JET(JET-ILW、jet tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の装置。欧州連合の共同事業として英国カラム研究所に建設された大型トカマク装置である。炉心条件に近いプラズマを実現し、炭素壁からベリリウム壁・タングステンダイバータのITER類似壁へ転換して、燃料保持やELM制御、ディスラプション緩和などITER運転の基盤研究を行っている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは1,986本ある。比重が最も大きかったのは2000–2004年で、その期間の論文の4.43%を占めた。直近の2025–2029年では2.48%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
JET(Joint European Torus、欧州合同トーラス)は、イギリスのカラム・サイエンス・センターに建設された世界最大級のトカマク型磁気閉鎖核融合実験装置である。1983年から2023年まで運転され、欧州の核融合研究の中核装置として、重水素―トリチウム(D–T)プラズマによる核融合実験を複数回実施した唯一に近い装置であり、単一放電での核融合エネルギー59 MJという世界記録を含む一連の成果を残した。特に2011年以降はベリリウムとタングステンからなる金属壁「ITER様壁(ITER-like wall、ILW)」を備えて運転され(JET-ILW)、ITERの運転を見据えたプラズマ・材料・診断研究の場となった。

fig.1 JET far-infrared interferometer/polarimeter diagnostic system—40 years of lessons learned (2024) · CC BY 4.0
Artistic view based on real computer-aided design of the JET machine section and JET FIR C-frame tower system in the torus hall on the carriage (right side).
図はJETのトーラス室における装置断面の様子をCADに基づいて描いたものである。中央にドーナツ状の真空容器とトロイダル場コイル、右側に遠赤外干渉計のCフレーム塔が見え、装置の規模感と周辺設備の一体構造がわかる。
歴史と設計
JETは1970年代の欧州核融合計画の一環として設計され、1983年に最初のプラズマを達成した。設計当初からトリチウムを含む燃料での運転を想定しており、これは後のD–T実験を可能にした最大の特徴である。大型の銅コイル式トカマクとして、プラズマ主要半径約3 m、小型半径約1 mという当時最大のプラズマ体積を持ち、1983年から2023年まで長らく世界最大の運転中トカマクであった。
運転史は大きく二つの時期に分かれる。1984年から2009年までは炭素(CFC)製の第一壁とダイバータを用いるJET-Cの時代であり、1991年の予備的トリチウム実験(PTE)、1997年の最初の本格的D–T実験(DTE1)が行われた。DTE1では16.1 MWの核融合出力と22 MJの核融合エネルギーの記録を達成した。しかし炭素壁はトリチウムの保持率が高く、安全性と燃料収支の両面で炉には不適格であることが明確になった。この反省に基づき、2009年から2011年にかけて主室をベリリウム、ダイバータをタングステンとする金属壁へ全面改修し、ITERと同じ材料系での運転が始まった。なおJETは超伝導磁石も能動冷却の第一壁も持たず、本来は定常運転研究向けの装置ではない。それでも運転終了まで装置能力の限界に挑み、最終的に約60秒の長パルスHモード放電を実現した。
装置、加熱系、診断
JETのプラズマ加熱は、中性粒子入射(NBI)と高周波加熱(ICRH、イオン・サイクロトロン共鳴加熱)が二本柱である。NBIは15台の正イオン源を持ち、各々1.5–2.0 MWを15秒間供給できるよう増強された。ICRHは数メガワット級のRF電力をアンテナ対ごとに供給する汎用性の高い系で、燃料イオンの主加熱に加え、不純物制御、鋸歯状振動制御、壁のIC放電洗浄、ブレークダウン支援など多様な用途に使われた。アンテナ系には、負荷変動に強い3 dBハイブリッドや外部共役T形の整合回路、ITER様アンテナ(ILA)といった先進的な開発が導入された。RF波とプラズマの相互作用は壁への粒子・エネルギー流をもたらし、RFシースの整流を通じた不純物発生源となるため、その制御が金属壁時代の重要課題となった。

fig.1 ICRH-related impurity source and control across experiments in H, D, T plasmas at JET-ILW (2024) · CC BY 4.0
(a) Toroidal cross section of JET showing ICRH auxiliary heating system. Also showing Be (green) and W (red) plasma facing components. CXRS spectroscopy poloidal limiter locations 7D, 8D, 8B, 1B. (b) Poloidal cross section with the plasma configurations in N = 1 3He (blue) and N = 1 H (magenta) minority ICRH scenario with the lines of sight of JET VUV spectrometer (green horizontal line) and ICRH antenna (orange) at JET tokamak. (c) Magnetic configuration in the divertor with the outer strike point on tile 5 (in magenta) and tile 6 (in blue).
図はJETのトロイダル断面(a)とポロイダル断面(b, c)である。(a)にはICRHアンテナと、緑で示したベリリウム製・赤で示したタングステン製のプラズマ対向部材の配置が、(b)には異なるICRH加熱方式でのプラズマ形状と分光診断の視線が、(c)にはダイバータ内のストライクポイント位置が示されている。
診断面では、1980年代から最終運転日まで稼働した遠赤外(FIR)レーザー干渉計・偏光計が代表的である。D–T運転では二重真空窓によりレーザー信号が5%まで減衰したにもかかわらず高い信頼性を保ち、偏光測定をリアルタイム密度制御に用いた世界初の例となった。D–T準備のためには14 MeV中性子計測系の較正や荷電交換分光など核融合生成粒子診断の拡充も進められた。
ITER様壁:ベリリウムとタングステンのプラズマ対向部材
金属壁への転換はJETの歴史における最大の技術変更である。主室のリミッタータイルはベリリウム(インコネル基材へのBeコーティング)、ダイバータはタングステン(一部は厚肉W板、他はCFCへのWコーティング)で覆われた。高熱流束試験ではWコーティング材に最大23.5 MW m⁻²級の熱負荷が課され、冷却収縮に起因する微細亀裂の発生が確認されるなど、材料開発の知見がITERの設計に直接反映された。
炭素からの転換の効果は劇的であった。炭素含有量が一桁以上減少し、実効電荷Z_effは1.2–1.4まで低下し、プラズマ立ち上げ時の破壊故障はほぼ消滅した。水素燃料の壁への保持率も大幅に減少し、この結果はITERが炭素タイルを最初から排除しBe/Wから出発するという材料決定を後押しした。運転終了後にはダイバータタイルやダスト粒子の回収・分析が行われ、トリチウム保持量の定量化を通じて炉の燃料収支評価の基礎データが得られた。
一方で金属壁は新たな課題をもたらした。タングステンのような高Z不純物は微量でも放射損失が大きく、ガス投入量が少なくELM頻度が低い放電では不純物の中心部への蓄積が放射崩壊を招きうる。対処として不純物源の制御、ELM頻度の管理、窒素シードによるペデスタル温度の回復が用いられた。また放射損失の分布変化によりベリリウム壁への熱負荷が増大し、ディスラプション緩和のための大量ガス注入が常時手段として必要となった。
運転シナリオ:Hモード、不純物制御、長パルス
JET-ILWでの最初の課題は、金属環境で高性能Hモードを再確立することであった。ペデスタル温度は炭素壁時代より低下し閉じ込めも劣化したが、ガス注入による不純物放射制御と組み合わせることで、H98(y,2)≈1、βN≈1.4–1.6の安定なtype-I ELMy Hモードが達成された。ハイブリッドシナリオではH係数1.2–1.3、βN≈3を2–3秒間維持した。炭素壁時代にはLHCD(下部混成波電流駆動)を併用した長パルス運転が1990年代初頭に試みられていたが、金属壁時代にはLHCDが休止状態となったため、長パルスはNBIとICRHの時間分割運用で挑むことになった。
運転最終段階の長パルス実験では、フラックス消費を抑えるため電子温度を高く保ちプラズマ抵抗を低く抑えること、および慣性冷却ダイバータのエネルギー上限を守るためストライクポイントを水平タイルから垂直タイルへ移動させて熱負荷を分散することが鍵となった。その結果、12–14 MW級加熱による30秒の高出力Hモードと、4–5 MWのNBIを4回に分けて注入する約60秒の長パルスが実現した。これらの放電は国際的な長パルス運転データベースに寄与し、JETの相対的に高い閉じ込め時間と中心イオン温度が他の長パルス装置との比較で示された。
重水素―トリチウム実験と核融合記録
JETはD–T核融合実験を複数回実施したほぼ唯一のトカマクである。1991年のPTE(トリチウム11%)で2 MJ、1997年のDTE1で16.1 MW・22 MJを達成した後、2011年以降の金属壁と拡充された診断・加熱系を背景に、2021年のDTE2およびその後のDTE3が実施された。これらの実験は「予測してから実験する(predict-first)」モデリングに基づいて計画され、得られたデータはD–T予測モデルの検証に使われた。これはITERや将来の炉の設計に対するDTE2最大の意義とされる。
DTE2では、重水素NBIに加えてD少数派ICRHを組み合わせることで核融合反応率を大きく高める手法が確立され、2021年に単一放電での核融合エネルギー59 MJという世界記録が達成された。これは1997年の記録22 MJの2倍以上である。さらにD–T実験を通じて、核融合で生まれたα粒子の影響が複数の手法で明確に示され、同位体効果(トリチウムプラズマで高い閉じ込め、低いHモード移行閾値、ペデスタル密度の質量依存など)が体系的に調べられた。炭素壁時代には深刻だったトリチウム保持の問題が金属壁で大幅に緩和されたことも、D–T運転の実績として重要である。JETは2023年12月に運転を終えたが、そのD–Tデータと金属壁での運転経験は、ITERの運転計画に対する主要な実証基盤となっている。
この解説が根拠にした論文から
- Overview of the JET results with the ITER-like wallNuclear Fusion 2013
- First scenario development with the JET new ITER-like wallNuclear Fusion 2014
- Scenario development for D–T operation at JETNuclear Fusion 2019
- Tungsten and beryllium armour development for the JET ITER-like wall projectNuclear Fusion 2007
- Overview of tritium retention in divertor tiles and dust particles from the JET tokamak with the ITER-like wallNuclear Fusion 2024
- ICRH-related impurity source and control across experiments in H, D, T plasmas at JET-ILWNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1970–19844本 · 0.16%
JETの初期設計と性能評価
JET装置に関する初期の設計と性能予測が中心であり、軸対称モードの安定性やICRHアンテナの理論が扱われた。1984年には物理性能と計画状況がまとめられ、装置の基本設計が確立される段階を示している。
同時に語られた主題イオンサイクロトロン加熱
この時代の論文から
- Stability of axisymmetric modes in JETNuclear Fusion 1981
- Theory of the JET ICRH antennaNuclear Fusion 1984
- Physics performance of the Joint European TorusPlasma Physics and Controlled Fusion 1984
- Status and programme of JETPlasma Physics and Controlled Fusion 1984
1985–1994193本 · 3.53%
JETにおける核融合実験とMHD研究の展開
JETを中心に、トリチウム実験、サートゥース振動、インパリティ、Hモード、電流駆動など多様なテーマが扱われた。1992年のD-Tプラズマによる核融合エネルギー生成実験が代表的な成果として現れるとともに、X線トモグラフィーや非誘導電流などの計測・制御研究も進んだ。
同時に語られた主題イオンサイクロトロン加熱、トリチウム、鋸歯状振動、不純物、Hモード、電磁流体力学
この時代の論文から
- Disruptions in JETNuclear Fusion 1989
- Fusion energy production from a deuterium-tritium plasma in the JET tokamakNuclear Fusion 1992
- Shear reversal and MHD activity during pellet enhanced performance pulses in JETNuclear Fusion 1992
- X-ray tomography on JETNuclear Fusion 1988
1995–2004406本 · 4.10%
ダイバータ物理と高性能D-Tプラズマの時代
JETのMark Iダイバータ実験でのプラズマ脱離、ELMを伴うHモード、同位体質量の影響など周辺プラズマ研究が盛んであった。同時に高融合性能のD-Tプラズマ実験が行われ、ITERへの外挿を視野に入れた誤差磁場モード研究やガンマ線診断などが展開された。
同時に語られた主題周辺局在モード、不純物、Hモード、トリチウム、重水素-トリチウム、イオンサイクロトロン加熱
この時代の論文から
- Plasma detachment in JET Mark I divertor experimentsNuclear Fusion 1998
- High fusion performance from deuterium-tritium plasmas in JETNuclear Fusion 1999
- Error field mode studies on JET, COMPASS-D and DIII-D, and implications for ITERNuclear Fusion 1999
- The influence of isotope mass, edge magnetic shear and input power on high density ELMy H modes in JETNuclear Fusion 1999
2005–2014582本 · 3.78%
ITER指向の壁・ディスラプション研究
JETにITERライク壁が導入され、燃料保持、タングステン輸送、ディスラプション緩和などITER直結の研究が中心になった。ELM、Hモード、高エネルギーイオン、プラズマジェット、プラズマ診断などのトピックと並行して、n=0チャープモードの説明なども行われた。
同時に語られた主題周辺局在モード、プラズマジェット、Hモード、プラズマディスラプション、イオンサイクロトロン加熱、ITER類似壁
この時代の論文から
- Fuel retention studies with the ITER-Like Wall in JETNuclear Fusion 2013
- Survey of disruption causes at JETNuclear Fusion 2011
- Disruption mitigation by massive gas injection in JETNuclear Fusion 2011
- Explanation of the JET n = 0 chirping modeNuclear Fusion 2006
2015–2026799本 · 3.19%
ITER支援とD-T準備の最終段階
JETはITER支援のための統括的な成果報告を行い、ITERライク壁下での重水素-トリチウム運転準備が進められた。ベリリウム移動、タングステン溶融、マイクロティアリング乱流によるペデスタル制限など、壁材料と周辺プラズマの相互作用が主要なテーマである。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題プラズマジェット、重水素、トリチウム、重水素-トリチウム、Hモード、ITER類似壁
この時代の論文から
- Overview of the JET results in support to ITERNuclear Fusion 2017
- Overview of the JET preparation for deuterium–tritium operation with the ITER like-wallNuclear Fusion 2019
- Beryllium migration in JET ITER-like wall plasmasNuclear Fusion 2015
- Microtearing turbulence limiting the JET-ILW pedestalNuclear Fusion 2016
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(JET、JET-ILW、jet tokamak など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文120本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、10本の論文(うち全文6本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
