固有回転(Intrinsic rotation)は、核融合・プラズマ物理学の現象。外部からの運動量注入なしにトーラス方向へ自発的に生じる回転であり、乱流由来の残余応力(residual stress)によって駆動される。衝突周波数や密度に依存して向きが反転する固有回転反転など、複雑な振る舞いを示す。トカマクにおける回転制御や炉心性能の予測に重要である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは41本ある。比重が最も大きかったのは2010–2014年で、その期間の論文の0.22%を占めた。直近の2025–2029年では0.04%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2005年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
New concept.
解説
磁場閉じ込めプラズマにおける固有回転(intrinsic rotation)とは、中性粒子ビーム入射や電波加熱のような外部の角運動量源を一切与えていないにもかかわらず、プラズマがトロイダル(環体)方向に自発的に回転する現象である。回転の剪断は乱流や磁気流体力学(MHD)不安定を抑制して閉じ込めを改善するため、プラズマ回転は炉設計上の重要な要素だが、将来の大型炉では外部駆動の効率が低下することが知られている。例えば中性粒子ビームでは、角運動量と注入エネルギーの比がビームエネルギーの平方根に反比例して下がるため、プラズマが大きく高密度になるほど回転を駆動しにくくなる。このため、乱流そのものが生み出す自発回転である固有回転は、外部入力に頼らない回転制御の鍵として研究が進んできた。
現象:外部トルクなしの自発回転
固有回転は、オーミック(誘導電流のみの)放電をはじめ、多くのトカマクで観測されている。その実態は、トロイダル角周波数 Ω の半径方向プロファイルとして測定される。オーミックプラズマでは、線平均電子密度を上げていくと回転プロファイルが系統的に変化する様子が典型的に見られる。

fig.2 Isotope effects on intrinsic rotation in hydrogen, deuterium and tritium plasmas (2023) · CC BY 4.0
Examples of toroidal angular frequency profiles measured in hydrogen plasmas with Ip = 2.3 MA, BT = 2.7 T, as the <Ne>, the line-averaged electron density measured with the far-infrared interferometer, increased from 0.84 × 1019 m−3–2.85 × 1019 m−3.
図は水素プラズマで密度を段階的に上げながら測った角周波数の半径分布であり、低密度では中心部で順方向(電流方向)に約 10 キロラド毎秒(krad/s)に達するピークのあるプロファイルを示すが、密度が上がると中心回転が失われて中空(hollow)の、むしろ逆方向寄りのプロファイルへと移行していく。このように固有回転は単一の値ではなく、密度・衝突性・閉じ込め状態に応じて符号や形状まで変わる豊かな現象論を持つ。
回転がプラズマ性能に効くのは、E×B 回転の剪断が乱流を弱めるためである。その効果の大きさは、角運動量の拡散係数とイオン熱拡散係数の比であるイオン・プラントル数で評価でき、プラントル数が小さいほど同じ運動量源から大きな回転剪断が得られる。従来のアスペクト比のトカマクでは実験的にプラントル数はほぼ 1 とされてきたが、近年のジャイロ運動論的シミュレーションは、タイトアスペクト比や低安全係数の条件ではこれを大きく下回る領域があることを示している。プラントル数が小さく、しかも運動量のピンチ(内側への輸送)が効く条件下では、固有の運動量フラックスが比較的小さくても有意な回転剪断を自励できる。
残差応力と対称性の破れ
固有回転の理論的な中心概念は「残差応力(residual stress)」である。角運動量の半径方向フラックスは、普通の拡散項(回転勾配に比例)とピンチ項(回転そのものに比例)に加えて、回転やその勾配によらない定数項を持ちうる。この第三の項が残差応力であり、その発散が固有トルクとして働く。粒子や熱の輸送には対応物がない、運動量輸送特有の項である。
なぜ乱流が回転を駆動しうるのか。ジャイロ運動論の対称性の解析によれば、上下(中平面)対称な磁気面を持つ軸対称トカマクの中心部では、乱流は音速程度の流れを生み出せないことが示されている。乱流による運動量フラックスが生じるには、揺らぎのスペクトルにおける平行波数 k∥ の対称性(k∥ と −k∥ のつり合い)が破れていなければならない。その破れを起こす機構として、E×B 剪断流による渦の傾き、乱流強度の半径方向勾配、そして磁気面の上下非対称な形状が同定されている。ジャイロ運動論的シミュレーションは、イオン温度勾配、安全係数が大きく、磁気剪断が弱いほど強い固有回転が生じることを示し、これは実験で知られる固有回転の経験則(ライス・スケーリングと呼ばれる、電流に対する回転のスケーリング)と整合する。ただし、実験側ではエッジでのレイノルズ応力の直接測定とプラズマのスピンアップの間に量的な食い違いが見られる例もあり、残差応力だけが全てではない。
回転反転と衝突性依存性
固有回転の最も特徴的な現象の一つが「回転反転」である。オーミック L モードプラズマで密度(すなわち衝突性)を掃引すると、低密度の線形オーミック閉じ込め(LOC)領域では順方向の単調な回転プロファイルを示すが、臨界密度を超えて飽和オーミック閉じ込め(SOC)領域に入ると中心回転が減少して逆方向の中空プロファイルへ反転する。さらに深く SOC 側へ進むと、再び順方向へ戻る第二の反転が起こる例も報告されている。この種の反転は中小型トカマクで広く観測され、球状トカマクでもドップラーバックスタッター計測によって初めて確認された。

fig.3 Isotope effects on intrinsic rotation in hydrogen, deuterium and tritium plasmas (2023) · CC BY 4.0
(a) Central main ion toroidal rotation angular frequency (average over r/a = 0.0–0.3) versus average line density for Ip = 2.3 MA, BT = 2.7 T. Hollow profiles have Ω < 2krad s−1. (b) Gradient of angular frequency (averaged at r/a = 0.3–0.65) versus average line density for Ip = 2.3 MA, BT = 2.7 T.
図は中心回転(上)とその勾配(下)を線平均密度に対して示したもので、水素・重水素・三重水素の各同位体とも、密度の増加につれて順方向から逆方向へ、さらに戻るという反転の軌跡をたどる。反転の際には中心と外側で逆向きに流れる非単調プロファイルが現れうる。
反転の機構については、単純な「乱流モードの交代」では説明がつかない場合がある。ジャイロ運動論的計算によれば、反転は捕獲電子モード(TEM)からイオン温度勾配モード(ITG)への遷移によるのではなく、TEM 領域内でのプロファイル変化そのものに由来し、規格化回転勾配が局所プラズマパラメータ、特に温度比に強く依存するためとされる。一方、乱流による運動量輸送に新古典的な流れが及ぼす影響を取り入れた一次元モデルは、実験の密度・温度プロファイルを入力し、自由パラメータなしで反転の符号変化を再現できることが示されている。乱流渦の極方向の傾き角を固定した単純な残差応力モデルも、データベースの主要なパラメータ依存性を捉え、乱流の伝播方向に比例する項とそうでない項の少なくとも二つの傾き機構が必要であることを示唆する。
エッジ駆動:イオン軌道損失とペデスタル
H モードでは、エッジ(正規化半径 ρ > 0.8)に固有トルクが集中することが分かっている。その駆動には二つの機構が関与する。第一はペデスタル圧力勾配であり、E×B 剪断が残差応力を作るというモデルの定性的予測と整合する。第二は熱イオンの軌道損失である。分離面近傍では、閉じ込め面を横切って失われるイオンの軌道が角運動量を持ち去り、狭い回転層を形成する。この過程によるトルクは衝突性に依存すると予測され、ペデスタル勾配依存と組み合わせると広範な H モード条件に対するエッジ固有トルクの良い予測式が得られる。L–H 遷移を挟んでイオン軌道損失や粒子ピンチの様子が変化することも観測されている。一方、コア(ρ < 0.5)の固有トルクはエッジより一般にずっと小さいが、電子サイクロトロン加熱を施した一部の放電ではコア内側に有意な逆方向トルクが現れ、回転プロファイルを変えうる例が見つかっている。MHD 活動や壁の抵抗性を介した駆動、高ベータ・リップル条件での研究も行われているが、ここでは詳しく述べない。
上下非対称シェーピングによる回転制御
ジャイロ運動論の対称性の帰結として、コアで音速程度の流れを作る唯一の道は磁気面の上下対称性を破ることである。これは外部源に依存せず、イオン・ジャイロ半径と小型半径の比 ρ* がゼロに漸近する極限でも保たれるため、大型装置への外挿が期待できる。上下非対称性の具体的な実現法は、断面形状の傾きである。エロンゲーション(縦横比)やトライアングリティ(三角率)を中平面に対して傾けた断面を用いると、乱流が運ぶトロイダル角運動量フラックスが生じる。

fig.1 Reducing turbulent transport in tokamaks by combining intrinsic rotation and the low momentum diffusivity regime (2025) · CC BY 4.0
The figure shows the poloidal cross-sectional shape of the flux surfaces of circular (black dotted), and tilted elliptical (red solid) flux surfaces that we use in gyrokinetic simulations, where κ is elongation, θκ is the elongation tilt angle, R and Z are horizontal and vertical axes, respectively.
図は円形断面(黒の点線)と、エロンゲーション κ を傾け角 θκ だけ傾いた楕円断面(赤の実線)の磁気面形状を比較したもので、赤の断面が上下非対称性を導入する例である。非線形ジャイロ運動論的シミュレーションによれば、傾いた楕円に最適な向きの三角率をさらに加えると運動量輸送が倍増しうる。ITER 的な装置でこの最適形状を用いると、ITER で期待される回転の約 4 倍、MHD 不安定の安定化に必要な程度のアルフヴェン・マッハ数の回転が駆動できると計算されており、この形状は現存する複数の装置のシェーピングコイルで作れるとされる。
上下非対称性による駆動は、低プラントル数の運動量拡散領域と組み合わせることでさらに強化できる。運動量フラックスをゼロとする定常条件から、固有の運動量フラックスを大きくするか拡散係数を小さくするかのいずれでも回転剪断が強まるからである。球状トカマクの平衡を用いたシミュレーションでは、乱流が自ら生む固有の流れ剪断が熱フラックスを有意に低減することが示され、将来の炉で回転剪断を実用的に駆動しうる最初の方法として注目されている。
同位体効果
固有回転の同位体依存性は、重水素・三重水素を使う炉プラズマへの外挿上、重要な未解決点である。水素・重水素・三重水素のオーミックプラズマを同一条件で比較した実験では、同じ密度でも同位体ごとに回転プロファイルが大きく異なることが示された。

fig.4 Isotope effects on intrinsic rotation in hydrogen, deuterium and tritium plasmas (2023) · CC BY 4.0
H, D and T toroidal angular frequency profiles with the same density <Ne> ∼ 2.35 × 1019m−3, for plasmas with Ip = 2.3 MA, BT = 2.7 T, (pulses = #91634 at 56.41; #94864 at 56.72 s; #100112 at 56.61 s).
図はほぼ同じ線平均密度の水素・重水素・三重水素プラズマの角周波数プロファイルを並べたもので、水素では中心で約 10 キロラド毎秒(krad/s)に達する強い順方向回転を示すのに対し、重水素では数キロラド毎秒程度、三重水素では中心回転がほぼ消え、半径 r/a ≈ 0.6 にピークを持つ中空のプロファイルへと移行している。すなわち質量の大きい同位体ほど回転が弱く、プロファイルが中空化する傾向があり、これは反転が同位体質量によっても制御されることを意味する。三重水素を含む固有回転の系統的データは極めて少なく、ITER のような重水素・三重水素混合プラズマでの回転予測には、この依存性の定量的理解が不可欠である。装置サイズへのスケーリングと同位体依存性の二点は、固有回転研究に残された主要な課題である。
この解説が根拠にした論文から
- Core intrinsic rotation behaviour in ASDEX Upgrade ohmic L-mode plasmasNuclear Fusion 2014
- Characterization of intrinsic rotation drive on DIII-DNuclear Fusion 2011
- Analysis of symmetry breaking mechanisms and the role of turbulence self-regulation in intrinsic rotationNuclear Fusion 2012
- Dependence of intrinsic rotation reversals on collisionality in MASTNuclear Fusion 2015
- Optimized up–down asymmetry to drive fast intrinsic rotation in tokamaksNuclear Fusion 2018
- Isotope effects on intrinsic rotation in hydrogen, deuterium and tritium plasmasNuclear Fusion 2023
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推移
研究の変遷
2005–201420本 · 0.13%
固有回転研究の確立期
この時代の論文はHモード、オーミック加熱、Lモード、ELMフリー、ELM、輸送障壁、反転磁気シア、プラズマ流と並んで固有回転を扱い、DIII-D、TEXTOR、NSTX-U、JET、ASDEX Upgradeに現れた。DIII-Dでの駆動機構の特性評価や、ITG乱流における固有回転の物理、低流動秩序でのソース解析など、機構解明を目指す研究が中心である。
同時に語られた主題Hモード、オーミック加熱、Lモード、ELMフリー、周辺局在モード、輸送障壁
この時代の論文から
- Core intrinsic rotation behaviour in ASDEX Upgrade ohmic L-mode plasmasNuclear Fusion 2014
- Characterization of intrinsic rotation drive on DIII-DNuclear Fusion 2011
- Analysis of symmetry breaking mechanisms and the role of turbulence self-regulation in intrinsic rotationNuclear Fusion 2012
- Physics of intrinsic rotation in flux-driven ITG turbulenceNuclear Fusion 2012
2015–202621本 · 0.08%
固有回転反転と多装置展開の時代
この時代はLモード、オーミック加熱、乱流輸送、トリチウム、輸送障壁、低域ハイブリッド波駆動、L-H遷移、イオンサイクロトロン加熱と並び、KSTAR、Alcator C-Mod、MAST、EAST、DIII-Dで固有回転が研究された。回転反転と非局所輸送・乱流遷移の関係、MASTでの衝突率依存性、Alcator C-Modでの履歴現象など、反転現象とその機構解明に焦点が当てられている。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題Lモード、オーミック加熱、乱流輸送、トリチウム、輸送障壁、磁気シア
この時代の論文から
- Intrinsic rotation reversal, non-local transport, and turbulence transition in KSTAR L-mode plasmasNuclear Fusion 2017
- Dependence of intrinsic rotation reversals on collisionality in MASTNuclear Fusion 2015
- Global gyrokinetic simulations of intrinsic rotation in ASDEX Upgrade Ohmic L-mode plasmasNuclear Fusion 2018
- Observation of the intrinsic rotation in KSTAR Ohmic L-mode plasmasNuclear Fusion 2016
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文31本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、8本の論文(うち全文2本)と4枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
