MHD安定性(MHD stability)は、核融合・プラズマ物理学の現象。磁場閉じ込め核融合プラズマの平衡が、理想MHDモードや抵抗性モードなど電磁流体力学的不安定性に対して保つ安定性である。プラズマ圧力と磁場圧の比βや電流・圧力分布、壁の位置に依存して安定限界が定まり、ELMやディスラプション等の運転限界現象を規定する。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは110本ある。比重が最も大きかったのは1980–1984年で、その期間の論文の0.75%を占めた。直近の2025–2029年では0.23%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
MHD安定性(MHD stability)とは、磁場で閉じ込められたプラズマが、磁気流体力学(MHD)で記述される摂動に対して平衡状態を保てるかどうかという性質である。プラズマは加圧した流体であり、磁力線に沿って自由に動けるため、圧力勾配や電流分布が臨界値を超えると、平衡を壊す大規模な変形が自発的に成長する。この安定性の限界が、トカマクやヘリカル装置など閉じ込め装置の運転領域を直接規定する。図に示すのは、核融合プラズマで最も基本的な不安定モードの一つ、トーラス状プラズマの内部キンクモードの空間構造である。

fig.3 MHD stability analysis against pressure and current-driven modes in the SMall Aspect Ratio Tokamak (2024) · CC BY 4.0
Spatial structure of n = 1 internal kink. (a) Radial profile, (b) 3D reconstruction. Black contours show the LCFS.
図の上段は摂動変位の動径分布で、m=1成分がプラズマ中心部に強く局在し、m=2成分はわずかにしか現れない。下段はその三次元再構成で、トーラス表面が螺旋状にねじれる様子が見て取れる。このようにMHD不安定モードは、モードの周回数(トロイダル方向のn、ポロイダル方向のm)と空間構造で分類され、どのモードが先に不安定化するかが装置の性能上限を決める。
理想MHDモードとベータ限界
MHD安定性の理論的基礎は、理想MHDのエネルギー原理にある。平衡状態からの微小変位に対する系のポテンシャルエネルギー変化を計算し、それが負になれば摂動は成長する。圧力駆動の不安定モード、とりわけバルーニングモードは、圧力勾配が曲率を持つ磁力線に悪影響を及ぼすことで成長する。プラズマの圧力の大きさは、磁場圧力に対する比ベータ(β = p / (B²/2μ₀))で表され、これが理想MHD安定性の指標となる。
ベータ限界は、プラズマの形状と電流・圧力分布に強く依存する。断面を楕円形に引き伸ばす(伸長率κを大きくする)ことや、三角形性を与えることは、一般に圧力駆動モードに対する安定性を改善する。特にアスペクト比の小さい球状トカマクでは、同じ磁場でより高いベータを安定に保持できるとされ、数値研究ではブートストラップ電流で電流の大半を賄い、βが40%を超える安定平衡が示されている。一方で、こうした高ベータ運転では、プラズマを囲む導体壁がなければ安定化できない「壁なし限界」と「壁あり限界」の区別が本質的になる。壁なし限界を超えて運転すると、導体壁の渦電流による遅延安定化に頼ることになり、ここから抵抗壁モード(RWM)という緩やかに成長するモードが問題となる。
また、理想MHD安定性限界は単なる「壊れる/壊れない」の閾値ではない。限界に近づくと、わずかに非軸対称な外部磁場(誤差場)がプラズマ内部で増幅され、回転の制動やコアの螺旋状歪みといった三次元応答が顕在化する。ハイブリッド運転シナリオでの実験では、壁なし限界に近づくにつれてn=1の大域的キンク応答が強まり、数cm規模の螺旋状コア変形が回転や温度分布に影響を与えることが測定されている。さらに、MHDモードによる異常な電流再分配(磁束ポンピング)が中心安全因子を1付近に保ち、広い電流分布と高ベータの非誘導運転を両立させる仕組みとして注目されている。
電流駆動モード:キンク、ティアリング、ソートゥース
プラズマ電流そのものが駆動する不安定モードも、圧力駆動モードと同様に重要である。キンクモードは、電流が安全因子分布の特異点(q=1面など)を挟んで急峻に変化するときに不安定化する、プラズマ柱全体の曲がり変形である。内部キンクは前述の通り中心部に局在し、外部キンクはプラズマ境界全体を変形させる。
一方、ティアリングモードは有限の電気抵抗によって磁力線の再結合を許し、磁島を形成する。特に、圧力勾配に伴うブートストラップ電流が磁島内部で失われることで成長する新古典ティアリングモード(NTM)は、高ベータHモード運転の実質的なベータ限界を決めることが多い。KSTARでの解析では、理想MHDの壁なし限界より低いベータであってもm/n=2/1ティアリングモードが先に不安定化して閉じ込めと回転を低下させる例が示されており、実際の運転限界は理想MHD理論だけでなく抵抗性モードの安定性指数Δ′やモードの種となる擾乱によって決まる。
q=1面を含む標準的なトカマク電流分布では、内部キンクモードが非線形に飽和してソートゥース振動と呼ばれる周期的なコア加熱・冷却現象を生じる。ソートゥース自体は緩和現象だが、その崩壊がNTMの種となったり、魚骨モードなど高エネルギー粒子関連の不安定と結合したりする。ITERの基準運転ではソートゥースの発生が予想されるが、局所電流駆動や高速イオン生成によって回避・制御する手段が存在するとされる。
エッジ安定性とELM
Hモード閉じ込めでは、プラズマ端に鋭い圧力勾配(ペデスタル)が形成される。この端部の圧力勾配と端部電流は、ピーリング・バルーニングモード(PBM)を不安定化し、その爆発的な緩和がエッジローカライズドモード(ELM)として現れる。ELMはペデスタルのエネルギーを ダイバータに集中的に投下するため、ITER級の大型装置では ダイバータ保護の観点から大きなELMは許容できないとされる。
エッジ安定性は、端部の最大電流密度と最大無次元圧力勾配を軸にした安定性ダイアグラムで整理される。図は、ELMのない静穏Hモード(QHモード)プラズマと通常のELMy Hモードプラズマの安定性ダイアグラムを比較したものである。

fig.3 Comparison of MHD stability properties between QH-mode and ELMy H-mode plasmas by considering plasma rotation and ion diamagnetic drift effects (2023) · CC BY 4.0
MHD stability diagram of (a) the QH-mode and (b) the ELMy H-mode plasmas on the (j_{\mathrm {ped,max}}, \alpha_{\mathrm {max}}) plane. The target represents the equilibrium values observed experimentally, and the numbers on the diagram show the n number of the MHD mode determining the stability boundary. These diagrams show the following differences in MHD stability properties between QH-mode and ELMy H-mode plasmas. One is the position of the stability boundary. The current-driven K/PM boundary is close to the target in the QH-mode plasma, but the PBM boundary is near the target in the ELMy H-mode one although the targets in both plasmas exist on almost the same position in the diagram. The other is the impact of plasma rotation on MHD stability. \Omega_{v \times B, \mathrm {CD}} rotation stabilizes the MHD modes in the QH-mode plasma, but has little impact on MHD stability in the ELMy H-mode plasma.
図において、QHモードの運転点は電流駆動のキンク・ピーリングモード(K/PM)境界の近くにあり、ELMy Hモードの運転点は圧力駆動のPBM境界の近くにある。両者の運転点はほぼ同じ位置にありながら、安定性を決めるモードと、プラズマ回転の影響の受け方が異なる。QHモードでは、プラズマ回転とイオン反磁性ドリフトの複合効果(E×B回転)がK/PMを安定化する方向に働くのに対し、ELMy Hモードでは回転の影響は小さい。
この違いを利用すると、QHモードはELMを伴わずにエッジ輸送を担うエッジ高調波振動(EHO)によって定常運転が可能となる。EHOは電流駆動のK/PMが非線形に飽和したものと考えられており、QHモードの運転点がK/PM安定境界近くに置かれることが定量的解析で示されてきた。図は、同一放電内でQHモードからELMy Hモードへ移行し、再びQHモードへ回復する過程の安定性ダイアグラムである。

fig.2 Identification of a window for quiescent H-mode operation in MHD stability diagram of DIII-D plasmas (2025) · CC BY 4.0
MHD stability diagram of (a) the 1st QH-mode plasma at 1.35 s, (b)/(c) the plasma at the time of the 1st/last ELM onset (3.13 s/3.38 s) and (d) the 2nd QH-mode plasma at 4.0 s in the (j_\mathrm{ped,max}, \alpha_\mathrm{max}) plane. The operation points of the QH-mode plasmas are surely in QH-mode operation windows, but those of the ELMy H-mode ones are near/above the MHD stability boundary.
QHモードの運転点は安定窓の内部に確実に収まっているのに対し、ELM発生時の運転点は安定境界の近くか外側にある。このように、回転と反磁性効果を考慮した安定性ダイアグラム上で「QHモード運転窓」を同定することは、将来の大型装置でELMフリー運転を確実にするための指針となる。なお、負の三角形性を持つプラズマではELMのないエッジでHモード級の性能が得られる例も報告されており、断面形状の制御がエッジ安定性に新たな自由度を与えている。
能動制御と運転限界
MHD安定性の理解の最終目的は、不安定モードを回避・制御して運転限界を拡張することにある。主要な制御手段は次のように整理される。
- 局所電流駆動:電子サイクロトロン加熱・電流駆動を磁島位置に照射してNTMを安定化する。既存装置での実績から、フィードバック制御された高局所性電流駆動によるITERでのNTM安定化は可能と見込まれている。
- 抵抗壁モードのフィードバック制御:非軸対称コイルでモードに位相を合わせた磁場を印加する。プラズマ回転と併用することでRWMを安定化でき、KSTARでは複数のトロイダルセンサアレイを用いた制御アルゴリズムが実装されている。
- 誤差場の低減:非軸対称磁場は回転を止めて静止磁島(ロックドモード)を形成するため、非軸対称コイルによる補償が必須である。
- ディスラプションの緩和:制御不能に至った場合、大量ガス注入によって電流急減に伴うハロー電流を減らし、エネルギーを放射で散逸させる。ディスラプション予測にはニューラルネットワークも用いられる。
圧力分布と電流分布のテーラリング、すなわち逆転磁気シアや内部輸送障壁を持つ先進的シナリオでは、理想MHD安定性限界そのものを引き上げることができる。ただし、その限界は圧力・電流密度分布の細部に敏感であり、内部診断で拘束された平衡再構成に基づく数値解析(DCON、M3D-C1などのコード)が運転計画に不可欠となる。MHD安定性制御に関する国際ワークショップが1996年以降継続して開催されていることは、この分野が単一の理論問題ではなく、装置設計・運転シナリオ・リアルタイム制御を貫く実践的課題であることを示している。ITER以降の燃焼プラズマでは、ソートゥース、NTM、RWM、ロックドモード、ELMといった一連のモードに対して、回避と制御を組み合わせた統合的な安定性管理が、炉として成立するか否かを左右する要件になると考えられている。
この解説が根拠にした論文から
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 2007
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 1999
- Ideal MHD stability limits of low aspect ratio tokamak plasmasNuclear Fusion 1997
- Analysis of MHD stability and active mode control on KSTAR for high confinement, disruption-free plasmaNuclear Fusion 2020
- Comparison of MHD stability properties between QH-mode and ELMy H-mode plasmas by considering plasma rotation and ion diamagnetic drift effectsNuclear Fusion 2023
- MHD stability control in toroidal devicesPlasma Physics and Controlled Fusion 2010
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推移
研究の変遷
1970–198414本 · 0.57%
スフェロマックとトカマクの理想MHD安定性の基礎
理想MHD安定性と磁気流体力学の枠組みで、スフェロマックや有限ベータプラズマ、トカマクの軸対称モードを数値的に解析した。Magnetohydrodynamics、Tokamak equilibria、Ideal MHDと並び、平衡と安定性の基礎を扱う。代表論文として1979年のSpheromak、1981年のoblate spheromaksなどがある。
同時に語られた主題電磁流体力学、トカマク平衡、ペデスタル、理想MHD
この時代の論文から
- MHD stability of SpheromakNuclear Fusion 1979
- Ideal-MHD stability of finite-beta plasmasNuclear Fusion 1979
- Numerical study of the ideal-MHD stability limits in oblate spheromaksNuclear Fusion 1981
- MHD stability of toroidal equilibria to axisymmetric modesNuclear Fusion 1977
1985–199417本 · 0.31%
トカマク配位と電流分布の効果
トカマクの低シア・中空電流分布・ベータ値における理想MHD安定性を、内部キンクモードや圧力駆動モードについて解析した。JT-60SA、JET、DIII-Dの実験と対応し、Reversed field pinchも扱う。代表論文として1985年のbean-shaped tokamaks、1992年のinternal kinksなどがある。
同時に語られた主題電磁流体力学、理想MHD、逆磁場ピンチ、内部キンクモード、高温電子、電流分布
この時代の論文から
- Ideal MHD stability properties of pressure driven modes in low shear tokamaksNuclear Fusion 1987
- MHD stability analysis of force-free reversed field pinch configurationsNuclear Fusion 1986
- Effects of a hollow current profile on the ideal MHD stability of high beta p plasmas in a tokamakNuclear Fusion 1993
- Ideal MHD stability of internal kinks in circular and shaped tokamaksNuclear Fusion 1992
1995–200416本 · 0.16%
運転限界とELM・ディスラプションへの応用
MHD安定性をプラズマdisruptionやH-mode、Edge localized modeの理解に適用し、JET、ASDEX Upgrade、KSTAR、DIII-D、Alcator C-Modの実験と対応させた。最適化シアや低アスペクト比トカマク、Type II ELMの安定性解析を行う。代表論文として1999年のChapter 3、2003年のtype II ELMsなどがある。
同時に語られた主題電磁流体力学、理想MHD、プラズマディスラプション、磁気シア、Hモード、周辺局在モード
この時代の論文から
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 1999
- Ideal MHD stability limits of low aspect ratio tokamak plasmasNuclear Fusion 1997
- MHD stability of optimized shear discharges in JETNuclear Fusion 1999
- MHD stability analysis of type II ELMs in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2003
2005–201427本 · 0.18%
ITER・LHDとX点ELM・回転・抵抗壁
ITER、LHD、KSTAR、JET、TEXTORを対象に、X-point形状でのELM、動的エルゴディックダイバータ、ステディステート、輸送障壁、プラズマ回転・粘性・抵抗壁・電流ホールの効果を解析した。MHD安定性は運転限界とディスラプションの章として整理される。代表論文は2007年のChapter 3、2005年のTEXTOR、2005年のLHDである。
同時に語られた主題電磁流体力学、理想MHD、周辺局在モード、定常状態、プラズマディスラプション、ペデスタル
この時代の論文から
- Chapter 3: MHD stability, operational limits and disruptionsNuclear Fusion 2007
- MHD stability in X-point geometry: simulation of ELMsNuclear Fusion 2007
- Effect of the dynamic ergodic divertor in the TEXTOR tokamak on MHD stability, plasma rotation and transportNuclear Fusion 2005
- Overview of confinement and MHD stability in the Large Helical DeviceNuclear Fusion 2005
2015–202636本 · 0.14%
ヘリカル・トカマクのペデスタルと高エネルギー粒子
Wendelstein 7-Xのダイバータ平衡やJT-60U、CFETR、LHDでのペデスタル・ELM、高エネルギー粒子効果をLandau閉包モデルで解析した。H-mode、Pedestal、Energetic particlesと並び、ヘリカル装置とトカマクの磁場トポロジーの影響を調べる。代表論文は2016年のW7-X、2019年のLHDである。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題電磁流体力学、理想MHD、Hモード、ペデスタル、高エネルギー粒子、周辺局在モード
この時代の論文から
- Free-boundary ideal MHD stability of W7-X divertor equilibriaNuclear Fusion 2016
- Impact of ion diamagnetic drift on MHD stability at edge pedestal in JT-60U rotating plasmasNuclear Fusion 2017
- Ideal MHD stability and characteristics of edge localized modes on CFETRNuclear Fusion 2018
- Analysis of the MHD stability and energetic particles effects on EIC events in LHD plasma using a Landau-closure modelNuclear Fusion 2019
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文93本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、9本の論文(うち全文3本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
