Wiki / 手法 電流駆動 (Current drive、CD)は、核融合・プラズマ物理学の手法。磁場閉じ込め核融合装置で、誘導電界に頼らずに高エネルギー粒子や波動の運動量を電子に与えてプラズマ電流を駆動する手法である。低域混成波や電子サイクロトロン波、中性粒子ビームなどで実現され、定常運転や電流分布制御、新古典テアリングモードの安定化に不可欠である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは743本ある。比重が最も大きかったのは1990–1994年で、その期間の論文の3.41%を占めた。直近の2025–2029年では0.75%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 電流駆動(current drive)とは、トカマクなどの磁気閉じ込めプラズマに、オーミック(変圧器誘導)駆動によらずにトロイダル電流を流し続けることをいう。トカマクのプラズマ電流は本来、中央ソレノイドが変圧器のように働いて生むループ電圧によって維持されるが、この誘導電圧は本質的にパルス的であり、変圧器のフラックスには限りがある。定常的な核融合炉を実現するには、電流を非誘導的に駆動する手段が不可欠である。その物理的実体は、波や粒子ビームによって電子の平行方向運動量を選択的に与え、電流を担う非対称な速度分布を作り出すことにある。実際の装置では、下部混成波、電子サイクロトロン波 、高速波・ヘリコン波、中性粒子ビームなど複数の方法が使われており、駆動効率と電流分布 の制御性がその価値を決める。例えば下部混成波電流駆動では、数GHz帯の電磁波 を波動ガイドアンテナから入射する。図はその代表的なアンテナ構造を示す。
fig.2 Non-inductive current drive at zero loop voltage using LHCD PAM launcher on ADITYA-U (2025) · CC BY 4.0
(a) The PAM antenna installed on ADITYA-U port #5 is shown. (b) The PAM antenna inside the ADITYA-U vessel, as viewed from the plasma, is shown.
図は、受動・能動波動ガイドを組み合わせた多接合型アンテナ(パッシブ・アクティブ・マルチジャンクション、PAM)を装置ポートに設置した状態(a)と、真空容器 内からプラズマ側を向いたアンテナ面(b)を示す。受動波動ガイドはプラズマで反射された波を再放射して結合を良くし、冷却ダクトを背後に置けるため長パルス運動に適した構造である。
非誘導電流駆動が必要な理由
トカマクのプラズマ電流は、磁気面を形成すると同時に、プラズマを平衡に保つポロイダル磁場を作る。この電流を変圧器誘導だけで維持すると、フラックススイングが尽きた時点で放電が終わる。ITER のような長パルス・定常運転を狙う装置では、プラズマ電流の大部分を非誘導的に賄うことが設計目標に組み込まれており、その内訳は主に(1)プラズマ圧力勾配が自発的に生むブートストラップ電流 と、(2)外部の加熱・電流駆動系が供給する電流である。 型の発電所概念では、電流の約8割をブートストラップ電流で賄い、残りを外部駆動系で供給する設計が想定されており、中央ソレノイドへの依存をほぼ排除することすら目指されている。
電流駆動
種別 手法
論文数 743 本
初出 1980 –1984 年(20本)
最盛期 1990 –1994 年 3.41%
直近 2025 –2029 年 0.75%
ほかの綴り CD 外部駆動系の役割は単に電流の総量を補うことではない。電流の空間分布(電流プロファイル)は磁気シア を通じてMHD安定性 や内部輸送障壁 の形成を左右するため、駆動系は必要な位置に必要な量の電流を「配置」できることが求められる。定常状態 のシナリオ設計では、逆磁気シア を維持するような電流プロファイルを作り、ブートストラップ電流の分布と整合させることが中心課題となる。
電流駆動の物理機構 電流駆動の本質は、平行方向の運動量を電子に非対称に与えることにある。オーミック駆動では電場が全電子をドリフトさせるが、波やビームによる駆動では、特定の速度空間領域の電子だけを選択的に加速する。ランダウ減衰 やサイクロトロン共鳴 で波からエネルギーを吸収した電子は、平行速度の正負どちらかに偏った分布を持つようになり、その非対称性が電流として現れる。
ここで本質的な制約となるのが、衝突による運動量緩和である。駆動された電流は、電子がイオンや他の電子と衝突して運動量を失うまでの間だけ持続する。高速の電子ほど衝突頻度が低いため、平行位相速度の高い波を使って高速電子を駆動するほど効率が上がる。一方、トーラス幾何では磁場強度が不均一なため、平行速度の大きい電子でも磁気ミラー 閉じ込め(磁気トラップ)に引っかかる領域があり、これが駆動効率を下げる。低周波側の波(下部混成波など)ではこの磁気トラッピング効果を含む効率の近似公式が整備され、装置設計の数値計算に使われている。効率は一般に、駆動電流を入射電力で割った値(単位はkA/MW程度)と、密度・温度・主要半径で規格化した無次元効率の両方で評価される。
もう一つの重要な機構がブートストラップ電流 である。圧力勾配がある閉じ込めプラズマでは、粒子の拡散流に伴って自発的に電流が流れる。これは外部から電力を投入しない「無料」の電流であり、定常炉設計ではその割合を最大化する方向にある。ただしブートストラップ電流は圧力プロファイルで決まるため、外部駆動系はその分布を補正・制御する役割を担う。
波動による電流駆動:下部混成波・電子サイクロトロン波・高速波 下部混成波電流駆動(LHCD )は、最も長い実績を持つ方法である。数GHz帯の波を波動ガイドアレイから入射し、平行位相速度の高いスペクトル成分を電子にランダウ共鳴させる。駆動する電流の位置は入射スペクトルとアンテナの極向位置で制御でき、高密度プラズマでも効率的に電流を駆動できることが大型装置で示されてきた。アンテナはプラズマ境界のごく近くに置く必要があり、定常運転ではプラズマからの熱・粒子フラックスに耐える構造が課題となる。前述のPAM型アンテナはこの課題への答えの一つで、カットオフ密度近傍でも良好な結合を保ちながら高熱流束に耐えられる。実際に、PAMアンテナを用いてループ電圧ゼロでプラズマ電流を非誘導的に維持する実験が行われ、駆動された高速電子の存在が制動放射測定で確認されている。
電子サイクロトロン電流駆動 (ECCD)は、100GHz以上のマイクロ波をジャイロトロン から入射し、電子サイクロトロン共鳴 面近傍で局所的に電流を駆動する。共鳴面の位置は磁場とビームの入射方向で精密に制御できるため、電流分布 の局所制御に最も優れる。代表例が新古典ティアリングモード(NTM )の安定化で、磁気島 の位置に合わせて局所電流を注入して島を消す手法がITER でも想定されている。また、入射方向(上部入射か外側入射か)や周波数を選ぶことで、駆動電流の半径分布や効率を変えられる。図は同じジャイロトロンを用いても入射方向によって駆動電流分布が大きく変わることを示す。
図は、同一の110GHzジャイロトロンを用いた上部入射と外側入射のECCDで駆動された電流密度の半径分布を比較したもので、上部入射の方が高いピーク電流密度(駆動電流約22kA対11kA)を得られていることが分かる。このように速度空間・実空間の両面での入射条件の工夫により、ECCD効率を大幅に高められることが示されている。
高速波・ヘリコン波電流駆動は、イオンサイクロトロン周波数帯からそれより高い周波数の波を用いる方法で、下部混成波より高密度に耐え、比較的広い領域に電流を駆動できる。少数種イオン共鳴を利用した高速波電流駆動は、磁気シア の局所制御にも用いられた。ヘリコン波は数GHz以下の周波数で効率的な電流駆動が期待され、定常炉の駆動系候補として周波数・入射スペクトル・アンテナ位置の掃引による性能評価が行われている。また、イオンサイクロトロン周波数帯の波を用いたモード変換 電流駆動も研究されており、これらは主に電流プロファイルの制御手段として位置づけられる。
中性粒子ビーム電流駆動とブートストラップ電流
中性粒子ビーム注入(NBI )は、高エネルギー中性原子をプラズマに注入し、電荷交換でイオン化された高速イオンが磁場に沿って周回する際に電流を運ぶことで電流を駆動する。駆動電流はビームのエネルギー、入射幾何(接線方向成分)、注入位置の半径で決まり、1MeV級の正イオン源 を持つITER では主要な駆動手段の一つである。ビーム電流駆動の特徴は、電流分布 のピーク位置をビームの接線方向エネルギーと注入高度で制御できる点にある。図は、ビーム電流駆動の効率が電流ピークの半径位置とビームエネルギーにどう依存するかを示す。
fig.3 Heating and current drive in STEP: why neutral beam injection is not desirable (2025) · CC BY 4.0
Maximum current drive efficiency \eta [kA MW−1] and normalised efficiency \zeta vs root normalised toroidal flux coordinate of peak in current drive profile from PENCIL. The radial location of the peak in the current profile has been binned with width {\rho _{{\text{tor}}}} = 0.05. Simulations with shine-through > 1\% total power have been excluded.
図は、駆動電流プロファイルのピーク位置(正規化トロイダルフラックス座標)に対する最大駆動効率(左、kA/MW)と規格化効率(右)を、ビームエネルギーで色分けしたものである。電流ピークを軸外に移すほど効率が上がる傾向と、エネルギーによる依存性が読み取れる。一方で、NBIは大電力を要し、ビームの透過しすぎ(シャインスルー)や、コンパクトな炉でのポート配置・遮蔽の制約が課題であり、球状トカマク 型発電所の設計ではNBIに代わるマイクロ波・高周波系中心の構成が検討されている。
効率、プロファイル制御と定常炉への応用
電流駆動系の評価軸は、効率とプロファイル制御性、そして炉としての総合電力収支である。効率は前述の通りkA/MWと無次元効率で表され、駆動手段・密度・温度・駆動位置に依存する。定常炉では、必要な電流を最小の投入電力で駆動することが発電効率に直結するため、駆動系の選定は炉設計の根幹をなす。加えて、駆動電流の位置をプラズマ断面の広い範囲で可変にできること、すなわち電流プロファイルを能動的に「彫刻」できることが、輸送障壁 の形成・維持とMHD安定性 の確保の両方に必要となる。
ITER の定常運転シナリオ研究では、この考え方が具体的に示されている。下部混成波が広い領域の輸送障壁を形成・維持し、電子サイクロトロン波 が中間半径で電流を駆動してブートストラップ電流 プロファイルを固定することで、Hモード 比で約1.5倍の閉じ込め性能とQ=5級の融合利得に近づくことが輸送シミュレーションで示された。またNBI と電子サイクロトロン系のみでプラズマ電流を全て非誘導的に賄うシナリオも再評価され、駆動系の可変性を用いた電流プロファイル制御がMHD安定性の制御に有効であることが示されている。これらの研究に共通するのは、単一の駆動手段では定常炉の要求(電流総量、プロファイル、安定性、電力効率)を同時に満たせないことが多く、複数の駆動系を組み合わせて電流プロファイルを最適化するという設計思想である。電流駆動は、パルス炉から定常炉への移行を支える中核技術であり、その効率と制御性の向上が今後の炉設計を左右する。
Nuclear Fusion 1984
電流駆動(Current drive)の研究史 — FusionPapers