内部キンクモード
Internal kink mode
内部キンクモード(Internal kink mode、internal kink)は、核融合・プラズマ物理学の現象。磁気閉じ込めプラズマの中心部、安全係数が1となる有理面近傍に局在するm=n=1のMHD不安定性である。圧力・電流勾配により駆動され、鋸歯状振動やフィッシュボーン不安定性と密接に関係する。高速粒子やプラズマ流、断面形状によって安定性が強く変化する。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは64本ある。比重が最も大きかったのは1980–1984年で、その期間の論文の0.28%を占めた。直近の2025–2029年では0.12%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
内部キンクモード(internal kink mode)とは、トカマクなど軸対称トロイダル閉じ込めプラズマの中心部、安全係数 q が 1 を下回る領域で生じる磁気流体力学(MHD)不安定モードであり、m/n = 1/1 のモード番号を持つ。q = 1 面の内側のプラズマコアが、その面をほぼ剛体的な境界として傾きかつ外側へ変位するのが基本的な姿であり、この「コアのくねり」がモード名の由来である。図に、q = 1 面(黒実線)の内側でコアプラズマが一様にずれ、面の外側で速度場が急に反転するようすを、MHD 計算と熱的イオンの運動論効果を取り入れた計算との比較で示す。内部キンクモードは単独の不安定としてだけでなく、トカマク運転で最も古くから知られる振る舞いの一つである鋸歯状振動(sawtooth)の前駆揺動、あるいは高エネルギー粒子が駆動するフィッシュボーン不安定の担い手としても現れるため、閉じ込め性能と炉心プラズマ制御の両面で中心的重要性を持つ。

fig.3 Kinetic effects of thermal ions on internal kink modes in tokamak plasmas (2025) · CC BY 4.0
Velocity vectors in a poloidal plane: (a) MHD simulation, (b) KTI simulation. The black solid line represents the q = 1 surface.
定義とモード構造
トカマクの安全係数 q は、磁力線がトロイダル方向に一周する間にポロイダル方向に何周するかを表す量で、通常は中心で最小となる。中心加熱されたプラズマでは電流分布が中心に集中し、q が軸上で 1 を下回ることが珍しくない。このとき q = 1 の有理面が存在し、そこから内側の領域は特別な性質を持つ。m/n = 1/1 の摂動は q = 1 面の内側ではほぼ一定の変位、すなわちコア全体の平行移動と傾きとして表され、面の外側では急減する。理想的な ではこの変位は磁力線のつながりを保ったまま起こり、モードは q = 1 面の内側に閉じた「内部」モードとなる。外側にまで変位が及ぶ外部と対をなす呼び方である。
モードの成長率は q = 1 面近傍の圧力・電流分布に敏感である。q = 1 面の位置そのものが、プラズマ圧力(ポロイダルベータ)や加熱条件によって動く。例えば、ベータ値の異なる一連の平衡状態を比較すると、q 分布の形はほとんど変わらずに q = 1 面の半径だけが系統的に移動する、ということが数値平衡計算で確かめられており、これは圧力が高いほど中心部の反磁性の寄与とシャフラノフ・シフトが q 分布を押し広げるためである。内部キンクの安定性を論じる際には、この「q = 1 面がどこにあるか」が第一の関心事となる。
観測の面では、m = 1 の揺動は軟X線や電子サイクロトロン放射計測でコアの回転するホットスポットとして捉えられる。モードは鋸歯状振動のクラッシュ直前の前駆として現れることが最も多いが、条件によってはフィッシュボーン不安定や、密度の細長い構造が長寿命で回転するスネークと呼ばれる現象としても観測される。いずれも同じ m/n = 1/1 の構造が、駆動源の違いによって異なる顔を見せたものである。
理想的な安定性:ビュサック(Bussac)理論とトロイダル効果
内部キンクの安定性理論の出発点は、エネルギー原理に基づく円柱近似の解析である。円柱では、q = 1 面の内側の圧力と電流の分布を表す一つの無次元量(ビュサックらの理論でいう安定性パラメータ)の符号が安定・不安定をほぼ決め、臨界ポロイダルベータは円柱近似ではほぼゼロに近い。つまり円柱では内部キンクはほとんど常に不安定か中立か、という描像になる。
ところが実際のトカマクはトロイダルであり、この幾何学が安定性を大きく変える。ビュサックらによるトロイダル補正理論は、逆アスペクト比の一次の効果を取り込み、臨界ベータを有限の値まで引き上げる。トロイダル幾何では磁場の強さが大半径側と内側で異なるため、m = 1 の変位が圧力を効率的に動かせなくなり、不安定化に必要な圧力勾配が大きくなるのである。この理論は逆アスペクト比が小さい極限で厳密に成立する。現実の装置では逆アスペクト比が 0.1 程度に達するため、高精度の数値解析による検証が重要となる。数値的には、逆アスペクト比 0.01 程度ではビュサックのトロイダル解に収束することが確認され、一方で現実的な逆アスペクト比では成長率はポロイダルベータにほぼ線形に比例し、解析的予測よりも小さくなることが示された。
プラズマ断面の形状も安定性に効く。三角形度や楕円度の効果は、メルシエ(Mercier)モードと呼ばれる局所安定性の形状項を通じて現れるが、これに加えて、三角形度と楕円度のいずれに対しても二次で安定化される準円柱的な寄与が存在することが数値解析で明らかになった。この結果の実験的な裏付けとして、三角形度を大きく正にも負にも取った放電で鋸歯の周期が長くなることが TCV で観測されている。三角形度の正負で安定化の方向が対称である点は、形状項が二次であることの直截な帰結である。このような形状・アスペクト比・ベータのパラメータ走査に基づく安定性予測は、DEMO など次世代炉の設計において正三角形度配置と負三角形度配置を比較する際の基準の一つとなっている。
さらに、q 分布そのものを極端に平坦にした平衡では、第二の安定領域と呼ばれる、第一の安定境界を越えた先に再び安定となる領域が現れうる。これは q = 1 面近傍の磁気シアがほぼゼロになることで、モードが圧力を支える磁気エネルギーをうまく解放できなくなるためである。ただしこの第二安定領域は平衡の微細構造に敏感であり、運転上の制御目標とするには注意を要する。
抵抗性・粘性抵抗性内部キンクと鋸歯状振動
理想 MHD では磁力線のトポロジーは保存されるため、内部キンクは q = 1 面で磁気面を破壊できない。実際のプラズマには有限の抵抗があるため、q = 1 面に薄い再結合層が形成され、磁気島が成長する。これが抵抗性内部キンク(m = n = 1 のティアリングモード)であり、その線形成長率は理想モードのエネルギーと再結合層の物理を結ぶ分散関係で記述される。高温の大型トカマクでは、再結合層の幅は衝突周波数ではなく半衝突的な電子ダイナミクスで決まり、イオンのラーマー半径よりはるかに薄くなる。この領域ではイオンの軌道効果が安定化にはたらき、不安定となるには大きなティアリング安定性パラメータ Δ′ が必要となる。また高ベータでは、電子温度勾配の遮蔽効果を通じてキネティックアルフヴェン波との相互作用が起こり、Δ′ の値によらず絶対安定となる領域が存在する。Δ′ とベータを張る平面上に安定性の地図を描き、その上に鋸歯一周期の電流分布の軌跡を重ねることで、鋸歯クラッシュの引き金をモデル化できる。
非線形段階では、再結合層の発達が q = 1 面の内側と外側の磁気面をつなぎ替え、コアの電流と熱を外側へ吐き出す。これがカドムツェフ(Kadomtsev)の古典的モデルによる鋸歯クラッシュの描像である。粘性抵抗性の枠組みでの数値シミュレーションは、この非線形挙動が粘性の大きさによって複数のレジームに分かれることを示した。粘性が比較的小さいときはカドムツェフ型の周期的な鋸歯振動が現れ、中程度の粘性では脈動する m/n = 1 の磁気島、大きな粘性では定常的な磁気島へと移行する。脈動・定常のレジームでは q 分布がコア部でほぼ平坦かつ 1 に張り付く。これらのレジームは、実験で観測される部分鋸歯やスネーク現象の解釈と結びつけられている。
鋸歯の周期とクラッシュの規模は、電流分布の緩和という観点から炉の運転に直結する。鋸歯が大きすぎると高エネルギー粒子の閉じ込めを損ない、小さすぎると中心部の不純物排出が滞る。したがって内部キンクの安定性制御は、単に不安定を抑えることではなく、鋸歯の振る舞いを望ましい形に導くことを目指すものである。
高エネルギー粒子の効果:フィッシュボーンと安定化
中性粒子入射やイオンサイクロトロン加熱で生じる高エネルギー粒子は、内部キンクに対して二重の役割を果たす。一方で、垂直入射のビーム由来の捕捉イオンがモードの周波数と共鳴して自由エネルギーを供給するフィッシュボーン不安定が起こる。これはチェン–ホワイト–ローゼンブルース(Chen–White–Rosenbluth)とコッピ–ポルチェリ(Coppi–Porcelli)の二つの理論で記述され、前者が慣性の効果を、後者が粒子の歳差運動とモードの共鳴を強調するが、両者は一つの分散関係の異なる極限として統一的に理解される。フィッシュボーンは鋸歯と共存することも、鋸歯を抑制することもある。
他方で、有限の高エネルギー粒子集団は内部キンクを安定化する方向にもはたらく。捕捉粒子の予圧縮効果(圧力を磁気面に沿って均す効果)が理想モードの駆動を打ち消すためであり、理論的には高エネルギー粒子の存在下で安定な窓が開くことが示されている。この安定化とフィッシュボーン駆動の競合が、PDX や TFTR でフィッシュボーンが鋸歯とともに現れたり、別の実験では高エネルギー粒子によって鋸歯が抑制されたりした、という一見矛盾する観測を説明する。アルファ粒子など核融合生成粒子の再分配も内部キンクの振る舞いを通じて評価されており、燃焼プラズマではこの問題がとりわけ重要となる。
回転・運動論・二流体効果
現実のプラズマは単純な単一流体 MHD では記述しきれない。まず、トロイダル回転のシアは内部キンクの安定性に影響する。バナナ領域では回転シアがモードのエネルギー収支に寄与し、またポロイダル流に由来するコリオリ力と遠心力が協同的にはたらいて内部キンクやフィッシュボーンの安定性を変えることが理論的に示されている。さらに、流れと異方性熱輸送の組み合わせによる新しい安定化機構も提案されている。
二流体効果も無視できない。電子とイオンを別々の流体として扱うと、反磁性効果がモードの実周波数をシフトさせ、流れと組み合わさって安定化にはたらく。数値シミュレーションでは、反磁性効果と平衡流の協同的な安定化が線形域から非線形域まで持続すること、また流れの向きによって線形成長率や非線形飽和状態に非対称性が生じることが報告されている。粘性が強い場合にはモードの実周波数が大きく変化する。
最後に、熱的イオン自身の運動論効果が近年注目されている。イオン温度が 10 keV を超えるような放電では、熱的イオンの軌道幅が有限になり、その圧力異方性や軌道幅効果が内部キンクの安定性に影響しうる。運動論-MHD ハイブリッドシミュレーションによる系統的な比較から、熱的イオンの有限軌道幅効果と圧力異方性が安定化の方向にはたらくことが示されている。次世代装置では熱的イオンの運動論効果を MHD 安定性評価に組み込むことが不可欠となっていくだろう。
1985–199412本 · 0.22%
理想MHD安定性と高エネルギー粒子効果
トロイダル効果や平坦qプロファイル、Shafranov平衡など理想MHD安定性の詳細な解析が進み、閉じ込められた高エネルギー粒子が内部キンクモードに及ぼす影響が研究された。MHD stabilityやLarmor radius、Ideal MHDと並んで議論されている。
内部キンクモード(Internal kink mode)の研究史 — FusionPapers