圧縮ひずみが生じ、超伝導特性が劣化する。この非対称性が、後述するコイル設計上の制約の源となる。
材料とテープ構造
核融合用に実用化されているHTSは大きく三つある。第一世代のBi-2223/Bi-2212系テープは銀シース中に超伝導相を含み、比較的円形断面の線材に加工しやすい。Bi-2212はワイヤ形状にできる唯一のHTSであり、ラピッド熱処理によってもたらされるが、大型コイルに必要な高圧下での一括熱処理が課題とされる。第二世代のREBCOテープは、柔軟な金属基板上に希土類バリウム銅酸化物の薄膜を成長させた多層構造を持ち、単結晶に近い性能で高磁場中の臨界電流が最も高い。ただし電流はテープ面内の薄い層を流れるため、性質が強く異方性である。
テープの製造は現在では量産段階に達しており、長尺一様性も大きく改善した。一方、Bi-2212は高圧・大容量の熱処理炉が必要であり、REBCOは基板・中間層・超伝導層・安定化銅という積層構造ゆえに、接合や機械強度の面でLTS線材とは異なる取り扱いを要する。材料の選択は、求められる磁場、コイル形状、冷却方式に応じて行われ、単一の材料で全系を構成するのではなく、HTSとNb₃Sn・NbTiを組み合わせたハイブリッド設計(例えば中央ソレノイドの内側だけをHTSとする構成)も現実的な選択肢として検討されている。
臨界電流、異方性とひずみ限界
HTSの性能は臨界温度・臨界磁場・臨界電流密度の三つの臨界値で決まるが、実用上はこれらが互いに絡み合う。臨界電流は磁場の向きに強く依存する。テープ面に平行な磁場では高い臨界電流を保つが、面に垂直な磁場(いわゆる面直方向)では臨界電流が急激に低下する。トーラス状のコイルでは、テープの向きと局所磁場の向きの関係がコイル周上で変化するため、この異方性を設計に織り込む必要がある。ステラレータの非平面コイルのように三次元的にねじれたコイルでは特に深刻であり、テープの向き(トラック方向)を最適化して臨界電流の角度依存性を緩和する試みが行われている。
機械的ひずみも臨界電流を直接変化させる。REBCOは軸方向引張ひずみに対してある程度強いが、前述のハードウェイ曲げやねじれには弱く、コイルを巻く際の曲率半径やピッチに下限を課す。このため、HTSコイルの設計では、ひずみ限界(例えば最大0.4%程度のひずみを許容値とする最適化)、電磁力による応力、臨界電流のひずみ・角度依存性を、プラズマ物理の要求と同時に満たすようなコイル形状最適化が行われている。さらに、磁束の急な変化やテープの積層構造に起因して、超伝導層に誘導される遮蔽電流が自発磁場を生み、臨界電流を実効的に下げたりコイル磁場の精度を損なったりする。積層ストランドや準等方(quasi-isotropic)ストランドにおける遮蔽電流の分布と誘導磁場の評価は、HTS導体開発の中心的な研究課題である。
大電流ケーブル・導体の概念
単体のテープが運べる電流は数百アンペア程度であり、核融合磁石に必要な数万〜10万アンペア級の電流を得るには、多数のテープを束ねて大電流導体に組み上げる必要がある。ここで本質的な困難は、テープを曲げたりねじったりすると性能が劣化すること、そして電磁力がテープ一つあたりに大きな横方向荷重としてかかることである。このため多様な導体概念が提案されている。
一つの代表例は「はんだ付けされたねじり積層体(soldered, twisted stacks)」の考え方で、テープを数枚ずつ積層したスタックをねじって細長い導体とし、必要本数を中空の平角ケーブルに組み、超臨界ヘリウムを強制流動させて冷却する。この方式で60 kA級・12 T級のプロトタイプ導体が試作・試験されている。別の方式として、テープをらせん状に巻いて円形断面に再構成するクロコ(CroCo)型導体があり、量産性と機械的安定性を両立する設計が進められている。また、テープを異なる向きに配置して面直磁場への感受性を均す準等方ストランドや、単純に積層したストランドも研究されており、これらの間では遮蔽電流の振る舞いが系統的に比較されている。さらに、繰り返し荷重下でのストランドの性能劣化(サイクル効果)や、LTSとHTSを組み合わせたハイブリッド導体の安定性評価も、導体が磁石に組み込まれる前に確認すべき項目である。
核融合装置用HTS磁石
HTS磁石の最大の利点は、高出力・高磁場の磁石を従来より小型の装置で実現できることにある。トカマクのトロイダル場コイルをHTSで設計した研究では、発電コストや装置規模に与える影響が定量的に評価されており、トロイダル場・ポロイダル場系全体をLTS・ハイブリッド・HTSの選択肢で最適化する設計手法も開発されている。中央ソレノイドでは、内側の高磁場部のみをHTSとし外側をNb₃Sn・NbTiとするハイブリッド設計が、最大磁束生成の観点から最適化されている。
ステラレータでは、コイルが本質的に三次元的で非平面であるため、HTSテープの曲げ・ねじれ制約がトカマク以上に厳しい。このため、コイル形状の最適化コードにHTS固有の制約(ひずみ限界、電磁力限界、異方性を考慮した臨界電流)を組み込む研究が進んでいる。非平面REBCOコイルの実例として、VIPER型ケーブルを用いた非平面コイルの設計・製作・試験が行われており、テープの巻き角度を最適化してひずみを抑える手法も示されている。次の図は、そのようなHTS制約を組み込んだコイル最適化の一例として、ひずみ制約の有無で得られた非平面コイル群の三次元形状と、コイル上の磁場強度分布を示したものである。

fig.6 FOCUS-HTS: a new stellarator coil design code for three-dimensional high-temperature superconducting magnets (2025) · CC BY 4.0
3D views of the optimized coils. (a) Comparisons between Opt1 (gray) and Opt2 (blue) coils viewed from the inboard perspective. Zero rotation angles are applied to Opt1 coils, while Opt2 coils are optimized to have a maximum strain of 0.4%. (b) Opt2 coils viewed from the outboard and inboard perspectives. The colorbar is for the magnetic field strength (\|\textbf{B}_\text{coil}\|) on coils.
図の左では回転角を与えない最適解と最大ひずみ0.4%を課した最適解が重ねて比較され、右では最適化後のコイル上の磁場強度が色で示されている(約0.08 Tから約4.1 Tの範囲)。このように、HTSの制約を満たしつつ所定の磁場を再現するコイル形状を求めることが、ステラレータ設計の新しい標準的な手順になりつつある。
もう一つのHTS固有の可能性は、分割組み替え可能(demountable)なコイルである。LTS磁石では接合部を磁石内部に作れないためトロイダル場コイルは一体構造となり、保守・交換が困難である。HTSテープなら超伝導接合を常温側で行えるため、コイルを分割して組み立て、必要に応じて解体できる巻線パック(winding pack)の実現が目指されている。これに付随して、分割されたコイルセグメント間の電気接続の最適化や、組み替え可能磁石の基礎研究が進められている。
電流リード、クエンチ保護と残された課題
HTSが最も早く実用化されたのは、実は磁石本体ではなく電流リードである。電流リードは常温の電源と極低温の磁石を接続する部品で、HTSを使うと熱伝導による侵入熱を大幅に減らせる。ITERのトロイダル場コイル向けには68 kA級のHTS電流リードが開発され、試作から量産・試験まで進んだ。Wendelstein 7-XでもHTS電流リードの量産・試験が行われ、熱交換器の流動解析やテープ・スタックの熱伝導率測定といった周辺技術の整備が進んだ。CFETR向けの100 kA級電流リードの安全解析など、より大電流への拡張も研究されている。Bi-2212バルク管を拡散接合で作り電流リードに用いる試みもある。
一方、磁石本体への適用には依然として解決すべき課題が残る。最大のものはクエンチ保護である。HTSは安定化銅の量が相対的に少なく、常伝導転移後の温度上昇が速く、しかも転移の検出がLTSより難しい。大型磁石では、クエンチ時に蓄えられた巨大な電磁エネルギーをどう安全に放出するかが、設計を左右する未解決の問題である。次に、大電流HTSケーブルの産業的な量産・品質保証、繰り返し電磁力に対する長期信頼性、そして中性子・ガンマ線環境下での性能と寿命への影響が挙げられる。核融合環境での照射は絶縁材料や超伝導特性を劣化させる可能性があり、遮蔽を減らして装置を小型化するというHTSの利点を活かすには、この耐環境性の評価が不可欠である。これらの課題は、堅牢な大電流ケーブルの量産、大型磁石のクエンチ保護、分割組み替え可能コイルの工学実証という中期的な技術目標として整理されており、HTS磁石が次世代核融合装置の標準となるかどうかは、これらの実証にかかっている。
この解説が根拠にした論文から
- High temperature superconductors for fusion magnetsNuclear Fusion 2018
- High temperature superconductors for fusion at the Swiss Plasma CenterNuclear Fusion 2017
- Options for the use of high temperature superconductor in tokamak fusion reactor designsFusion Engineering and Design 2001
- FOCUS-HTS: a new stellarator coil design code for three-dimensional high-temperature superconducting magnetsNuclear Fusion 2025
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推移
研究の変遷
1995–20042本 · 0.02%
トカマク核融合炉への応用検討
この時代の論文は、高温超伝導体をトカマク核融合炉に応用する可能性を検討している。ITERのトロイダル磁場コイル向けの60kA級電流リードの開発プログラムが報告され、炉設計における選択肢として論じられている。
同時に語られた主題トロイダル磁場コイル
この時代の論文から
- Options for the use of high temperature superconductor in tokamak fusion reactor designsFusion Engineering and Design 2001
- Development program of a 60 kA high temperature superconductor current lead for the ITER toroidal field coilsFusion Engineering and Design 2001
2005–201420本 · 0.13%
核融合装置への応用拡大と基礎特性の研究
高温超伝導体の核融合装置への応用が、iter、wendelstein-7x、jt-60sa、eastなど多様な装置に向けて拡大した。熱伝導率、磁石システム、計算流体力学と並んで、安定性・クエンチ解析、Bi2212バルク管、HTSコイルの永続電流動作などが研究されている。
この時代の論文から
- High temperature superconductors for the ITER magnet system and beyondFusion Engineering and Design 2005
- Potential and desire for HTS application in thermonuclear fusionFusion Engineering and Design 2006
- Analysis of stability and quench in HTS devices—New approachesFusion Engineering and Design 2006
- Bi2212 HTS bulk tubes prepared by the diffusion process for current lead applicationFusion Engineering and Design 2006
2015–202623本 · 0.09%
核融合磁石システムへの実用化研究
この時代の論文は、高温超伝導体を核融合磁石システムに適用するための実用化研究に焦点を当てている。Niobium-tinと並んで、jt-60saやiter向けの磁石、EU-DEMO TF磁石用ケーブル、KITにおける大電力電流リードなどが報告され、サイクリック負荷効果も調べられている。
この記述以降に論文が追加されている
この時代の論文から
- High temperature superconductors for fusion magnetsNuclear Fusion 2018
- High temperature superconductors for fusion at the Swiss Plasma CenterNuclear Fusion 2017
- Cyclic load effect on round strands made by twisted stacks of HTS tapesFusion Engineering and Design 2017
- High temperature superconductor cables for EU-DEMO TF-magnetsFusion Engineering and Design 2017
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(High-temperature superconductor、HTS、high temperature superconductor など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文5本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、4本の論文(うち全文1本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
