MAST-U(MAST Upgrade)は、核融合・プラズマ物理学の装置。球状トカマク型の磁場閉じ込め核融合実験装置で、英国の核融合研究所の先行するMAST装置を高度化したものである。Super-Xダイバータなど先進的ダイバータ配位を備え、炉心・ペデスタル・排気の統合研究を目的とする。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは103本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.92%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2010年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
MAST Upgrade(MAST-U)は、イギリスのカラム・センター・フォー・フュージョン・エナジーが運用する大型球状トカマクであり、元のMAST装置の大規模な改修によって建設された。その最大の特徴は、従来構成に加えて「スーパーXダイバータ」と呼ばれる長いダイバータ脚を持つ代替磁気位形を実験的に検証できる点にあり、核融合炉の排熱問題——プラズマ対向面への熱負荷を許容限界以下に抑えること——への対処を主目的としている。球状トカマクとして世界でNSTX-Uと並ぶ規模を持ち、高分解能診断と幅広い磁気位形の柔軟性を組み合わせて、コア・ペデスタル・排気の統合理解を進める研究拠点となっている。
装置とその能力
MAST-Uは低アスペクト比トカマクであり、主要半径とマイナー半径の比は約1.3(代表値として R = 0.85 m、a = 0.65 m が挙げられる)で、プラズマ電流は最大2.0 MA、軸上トロイダル磁場は0.8 T以下、パルス長は5秒未満である。断面形状は中型の通常トカマクに似るが、低磁場で高いプラズマ密度を実現できる点が球状トカマクの特長である。装置の内部構造は、プラズマの断面図を見るとよく分かる。

fig.6 An intra-shot tool for ramp-up optimization with experiments on MAST-U (2026) · CC BY 4.0
MAST-U poloidal cross-section.
図はMAST-Uのポロイダル断面を示しており、中央の狭い空間にプラズマが形成され、周囲に配置された多数のポロイダル磁場コイル(P1からP5、D1からD7など)と、下部・上部の遮蔽されたダイバータ室が見て取れる。22本のポロイダル磁場コイルを独立に制御することで、コア部の形状を閉じ込めと安定性の最適化に用いながら、同時にダイバータ位形を粒子・運動量・エネルギー散逸の最大化に向けて調整できる。この柔軟性がMAST-Uの設計思想の核心である。
加熱は2基の中性ビーム入射装置(NBI)によって行われ、最大合計5 MWの出力を軸上・軸外の両方で注入できる。軸上と軸外のビームを使い分けることで、高速イオン圧力の半径方向勾配を抑え、磁気流体力学的不安定性の駆動を減らす加熱・電流駆動プロファイルを作ることができる。また、共鳴磁気摂動(RMP)コイルや誤差場補正コイルを備え、ELM制御や誤差場の同定も研究課題に含まれる。診断は、高速イオン測定用のFIDA分光器、固体検出器型中性粒子分析器、シンチレータ式高速イオン損失検出器(FILD)、中性子カメラ、ビーム発光分光(BES)、ドップラー後方散乱(DBS)、運動シュタルク効果(MSE)偏角測定、赤外線サーモグラフィーなど、空間・時間分解能の高い装置群で構成される。
運転初期のキャンペーンでは、軸上トロイダル磁場0.65 T、プラズマ電流1 MAまで達成し、多様な放電条件のデータを取得した。制御系の面でも、反復学習制御を用いたプラズマ電流立ち上げの放電ごとの最適化など、将来の大型装置で必須となる自動シナリオ設計の実証が進められている。
スーパーXダイバータと代替ダイバータ位形
核融合炉では、プラズマから流出するエネルギーの大部分がダイバータの対向面に集中する。従来型の磁気位形のままでは、ターゲットの溶融を防ぐためにプラズマ全体の放射損失を95%以上にまで高める必要があると推定されており、これはコア性能の観点から受け入れがたい。そこで磁気位形の工夫によって排熱を緩和する「代替ダイバータ位形」の研究が各国で進んでおり、MAST-Uはその実証のために特別に建設された装置である。
スーパーXダイバータの原理は、磁力線の脚を大きく外側に延ばし、ターゲットを主要半径の大きい位置に置くことにある。ターゲットでの全磁場が弱くなるため、平行熱流束はターゲット位置の磁場強度にほぼ比例して減少する。さらに、X点とターゲットの間の磁束管断面積が広がる「全磁束膨張率」(X点とターゲットでの全磁場の比)が大きくなり、熱流束の幾何学的希釈が生じる。この効果を実際に発揮させるには、水素分子などの中性粒子がダイバータ領域に閉じ込められ、再結合や分子活性化過程が促進されることも重要である。MAST-Uではダイバータ室入口を厳密に遮蔽(バッフル)することで中性粒子の閉じ込めを高めており、磁束膨張の利点を中性粒子効果の差異と切り分けて評価できる数少ない装置となっている。
従来位形とスーパーX位形の磁気幾何の違いは、輸送計算に用いられる計算格子を比較すると明確である。
![Set of MAST-U SOLPS-ITER grids for the ‘conventional’ and ‘Super-X’ configurations. The separatrices are shown in red and the grid points in blue. The plasma domain corresponds to the flux-aligned grid, while the triangular grid is only for the kinetic neutrals simulated with EIRENE [27]. The Super-X low α case reduces the strike point angle of the Super-X from 162° to 105° (definition of the angle α is shown on the figure).](https://fusionpapers-figures.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/nfac81d8f2.jpg)
fig.2 Comparison between MAST-U conventional and Super-X configurations through SOLPS-ITER modelling (2022) · CC BY 4.0
Set of MAST-U SOLPS-ITER grids for the ‘conventional’ and ‘Super-X’ configurations. The separatrices are shown in red and the grid points in blue. The plasma domain corresponds to the flux-aligned grid, while the triangular grid is only for the kinetic neutrals simulated with EIRENE [27]. The Super-X low α case reduces the strike point angle of the Super-X from 162° to 105° (definition of the angle α is shown on the figure).
図は同じ装置で従来位形・スーパーX位形・ターゲット入射角を変えたスーパーX低角度位形の3つの場合について、計算に用いたメッシュと分離線(赤)を示したものである。スーパーXではターゲットが主要半径1.5 m付近まで延ばされ、磁力線の脚が大きく広がっている様子が分かる。このような位形の違いが、後述するデタッチメント閾値の低下として現れる。
ダイバータのデタッチメントと排熱
デタッチメントとは、ダイバータのプラズマとターゲット面の接触が緩み、ターゲット電子温度が数eV以下(目安として5 eV未満)まで下がる状態を指す。この状態では、プラズマと原子・分子の相互作用によってエネルギー・粒子・運動量の散逸が同時に進み、ターゲットへのイオン流束が減少する。デタッチメントは、上流密度を上げる中性リサイクルの増強や、不純物シードによる放射損失の増加によって達成される。
MAST-Uの初期キャンペーンでは、オーミック加熱での密度ランプ放電(分離熱流束約550 kW、プラズマ電流650 kA)において、イオン流束が転倒するデタッチメント開始点が、従来位形に比べてスーパーXではグリーンウォルド密度の約50%低い割合で観測された。ターゲット熱負荷は従来位形に比べて約10分の1に減少した。境界プラズマの輸送シミュレーション(SOLPS-ITER)も、スーパーX位形では従来位形に比べて上流密度で表したデタッチメント閾値が2倍以上低下し、放射フロントがX点に達する前に受動的に安定化されることを予測している。これらの結果は、磁束膨張と中性粒子閉じ込めの組み合わせが理論通りに機能することを実験的に示した最初の事例の一つである。
分光測定を用いた詳細な解析により、スーパーXダイバータでのデタッチメント進行は4つの相に分けられることが明らかになった。
![Schematic overview of the four inferred MAST-U Super-X detachment phases in terms of the reactions occurring in the divertor. Also shown is the Super-X plasma geometry and the DMS spectroscopic viewing chords. The numbers shown indicate: (1) the back-end of the ionisation region; (2) the back-end of the molecular activated recombination (MAR) region; (3) the front-end of the electron ion recombination (EIR) region; and (4) the back-end of the electron ion recombination/density region. The magnetic geometry in this illustration has been obtained from a SOLPS-ITER simulation (from [28]).](https://fusionpapers-figures.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/nfaca10af4.jpg)
fig.4 Spectroscopic investigations of detachment on the MAST Upgrade Super-X divertor (2023) · CC BY 4.0
Schematic overview of the four inferred MAST-U Super-X detachment phases in terms of the reactions occurring in the divertor. Also shown is the Super-X plasma geometry and the DMS spectroscopic viewing chords. The numbers shown indicate: (1) the back-end of the ionisation region; (2) the back-end of the molecular activated recombination (MAR) region; (3) the front-end of the electron ion recombination (EIR) region; and (4) the back-end of the electron ion recombination/density region. The magnetic geometry in this illustration has been obtained from a SOLPS-ITER simulation (from [28]).
図はスーパーXダイバータ内で起こる反応を4つの相に沿って示した模式図であり、(1)電離領域の前端がターゲットを離れ、(2)分子活性化再結合(MAR)領域がターゲットを離れ、(3)ターゲット近傍で電子・イオン再結合(EIR)による発光が強まり、(4)密度フロントがターゲットを離れて上流へ移動する、という順序を描いている。各相で水素バルマー系列や分子フルチャーバンドの発光強度がどう変化するかを視線積分分光で追うことで、デタッチメントの進行度を放電中に定量化できる道が開けた。このような相の進展は従来位形では観測が難しく、スーパーXの低いダイバータ電子温度(0.2 eV以下)と低い電子密度(10^19 m^-3程度)という条件が、分子関与の再結合過程を顕在化させていると考えられている。プラズマ・分子相互作用の考慮は水素分光データの解釈に不可欠であり、境界プラズマモデルへの組み込みが将来装置への外挿の不確実性を下げる鍵となっている。
コア・ペデスタル・ELM物理
排熱研究と並んで、MAST-Uはコア閉じ込めとエッジの安定性の研究にも力を注いでいる。球状トカマクでは、エッジ輸送障壁(ペデスタル)の安定性が全体の性能を左右するため、改修前のMASTのデータを用いたペデスタル安定性解析が改修後の実験計画の基礎となった。エッジ局在モード(ELM)の崩壊については、非線形二流体シミュレーションによる解析が進められており、ELM時に二次フィラメント(細いプラズマ構造)がX点近傍の表面との相互作用に伴って放出される様子などが調べられている。RMPコイルを用いたELM制御や誤差場補正も主要な研究課題であり、RMPの印加がLモード・Hモードの粒子閉じ込めを低下させ、コアの電離源を増加させる効果などが測定されている。
コア乱流については、ビーム発光分光やドップラー後方散乱によるイオン・電子スケール乱流の測定とジャイロ運動論的シミュレーションの比較が進められている。改修前のMASTでは、流れの剪断が乱流の対称性を破ること、非線形安定性閾値近傍で剪断が密度揺動の相関関数を傾けることなどが示されており、これらの測定手法はMAST-Uでも引き継がれている。エッジ輸送の面では、オーミックLモード放電のエッジにおける測地音響モードの特性化や、プラズマポテンシャル測定の解釈改善のための粒子シミュレーションなどが行われている。また、非コロナル放射(プラズマ密度が低い領域での放射の増強)が入力電力に依存して変化する様子がDIII-Dとの比較で調べられるなど、コアとエッジの放射特性の理解も進んでいる。
高速イオン物理と診断
MAST-Uの重要な研究目的の一つは、高速イオンの挙動と磁気流体力学的不安定性との相互作用である。球状トカマクでは低い磁場で通常トカマク並みの密度を実現できるため、アルフベン速度が低くなる。一方、NBIのエネルギーは通常トカマクと同程度であるため、ビーム由来の高速イオンはアルフベン速度に近いかそれを超える「超アルフベン速」の速度を持つ。このような高速イオンは減速過程でアルフベン波と共鳴し、幅広いアルフベン的不安定性を駆動する。これは、ITERで中性ビームと核融合生成アルファ粒子が同様の不安定性を駆動する状況を模したものであり、MAST-Uでの高速イオン研究は球状トカマクに限らず燃焼プラズマを持つ将来の通常トカマクにも直接関わる。
改修前のMASTでは、高速イオン圧力の急峻な勾配とMHD不安定性の駆動の相関が実験的に示され、また、ソートゥース崩壊が通過イオンと捕獲イオンをほぼ同程度に再分配すること、中性子カメラと荷電核融合生成粒子検出器によるD-D核融合生成物の測定値が輸送コードの予測より40%低いこと(ガイディングセンター近似の不備の可能性を示唆)などが報告された。MAST-Uでは、軸上・軸外のNBIを使い分けることで高速イオン分布の柔軟性が向上し、高速イオン圧力の半径方向勾配を抑えて不安定性の駆動と損失を減らす運転が可能になった。
損失した高速イオンの速度空間分布を測定するFILD検出器に高速カメラを組み合わせることで、損失イオンの速度空間解析と、損失を引き起こしたモードの周波数の同定が行われている。また、D-D反応で生成される高エネルギー陽子の初測定も報告されている。これらの診断群は、高速イオンの再分配と損失を良好な空間・時間分解能で追うことを可能にしており、MSE診断による磁場ピッチ分布の測定と組み合わせて、高速イオンと熱プラズマの共進化の研究を支えている。さらに、機械学習を用いたロックドモード予測など、運転制御への応用も進められている。
MAST-Uで得られた知見は、球状トカマクに基づく発電炉概念であるSTEPをはじめとする将来炉の排熱制御設計に直接反映されており、コア・ペデスタル・排気の統合という課題に取り組む上で中心的な実験装置となっている。
この解説が根拠にした論文から
- Overview of new MAST physics in anticipation of first results from MAST UpgradeNuclear Fusion 2019
- Spectroscopic investigations of detachment on the MAST Upgrade Super-X divertorNuclear Fusion 2023
- Comparison between MAST-U conventional and Super-X configurations through SOLPS-ITER modellingNuclear Fusion 2022
- Overview of fast particle experiments in the first MAST Upgrade experimental campaignsNuclear Fusion 2024
- Overview of physics results from MAST upgrade towards core-pedestal-exhaust integrationNuclear Fusion 2024
- An intra-shot tool for ramp-up optimization with experiments on MAST-UNuclear Fusion 2026
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推移
研究の変遷
2005–20146本 · 0.04%
MAST Upgradeの設計とSuper-Xダイバータのモデリング
この時代の論文はMAST Upgradeの工学設計と、Super-Xダイバータを含む周辺プラズマのモデリングに集中しており、タイトル全体に占める割合は0.04%である。MASTおよびITERと並んで現れ、輸送障壁、スクレイプオフ層、中性粒子入射といった主題と結びついている。代表的なものとして、MASTの物理成果をITER/DEMOとMAST Upgradeへ向けたOverviewや、ドリフトと輸送障壁を考慮したSuper-Xダイバータの端プラズマモデリングが挙げられる。
同時に語られた主題輸送障壁、SOLPS、スクレイプオフ層、中性粒子入射、中性ビーム、周辺輸送
この時代の論文から
- Overview of physics results from MAST towards ITER/DEMO and the MAST UpgradeNuclear Fusion 2013
- Modeling of the edge plasma of MAST Upgrade with a Super-X divertor including drifts and an edge transport barrierPlasma Physics and Controlled Fusion 2013
- Investigation of conventional and Super-X divertor configurations of MAST Upgrade using scrape-off layer plasma simulationPlasma Physics and Controlled Fusion 2014
- Engineering design of the double neutral beam injection system for MAST UpgradeFusion Engineering and Design 2011
2015–202697本 · 0.39%
MAST Upgradeの実験準備から初期物理へ
この時代には、タイトル数が90件へ増え、全体に占める割合も0.37%へ上昇する。主題は高エネルギーイオン、ダイバータ剥離、SOLPS-ITER、プラズマ診断、ELM、ペデスタル、イオン損失などへ広がり、MASTに加えてITER、DIII-D、NSTX-U、JETといった装置とともに現れる。MHDによる高速イオン再分布の緩和、Super-Xダイバータでの剥離の分光計測、ELM不安定性シミュレーション、SOLPS-ITERによる従来型とSuper-X配位の比較といった論文が、設計から実験・検証への移行を示している。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題高エネルギーイオン、ダイバータ剥離、プラズマ診断、SOLPS-ITER、ペデスタル、周辺局在モード
この時代の論文から
- Overview of new MAST physics in anticipation of first results from MAST UpgradeNuclear Fusion 2019
- Mitigation of MHD induced fast-ion redistribution in MAST and implications for MAST-Upgrade designNuclear Fusion 2015
- Spectroscopic investigations of detachment on the MAST Upgrade Super-X divertorNuclear Fusion 2023
- Simulations of edge localised mode instabilities in MAST-U Super-X tokamak plasmasNuclear Fusion 2020
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文69本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、6本の論文(うち全文5本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
