ダイバーター(Divertor、iter divertor、tokamak divertor)は、核融合・プラズマ物理学の装置。プラズマ周辺部の磁力線を切り離して粒子と熱を専用のチェンバーへ導き、壁への負荷と不純物の混入を抑える磁気容器の排気機構である。トカマクやヘリカル装置で炉心プラズマの高性能化に不可欠な役割を担う。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは1,961本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の5.12%を占めた。直近の2025–2029年では3.90%。
解説
ダイバータ(divertor)とは、トカマクやヘリカル装置などの閉じ込め磁場装置において、プラズマ表面から流出する熱と粒子を受け止め、排気するための磁気的・構造的な排気系である。プラズマを囲む最外殻磁気面(セパラトリックス)の外側に、磁力線を意図的に壁面のターゲット板へ導く「X点」構造を作り、そこへ粒子線流を集中させることで、主壁への熱負荷を避けつつ不純物の侵入を防ぎ、燃料とヘリウム灰のポンプ排気を可能にする。核融合炉の成立そのものに関わる、炉設計上の最重要課題の一つとされている。

fig.5 Physics design of new lower tungsten divertor for long-pulse high-power operations in EAST (2021) · CC BY 4.0
A divertor module. The target plates are made of ITER-like monoblock PFUs. The dome and end-boxes are covered with flat-type PFUs.
図はダイバータモジュールの断面を示す。プラズマに面するターゲット板がモノブロックと呼ばれる冷却構造のユニットで構成され、その奥にドームやエンドボックスといった平板ユニットが配置されている。このように、ダイバータは「プラズマを磁力線でターゲットへ導く磁気配置」と「その熱を受け止める固体部材」の二つの側面から成り立っており、以下、順に説明する。
役割と機能
核融合炉心では、D-T反応で生成するアルファ粒子の加熱によりプラズマは常にエネルギーを持っており、そのエネルギーは断面の外側へと輸送されて最終的に壁へ到達する。ダイバータを持たない初期のトカマクでは、この流出エネルギーはリミターと呼ばれる限定的な壁部材で受け止めていたが、リミター方式ではが直接プラズマへ再侵入しやすく、排気もできない。ダイバータは、磁力線の開いた領域(、SOL)を経由して流出するプラズマを、を越えた「ダイバータレグ」と呼ばれる磁力線に沿って遠くのターゲット板へ導く。これにより四つの機能が同時に果たされる。すなわち、(1) 熱排気、(2) 燃料(D/T)とのポンプ排気による粒子制御、(3) ターゲット表面からの不純物発生の抑制、(4) ダイバータSOLによる不純物のふるい分け(スクリーンニング)である。
熱排気の困難さは、単純な数の比較でわかる。ITER級の燃焼プラズマでは約100 MWの電力がSOLを通じて流出すると見積もられており、その大部分をダイバータで受け止めなければならない。一方、SOLの幅(特徴的な減衰長 λq)はミリメートル程度しかなく、磁力線に沿った伝導でターゲット上の狭い帯状領域に集中するため、何の緩和もない場合の熱流束密度は材料の許容限界(概ね20 MW/m²以下)を一桁以上超える。このギャップを埋める手段が次節以降の主題である。
さらに、Hモード運転ではエッジ局在モード(ELM)と呼ばれる周期的な爆発的輸送が、ペデスタルのエネルギーの一部を一挙にSOLへ放出する。この過渡熱負荷はターゲットの損傷と侵食を引き起こすため、共振磁場摂動(RMP)コイルやペレット入射などによるELM制御と併せて、ダイバータ熱負荷の制御が炉設計の前提となっている。近年は、スノーフレークや準スノーフレーク(QSF)といった先進磁気配置がELMの抑制・緩和にも影響を与えうることが実験とシミュレーションで示されつつある。
磁気配置とダイバータ構成
標準的なダイバータは、軸対称なポロイダルX点を持つ「垂直ターゲット板」構成であり、現在のほとんどのトカマク(ITERを含む)が採用している。ここで問題になるのは、前節の熱負荷のギャップを、通常の付着状態のままでは埋められないことである。解決の鍵は「デタッチメント(離脱)」、すなわちターゲット近傍のプラズマを中性粒子との再結合・電離サイクルと放射損失によって冷却し、ターゲットへの熱・粒子流を大幅に減らす運転領域にある。デタッチメントを安定に、しかも炉心性能を損なわない低い主プラズマ密度で実現するため、磁気配置を工夫する「先進ダイバータ」の研究が活発である。
先進配置は大きく二つの考え方に分けられる。第一は、磁気幾何を操作して熱を分散・散逸させるもので、複数のX点を持つ構成、高次の零点(スノーフレーク)構成、ポロイダル断面の磁束膨張を大きくして接続長を延ばすXダイバータやスーパーXダイバータなどが含まれる。例えばスーパーX配置では、磁力線を大きく外側へ膨らませて接続長と濡れ面積を増やすことで、同一の上流条件に対してデタッチメント閾値密度を標準配置より大幅に下げられることがMAST-Uでの研究で示されている。第二は、磁気配置を大きく変えずにダイバータ室を密閉化し、中性粒子と不純物を閉じ込めてプラズマ・中性粒子相互作用を強める方法で、V字スロットやスモールアングルスロット(SAS)などがこれに当たる。密閉化は必要な不純物注入量を減らせる利点がある一方、ブランケット領域との面積競合という設計上の制約を伴う。
ヘリカル装置では、トカマクのような軸対称X点が存在しないため、磁気島を利用するヘリカルダイバータやローカルアイランドダイバータが採用される。大型ヘリカル装置(LHD)での研究では、島の端部にターゲットを置く構成で同様の排気・不純物制御が試みられており、トカマクとの輸送特性の比較研究も進んでいる。
熱排気、デタッチメントと不純物シード
デタッチメントの物理を簡単に述べる。SOLを流れる熱は、電子の平行伝導でターゲットへ運ばれるが、ターゲット近傍で中性水素原子・分子との電離・励起・電荷交換が盛んになると、そのエネルギーは体積的に放射・散逸され、プラズマの温度・圧力はターゲットに向かって急落する。これが「放射デタッチメント」である。炭素壁の時代には、スパッタで生じた炭素自体の放射が自己組織的にデタッチメントを促す働きをしていたが、金属壁への全面移行後は金属不純物の放射損失が小さすぎるため、外部からネオンや窒素、アルゴンなどの不純物を意図的に注入する「シードインピューリティ」運転が不可欠となった。ITER級装置では、シード不純物の放射によって排気電力の大部分を体積損失に変え、部分的にデタッチした状態を維持することで、ターゲット熱負荷を技術的に管理可能な水準に保つというのが基本戦略である。
デタッチメントは「付着→部分デタッチ→完全デタッチ」と進むが、完全デタッチメントを標準配置で安定的に達成しようとすると、放射フロントが閉じた磁気面側へ侵入し、X点MARFEと呼ばれる局所的な過剰放射を生じて炉心閉じ込めを劣化させるという問題が知られている。このため、デタッチメントの安定化と制御が中心的な研究課題であり、デタッチメント状態を実時間で監視する診断(ボロメータ、分光、可視・赤外画像、中性圧力計、SOL電流を測るシャント診断など)と、不純物注入をフィードバックする制御系の開発が進められている。デタッチメントが失われて再付着すると、ターゲット熱流束は数十 MW/m² に急増し、タングステン面の侵食や冷却管破損の危険を生じるため、制御の信頼性が直接炉の安全性に関わる。
炉心性能との両立も制約となる。デタッチメントを低い上流密度で達成できるほど、炉心は高ペデスタル圧力・高閉じ込めを保てる。Xダイバータでの実験は、ターゲット近傍の散逸体積に接続長を集中的に加えることで、標準配置より10〜20%低い密度でデタッチメント開始が可能になることを示しており、磁気配置の工夫が炉心排気トレードオフを緩和する具体例となっている。数値的には、1.5 GW級の発電を想定したDEMO設計研究で、エッジ排気電力約250 MW、エッジ・SOL・ダイバータ合計の放射割合0.8という条件下で、外側ターゲットの部分デタッチによりピーク熱負荷を約5 MW/m²、内側ターゲットの完全デタッチにより10 MW/m²未満に抑えられることがシミュレーションで示されている。この種の評価にはSOLPS-ITERなどのエッジプラズマコードが標準的に用いられ、三角形状やドリフトの影響を含む輸送解析が各装置で行われている。
ダイバータのハードウェア:ターゲット、モノブロックと材料
磁気配置でどれだけ熱を分散させても、最終的にはターゲット部材がプラズマに面して熱を除去し続けなければならない。現代の高熱負荷ターゲットの標準構造がタングステン・モノブロックである。これは、厚さ数ミリメートルのタングステン製の小片の中心に穴を開け、CuCrZrなどの析出硬化型銅合金の冷却管を貫通させ、熱的に硬化した銅(OFHC-Cu)でろう付けして一体化したものである。冷却水は流速数 m/s、圧力1 MPa程度で流され、定常で10 MW/m²、試験条件下では20 MW/m²の熱負荷を除去できる。ITERのダイバータはこのモノブロック構造のタングステンターゲットを採用しており、その調達・品質保証は現在進行中の国際協力事業である。
図はモノブロックの構造を示す。(a) はターゲットユニットの幾何モデルで、隣接ユニットとの段差を避けるためのチャンバー加工が施されたタングステン小片が冷却管に沿って並ぶ様子、(b) はその断面で、外径17 mmのタングステン層、その内側のOFHC-Cu層、中心のCuCrZr冷却管という積層構造が読み取れる。
モノブロックの信頼性は、実験室での高熱負荷試験と実機環境の両方で検証されている。製造品質が管理された良品は1万回以上の10 MW/m²負荷に耐えることが高熱負荷試験で確認されている一方、トカマク内では隣接ユニット間の組立誤差によるリーディングエッジ(段差部)への局所熱集中が最大の弱点であり、WESTやEASTの実機運転では、段差起因の溶融、界面剥離、表面・内部の亀裂、再結晶や異常粒成長といった損傷が実際に観測されている。これらの損傷は、プラズマディスラプション時の走行電子による溶融や、定常負荷によるき裂進展と組み合わさって部材寿命を制限するため、赤外カメラによる表面温度の高分解能監視や、損傷メカニズムのモデリングが活発に進められている。タングステン表面の再結晶や微細構造変化(ファズ形成など)が長期運転でどう進むかは、なお解決すべき課題である。
材料選定は炉の核安全性とも直結する。炭素は耐熱・耐侵食性に優れるが水素(トリチウム)を多量に保持するため、ITER設計では炭素が完全に排除され、タングステンと銅合金、構造材には316L(N)-IGステンレス鋼などの低活性化材料が使われる。将来のDEMO級炉では、中性子照射下での材料劣化(例えば銅合金で年間1 dpa前後の損傷線量)も考慮した冷却構造の統合設計が必要となり、水冷のほかヘリウム冷却によるモジュラーダイバータなど発電炉を想定した概念も研究されている。ダイバータは、プラズマ物理・磁気配置・材料工学・核安全規制が交差する、核融合炉開発の縮図的な領域であるといえる。
ダイバーター(Divertor)の研究史 — FusionPapers