ELMフリー(Edge localized mode-free、ELM-free)は、核融合・プラズマ物理学の現象。Hモードの高閉じ込め状態のうち、エッジ局在モード(ELM)が発生しない運転領域を指す。ELMによる間歇的な熱・粒子損失が無いためプラズマ対向機器への負荷を低減できるが、密度上昇や不純物蓄積を招きやすいため、定常維持には周辺部のMHD振動などによる輸送制御が重要になる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは32本ある。比重が最も大きかったのは1995–1999年で、その期間の論文の0.14%を占めた。直近の2025–2029年では0.10%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Plasma regime without edge localized modes
解説
ELMフリー(ELM-free)とは、トカマクプラズマの高閉じ込めモード(Hモード)運転において、エッジ局在モード(ELM)と呼ばれるエッジの爆発的不安定現象が一切発生しない状態、あるいはそのような運転領域を指す。Hモードではプラズマ端に輸送障壁が形成され、温度・密度の急峻な勾配(ペデスタル)が生じるが、この勾配が限界に達するとELMが周期的にエネルギーと粒子を吐き出す。ELMフリーの状態では、この急峻なペデスタルと良好な閉じ込めを保ちながら、ELMによる熱負荷を完全に回避できる。図は1回の放電中に起こる3つの閉じ込め状態の遷移を示したものである。

fig.1 Automatic identification of tokamak plasma confinement states (L-mode, ELM-free H-mode, and ELMy H-mode) with multi-task learning neural network (2025) · CC BY 4.0
Three plasma confinement states during a pulse shot. The green part represents L-mode, the yellow part represents ELM-free H-mode, and the red part represents ELMy H-mode. During red part, the peaks in Dα and magnetic signals represent edge localized modes.
図の上段は水素スペクトル線Dαの強度、下段はミラノフコイルによる磁気信号の時間変化で、緑色のLモードから黄色のELMフリーHモードを経て、赤色のELMy Hモードへ移行すると、Dαと磁気信号にELMに対応する鋭いスパイクが周期的に現れる。ELMフリーの状態ではこれらのスパイクが完全に欠落していることが、この現象の定義そのものを可視化している。
なぜELMを避けねばならないか
Hモードのエッジ勾配は、圧力勾配とエッジ電流(ブートストラップ電流)の駆動するピーリング・バルーニング不安定性によって制限される。この限界を超えると発生する大型のタイプI ELMでは、蓄積エネルギーの最大3割程度が一挙に放出され、ダイバータ板に瞬間的な熱負荷が集中する。現在の実験装置では許容できても、ITER以降の炉規模装置では、この熱負荷がダイバータ表面の侵食や溶融を引き起こすのに十分な大きさに達すると予測されており、ELMの緩和ないし完全な抑制は炉設計上の必須要件とみなされている。同時に、ELM対策のためにペデスタル圧力を大きく下げてしまえばHモードの閉じ込め性能という利点を失うため、「ELMなしで高いペデスタルを保つ」ことが目標となる。
エッジ安定性は、正規化されたペデスタル圧力勾配を横軸、エッジ電流密度を縦軸とする安定性ダイアグラム上で理解される。低nのピーリング不安定領域、中〜高nのバルーニング不安定領域、そして両者が結合した領域が描かれ、タイプI ELMを起こす標準的なHモードの運転点はこの不安定境界の近傍に位置する。プラズマ形状の変更やE×B回転の制御などによって輸送とペデスタル構造を変えれば、境界そのものが動き、タイプI ELMを起こさずに済む運転窓が開ける。

fig.01 Access and sustainment of naturally ELM-free and small-ELM regimes (2018) · CC BY 4.0
Schematic sketch of pedestal stability diagram: (a) shows typical experimental points of type-I ELMy regimes (yellow star), QH-modes (green star), I-modes (magenta star), (b) illustrates the experimental points of type-II ELMs (cyan star) and grassy ELMs (orange star).
図(a)にはタイプI ELMy Hモード(黄色)に対し、QHモード(緑)とIモード(マゼンタ)の運転点が、図(b)にはタイプII ELM(シアン)とグラスィーELM(オレンジ)の運転点が、いずれも安定領域内の異なる位置に描かれている。自然にELMフリーとなる領域や小ELM領域は、タイプI ELMの運転点とは異なる安定性マップ上の位置を占めることが分かる。
自然にELMフリーとなる領域
最も研究が進んだ例の一つがQHモード(静穏Hモード)である。DIII-Dで発見され、ASDEX Upgradeでも同様の状態が得られた。反対方向の中性粒子入射などでプラズマ端の回転を強めると、エッジに「エッジ高調波振動(EHO)」と呼ばれる定常的な帯状のMHD振動が現れ、これが飽和したキンク・ピーリングモードとして働いて粒子輸送を担うことで、ペデスタルがタイプI ELMの限界に達する前に定常的な輸送経路が確保される。EHOによる連続的な粒子排出のおかげで密度が蓄積せず、ELMを起こさずにHモードに匹敵するペデスタル圧力と閉じ込めが維持される。高三角率化によりITERレベルのペデスタルベータと衝突頻度パラメータに達した報告もあり、内部輸送障壁と組み合わせた二重障壁の定常高性能運転にも適合する。
**Iモード**は、エッジに粒子輸送障壁が形成されずエネルギー輸送障壁のみができるため、密度の蓄積が起きず原理的にELMを伴わない。EDA Hモードでは、準連続的な準伝搬モード(QCM)が粒子を排出し、ELMなしのHモードが維持される。これらの領域はいずれも「ELMを抑えるのではなく、ELMを起こさずに済む輸送経路をエッジに持つ」点で共通しており、衝突頻度、三角率、q95、ペデスタルベータ、グリーンウォルド密度に対するペデスタル密度の比といった軸で整理した存在領域マップが作られている。マップ上ではQHモードとIモードは互いに補完的なパラメータ領域を占め、ITERの目標運転点(衝突頻度が低く密度比が高い領域)に近づくほど存在窓が狭くなる傾向が示されている。
小ELM領域と形状・壁条件による経路
ELMを完全に消さなくても、個々のELMを小さくすればダイバータへの負荷を許容範囲にできる。タイプII ELMやグラスィーELMは、高ベータ化や強い三角率化によってピーリング・バルーニング安定性ダイアグラム上でより安定な領域へ運転点を移すことで得られ、頻度が高く個々の放出が小さい。これらは「小ELM領域」として自然ELMフリー領域と並ぶ炉候補である。
形状の変更による別の経路が負の三角率(NT)である。X点を磁軸より外側に置くこの形状では、コアの乱流輸送が減って閉じ込めが向上する一方、十分に三角率を負にすると(DIII-Dではδが約−0.15を下回る領域)、エッジの局所磁気せん断が変化してバルーニングモードの「第二安定領域」へのアクセスが閉じ、ELMy Hモードが形成できなくなる。実際、TCVとDIII-Dでは高加熱出力でもELMが発生しないNT放電が実現し、しかも高nバルーニング限界に従いながら実質的なエッジ勾配を維持できるため、これらの状態はLモードではなく「ELMフリーなNTエッジ」として理解すべきだとされる。ただし低アスペクト比の球状トカマクでは第二安定領域の閉鎖だけではELMy Hモードの防止が説明できず、MAST-Uでの初観測は、第二安定領域の閉鎖とELM防止のデコリレーションを示すなど、NTエッジの勾配制限機構には理想MHDバルーニング限界以外の輸送機構も関与することが示唆されている。
壁条件も効く。NSTXではダイバータと第一壁へのリチウム被覆によるリサイクリング低減と不純物(有効イオン電荷Zの増加)に伴う抵抗率の上昇が組み合わさり、理想MHDでは説明できない完全なELM抑制が起きたことが、拡張MHD解析によって示されている。プロファイル変化だけでは不十分で、非理想MHD効果が安定化に寄与する例である。
ITERと炉への射影
自然ELMフリー領域と小ELM領域は、外部コイルによる磁気擾乱やペレットペーシングといった能動的ELM制御(ITERで想定される主経路)と対になる選択肢であり、物理機構そのものが輸送とペデスタル制御を担う点で炉運転に適した性質を持つ。ただし各領域の存在条件は衝突頻度や密度比などに強く依存し、ITERの目標運転点(低衝突頻度・高密度比)でこれらの領域にアクセスできるかは、存在領域マップの外挿に依存する未解決の問題である。また、ELMフリー状態の持続性、コア性能との両立、不純物シーディングによる放射冷却との統合など、炉シナリオへの統合には解決すべき課題が残る。運転中の閉じ込め状態(Lモード、ELMフリーHモード、ELMy Hモード)を機械学習で自動識別する試みが始まっており、ELMフリー状態のリアルタイム監視・制御は将来装置の運転知能化の一部として進みつつある。
この解説が根拠にした論文から
- Stability and dynamics of the edge pedestal in the low collisionality regime: physics mechanisms for steady-state ELM-free operationNuclear Fusion 2007
- Access and sustainment of naturally ELM-free and small-ELM regimesNuclear Fusion 2018
- Edge stability of the ELM-free quiescent H-mode on DIII-DNuclear Fusion 2005
- Stabilizing effect of resistivity towards ELM-free H-mode discharge in lithium-conditioned NSTXNuclear Fusion 2017
- ELM-free stationary H-mode plasmas in the ASDEX Upgrade tokamakPlasma Physics and Controlled Fusion 2003
- Characterization of the ELM-free negative triangularity edge on DIII-DPlasma Physics and Controlled Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1995–20049本 · 0.09%
この時代の記述はまだ書かれていない
同時に語られた主題周辺局在モード、Hモード、ペデスタル、プラズマ回転、Lモード、誤差磁場
この時代の論文から
- Combined heating experiments in ELM-free H modes in JETNuclear Fusion 1999
- Error field penetration and plasma rotation in H mode and control of ELM-free regimes in COMPASS-DNuclear Fusion 1999
- A power step-down approach to extended high performance of ELM-free H modes in JETNuclear Fusion 1997
- Numerical simulation of ELM-free H-mode and hot-ion H-mode JET plasmasPlasma Physics and Controlled Fusion 1996
2005–20147本 · 0.05%
この時代の記述はまだ書かれていない
同時に語られた主題周辺局在モード、Hモード、固有回転、壁コンディショニング、定常状態、ペデスタル
この時代の論文から
- Stability and dynamics of the edge pedestal in the low collisionality regime: physics mechanisms for steady-state ELM-free operationNuclear Fusion 2007
- Plasma dynamics with second and third-harmonic ECRH and access to quasi-stationary ELM-free H-mode on TCVNuclear Fusion 2007
- Core transport of lithium and carbon in ELM-free discharges with lithium wall conditioning in NSTXNuclear Fusion 2013
- Edge stability of the ELM-free quiescent H-mode on DIII-DNuclear Fusion 2005
2015–202616本 · 0.06%
この時代の記述はまだ書かれていない
同時に語られた主題周辺局在モード、Hモード、三角形度、負三角形度、ペデスタル、バルーニングモード
この時代の論文から
- Access and sustainment of naturally ELM-free and small-ELM regimesNuclear Fusion 2018
- Developments towards an ELM-free pedestal radiative cooling scenario using noble gas seeding in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2021
- Stationary ELM-free H-mode in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2020
- Stabilizing effect of resistivity towards ELM-free H-mode discharge in lithium-conditioned NSTXNuclear Fusion 2017
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Edge localized mode-free、ELM-free など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文24本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、8本の論文(うち全文4本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
