Wiki / コード SOLPS (Scrape-Off Layer Plasma Simulation)は、核融合・プラズマ物理学のコード。トカマク周辺部のスクレイプオフ層(SOL)とダイバータを対象に、流体コードB2とモンテカルロ中性粒子コードEIRENEを結合して輸送過程を再現する統合コードである。ダイバータの熱負荷低減や非接触プラズマ(detachment)の条件、不純物輸送などの評価に広く用いられる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは35本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.14%を占めた。直近の2025–2029年では0.00%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2005年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Negative lookahead excludes SOLPS-ITER.
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 関連項目 6 この数字の作り方 解説 SOLPS(Scrape-Off Layer Plasma Simulation)は、トカマク核融合装置の縁領域、とりわけスクレイプオフ層 (SOL)とダイバータ のプラズマを数値シミュレーションするための計算コード群である。プラズマの輸送を流体モデルで解くB2系コードと、中性粒子の運動をモンテカルロ法 で追うEIRENEを組み合わせたパッケージとして運用され、現在では世界中の主要トカマク装置およびITER のダイバータ設計・運転計画における標準的な解析道具となっている。核融合炉の成立性を左右する排熱・不純物 制御という課題が、磁場の開いた縁領域でどう起こるかを、実験では測りにくい二次元的な空間構造ごと定量的に予測できる点が、このコードの存在意義である。
SOLPSというコードパッケージの構成
SOLPSの中核をなすのは、プラズマを扱うB2.5コードと中性粒子を扱うEIRENEコードである。B2.5は、磁力線に沿った方向とそれに垂直な方向の二次元格子(いわゆる2Dエッジコード)上で、イオンと電子の連続の式・運動量保存則・エネルギー保存則を解く流体コードである。縁プラズマは強く磁場に沿った異方性を持つため、平行方向の輸送と垂直方向の異常輸送 (実験で決める拡散係数・熱伝導率 で表現される)を区別して扱えることがこの枠組みの要点になっている。EIRENEは、プラズマからターゲット板に当たって再結合・再放出される中性水素原子や分子、さらに不純物 ガスの生成・輸送・電離を、統計的手法(モンテカルロ法 )で追跡する。プラズマと中性粒子は互いに電離・再結合・電荷交換・輻射を通じてエネルギーや粒子をやり取りするため、両コードは反復的に結合され、自己無関係な解が得られるまで計算が繰り返される。
この「流体プラズマ+運動論的中性粒子」という構成は、ダイバータ 内で中性粒子が装置構造物との衝突や分子過程を介して複雑に振る舞うことを素通りで済ませないためのものである。実際、SOLPSの解析では中性粒子の閉じ込め(バッフリング)がダイバータの状態を決める主要因となることが繰り返し示されており、中性粒子モデルの質がコードの予測能力を直接左右する。バージョンとしてはSOLPS 4.3系と、その後継でコード結合や物理モデルを更新した 系が使われているが、本項では両者を通じて共通する枠組みを扱う。
SOLPS
種別 コード
論文数 35 本
初出 2005 –2009 年(2本)
最盛期 2020 –2024 年 0.14%
直近 2025 –2029 年 0.00% 索引にもどる
SOLPSの計算では、装置の断面形状・磁場配置・入力パワー・ガスパフ 量・ポンプ速度・不純物注入量・垂直輸送係数などを入力として与え、SOL とダイバータ内の密度・温度・流れ・熱負荷 の二次元分布が得られる。実験で直接測定が難しいダイバータターゲット 近傍の状態や、X点 を挟んだ内外非対称性まで含めて出力できることが、後述のような応用の基盤になっている。
図に示すのは、EAST 装置の実験ショットを対象としたSOLPS計算の設定例である。左から、ストライク点が水平ターゲット側にある場合と垂直ターゲット側にある場合のSOLPS計算メッシュ(磁場配置に対応した非構造格子)、外側中間面上での電子密度・電子温度の断面分布(反射計測定との比較を含む)、そして計算に用いられた垂直方向の異常粒子輸送 係数と熱伝導率の断面プロファイルが示されている。実空間の装置形状をそのまま格子に取り込み、実験で決めた輸送係数を境界条件として与える、というSOLPS計算の典型的な姿がここに見て取れる。
物理モデル:流体プラズマと運動論的中性粒子
B2.5が解くのは、ブラギンスキー型の輸送係数に基づく流体方程式系である。平行方向には電子の熱伝導が支配的であり、その係数は電子温度の5/2乗に比例する。この強い温度依存性のため、ダイバータターゲット 近くで温度が下がると平行熱流が急激に詰まり、熱流の幅(λq)が数ミリメートル程度の細い帯に集中する。SOLPSはこの細い熱流帯を格子で解像し、ターゲットへのピーク熱負荷 を予測する。ただし平行電子輸送 は本来運動論的な現象であり、流体近似ではフラックスリミッタ という補正係数で表現される。運動論コードKIPPをSOLPSと結合した研究では、平行方向の非局所電子輸送がターゲット近傍の電子分布関数に非マクスウェル的な高エネルギー尾部を作り、ターゲット電子温度を下げる効果があることが示された。一方、この非マクスウェル尾部が水素の電離に与える影響は小さく、流体モデルの主要な応用(熱負荷・密度予測)への影響は限定的とされる。
中性粒子側では、EIRENEが原子・分子(D2)の生成、電離、電荷交換、再結合、壁への出入りを追跡する。ダイバータ の性能を決める鍵は、ターゲットで再結合して放出された中性粒子がどれだけダイバータ内に閉じ込められ、再びプラズマに戻る前に冷却・電離に寄与できるかにある。このため分子の解離・イオン化過程や、分子イオンとイオンの弾性衝突、中性粒子同士の衝突といった比較的細かい過程の影響も評価対象になる。さらにサブダイバータ領域(ターゲット裏側の排気空間)の中性ガス流れを直接シミュレーション・モンテカルロ(DSMC)法で解き、中性粒子フラックスを介してSOLPSと反復結合する試みでは、ポンプ系の性能が上流プラズマ条件を制御する様子が自己無関係に求められ、SOLPSが標準的に仮定する再循環流量よりも実際の再循環率が小さくなることが示された。中性粒子の扱いをどこまで精密にするかが、コードの予測精度を上げる上での中心的な改良方向である。
応用:ディタッチメント、ダイバータ閉鎖と先進ダイバータ設計
SOLPSが最も多く使われるのは、ダイバータ の「ディタッチメント(脱着)」を扱う場面である。ディタッチメントとは、上流から流れてきたプラズマのエネルギーがダイバータ内で中性粒子による電荷交換損失と不純物 輻射によって大量に消費され、ターゲットに到達するプラズマの温度と熱負荷 が激減する状態を指す。炉規模装置ではターゲット熱負荷を材料の限界以下に抑えるためにこの状態が必須であり、SOLPSはどの上流密度・不純物注入量でディタッチメントが起こるかを予測する道具として使われる。ITER のQ=10基準運転を対象とした一連のSOLPS 4.3計算では、ダイバータ内の中性ガス圧と分離面上の不純物(ネオン)濃度がターゲットのピーク熱負荷をほぼ決める制御量として特定され、ターゲット電子温度を主制御パラメータとする簡約モデルの構築につながった。また、SOLPSの解と解析的なレンゲル(Lengyel)モデル(平行熱伝導と不純物輻射だけでダイバータのエネルギー収支を表す簡易モデル)を比較する研究では、流体コードが含む追加の損失機構(中性粒子による損失、イオン伝導・対流、放射方向への輸送)や不純物輸送 の扱いが両者の差を生むことが定量的に整理され、簡易モデルの適用限界が明確にされた。
もう一つの大きな応用は、ダイバータの幾何形状、とりわけ「閉鎖度」の効果の評価である。DIII-D 装置を対象に、開放型ダイバータと強く閉じたダイバータを同じ条件で比較するSOLPS計算では、閉鎖構造が再結合中性粒子の閉じ込めを大幅に改善し、ダイバータ内の輻射損失と電荷交換損失を増やしてターゲット温度・熱負荷を下げること、さらに同じディタッチメント状態をより低い上流密度で達成できることが示された。閉鎖はまた、中性粒子や不純物が主プラズマ側へ逆流するのを防ぐ「スクリーニング」機能を強め、開放型では閉鎖型より主プラズマへの燃料化が進む一方で不純物侵入も増える、というトレードオフが明らかにされた。内側ダイバータが高磁場側SOL に与える影響が外側ダイバータより大きいこと、閉鎖化が内外非対称性を縮小することなど、幾何形状がSOL全体の性質を変えるという知見は、先進ダイバータ設計の共通の前提になっている。
これらの知見を踏まえ、SOLPSは超伝導装置や炉設計における先進ダイバータ概念の評価に広く使われている。長いダイバータ脚を磁束膨張で伸ばして熱負荷を下げるSuper-Xダイバータ(MAST-U )、スノーフレーク配置、X-ダイバータといった構成について、磁束膨張と中性粒子による体積損失の寄与を分離して評価する解析、閉鎖度とディタッチメントの関係を調べる解析、不純物スクリーニングを比較する解析が行われている。中国の次期試験炉(CFETR )やEAST の新ダイバータ、T-15MDの液体リチウム ダイバータといった具体的設計に対しても、ターゲット熱負荷・不純物分布・ディタッチメント達成条件がSOLPSで予測されており、装置設計の初期段階でコード実験として機能している。ストライク点位置がターゲットの粒子・熱流束幅に与える影響をEASTの実験と比較した研究では、水平ターゲット側は幾何がより閉じているためディタッチメントに至りやすい、という実験・計算一致の結果も得られている。
検証・ベンチマークと他コードとの結合
SOLPSの予測を信頼するには、コードの検証・妥当性確認が不可欠である。ASDEX Upgrade のオーミックプラズマやH-mode プラズマ、EAST のストライク点掃引実験など、測定が充実した放電を対象に、中間面の密度・温度断面プロファイルやターゲット熱負荷 を実験と比較する検証が進められている。図は、ITER のネオンシード放電を対象としたSOLPS 4.3計算データベースの解析例で、外側ターゲットの全熱負荷プロファイルがフラックスチューブごとに示され、λqの範囲と放射方向への輸送による熱負荷低減量が併せて描かれている。どの磁束管でエネルギー収支が閉じ、どこで放射や垂直輸送が効くかをコードの解から直接読み取れる点が、二次元コードによる解析の強みである。
fig.1 Comparison between SOLPS-4.3 and the Lengyel Model for ITER baseline neon-seeded plasmas (2021) · CC BY 4.0
Justification for focussing our analysis on the third SOL flux ring. The total outer target heat load profiles (including neutral, plasma and radiation contributions) are shown for the maximum puff simulation before the peak heat load drops below 16 MWm−2. Each point corresponds to a single flux ring. Note that all profiles are zoomed in and mapped to the outer mid-plane; PFR values are not plotted. The reduction in the total load due to net radial transport out of each flux ring is also shown (positive values cause a decrease in target heat load). The λq range is also indicated by a shaded band, calculated in the same way as in [15]. In all cases, λq is the distance from zero to some point inside the grey band. (a) For constant Pin = 100 MW and variable {\langle {c}_{\text{Ne}}\rangle }_{\text{sep}} (as labelled). (b) For constant {\langle {c}_{\text{Ne}}\rangle }_{\text{sep}}=0.4\% and variable Pin (as labelled). (c) The numerical grid with the outer divertor portion of the third SOL flux ring highlighted in magenta (note that we show only the outer divertor part of the ring here; the entire ring runs between the two targets).
一方、コード間のベンチマークも活発である。平行一次元輸送を解く独立コードSOLF1DをSOLPSの二次元計算と比較することで、衝突性の違いによる差を整理し、一次元コードを長脚ダイバータ の掃討的解析に使う道が開かれた。また、H-modeのELM 間プラズマを一次元輸送コードONETWOと二次元SOLPSで解析し、両者の差から二次元効果の寄与を切り出す試みも行われている。ITERの燃料要求量の予測では、SOLPSの解とEPED1によるペデスタル スケーリングを組み合わせることで、運転点の密度制約と排熱要求を整合させた。
さらに、SOLPSを単体で閉じずに他の物理モデルと結合する方向も進んでいる。前述のKIPPとの結合(電子の運動論的輸送)、DSMC法との結合(サブダイバータの中性ガス流と排気)、EIRENEを介した分子過程・壁相互作用の精緻化などがその例である。これらの結合は、流体近似の限界が問題になる領域と、装置の排気・壁という境界条件が上流プラズマを決める領域を、一つの自己無関係な計算系に取り込むことを目指している。SOLPSの解自体が膨大な計算「実験」の集積であるため、その解を簡約モデル(二点モデルの拡張形など)で解釈し、制御パラメータとスケーリング則に整理する試みも並行して行われており、巨大なコード実験と解析的理解の橋渡しがこの分野の現在の姿である。
SOLPS(Scrape-Off Layer Plasma Simulation)の研究史 — FusionPapers