負三角形度(Negative triangularity)は、核融合・プラズマ物理学の現象。磁気面の断面形状を決める三角変形δが負の値を持つトカマク配位で、断面が逆D字形になる。磁気井戸を弱めて理想バルーニング安定性を制限する一方、Lモードのままで高い閉じ込めを実現し、ELMを伴わない電力排気特性から炉心プラズマの候補となっている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは85本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の0.69%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは2015年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
負三角形度(negative triangularity、NT)とは、トカマクプラズマの断面形状パラメータである三角形度 δ の符号を、標準的な「D字形」断面とは逆向きにした形状、すなわち断面の「尖った側」をトカマク軸の内側へ向ける運転構成、およびそれがもたらす一連のプラズマ物理現象を指す。三角形度は、プラズマ断面の最高点・最低点の位置とプラズマ中心からの距離をマイナー半径で規格化して定義され、上側・下側で別々に(δu、δl)、さらにその平均として(δa)評価される。通常のトカマクでは δ > 0 の「正三角形度(PT)」が標準であり、Hモードへの遷移が容易なため採用されてきた。これを δ < 0 に反転させると、縁の乱流輸送が低減してLモードのままHモード並みの閉じ込めが得られる一方、Hモードへの遷移そのものが起きなくなり、結果としてエッジ局在モード(ELM)が原理的に消える。この「高閉じ込めかつELMフリー」という組み合わせが、炉設計上の大きな利点として注目され、TCV、DIII-D、ASDEX Upgrade などの装置で実証研究が進んでいる。

fig.2 Experiments and gyrokinetic simulations of TCV plasmas with negative triangularity in view of DTT operations (2024) · CC BY 4.0
Poloidal cross-section shapes achieved in TCV and radial penetration of triangularity.
図は、TCVで実現された正三角形度と負三角形度の断面の対比と、三角形度の半径方向分布を示す。上段のa)がPT、b)がNTのポロイダル断面で、NTではD字の「鼻」が内側を向いた逆D字(リバース・ディー)形状になっていることが分かる。下段のc)は、各磁面での上側・下側・平均三角形度の半径方向プロファイルであり、三角形度がプラズマ縁に向かって強まる様子、すなわち形状制御が主に外側縁の平衡に作用することを表している。
定義とプラズマ形状の幾何
三角形度は、断面の上下の極値点の大半径方向位置 R_zmax, R_zmin を用いて δu = (R_geo − R_zmax)/a、δl = (R_zmin − R_geo)/a と定義され、その平均 δa = (δu + δl)/2 で代表される。ここで a は (R_out − R_in)/2 で与えられるマイナー半径、R_geo は (R_in + R_out)/2 の幾何学的主半径である。NTでは断面が軸側に尖るため、X点の大半径が本質的に大きくなる。これはダイバータターゲットの濡れ面積を増やして熱負荷を分散させる効果があり、大型のダイバータ容積や炉内ポロイダル場コイルを要さずに得られる点で、炉設計上有利である。
![The poloidal cross section of the plasma geometry with shaping parameters that are relevant for calculation of the triangularity, as defined in [24]. This shape is from plasma discharge #40879 performed at 800 kA of plasma current. Shaping parameters, such as upper (δu), lower (δl) and average triangularity (δa), are displayed.](https://fusionpapers-figures.s3.ap-northeast-1.amazonaws.com/ppcfad76d7f1.jpg)
fig.1 Pedestal properties of negative triangularity discharges in ASDEX Upgrade (2024) · CC BY 4.0
The poloidal cross section of the plasma geometry with shaping parameters that are relevant for calculation of the triangularity, as defined in [24]. This shape is from plasma discharge #40879 performed at 800 kA of plasma current. Shaping parameters, such as upper (δu), lower (δl) and average triangularity (δa), are displayed.
図は、実際の放電におけるポロイダル断面に、三角形度の計算に用いられる幾何学的諸量(R_in、R_out、R_zmax、R_zmin、幾何軸と磁気軸の位置)を書き込んだものである。δu = −0.35、δl = −0.08、δa = −0.13 という値が示すように、上側・下側で三角形度の大きさは異なり、実験ではX点側の δ を十分に負に保つこと、また閉じ込め改善にはX点でない側(下側一様ヌル配置では上側)の三角形度が重要であることが指摘されている。形状の効果を定量的に扱うため、システムコードや平衡計算で使える三角形度を含む幾何公式の整備も進んでいる。
Hモード抑制とELMフリー縁
NT研究の中心にあるのは、なぜ負の三角形度がHモードを塞ぐのかという問いである。PTプラズマでは、縁の圧力勾配が高トロイダルモード数のバルーニングモードに対して安定化の「第二安定領域」へ到達できるため、大きなペデスタル(縁輸送障壁)が形成できる。NTでは、この第二安定領域への到達経路が閉じられる。強い負の三角形度は、悪曲率領域全体にわたって磁気シアを小さく、あるいは負にすることを妨げ、バルーニングモードの不安定領域を広げる。その結果、ペデスタルの形成に必要な縁圧力勾配の限界が下がり、L–H遷移のしきい電力が実験的に観測されるよりも高くなる。EPED-CHモデルを用いたペデスタル計算でも、NT配置はPTに比べて低いペデスタル高さしか許さないことが示されている。DIII-Dでは δ が約 −0.12 を下回るとELMが消失し、強いNT形状では広いパラメータ範囲でELMが堅牢に回避される。
重要なのは、Hモードが消えても閉じ込めが落ちない点である。NTのLモードプラズマは、同じ入力電力のPTのLモードより高いコア圧力を維持でき、DIII-Dでは βN = 2.7、H98y2 = 1.2 というHモード並みの性能がLモード縁のまま達成されている。つまり「Hモード級のコア、Lモード級の縁」というプロファイルが実現し、ペデスタルの周期的崩壊であるELMが原理的に存在しない。ASDEX Upgradeでの追試では、逆Bドリフト方向などHモード進入が不利な条件ではHモード進入が抑えられる一方、有利なドリフト方向では最終的にHモードへ遷移しELMが現れることも報告されており、ELMフリー化の条件は形状だけではなくドリフト方向にも依存する。縁の電場形成の観点からは、PTのHモード縁ではイオンの有限軌道幅効果が局在した放射状電場を作りE×Bシアによる乱流抑制が働くのに対し、NT縁ではイオン損失が増大し、イオンと電子の損失率の差がLCFS内側に電場を形成して逆方向の平行流を生じる、という機構が軌道シミュレーションによって示されている。
閉じ込めと縁の微視的乱流
コアの閉じ込め改善は、乱流輸送の低減に帰着される。TCVでの実験とジャイロ運動論的シミュレーションでは、NTプラズマで電子温度勾配駆動の閉じ込め改善が確認され、捕捉電子モード(trapped electron mode)によるイオンスケール乱流の低減が線形・非線形の両シミュレーションで観測されている。一方で、ITG(イオン温度勾配モード)の熱流束に対する三角形度の効果については、符号によらず十分な大きさの三角形度で熱流束が下がるという報告と、符号によらず輸送が増えるという逆の結果が併存しており、ITGに対する三角形度の効果にはまだ一貫した理解が得られていない。この点は、ジャイロ運動論的プロファイル予測とその検証という形で、ASDEX UpgradeやDTT(Divertor Tokamak Test Facility)に向けた研究の中で活発に検証が進められている。
非局在効果、すなわち縁で生成された摂動がコアの輸送に及ぼす影響もNTプラズマで研究されており、また不純物輸送やプラズマ回転への影響もTCVで調べられている。縁の粒子輸送については、NTではPTに比べて粒子の再循環が変化し、密度プロファイルの形状が変わることが観測されている。高速イオンの閉じ込めについては、DIII-Dでの初期的な実験において、アルフベン固有モードによる高速イオン輸送がPTの場合と同程度であることが示されており、NTが高速イオン閉じ込めに関して特別な利点も不利も持たないことが分かっている。理想キンクモードや抵抗壁モードのフィードバック安定化がNT配置でも可能であることも示されており、マグネットヒドロダイナミクス(MHD)安定性の観点からはNT配置は炉運転と両立しうる。
ダイバータとコア・エッジ統合
炉では、ダイバータをデタッチメント(熱の体積放出によるターゲット負荷の低減)状態で運転することが想定される。NTではHモードを維持する必要がないため、分離面を横断する電力をL–Hしきい値以上に保つ制約が外れ、コアと縁の放射を高く取れる。これはダイバータへの流入電力 P_SOL を下げることに直結する。一方で、NT配置でのデタッチメント達成は容易ではない。TCVでは密度ランプではデタッチに至らず、窒素シードでデタッチを得た際には閉じ込めが劣化した。DIII-Dでは、内在放射だけでデタッチに達するにはグリーンウォルド密度を超える高密度が必要で、その際に電子温度ペデスタルの喪失を通じて20–30%の閉じ込め劣化が起きた。
この困難は、二点モデルから理解できる。ダイバータの電子温度は T_e-div ∝ (P_SOL/λ_q)^{10/7} n_u^{-2} L_∥^{-4/7} で見積もられ、デタッチに必要な上流密度は n_u-det ∝ (P_SOL/λ_q)^{5/7} L_∥^{-2/7} とスケールする。NTでは縁の輸送が低減して P_SOL/λ_q が大きくなりがちなこと、またX点が大半径側にあり接続長 L_∥ が短くなりがちなことが、デタッチメント開始を高密度側へ押しやる。さらに、粒子ドリフトに起因する内外ダイバータの非対称性や、密度ピークングの違いも寄与する。オーム加熱のPT・NT比較実験でも、NTプラズマはデタッチが起きにくいことが確認されており、これはNT配置の一般的な特徴と考えられている。デタッチメントと高性能コアの両立、すなわちコア・エッジ統合は、NT研究の現在の焦点である。
炉の見通しと設計研究
NTの炉への適用は、概念設計レベルで活発に検討されている。オーム加熱のみのNTトカマク発電所の実現可能性を論じた研究や、電磁系の概念設計、システムコード用の三角形度を含む幾何公式の整備など、装置設計の側面からの研究が進んでいる。統合モデリングによるNT炉コアの運転領域の特徴付けも行われており、DTTでは初期運転段階からNTオプションが設計に組み込まれている。NTの利点は、ELM緩和策を不要にする点、分離面を横断する電力をL–Hしきい値の制約なしに下げられる点、X点が本質的に大半径側にありターゲットの濡れ面積が大きく取れる点、LモードではSOL幅が広くなりパワー処理に有利な点にある。一方で、デタッチメント達成の困難さや、ITG乱流に対する三角形度の効果の未解決性など、解決すべき物理課題は残されており、現在の実験・シミュレーション研究はこれらの検証に向けられている。
この解説が根拠にした論文から
- Alfvén eigenmodes and fast ion transport in negative triangularity DIII-D plasmasNuclear Fusion 2019
- An analytical model of how the negative triangularity cuts off the access to the second stable region in tokamak plasmasNuclear Fusion 2024
- Comparison of detachment in Ohmic plasmas with positive and negative triangularityPlasma Physics and Controlled Fusion 2024
- Experiments and gyrokinetic simulations of TCV plasmas with negative triangularity in view of DTT operationsPlasma Physics and Controlled Fusion 2024
- Pedestal properties of negative triangularity discharges in ASDEX UpgradePlasma Physics and Controlled Fusion 2024
- Divertor characterization and access to dissipative divertor conditions in negative triangularity discharges in DIII-DPlasma Physics and Controlled Fusion 2025
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推移
研究の変遷
2015–202685本 · 0.34%
負三角形度トカマクの安定性と炉心展望
これらの論文は、負三角形度トカマクの安定性限界と核融合炉としての可能性を検討し、DIII-DやTCVでの実験結果を報告している。ジャイロ運動論的シミュレーション、不純物、Hモード、アルヴェン波、抵抗性壁モード、ペデスタル、Lモードといったテーマと共に議論されており、特にLモード端部特性とペデスタルなしでの高閉じ込めの利点が注目されている。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題三角形度、ジャイロ運動論、不純物、Hモード、周辺局在モード、アルフヴェン波
この時代の論文から
- The negative triangularity tokamak: stability limits and prospects as a fusion energy systemNuclear Fusion 2015
- L-mode-edge negative triangularity tokamak reactorNuclear Fusion 2019
- Diverted negative triangularity plasmas on DIII-D: the benefit of high confinement without the liability of an edge pedestalNuclear Fusion 2021
- Alfvén eigenmodes and fast ion transport in negative triangularity DIII-D plasmasNuclear Fusion 2019
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文64本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文6本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
