MHDモード(MHD modes)は、核融合・プラズマ物理学の現象。磁化されたプラズマ中で磁気流体力学によって記述される集団的な振動・不安定性であり、トカマクやヘリカル装置などの核融合実験装置で広く観測される。理想・抵抗性モード、圧力駆動や高エネルギー粒子駆動のモードを含み、閉じ込め劣化やディスラプションの原因となるため、安定化・制御が重要である。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは56本ある。比重が最も大きかったのは1985–1989年で、その期間の論文の0.20%を占めた。直近の2025–2029年では0.06%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
MHDモード(磁気流体力学モード)とは、磁気流体力学(MHD)の枠組みで記述されるプラズマの集団的擾乱・不安定モードの総称である。核融合プラズマは強い磁場中に閉じ込められた導電性流体とみなせるため、その平衡や閉じ込めの良し悪しは、圧力勾配や電流分布が駆動する流体的な不安定の有無によって大きく左右される。MHDモードの解析は、閉じ込め装置の運転限界(ベータ限界)の予測、ディスラプションの回避、そして高性能シナリオの設計において中心的な役割を果たしてきた。
MHDの枠組みとモードの分類
MHDモードを理解する出発点は、理想MHDのエネルギー原理である。プラズマを完全導体の流体とみなすと、任意の変位に対する系のポテンシャルエネルギー変化の符号が安定性を決める。エネルギーを下げる方向に変位が増幅されるならば系は不安定であり、その変位の空間パターンが「モード」として現れる。モードは通常、トロイダル(環方向)モード数 n とポロイダル(断面内方向)モード数 m で分類される。例えば m/n = 1/1 はプラズマ中心部のキンク的なねじれ、m/n = 2/1 は外側寄りの共振面上に成長するモードである。
理想MHDでは磁力線は流体に凍りつくため、擾乱が磁力線を曲げること自体が強い復元力として働く。この「磁力線曲げ」による安定化は、磁気シア(安全係数 q の半径方向勾配)が大きいほど有効である。一方、有限抵抗を許す抵抗MHDでは磁力線がプラズマと相対的に動けるため、q が有理数(m/n)になる共振面上で磁力線のつながりが切れて磁気島が成長するティアリングモードが許される。理想モードと抵抗モード、さらに圧力勾配駆動(インターチェンジ系)と電流駆動(カレント・ティアリング系)の区別が、モード分類の基本軸となる。
モードの空間構造は、その駆動源を直接映し出す。逆シア分布(q が中心で極小を持つ分布)中の m = n = 1 モードを例にとると、圧力駆動の強さに応じて半径方向変位の構造が単純な単一峰から低シア領域全体に広がる多峰構造へと変化する様子が計算で示されている。

fig.15 The properties of resistive MHD modes and unstable spectra in advanced tokamak regimes (2025) · CC BY 4.0
Radial plasma displacement structure and contour plots of the m = n = 1 mode for different pressure drives, in the strongly reversed shear profile. Parabolic pressure profile and circular flux surfaces; S_\mathrm{L} = 10^6.
図は、強い逆シア分布中の m = n = 1 モードについて、圧力駆動の強さ(α)を変えたときの半径方向変位のフーリエ成分(上段)と断面内の変位構造(下段)を示す。圧力駆動が弱い左端では変位は中心近傍に局在するが、α の増加とともに低シア領域全体に広がる「インファーナル(infernal)」的な構造へと発展し、成長率も上昇する。
安定性限界:圧力駆動と電流駆動
MHDモードの駆動力は大別して二つある。第一は圧力勾配である。磁場曲率と圧力勾配の組み合わせが不安定化するインターチェンジ(交換)不安定は、平均磁気井戸(磁場強度がプラズマ外側で増える「井戸」構造)が深いほど抑えられる。したがってベータ限界は、平衡の磁気井戸の深さと磁力線曲げの安定化の競合で決まる。第二は電流分布である。プラズマ電流が作る自己磁場の勾配は、キンクやティアリング型の不安定を駆動する。
形状効果と流れはこの安定性限界を実質的に動かす。プラズマ断面の細長比(エロンゲーション)、三角形性(トライアングラリティ)、トロイダリティはそれぞれ磁気井戸の深さとモード結合の強さを変え、その相互の組み合わせによって全体として安定化にも不安定化にも働く。縦方向に細長い断面はモードの駆動を弱め安定側に寄せる。またトロイダル流れとそのシアは、モードの周波数をドップラーシフトさせるとともに、流れのシアが擾乱の位相を半径方向にずらすことで成長を抑える。並行圧力と垂直圧力の異方性も、実効的な曲率(磁気井戸)を変えることで安定性境界をシフトさせる。これらの効果はいずれも「平均曲率の良し悪し」と「モード結合の強さ」という二つの量を通じて理解できる。
低シア分布と先進シナリオにおけるモードスペクトル
ハイブリッドシナリオや負シア(逆シア)シナリオと呼ばれる先進的運転では、プラズマ中心部に磁気シアが非常に小さい領域が広がる。この領域では磁力線曲げによる安定化が著しく弱まり、トロイダルなモード結合の効果が相対的に強まる。その結果、単一の有理面に局在しない広域な擾乱——インファーナルモード——が低シア領域全体にわたって成長しうる。インファーナルモードの解析では、通常省略されがちな高次のトロイダル補正を保持する必要があり、これが従来の高シア分布向けの近似との本質的な違いである。
低シア分布では、単一のモード数 (m, n) に対して成長率の異なる複数の固有モードからなる「スペクトル」が不安定化しうる点が特筆される。主モードに加えて、成長率の低い従属モードがより短い半径波長で振動し、理想極限ではベッセル関数で特徴づけられる。q 分布が有理面を横切る配置では、広範な抵抗性インファーナルモードのカスケードが生じ、ティアリングモードの分枝が内部キンクや抵抗性インファーナル分枝へと連続的に移行する。どの分枝が現れるかは、q 分布が有理面を「切る」か「触れない」かで決定的に変わる。

fig.7 The properties of resistive MHD modes and unstable spectra in advanced tokamak regimes (2025) · CC BY 4.0
q profiles for advanced scenarios. Rational surfaces are circled, yielding either tearing modes (figure 6) in the black configuration or a spectrum of resistive modes (figure 8) in the red configuration.
図は、先進シナリオの二つの q 分布を比較したもので、有理面を丸で囲んでいる。黒の分布では有理面が明確に存在してティアリングモードが生じるのに対し、赤の分布では有理面近傍の低シア領域で広範な抵抗性モードのスペクトルが励起される。
非線形発展と閉じ込めへの影響
線形段階で理想モードとして成長していた不安定も、非線形段階では様相を変える。圧力勾配駆動の理想モードが非線形に発展すると、擾乱自身が局所の圧力勾配を平坦化して駆動力を弱め、成長が鈍化する。そこへわずかな抵抗が介在すると、モードはティアリング型へと転化し、磁気島が成長し始める。さらに、最初はプラズマ内に共振面が存在しない場合でも、擾乱が伴うダイナモ効果が局所の q 分布を変化させて共振面をプラズマ内に引き込み、理想モードがティアリング型へ転化しうることが示されている。この機構は、ハイブリッドシナリオで観測される中心部の q ≈ 1 の平坦な分布が、線形段階では理想交換型であったモードによって維持される、という実験的事実を説明する。
閉じ込めへの影響はモードの種類と振幅で大きく異なる。魚骨(フィッシュボーン)のようなエネルギー粒子駆動のバースト的モードは、q = 1 や q = 2 近傍で電流分布の発達をクランプしながらもエネルギー閉じ込めを大きく損なわないのに対し、ダブルティアリングモード(隣接する二つの有理面上で結合するティアリングモード)は同様の電流分布緩和を起こしつつ substantial な閉じ込め損失をもたらす。また、複数のモードが結合すると危険性が増す。例えば m/n = 2/1 と 3/1 のモードが特定の位相関係(高磁場側で同位相)で結合すると相互に不安定化し、モードロッキングを経てディスラプションに至りうる。エネルギー粒子駆動モードとMHDモードの相互作用も高ベータプラズマでは重要であり、モード間のエネルギー授受が閉じ込め性能の変動として現れる。
制御と安定化
MHDモードへの対処は、受動的安定化と能動的制御に分けられる。受動的な手段としては、導電性壁による壁安定化(抵抗壁モードの成長を遅らせる)、プラズマ断面形状の最適化、回転の利用がある。導電壁を伴う外部キンクモードのフィードバック安定化では、壁に誘起される電流の時間定数を考慮した制御系設計が行われ、最適化されたコイル配置は理想壁に近い安定化効果の大部分を達成しうる。
能動的制御の代表は共鳴磁気摂動(RMP)と電流駆動である。RMPを用いると、結合したモードの成長を抑え、ディスラプションを回避できることが実験で示されている。適度な振幅のRMPは 2/1 と 3/1 の結合モードの成長を抑制し、NTM(新古典ティアリングモード)のシード島形成を未然に防ぐ戦略として将来炉に向けた検討が進む。電流駆動による安定化では、共振面上に局在する電流を注入して島の幅を縮める。電子サイクロトロン電流駆動(ECCD)では、プラズマ電流のごく一部(数パーセント程度)の駆動電流でNTMを安定化できることが実証されており、変調駆動によって島の位相に同期させる手法も用いられる。先進シナリオでは、中心部への電子サイクロトロン加熱・電流駆動が q 分布の時間発展(例えば q の極小値が 2 を横切る過程)に大きな影響を与え、逆シア位相を延長あるいは短縮できることが示されている。
さらに新しい方向として、プラズマ端に直接非軸対称電流を注入する手法がある。四つの電極を直交位相で駆動して端部にらせん状の電流細糸をつくり、外部制御コイルと同等の磁気摂動を生むことで、抵抗壁モードなどの長波長キンク型モードを抑制・増幅できることが実験で示された。この電流注入フィードバックは、外部コイルに代わる制御手段として有望視されている。制御系の設計・検証においては、開ループでの応答特性をあらかじめ評価する手法も確立されつつあり、モードの回転位相と制御摂動の位相関係が安定化の成否を左右する。
この解説が根拠にした論文から
- Theoretical modelling of the feedback stabilization of external MHD modes in toroidal geometryNuclear Fusion 2002
- Suppression of MHD modes with active phase-control of probe-injected currentsNuclear Fusion 2021
- MHD modes in regular and reversed shear scenarios and possibilities for their control through current drivePlasma Physics and Controlled Fusion 1999
- Anisotropy and shaping effects on the stability boundaries of infernal ideal MHD modes in tokamak hybrid plasmasPlasma Physics and Controlled Fusion 2020
- Disruption avoidance by stabilizing coupled MHD modes using resonant magnetic perturbations on J-TEXTPlasma Physics and Controlled Fusion 2023
- Nonlinear evolution of ideal pressure-driven MHD modes and their conversion into tearing-type modesPlasma Physics and Controlled Fusion 2025
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推移
研究の変遷
1970–19842本 · 0.08%
理想MHDモードの安定化とトカマク不安定性
この時代は理想MHDモードの安定化と、トカマクにおける破壊的不安定性との関連で研究が進んだ。LT-3トカマクの高速成長ヘリカルMHDモードが対象となり、MagnetohydrodynamicsやIdeal MHDと並行して議論された。
この時代の論文から
- Stabilization of ideal MHD modesNuclear Fusion 1980
- Fast-growing helical MHD modes during the disruptive instability in LT-3 tokamakNuclear Fusion 1977
1985–199411本 · 0.20%
大型トカマクにおけるMHDモードと閉じ込め改善
JETやTFTRといった大型トカマクで、低次のMHDモードが輸送やHモードと関連づけて研究された。ダイバータトカマクにおける局在MHDモードの安定性や、磁気ダイバータを用いた軸対称プラズマ柱のMHDモード安定化が論じられている。
この時代の論文から
- Large amplitude quasi-stationary MHD modes in JETNuclear Fusion 1988
- Transport effects of low (m,n) MHD modes on TFTR supershotsNuclear Fusion 1994
- Stability of localized MHD modes in divertor tokamaks – a picture of the H-modeNuclear Fusion 1986
- Stabilization of MHD modes in an axisymmetric plasma column through the use of a magnetic divertorNuclear Fusion 1987
1995–200417本 · 0.17%
回転・外部モード制御と高エネルギー粒子励起MHDモード
外部MHDモードのフィードバック安定化理論や回転の効果が調べられ、ASDEX UpgradeのMirnovプローブによる結合MHDモード解析が行われた。Velocity shearやReversed magnetic shear、Superthermal electronsなどの概念と並行して、ヘリオトロン/トーサトロンでの高エネルギー粒子励起グローバルMHDモードやTEXTORでのECEによる輸送研究も進んだ。
同時に語られた主題電磁流体力学、速度シア、超熱電子、逆磁気シア、逆磁場ピンチ、リフレクトメトリー
この時代の論文から
- Analysis of coupled MHD modes with Mirnov probes in ASDEX UpgradeNuclear Fusion 1997
- Theoretical modelling of the feedback stabilization of external MHD modes in toroidal geometryNuclear Fusion 2002
- Effect of rotation on ideal and resistive MHD modesNuclear Fusion 1999
- Global MHD modes excited by energetic ions in heliotron/torsatron plasmasNuclear Fusion 1999
2005–201412本 · 0.08%
周辺ペデスタル・磁気島と非軸対称配位でのMHDモード
トロイダル回転シアが周辺ペデスタルの安定性に与える影響が調べられ、LHDやHeliotron J、RFX-modなどの非軸対称装置でMHDモードの研究が進んだ。磁気島や位相固定による非対称粒子輸送、ITER第一壁への電力負荷を評価する研究も登場し、PedestalやMagnetic islands、Runaway electronといった課題と並行した。
同時に語られた主題電磁流体力学、トロイダル回転、逃走電子、ペデスタル、粒子輸送、磁気島
この時代の論文から
- Effects of a sheared toroidal rotation on the stability boundary of the MHD modes in the tokamak edge pedestalNuclear Fusion 2009
- Toroidally asymmetric particle transport caused by phase-locking of MHD modes in RFX-modNuclear Fusion 2007
- Stabilization of energetic-ion-driven MHD modes by ECCD in Heliotron JNuclear Fusion 2013
- Power loads to ITER first wall structures due to fusion alphas in a non-axisymmetric magnetic field including the presence of MHD modesNuclear Fusion 2013
2015–202614本 · 0.06%
高エネルギー粒子駆動モードの制御とデータ駆動手法の応用
ヘリカルプラズマでのECH/ECCDや接線NBI電流駆動が高エネルギー粒子駆動MHDモードの安定性に及ぼす効果が調べられ、自由境界ハイブリッドシミュレーションも行われた。Deep learningやResonant magnetic perturbation、X-pointといった新しい手法・概念と並行して、能動的位相制御によるMHDモード抑制が報告され、Wendelstein 7-XやLHD、EASTで研究が進んでいる。
同時に語られた主題電磁流体力学、理想MHD、深層学習、X点、テアリングモード、軟X線
この時代の論文から
- Effect of ECH/ECCD on energetic-particle-driven MHD modes in helical plasmasNuclear Fusion 2020
- Effect of the tangential NBI current drive on the stability of pressure and energetic particle driven MHD modes in LHD plasmaNuclear Fusion 2020
- Numerical investigation into the peripheral energetic-particle-driven MHD modes in Heliotron J with free boundary hybrid simulationNuclear Fusion 2021
- Suppression of MHD modes with active phase-control of probe-injected currentsNuclear Fusion 2021
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文47本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文1本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
