Wiki / 工学 ダイバータターゲット Divertor target
ダイバータターゲット (Divertor target)は、核融合・プラズマ物理学の工学。ダイバータの構成要素で、周辺プラズマからの熱と粒子流を受ける板状の機器である。定常・過渡的な高熱負荷と損耗に耐えるため、材料・形状・冷却方式の設計が重要であり、将来の核融合炉では液体金属や3Dプリント構造などの新概念も研究されている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは108本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.33%を占めた。直近の2025–2029年では0.33%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 ダイバータターゲット(divertor target)とは、トカマク型核融合装置のダイバータ 領域において、プラズマからの熱流と粒子流を直接受ける最前線の固体部品、すなわちプラズマ対向壁部材のことである。磁力線に沿って運ばれたプラズマのエネルギーは、磁場と表面が数度しかなす角を持たないターゲット板に集中して入射し、ここで冷却水に伝えられて排熱される。定常熱負荷 が10~20 MW/m²、エッジ局在モード(ELM )などの過渡現象時には数 GW/m²に達するという、核融合炉の部材の中でも最も過酷な熱・粒子環境にさらされる部品であり、その設計・製造・寿命評価は炉工学の中核課題の一つとなっている。
ダイバータターゲットの役割と運転環境
トカマクではコアプラズマの外側にスクレイプオフ層 (SOL)と呼ばれる薄い開いた磁力線領域が形成され、そこを流れた粒子とエネルギーは磁力線の足元、すなわちダイバータターゲットに導かれる。ターゲットは単なる「熱の受け皿」ではなく、プラズマの排気・不純物 除去・ヘリウム 灰の排出という粒子制御の機能も担い、ストライクポイントの位置制御と組み合わせてプラズマ端の状態を決める要素である。磁場が表面に対してほぼ平行(入射角数度)であるため、単位面積あたりの熱流束は磁力線に沿った平行熱流束を面法線方向に投影した値となり、入射角のわずかな変化がピーク熱負荷 を大きく左右する。
表面近くではプラズマと固体の間にシース(鞘)が形成され、イオンはシース電場で加速されてターゲットに打ち込まれる。磁場が斜めに入射する場合のシース構造(チョドラ・シース)は、イオンがラーマー運動によって磁力線と表面の間の幾何学的な影の領域にも到達しうることを意味し、ターゲット表面の熱負荷分布は単純な磁力線の投影だけでは決まらない。特にELM 時にペデスタル から放出される高温イオン(ITER 級の炉心プラズマでは数 keV、重水素 イオンのラーマー半径は1 mm程度)は、ターゲット間の0.4 mm程度の溝幅と同程度以上であり、溝の側面に予測を超える局所熱負荷をもたらしうることがイオン軌道計算と粒子シミュレーションで示されている。
ダイバータターゲット
種別 工学
論文数 108 本
初出 1975 –1979 年(1本)
最盛期 2020 –2024 年 0.33%
直近 2025 –2029 年 0.33%
このような環境を踏まえ、ターゲットの設計では定常熱負荷の除去に加えて、過渡熱負荷による表面溶融・再結晶化の回避、プラズマ不純物としてのタングステン 放出の抑制、そして長期運転に耐える構造信頼性が同時に要求される。ITERでは第一段階の運転計画で13年以上、そのうち約6年を全出力条件下での運転に供する予定であり、部材の損傷が部分的に生じても放電を継続できることが求められる。
EAST の下部ダイバータ は、ITERと同様に内側・外側垂直ターゲットをモノブロック構造、水平ターゲットおよびドームをフラット型部材で構成した実機類似の配備例であり、両構造がどのように組み合わされるかを示す好例である。
図はEAST下部ダイバータの構成をプラズマ側から見たもので、内側垂直ターゲット(IVT)と外側垂直ターゲット(OVT)に敷き詰められたモノブロック列、および水平ターゲット(IHT・OHT)とドームに配置されたフラット型部材の配置が示されている。ストライクポイントは通常垂直ターゲットに置かれるが、異常事象や運転上の意図によって水平ターゲット側へ移ることもあり、フラット型部材もモノブロックと同程度の熱負荷に耐える設計が要求される。
モノブロックとフラット型という二つの構造
現在のタングステンダイバータ で標準的なのはモノブロック構造である。これは中央に円形の冷却水孔をあけた短い円筒状のタングステン ブロックを、銅合金(CuCrZr など)の冷却管に通し、銅インターレイヤーを介して拡散接合したもので、これをポロイダル方向(重力に対して縦方向)に連ねてプラズマ対向ユニット(PFU)とする。ITER 級の高熱負荷 領域では、このモノブロック列が20 MW/m²の定常熱負荷を想定して設計されている。
モノブロックの利点は、熱応力を小さなブロックごとに分散できる鋳造構造(キャステレーション)にある。一体の大きな板にすると熱膨張差による応力が許容限界を超えるため、部材を小分割して応力を緩和するのである。ただしこの分割に伴い、ブロック間にはトロイダル方向およびポロイダル方向の溝(幅0.4 mm程度)が生じる。ポロイダル方向の溝にできる「リーディングエッジ」は、ブロックのプラズマ対向面をわずかにトロイダル方向へ傾けるシェーピングによって磁力線の幾何学的影に入れて保護できる。一方、トロイダル方向の溝では、イオンのラーマー運動と磁場のピッチ角の組み合わせにより、影のはずの側面にイオンが直接入射しうることが予測され、実際にELM 時の高温イオンが溝入口近傍の側面を加熱・侵食する証拠が得られている。この側面加熱はシェーピングでは防げないため、運転側の制約として扱われる。
これに対してフラット型構造は、比較的厚みの小さいタングステンタイルをフィン付きの熱交換構造を持つ熱シンク板上に接合したものである。モノブロックに比べ熱シンク設計の自由度が大きく、表面温度をタングステンの再結晶温度以下に保ちやすいという利点がある。モノブロックは20 MW/m²級の熱負荷下で表面温度が再結晶化しきい値を超えうるのに対し、フラット型ではそれを回避できるため、タングステン材への要求を緩和できる。ITERの下部ダイバータ では垂直ターゲットにモノブロック、反射板やドームにフラット型が使い分けられており、両者は競合ではなく用途による使い分けの関係にある。
EAST の外側水平ターゲットに用いられたフラット型部材は、幅112 mmの316L鋼製熱シンクにフィン構造を設け、CuCrZr層と酸素無酸素無酸素銅(OFC)層を介して厚さ数 mmのタングステンタイルを接合した構造で、冷却水は複数の流路を往復する多パス構成をとる。
図はこのフラット型部材の全体寸法(左)と断面(右)であり、タングステンタイル、OFC・CuCrZrの接合層、フィン付き316L熱シンク、水冷流路の積層構造が読み取れる。ベベル(斜め加工)された端部はリーディングエッジの熱負荷を避けるためのシェーピングである。
材料と接合:アーマー、熱シンク、インターレイヤー
ターゲットは機能の異なる三層から成る。プラズマに面するアーマー材、熱を運ぶ熱シンク材、そして両者を接合するインターレイヤーである。アーマーにはタングステン が標準である。融点が全金属中で最も高く、スパッタ率が低く、水素の保持が少ないためであり、ITER が2013年に全タングステンダイバータ を採用して以降、この方向が定着した。かつてのITER設計では炭素(グラファイト/CFC )とタングステンの併用も検討され、欧州の開発では炭素とタングステンアーマーに基づく堅牢な設計の実現可能性が示されてITER参照設計に採用されたが、炭素はプラズマとの共起化学侵食やトリチウム 保持の問題から最終的に退けられた。
熱シンク材には、水冷概念では析出強化型銅合金のCuCrZr が、ヘリウム 冷却概念ではタングステン自体が候補となる。CuCrZrは熱伝導率 が高いが中性子照射 による脆化と軟化に弱く、タングステンは照射に強い一方で延性が乏しい。このためDEMO 級の設計では、低活性フェライト・マルテンサイト鋼(RAFM 鋼)を熱シンク管に用いる概念も研究されている。RAFM鋼は銅合金より熱伝導率で劣るものの、照射特性と廃棄物の活性化の点で有利であり、加圧水型原子炉に近い冷却条件(圧力15.5 MPa、流速10–20 m/s、温度300 ℃)での設計が検討されている。
接合は設計上の要である。タングステンと銅(または鋼)は熱膨張係数が数倍異なるため、運転中の熱サイクルが界面に大きなせん断応力を繰り返し与える。モノブロックでは銅インターレイヤーを拡散接合で形成し、フラット型では爆発接合などのプロセスでCuCrZrと鋼の界面を作る例がある。界面の接合品質は熱サイクル後の剥離強度を左右し、曲げ加工や熱処理が界面組織に与える影響が製造工程の管理項目となる。高熱流束試験による熱疲労評価は、アーマー材開発から部品製造、試作機の高熱流束試験に至る一連の開発プロセスの最終確認として位置づけられてきた。
熱機械設計限界と寿命
ターゲット設計の本質は、熱流束を除去しながら構造内の温度と熱応力を許容値内に保つことである。熱流束が入るとアーマー表面に大きな温度勾配が生じ、タングステン と熱シンクの熱膨張差が圧縮・引張りの繰り返し応力を界面近傍に集中させる。設計では有限要素解析により形状パラメータ(ブロック寸法、水孔径、管肉厚)と水流速を最適化し、所定の熱負荷 で構造温度を許容値以下に収める。冷却側では水との熱伝達率を相関式で評価し、沸騰危機への余裕を確保する。フラット型ではフィン付き熱シンク(ハイパーポトロン構造)によって伝熱面積と乱れを増し、限界熱流束を高めている。
構造評価では、線形弾性に基づくラチェッティング(漸進的塑性変形)判定基準(いわゆる 3Sm 則)が用いられることが多いが、高熱負荷条件下では熱シンク管が繰り返し塑性変形に入り、この基準を満たさない場合がある。それでも疲労寿命評価に基づけば試験炉級の運転シナリオに対して必要年数(例えば0.5年程度の疲労寿命が報告されているRAFM 鋼管概念)をまかなえる場合もあり、設計基準の適用の仕方が概念の実現可能性を左右する。この「設計基準と材料性能の相互影響」は、DEMO 向けターゲット概念の評価で繰り返し指摘されてきた論点である。
DEMOではITER より一桁高い中性子照射 量が熱シンク材に課されるため、照射脆化が構造性能と運転の柔軟性を大きく制限しうる。ITERで成功した水冷CuCrZr 概念がそのままDEMOに転用できるとは限らず、水冷CuCrZr、水冷RAFM鋼、ヘリウム 冷却タングステンといった概念が、構造信頼性と材料性能の観点から比較検討されてきた。寿命評価の対象は熱疲労だけでなく、中性子損傷による脆化・延性低下、再結晶化によるタングステンの靭性喪失、そしてプラズマ対向面の侵食によるアーマー減肉を含む。
損傷、検査、そして代替概念
実機運転では損傷は避けられない。長期運転中のタングステン アーマーには、再結晶化による粒成長、熱疲労き裂、リーディングエッジへの局所熱負荷 に起因する溶融・割れが生じうる。EAST では長期運転中のW/Cuモノブロックにリーディングエッジ起因の溶融と割れが実際に観察され、またフラット型部材では初期き裂からタングステンタイルの反り(ワーピング)へと進行する損傷過程が高分解能赤外カメラで捉えられている。溶融したタングステンがプラズマを擾乱してディスラプションを誘発しうることがEASTの放電実験で示される一方、あらかじめ損傷を与えたモノブロックを用いても放電が安定に維持できることがWEST やEASTで確認されており、部分的な損部分的な損傷を許容しつつ運転を続ける戦略の実現可能性が示されつつある。
損傷の監視と評価には、運転中の赤外線サーモグラフィによる表面温度・熱流束の再構成(KSTAR やJT-60SA で整備が進む手法)と、運転外での非破壊検査が併用される。後者の新手法として、ブラッグエッジ中性子イメージングと中性子トモグラフィーによるひずみマッピングと欠陥検出があり、部品を解体せずに内部の残留ひずみ分布やき裂を評価できる。また溝側面へのイオン侵入のような微視的な損微視的な損傷機構は、溝側面にマーカー層を蒸着した試験片をプラズマに曝し、マーカーの侵食分布からイオンの入射パターンを直接読み取る手法で検証が進められている。図はそのような試験に用いられた、ダイバータターゲットのトロイダル断面試験片の模式図である。
図はASDEX Upgrade 外側ダイバータ のターゲット板と、溝を挟んで対向するモリブデン試験片のトロイダル断面を示し、磁場方向とイオンのラーマー回転方向が電流・磁場の反転配置(a)と標準配置(b)でどう変わるかが描かれている。イオンの回転方向を反転させた二つの放電で侵食パターンが入れ替わることが確認されれば、溝側面加熱がイオンの軌道運動に起因することの直接的証拠となる。
将来の炉では、固体ターゲットの限界を超える発想も模索されている。液体リチウム をプラズマ対向面に供給する液体リチウムダイバータターゲットは、固体アーマーと異なり溶融・再結晶化の問題が原理的になく、リチウム のプラズマ対向効果(水素保持の低減や放電性能の改善)も期待される。NSTX-U 向けにプリロード式液体リチウムターゲットの概念設計が行われるなど、研究段階の選択肢として位置づけられている。一方、ターゲットの熱負荷そのものを下げる方向としては、プラズマ側の制御——ストライクポイントの分割・移動による熱負荷の分散、共鳴磁場擾乱(RMP )によるELM 熱負荷の緩和、不純物 シードによるダイタッチメントの促進——が固体技術と並行して進められており、ターゲット工学とプラズマ運転の両面からの改良が炉実現の前提となっている。
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ダイバータターゲット(Divertor target)の研究史 — FusionPapers