先進トカマク(Advanced tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の現象。定常運転を目指し、高ベータ・高閉じ込めを実現するトカマク運転形態。安全係数分布や圧力分布を能動制御し、内部輸送障壁や自発電流(ブートストラップ電流)を活用して非誘導電流駆動割合を高める。抵抗性壁モードの安定化などMHD安定性の制御が高ベータ運転の鍵を握る。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは99本ある。比重が最も大きかったのは2000–2004年で、その期間の論文の0.51%を占めた。直近の2025–2029年では0.06%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1985年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
先進トカマクとは、従来のトカマクが抱える「パルス運転」という本質的制約を克服するため、プラズマ電流をできる限り誘導電流によらず自励的に賄いながら、高ベータ(高プラズマ圧)と改善された閉じ込めを同時に実現しようとする運転概念・研究分野である。従来シナリオでは中央ソレノイドが変圧器として働き、プラズマ電流は主に誘導的に駆動されるため、運転は必然的に有限時間のパルスとなる。発電所としてはサイクルごとの熱・電磁力負荷と停止時間が経済性を損なうため、定常運転が強く求められる。先進トカマクはこの要求に対して、電流分布の制御(プロファイル制御)、ブートストラップ電流の最大化、内部輸送障壁による閉じ込め改善、そして高ベータで生じる磁気流体力学(MHD)不安定の制御という四つの要素技術を統合したものであり、DIII-D、JET、JT-60U、ASDEX Upgrade などの主要装置で実証研究が進められ、ITER の定常運転シナリオの物理的基盤となっている。
定義と動機:定常・高ベータ運転
従来のオーミック(誘導)運転では、電流は電気伝導度が温度の3/2乗に比例することから中心に集中したピーク形状を自然にとる。これに対し先進トカマクでは、外部加熱装置(中性粒子ビームや電子サイクロトロン波など)を用いて電流を軸外で駆動し、安全係数 q の分布(電流分布の逆像)を意図的に平坦化あるいは中空化する。これによってブートストラップ電流の割合を高め、パルス長を延長し、最終的には完全非誘導運転に至ることを狙う。副次的な利点として、q が 1 を横切る磁気面がなくなるため鋸歯状不安定が抑制され、閉じ込めと安定性が改善される可能性がある。一方で電流分布が広く平坦になることは理想 MHD 安定化限界(最大達成可能ベータ)を下げる方向にも働き、これが後述する安定性研究の中心課題となる。
どのような電流分布がどの程度の自励電流割合に対応するかは、シナリオ設計の基本図となる。図は代表的な四つのシナリオにおける q プロファイルと、それに付随するブートストラップ電流割合を示したものである。

fig.1 The properties of resistive MHD modes and unstable spectra in advanced tokamak regimes (2025) · CC BY 4.0
Different kinds of advanced tokamak scenarios, and the typical associated bootstrap current fraction fBS.
図中には、従来の誘導運転(自励電流割合ほぼゼロ)、ハイブリッド(約0.3)、先進誘導(約0.3)、そして完全定常を目指す先進トカマク(約0.8)の q 分布が重ねて描かれており、中心部の q を高く保つほど自励電流割合が増大することが読み取れる。国際比較データベースを用いたマルチ装置解析によれば、既存の先進トカマク運転はすでに ITER の非誘導電流駆動運転が要求する領域、すなわちブートストラップ電流割合約50%以上の領域に到達している。
電流プロファイル制御とブートストラップ電流
ブートストラップ電流は、圧力勾配を持つ閉じ込め磁場中で粒子の衝突拡散に伴って自発的に生じる電流であり、その大きさは概略 q と圧力勾配の積に比例する。つまり高ベータで良好な閉じ込め(急な圧力勾配)を実現すればするほど、外部電源なしにプラズマ自身が電流を生み出す。定常運転にはこの自励電流で全電流の50%から60%以上を賄うことが求められるが、ブートストラップ電流の分布は圧力分布で決まり、望む q 分布と必ずしも一致しないため、残りを中性粒子ビームや低域混成波、電子サイクロトロン電流駆動で意図的に補う必要がある。
電流分布の制御が難しいのは、電流がプラズマ中を拡散する時間スケールが長いためである。電流拡散時間は伝導度と装置サイズで決まり、中型装置で数秒程度だが、ITER 級の大型装置では数百秒に達すると推定される。このため、放電開始後にずれて電流駆動を加える方式では、q 分布が目標を下回ってから回復するまでの過渡期が大型装置では許容できなくなる。これを避けるのが「早期加熱」方式で、電流立ち上げ段階から軸外電流駆動を投入し、誘導電流が中心に向かって拡散する前に広い電流分布を凍結する。これにより強い逆転した q 分布(中心で q が極小を持つ分布)を作り、内部輸送障壁の形成につなげることが JET や JT-60U で実証されてきた。ただし早期加熱は加熱・燃料供給のタイミングに対する感度が高く、破壊モードに対する安定性も低下するため、シナリオ設計には予測モデルに基づく統合的アプローチが不可欠となっている。
実際の放電で電流がどう構成されるかを示したのが次の図である。

fig.3 Development and application of a predictive model for advanced tokamak scenario design (2024) · CC BY 4.0
Current profile during a q_{95} \sim 5.2; I_\textrm{p} \sim 800 kA advanced scenario (right) with hatched regions denoting a negative contribution compared to the current profile in an arbitrarily chosen H-mode (left) and the corresponding q-profiles (bottom).
左図は通常の H モード放電、右図は先進シナリオ放電の電流密度分布で、全電流を誘導電流、中性粒子ビーム駆動電流、電子サイクロトロン駆動電流、ブートストラップ電流に分解して示している。先進シナリオでは中心部の誘導電流が減り、軸外の非誘導電流とブートストラップ電流が支配的になることで、中心 q が高い平坦な分布が維持されている。
内部輸送障壁と改善された閉じ込め
先進トカマクの閉じ込め改善の鍵となるのが内部輸送障壁(ITB)である。これはプラズマ中心部に局所的に形成される、熱輸送が強く抑制された領域であり、イオン熱輸送が新古典理論値(衝突で決まる理論的下限)近くまで低下することが多くの装置で観測されている。形成機構は、磁気シアー(磁場線のねじれの変化率)が負または極めて小さい領域では微視的乱流が安定化されることによる。特に、E×B ドリフトの速度シアーが乱流渦を剪断・破壊することで輸送が抑制され、シアー流の増大、乱流の減衰、輸送の低下の三者が時間的・空間的に強く相関することが観測とシミュレーションの両方から示されている。DIII-D では、有理 q 面でのイオン ITB 形成が平衡ゾーナフローが生む強い E×B シアーによることが実験とジャイロ運動論シミュレーションで示された。
逆転した q 分布の作り方には幅があり、中心 q の極小値とその位置によって障壁の性質が変わる。

fig.10 The properties of resistive MHD modes and unstable spectra in advanced tokamak regimes (2025) · CC BY 4.0
Two types of reversed q profiles: comparing strong and weak shear reversal.
図は強い逆転シアーと弱い逆転シアーの二種類の q 分布を比較したもので、強逆転では中心に深い極小を持ち複数の有理面が近接して現れるのに対し、弱逆転では極小が浅く単一の有理面近傍で障壁が形成される。強い逆転は高い閉じ込め改善をもたらす一方、低磁気シアー領域が広がるため MHD 安定性に不利であり、このトレードオフがシナリオ設計の中心課題である。
JT-60U では逆磁気シアープラズマで、正規化ベータ約2.7、自励電流割合約0.9、閉じ込め改善係数約1.7を達成し、ITER 定常シナリオの要求をほぼ満たす条件が得られている。また DIII-D では高ベータと ITB を両立した放電が持続され、正規化ベータ4、自励電流割合60%超という先進トカマク炉概念が要求する水準に接近する性能が示された。
MHD 安定性限界:抵抗壁モードと NTM
高ベータ運転の限界を決めるのが MHD 不安定である。第一の限界は理想 MHD のキンク・インターチェンジ不安定で、導体壁がなければ正規化ベータはおおむね3程度が上限となるが、プラズマに近い導体壁があれば限界は引き上げられる。しかし壁は有限の抵抗を持つため、壁が実効的に安定化してくれるモードのうち回転の遅い成分は「抵抗壁モード(RWM)」として準安定化し、プラズマ回転が遅いと成長する。RWM はプラズマ回転による受動的安定化に加え、外部コイルによる能動フィードバック制御で抑えられる。NSTX では ITER に関連する低回転条件、すなわち受動的安定化に必要な臨界回転を下回る回転での能動 RWM 安定化が実証され、JT-60U ではフェライト鋼タイルの内装により壁安定化効果を利用した高ベータ運転が可能となり、壁なし理想限界を超える正規化ベータ約3を q=2 面でのトロイダル回転による RWM 安定化とともに約5秒間(電流拡散時間の約3倍)維持した。
第二の限界は新古典ティアリングモード(NTM)である。これは島状の磁気面の破れが生じた際、島内部の圧力が平坦化してブートストラップ電流が局所的に失われ、その電流欠損がさらに島を成長させる正帰還不安定である。ブートストラップ電流割合が高い先進シナリオほど NTM を起こしやすい。対策としては、島の位置に同期させた変調電子サイクロトロン電流駆動(ECCD)で電流欠損を直接補填する手法が開発され、JT-60U で m/n=2/1 モードの安定化効果が実証されている。また、低磁気シアー領域が広い先進シナリオでは、モードのトロイダル結合が強まり、低シアー帯全体に広がる「インファーナルモード」と呼ばれる摂動が生じうる。これは通常の高シアー配位では無視できる高次のトロイダル効果が支配的になる不安定であり、抵抗性インファーナルモードのスペクトルや、ティアリングモード分岐から内部キンク分岐への変化など、線形安定性の詳細が現在も理論・数値解析の対象となっている。
候補シナリオと炉の展望
先進トカマク研究が目指す運転シナリオは大きく二つに分けられる。一つは「定常シナリオ」で、完全非誘導電流駆動を目指し、ブートストラップ電流割合60%以上、q95(プラズマ周辺部の q)4〜5程度が ITER 定常運転の目標値とされる。もう一つは「ハイブリッドシナリオ」で、誘導電流と非導電流と非誘導電流を併用しつつ長パルス(ITER では数千秒、高中性子フルエンス運転)を実現するもので、JET での DT(重水素・三重水素)実験の記録的成果もこのモードで得られた。ハイブリッドは定常シナリオほど厳密な電流分布制御を要求しないが、その閉じ込め特性の理解、特に H モードペデスタル(端部の急峻な圧力層)の予測は依然として未解決の課題である。
炉の観点では、先進トカマク運転はプラズマ圧とエネルギー置換時間の同時改善によって炉心のサイズとコストを大幅に縮小しうる点が本質的な動機である。JT-60U の負磁気シアー重水素放電は等価損益分岐条件に達し、また正規化ベータ2.6と良好な熱閉じ込めを電流拡散時間の約14倍にあたる25秒間、NTM なしで維持する長パルス運転も実証された。一方で課題も明確である。高ベータ・低磁気シアー運転では抵抗壁モードと高速イオンが駆動するアルフヴェン型不安定が主要な制限となり、電流・圧力分布の高精度制御、対向壁への定常熱負荷の処理、ELM(エッジ局在モード)の制御が要求される。ITER 以降の原型炉・商業炉設計(ARIES-AT など)では、これらの要素を統合した先進トカマク炉心が強い電力増倍と経済性の候補として検討されており、実験・理論・統合モデリングの三方面からのシナリオ確立が進められている。
この解説が根拠にした論文から
- Overview of JT-60U results towards the establishment of advanced tokamak operationNuclear Fusion 2009
- Development and application of a predictive model for advanced tokamak scenario designNuclear Fusion 2024
- Physics of advanced tokamaksPlasma Physics and Controlled Fusion 1997
- Status of and prospects for advanced tokamak regimes from multi-machine comparisons using the 'International Tokamak Physics Activity' databasePlasma Physics and Controlled Fusion 2004
- Progress on advanced tokamak and steady-state scenario development on DIII-D and NSTXPlasma Physics and Controlled Fusion 2006
- Advanced tokamak scenario developments for the next stepPlasma Physics and Controlled Fusion 2007
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推移
研究の変遷
1985–19943本 · 0.05%
先進トカマク概念の登場と物理的展望
1985-1994年には、先進トカマクは概念として登場し、新古典輸送やMHD安定性との関連でその可能性が論じられた。具体的な装置名はまだ現れず、物理的見通しの検討が中心であった。
この時代の論文から
- Neoclassical transport considerations for advanced tokamaksNuclear Fusion 1988
- Advanced tokamak physics-status and prospectsPlasma Physics and Controlled Fusion 1994
- The prospects for magnetohydrodynamic stability in advanced tokamak regimes*Physics of Plasmas 1994
1995–200439本 · 0.39%
DIII-Dを中心とした実験・統合運転の進展
1995-2004年には、DIII-Dを中心に先進トカマクの実験・統合運転が進み、電流駆動、定常運転、抵抗性壁モード制御などのテーマと結びついた。JETやASDEX-Upgradeでも先進トカマク運転が研究され、商業用トカマク炉への応用も検討された。
同時に語られた主題電流駆動、定常状態、抵抗性壁モード、プラズマ診断、安全係数、プラズマ回転
この時代の論文から
- Real-time control of the q-profile in JET for steady state advanced tokamak operationNuclear Fusion 2003
- Commercial tokamak reactor potential with advanced tokamak operationNuclear Fusion 1995
- Control of the resistive wall mode in advanced tokamak plasmas on DIII-DNuclear Fusion 2000
- Integrated, advanced tokamak operation on DIII-DNuclear Fusion 2003
2005–201437本 · 0.24%
JET・JT-60Uなどでの定常運転と統合制御の深化
2005-2014年には、JETやJT-60Uでの定常運転および磁気・運動量プロファイルの統合制御が進み、抵抗性壁モードやMHD安定性の制御が主要な論点となった。核融合発電所やITERを見据えた検討が続いたが、分野全体の成長に比べるとタイトル占有率は低下した。
同時に語られた主題抵抗性壁モード、定常状態、電磁流体力学、核融合発電所、捕捉電子、温度勾配モード
この時代の論文から
- Saturated ideal modes in advanced tokamak regimes in MASTNuclear Fusion 2010
- A two-time-scale dynamic-model approach for magnetic and kinetic profile control in advanced tokamak scenarios on JETNuclear Fusion 2008
- Comprehensive control of resistive wall modes in DIII-D advanced tokamak plasmasNuclear Fusion 2009
- Overview of JT-60U progress towards steady-state advanced tokamakNuclear Fusion 2005
2015–202620本 · 0.08%
応用技術と特定課題への焦点の移動
2015-2026年には、コンパクト核融合パイロットプラントやダイバータ概念、ニューラルネットワークによる運転最適化など新たな応用と結びつき、DIII-DやASDEX-Upgrade、KSTARで先進トカマク運転の実現が追求された。ティアリングモードやタングステン、下部ハイブリッド電流駆動といった個別技術課題への注目が高まり、タイトル数・シェアはさらに低下した。
同時に語られた主題テアリングモード、電磁流体力学、タングステン、定常状態、プラズマ回転、ニューラルネットワーク
この時代の論文から
- Small angle slot divertor concept for long pulse advanced tokamaksNuclear Fusion 2017
- The advanced tokamak path to a compact net electric fusion pilot plantNuclear Fusion 2021
- A high field side multijunction launcher with aperture impedance matching for lower hybrid current drive in DIII-D advanced tokamak plasmasNuclear Fusion 2019
- Combined magnetic and kinetic control of advanced tokamak steady state scenarios based on semi-empirical modellingNuclear Fusion 2015
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文67本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文2本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
