図は、実験で観測された周波数(赤の破線)と、各ポロイダルモード番号mに対応するアルフヴェン連続スペクトル(青の点群、円筒極限では色付きの破線)を半径位置に対して示したものである。隣り合うmの連続スペクトルが交差する位置で周波数ギャップ(TAE gap)が開いており、TAEはこのギャップ内に固有周波数を持つことが読み取れる。
アルフヴェン連続スペクトルと環向性ギャップ
シア・アルフヴェン波の局所周波数は、磁場強度とプラズマ密度から決まるアルフヴェン速度を磁力線に沿って積分した値で与えられる。トカマクでは磁場強度と密度が空間的に不均一であるため、この周波数は半径方向に連続的な分布、すなわちアルフヴェン連続スペクトルを形成する。連続スペクトル中の周波数を持つ擾動は、空間的に局在した小スケール構造へのモード変換を通じて、主に電子によるランダウ減衰を受けて消えてしまう。これが連続スペクトル減衰であり、固有モードが存在するには連続スペクトルから切り離された周波数領域が必要になる。
環状配位では、ポロイダル方向の非対称性、すなわち環向性がこの条件を満たす。ポロイダルモード番号mとm+1に対応する二つの連続スペクトルの枝は、環向性による周波数変調のために交差点で実際には交わらず、互いに反発し合う。その結果、交差点を挟んで幅を持つ周波数ギャップが開き、この「環向性ギャップ」の中にのみ離散的な固有モードTAEが存在できる。ギャップ幅は逆アスペクト比(環向性の強さ)で概ね決まり、周波数はアルフヴェン速度と安全因子qを用いて f = v_A/(4πqR₀) の程度、実際の装置では数百kHzとなる。TAEの空間構造は、mとm+1のポロイダル調和がほぼ等しい割合で結合した二重構造を特徴とし、これがギャップ内の定在波を形作る。図は、m/n = 2/1 と 3/1 の調和からなるTAEの周波数と、それぞれの調和の振幅の半径分布を示したもので、二つのポロイダル調和が同程度の大きさで結合している様子が分かる。
図の左パネルはTAEの周波数(青)とアルフヴェン連続スペクトル(黒)、円筒極限の連続スペクトル(赤)を、中央と右のパネルはm = 2 と m = 3 の調和の振幅の半径分布を示す。ギャップの上側と下側に周波数を持つ二つのモードが描かれており、いずれも二つのポロイダル調和が結合した構造を持つことが分かる。
理論的には、一般化フィッシュボーン型分散関係(GFLDR)が、TAEを含む広い空間・時間スケールのシア・アルフヴェン波揺らぎを統一的に記述する枠組みとして確立されており、現実的な装置配位での固有値計算は、ポロイダル方向のフーリエ展開と半径方向の離散化を組み合わせた数値コード、あるいはバルーニング表現を用いた手法によって行われている。
高エネルギー粒子による駆動と共鳴
TAEが実際に問題になるのは、高エネルギー粒子(EP)の存在下で不安定化する場合である。中性ビーム入射(NBI)やイオンサイクロトロン共鳴加熱(ICRH)で生成される高速イオン、電子サイクロトロン共鳴加熱(ECRH)で生成される高エネルギー電子、そして重水素・三重水素プラズマでは核融合反応で生じるアルファ粒子が駆動源となりうる。これらの粒子はアルフヴェン速度に匹敵する速度を持つため、波と効率よくエネルギーを交換できる。
駆動の条件は波・粒子共鳴で決まる。粒子が磁力線に沿ってバウンス運動しながら環方向にドリフトする際の、バウンス平均された環方向・ポロイダル方向の周波数が、モード周波数と整数倍の関係を満たすとき、粒子は位相を保ったまま波にエネルギーを与え続ける。通過粒子がTAEと共鳴する場合、共鳴条件は平行速度 v∥ = v_A/|2(m+p)+1| の形に書ける。ここでpは電力移動のフーリエ成分を区別する整数である。巨視的には、不安定化の条件はモード周波数が高エネルギー粒子の反磁性ドリフト周波数のn倍を下回ること、すなわち nω* > ω として表され、駆動の自由エネルギー源は高エネルギー粒子圧力の半径方向勾配である。
駆動源の速度分布の形が安定性を左右する点も重要である。核融合で生じるアルファ粒子はピッチ角に関して等方的に生成されるのに対し、NBIやICRHで入射される粒子は運動量の方向が偏った狭い分布を占める。この違いは共鳴する粒子の位相空間領域を大きく変えるため、外部加熱による観測結果をそのままアルファ粒子駆動のTAEに外挿することはできない。また、通常は圧力勾配が負(中心で高い)の高速イオンが駆動するTAEはプラズマ電流と同じ方向に回転するが、分布が逆の半径分布を持つ領域では電流と逆向きに回転する逆伝搬TAEが現れうる。TFTRやJT-60U、NSTX-Uなどでこの逆伝搬モードが観測されており、モード回転方向は駆動機構を診断する手がかりとなる。
減衰チャネルと安定性しきい値
ギャップ内にあるTAEは連続スペクトル減衰からは免れるが、完全に減衰がないわけではない。まず、ギャップが閉じる領域(例えばプラズマ端でqの変化によりギャップ幅が消える場所)にモード構造が及ぶと、そこを通じた連続スペクトル減衰を受ける。この減衰はプラズマ断面形状、特にエッジのエロンゲーションに敏感であることが実験で示されている。さらに、イオン・電子ランダウ減衰、有限ラーモア半径や軌道幅に起因する運動論的減衰、そして相対論的・熱運動に由来する放射減衰が競合する。低アスペクト比で高ベータの球状トカマクではベータの増大に伴いランダウ減衰が強まることが予測されており、減衰機構ごとのエネルギー移動の違いを利用して各チャネルを個別に定量する診断手法がシミュレーション中で開発されている。
TAEが不安定化するか否かは、これらの減衰率の総和と高エネルギー粒子による成長率の競合で決まる。しきい値はq分布の形やイオン温度、高エネルギー粒子分布の異方性などに依存し、q分布やイオン温度を制御してアルファ粒子駆動TAEのしきい値を上げる戦略が理論的に検討されている。線形の安定性評価では、モンテカルロコードで生成した高解像度の高速イオン分布関数をそのまま用いる手法が近年可能になり、捕獲・通過境界やビーム入射エネルギーの離散構造など、分布関数の細かい特徴が安定性に決定的な影響を与えることが分かってきた。
高速イオン輸送と炉への帰結
TAEが不安定化すると、共鳴する高速イオンの軌道が攪乱され、閉じ込めが劣化する。単一モードの段階では粒子の再分布が主であるが、複数のTAEが同時に成長して共鳴領域が重なり合うと、粒子の拡散が確率的(ストカスティック)になり、輸送が急増する。この「TAEの海」の状態では、モードの周波数チャープ(掃引)やアバランシェ的なモード爆発が観測され、中性ビームイオンが一斉に非閉じ込め軌道へ移行して損失する現象がNSTXなどで報告されている。共鳴重複のしきい値を記述する簡約モデルの構築も進められている。
炉心プラズマへの帰結は二重である。第一に、加熱効率の低下である。NBIやICRHで投入したエネルギーを運ぶ高速イオンが失われれば、プラズマの加熱と電流駆動の効率が下がる。第二に、より深刻な問題として、MeV級のアルファ粒子が第一壁に向かって損失すれば、壁面の局所熱負荷が許容値を超えて材料損傷を引き起こしうる。ITERやDEMO、球状トカマクベースの炉概念(STEPなど)では高エネルギー粒子圧力が大きいため、TAEによる損失の予測と制御は設計上の必須課題となる。JETの重水素・三重水素実験では、数MW級の核融合出力に対応するアルファ粒子駆動のTAEが限界的に不安定化する状態が実際に観測され、この種の予測の検証が進んでいる。
実験における観測と制御
TAEは理論による予測(1980年代)に続いてTFTRなどで実験的に発見され、以後、主要なトカマクで広く観測されてきた。磁気プローブや映像型中性粒子分析器を用いた測定により、モードのポロイダル構造や、TAEが駆動する高速イオン流の直接計測が行われている。観測される現象は多様で、単一の環方向モード番号nに対して複数のTAEが同時に存在する場合、球状トカマクでプラズマ中心に局在するコア局在TAE、TFTRで見いだされた新たな分枝、ドップラーシフトによる周波数変化などが報告されている。また、TAEは渦流(ゾーナルフロー)や測地音響モードなど他の揺らぎと非線形結合し、プラズマ性能への二次的影響を及ぼすことも示されている。
制御の面では、共鳴磁場擾乱(RMP)の適用が有力な手段として研究されている。NSTXではパルス状のRMPによるTAEの緩和、AUGではRMP設定によってTAEが完全に抑制される場合と逆に励起される場合の両方が報告され、EASTではECRHで励起された高エネルギー電子駆動TAEに対して、静的なRMPがモードの空間構造を3次元的に局所制御する現象が観測された。RMPがX点近傍でモードを強め、O点近傍で弱めるというこの結果は、高エネルギー粒子分布を空間的・速度空間的に能動的に操作してEP駆動モードの安定性を変えられる可能性を示唆している。また、オフ軸ECRHで生成される弱捕獲高エネルギー電子がTAEを駆動する現象もEASTで観測されており、加熱プロファイルの制御がTAE安定性の調整手段となりうることを示している。数値面では、ジャイロキネティック・シミュレーションによる線形・非線形現象の再現と予測が進んでおり、周波数チャープの自発的掃引や、MeVイオン存在下での輸送抑制など、実験で観測される非線形挙動の理解が進められている。