Wiki / 装置 DIII-D (DIII-D tokamak、diii-d plasmas)は、核融合・プラズマ物理学の装置。米国のGeneral Atomics社がサンディエゴで運転するトカマク型核融合実験装置で、D字型断面のプラズマを閉じ込める。Hモード遷移、ELM抑制、高ベータ定常運転など、将来の核融合炉に向けたプラズマ物理研究の中心的装置である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは1,019本ある。比重が最も大きかったのは2000–2004年で、その期間の論文の2.28%を占めた。直近の2025–2029年では1.78%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 DIII-Dは、アメリカ合衆国サンディエゴのゼネラル・アトミクス社が運用する中型トカマク実験装置であり、米国の磁気核融合研究における中心的な国立施設である。1986年にそれ以前の装置であるダブレットIII (Doublet III)を大改造して誕生し、以来40年近くにわたり、プラズマ閉じ込め の基礎物理からITER の運転シナリオの開発まで、幅広い研究の舞台となってきた。装置の規模はプラズマ主要半径約1.7メートル、プラズマ電流は最大でおよそ1.5メガアンペア程度であり、超電導を用いないパルス運転の中型装置に分類されるが、形状制御・加熱・計測の柔軟性の高さを武器に、大型装置では実施しにくい探索的実験を数多く生み出してきた。
装置とその歴史
DIII-Dの直接の前身は、1970年代に米国のジェネラル・アトミクスで建設されたダブレットIII である。ダブレット計画は、断面を上下二つに分けたような「ダブレット型」の非円形断面でプラズマを閉じ込めるという、当時としては先進的な着想に基づいていた。1986年に装置を大幅に改修し、単一の強力なポロイダル磁場コイル系と柔軟な形状制御を備えた新装置として再出発させたものがDIII-Dである。名称の「D」はダブレットの系譜を、「III」は装置の世代を受け継いでいることを示す。
装置の物理的な姿を理解するには、真空容器 とそれを取り囲む磁場コイル、そしてプラズマ断面の関係を見るのが最も分かりやすい。図は装置の上面図と側面図であり、真空容器の内側に非円形断面のプラズマが位置し、周囲にトムソン散乱 や分光計測、ガス注入などの計測・投入システムが配置されている様子を示している。
fig.1 Runaway electron plateau current profile reconstruction from synchrotron imaging and Ar-II line polarization angle measurements in DIII-D (2024) · CC BY 4.0
Hardware schematic showing (a) top view and (b) side view of the DIII-D tokamak. Showing most important diagnostics and material injectors used here.
図の上面図で注目すべきは、プラズマ断面が単純な円ではなく、外側に張り出した「D字型」をしていることである。この三角形性(triangularity )と呼ばれる断面の非対称性は、プラズマ端の安定性を高め高閉じ込めモード(Hモード )を実現するうえで鍵となるもので、DIII-Dはポロイダルコイル電流を自在に制御することでこの断面形状を放電中に変化させられる。この形状の柔軟性こそが、後述する先進的運転シナリオ研究を可能にしてきた装置の最大の特徴である。
1986年以降も装置は進化を続けてきた。真空容器内へのダイバータ ・バッフルと排気チャンバの設置、放射線遮蔽の追加、大出力の中性粒子線入射および高周波加熱システムの整備、そしてプラズマ全体を統合的に制御する包括的プラズマ制御 システムの導入などである。これらの改修により、DIII-Dは単一の実験装置というより、幅広い融合プラズマ科学プログラムの焦点となる「研究プラットフォーム」としての性格を強めていった。
装置システムと加熱
DIII-Dの磁場システムは、トロイダル(環向)磁場コイル、プラズマの位置・形状を決めるポロイダル磁場コイル、そしてプラズマ内部の電流分布 や安定性を能動的に操作するための補助コイル群からなる。特に重要なのは容器内に設置されたコイル群(in-vessel coil、Iコイル)で、共鳴磁場擾乱(RMP )を印加してエッジ局在モード(ELM )を抑制したり、誤差場を補正したりする用途に用いられる。図はDIII-D真空容器 の断面と、ITER 類似形状(ISS)およびKSTAR 類似形状(KSS)と呼ばれるプラズマ断面を重ねて示したもので、容器内の上下に配置されたIコイル群と、中平面の外側に置かれたCコイルの位置が分かる。
図が示すように、DIII-DはITERや韓国のKSTARとよく似た断面形状のプラズマを再現できる。これは単なる偶然ではなく、ITERの運転シナリオを中型装置で先行的に検証するというDIII-Dの役割を反映したものである。容器内コイルは上下二列・各六個ずつ、容器外コイルは中平面に六個あり、これらを組み合わせることでトロイダルモード数n=1,2,3の磁場擾乱を印加できる。低いnの磁場はコイルをプラズマから遠くに置けるという炉設計上の利点がある一方、回転の制動やコア領域への誤差場侵入のリスクとの兼ね合いが問題となり、どのモード数でELM抑制が達成できるかは現在も活発に研究されているテーマである。
プラズマの加熱と電流駆動 には、主に三系統が使われる。第一は中性粒子線入射(NBI )で、水素の重陽子を高エネルギーに加速してプラズマに注入し、衝突によって加熱すると同時に、プラズマを一方向に回転させるトルクを与える。第二は電子サイクロトロン加熱 (ECH)と電子サイクロトロン電流駆動 (ECCD)で、ジャイロトロン と呼ばれる高出力マイクロ波発振器を用い、可動ミラーでビームを偏向してプラズマ内の任意の位置に局所的な加熱と電流を注入できる。第三は高周波加熱で、イオンサイクロトロン共鳴 や高速波(fast wave)を用いた電子加熱 ・電流駆動が行われる。特にECH系は出力性能の向上が続けられており、新古典テアリングモード (NTM )の抑制を目的として、共鳴面の位置を実時間で追尾しミラーを閉ループ制御するという、磁場閉じ込め 装置としては先駆的な実時間制御も実現されている。
計測システムも装置の重要な構成要素である。トムソン散乱 による電子温度・密度分布 計測、電子サイクロトロン放射 による温度揺らぎイメージング、運動するスターク効果(MSE)を用いた内部磁場角度計測、ガンマ線イメージャなどの特殊な診断まで、物理モデルの検証に耐える詳細データを得るための計測が整備されている。これらのデータは遠隔地の研究者からもアクセスでき、90機関・18か国・600人を超える研究者が関わる共同研究プログラムを支えている。
プラズマ運転シナリオと閉じ込め
DIII-Dの研究の中心にあるのは、将来の炉で必要となる高ベータ・長パルス運転を実証することである。ベータとはプラズマ圧力の磁場圧力に対する比であり、正規化ベータβ_Nで評価される。DIII-Dでは、ブートストラップ電流 (プラズマの圧力勾配が自発的に生み出す電流)が全電流の半分、非誘導駆動電流が全電流の四分の三に達する放電が、エネルギー閉じ込め 時間の16倍にわたって維持され、β_Nが9に達する実績がある。これは、外部コイルの誘導電流に頼らず、プラズマ自身の圧力と外部加熱だけで定常的なトカマク運転が成立しうることを示した重要な結果である。
この種の「先進的トカマク」運転では、物理的な課題の質が長パルス化によって変化する。非理想的な磁気流体力学(MHD )モードが安定性を制限するようになり、中性粒子線由来の高速イオンがアルフベン固有モードなどの揺動を駆動して失われる輸送が蓄積エネルギーを制限し、プラズマ端の挙動が全体性能に影響する。こうした問題に対して、ECH を用いたNTM 抑制や、実時間での電流・圧力分布制御など、新しい制御手法が開発されてきた。m=2/n=1の新古典テアリングモード を電子サイクロトロン電流駆動 で完全に抑制できたことは、その代表例である。
閉じ込め性能の面では、Hモード と呼ばれる高閉じ込めモードが基準となる。Hモードではプラズマ端に「ペデスタル 」と呼ばれる急峻な圧力勾配層が形成され、閉じ込めが大幅に改善するが、その一方でELM という周期的な端部不安定が起こる。DIII-Dでは、ELMを抑制したままHモード級の性能を保つ複数のシナリオが研究されてきた。静穏な二重障壁(quiescent double barrier)状態や、ペデスタルを持たないままHモード級の閉じ込めを示すスーパーH(super-H)モードはその例であり、後者については輸送モデルを用いたコア閉じ込めの理解が進められている。
近年特に注目されているのは、負の三角形性(negative triangularity )と呼ばれる断面形状である。通常のトカマクは外側に張り出したD字断面(正の三角形性)だが、負の三角形性では断面が逆D字となり、Hモードを経由せずにELMフリー のままHモード級の閉じ込めが得られる可能性がある。ELMによる熱負荷 という炉設計上の難題を原理的に回避しうるため、パイロット炉の代替概念として注目されている。DIII-Dでは2022年末に下部の低磁場側に黒鉛タイルを設置し、平均三角形性δ_avg=-0.5という強い負の三角形性を diverted 形状で実現する専用キャンペーンが実施された。図はこの負の三角形性キャンペーンで用いられた四つの断面形状と、達成されたプラズマ電流・トロイダル磁場の運転範囲を示したものである。
fig.2 Overview of results from the 2023 DIII-D negative triangularity campaign (2024) · CC BY 4.0
DIII-D NT operational space. (a): NT Equilibrium for the four DIII-D NT shapes with poloidal coils indicated (purple); (b) plasma current I_\mathrm p versus \delta_\mathrm{avg} for times in the NT discharges with stable shape control after 800 ms and before disruptions; and (c) I_\mathrm p versus absolute value of toroidal field B_\mathrm T for the campaign shape with pulse length noted.
図の(a)はポロイダルコイル(紫)とともに示された四つの負の三角形性形状であり、内壁にプラズマを接触させる内壁制限(limited)形状から、ダイバータ を持つキャンペーン形状まで段階的に三角形性を強めている。(b)(c)はそれぞれプラズマ電流と平均三角形性、プラズマ電流とトロイダル磁場の関係を示し、約0.3から0.9メガアンペアの電流、1.0から2.2テスラ程度の磁場で運転が行われたことが分かる。強い負の三角形性プラズマでは、乱流輸送 の低減が高性能の起源であることが非線形ジャイロ運動論 シミュレーションによって正しく予測され、粒子輸送 や不純物 保持も低いことが確認されるなど、この概念を炉概念として評価するための基礎データが蓄積されている。
閉じ込めのスケーリング則の検証もDIII-Dの重要な役割である。無次元化されたパラメータ(例えば正規化されたラーマー半径ρ*)を変えながら輸送を測定する実験がLモード 放電で行われ、粒子輸送のρスケーリングやエネルギー輸送の安全因子スケーリングが調べられてきた。JET との共同実験によるハイブリッドシナリオ でのρ スキャンは、閉じ込めがボーム型のスケーリングに従うことを示唆するなど、中型装置での測定を炉へ外挿する際の基礎となっている。
ダイバータ、端部プラズマと第一壁
トカマクの端部では、プラズマが磁力線に沿って真空容器 壁に導かれ、ダイバータ と呼ばれる領域で中性化される。ここにはプラズマの全加熱出力が集中するため、炉では数メガワット毎平方メートル級の熱負荷 に耐える必要があり、ダイバータ設計は炉設計の死活的な課題である。DIII-Dでは、プラズマと壁との相互作用を研究するための多様な実験が行われてきた。
ELM の抑制は端部研究の中心課題である。前述の共鳴磁場擾乱を印加すると、プラズマ端の磁力線が確率的に混ざり合い(stochastic化)、ペデスタル の安定性が変化してELMが抑制される。DIII-Dはこの手法を最初に実証した装置の一つであり、n=2やn=3の磁場による持続的なELM抑制、さらにはn=2とn=3の混合磁場による抑制が示されてきた。最近ではn=1磁場による約100ミリ秒のELM抑制が初めて実証され、三次元理想MHD 計算を用いてコア領域の共鳴磁束を減らし端部の共鳴磁束を最大化するというコイル配置の最適化が行われた。n=1磁場はKSTAR が常用するモード数であり、装置間比較や抑制機構の基礎研究において重要な意味を持つ。
ダイバータ形状の改良も進んでいる。従来の開放型ダイバータに対し、磁力線の入射角度を浅くして熱負荷を分散させる「小角度スロットダイバータ(small angle slot divertor)」が新たに設置され、その初期的実験が行われた。また、タングステン や炭素といった第一壁 材料の侵食・再堆積の研究も重要である。黒鉛表面に堆積した層の構造や化学組成、水素同位体 の捕獲・放出過程の分析、高Z材料(原子番号の大きい材料)の侵食シミュレーションなど、炉の第一壁設計に直結するデータが得られている。これらの研究は、プラズマ対壁相互作用が単なる材料問題ではなく、プラズマ中の不純物 混入を通じて閉じ込め性能そのものに影響するという認識に基づいている。
プラズマ密度の上限も端部物理の重要な主題である。オーミックLモード やELMを伴うHモード 運転における密度限界 の研究は、グリーンウォルド密度限界の物理的起源を探るものであり、炉の運転範囲を規定する。さらに、放電の急速終了であるディスラプションに伴う runaway 電子(逃走電子 )の研究もDIII-Dの特色ある分野である。ディスラプション時に生じる相対論的電子 のビームは、アバランシェ機構で増幅されてプラズマ電流の大部分を担う「プラトー」状態に達しうるが、その電流分布 は可視光シンクロトロン放射 イメージングやアルゴン イオン線の偏光角度計測という新しい手法で再構成され、電流分布が中実(hollow ではなく centrally peaked)であることなどが明らかにされた。逃走電子の壁損傷を最小化するための緩和・抑制手法の開発は、ITER にとって不可欠な知見である。
国立施設としての役割とITER支援
DIII-Dは単一機関の装置ではなく、米国の国立融合研究施設(DIII-D National Fusion Facility)として運営されている。その使命は、核融合エネルギーを実現するためのプラズマソリューション・技術・科学的基盤・運転手法を開拓し、それを担う人材を育成することと掲げられている。研究プログラムは大学・国立研究所・民間企業からなる多機関共同体制で運営され、18か国・90機関・600人を超える研究者・技術者がデータの利用者として登録している。遠隔地から実験に参加するためのインフラも整備されており、制御室にいない参加者を含む「遠隔運転」の実現は、新型コロナウイルス感染症の流行で制御室の入室が制限された際に厳しいストレス試験を経て大きく前進した。この遠隔参加 の枠組みは、日本のJT-60 や韓国のKSTAR 、欧州のJET で構築された遠隔共同研究環境の系譜に連なるものであり、国際的な融合研究のあり方を変えつつある。
ITER への支援はDIII-Dの研究計画の中核である。ITERの基準運転シナリオに類似した放電が定常条件でITERのQ=10参照値を約50%上回る正規化融合性能を達成したこと、非誘導運転で高い融合性能が得られたこと、ITERの運転計画に必要な起動・停止手法が開発されたことなどは、その代表例である。ITERの試験ブランケットモジュール が生む磁場擾乱の影響を、DIII-Dに挿入可能なモジュールで模擬する実験では、ITER相当の擾乱レベルでは性能への影響がほとんど見られないことが示された。Hモード への遷移条件の同位体依存性や密度・回転・形状依存性の研究も、ITERの初期(非放射性)運転でのHモード到達を導く知見として位置づけられている。
ITER以外の将来概念への寄与も幅広い。燃焼プラズマ 物理では、高速イオンの輸送やアルフベン固有モードによる粒子損失(逆磁気シア 放電での対流損失など)が研究され、燃焼プラズマで支配的となる自己組織化現象の理解が進んでいる。ディスラプションの回避・緩和、トリチウム 保持、ELM制御 、無壁圧力限界を超える運転といった課題は、いずれも炉設計の不確実性を減らすためのものである。さらに、乱流輸送 や回転、高速粒子、Hモードペデスタル といった基礎物理分野では、物理に基づく予測モデルの検証(validation)がプログラム全体の方針として掲げられており、外部トルクなしで生じる固有回転 や、電子熱輸送 の閾値挙動、鋸歯状振動 の高時空間分解計測といった、理論と実験を結ぶ基礎データが蓄積されている。
40年近い運転期間を通じて、DIII-Dは「中型だが柔軟」という装置の強みを最大限に生かし、大型装置では試せない断面形状・運転シナリオ・制御手法を先行的に検証する役割を果たしてきた。負の三角形性やn=1 ELM抑制といった新しいテーマが今も生まれ続けていることは、装置の進化とともに研究の幅も広がり続けていることを示しており、ITERの建設・運転が進む時代においても、その役割はむしろ重要性を増しているといえる。
Nuclear Fusion 1991
DIII-Dの研究史 — FusionPapers