球状トカマク(Spherical tokamak、spherical tokamaks)は、核融合・プラズマ物理学の装置。アスペクト比(主半径と副半径の比)が1.1〜2程度と小さいトカマクで、プラズマが球状に近い形状を持つ。中心ソレノイドの容積が限られる一方、高いベータ値と自然な伸長を得やすく、コンパクトな核融合炉や中性子源として注目されている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは356本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の1.02%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
球状トカマクは、プラズマトーラスの主半径と副半径の比(アスペクト比)を従来トカマクの3程度から2以下、多くの場合1.2〜1.6まで下げた磁気閉じ込め装置である。断面形状はドーナツというより「芯を抜いたリンゴ」に例えられ、中心柱にトロイダル場コイルを集中させることで、小さな機械体積で高いプラズマ性能を狙う。図はその典型例として、高磁場球状トカマクST40の断面を示す。細くねじられた24枚のくさび材からなる中心柱のトロイダル場コイルを軸に、内側・外側の真空容器、極向き場コイル、ダイバータ組立体がコンパクトに配置されている様子が分かる。

fig.1 Overview of recent results from the ST40 compact high-field spherical tokamak (2024) · CC BY 4.0
A cross-section of the ST40 high-field spherical tokamak showing (1) in-vessel merging compression coils, (2) inner vacuum chamber, (3) outer vacuum chamber, (4) TF centre column consisting of 24 twisted wedges and overwound solenoid, (5) TF flexible joints, (6) TF return limbs, (7) pre-tensioned carbon bands, (8) BVL coils, (9) BVU coils, (10) DIV coils and (11) the divertor assemblies.
概念と幾何:低アスペクト比の利点
アスペクト比 A = R/a は、トーラスの主半径 R と副半径 a の比であり、ITER(3.1)やJT-60SA(2.5)のような通常トカマクでは工学上の理由から3前後に取られてきた。球状トカマクは A < 2、代表機では1.3前後まで下げる。これが本質的に重要なのは磁場構造の側である。トロイダル場の強さは主半径に反比例して減衰するため、低アスペクト比では磁場線が内側(曲率が安定な強磁場側)に長く留まり、外側の不安定な弱磁場側を短く通る。このためプラズマは磁場圧力に対して高い圧力を安定に保持できる。圧力と磁場圧力の比であるベータ値でいえば、通常トカマクの2倍以上、実験では30%台という値が維持できることが初期の装置で示された。
低アスペクト比は平衡形状にも効く。自然に高い縦横比(伸長)と三角形性が得られ、これが安定性をさらに支える。また単位プラズマ体積あたりの工学構造が小さくて済むため、建設コストの面でも有利である。一方で固有の難点もある。プラズマ表面積が小さいため壁への熱流束密度が大きくなること、そして中心柱がトロイダル場コイルに占められるため、電流駆動用の中心ソレノイドを置く空間がないことである。後者は誘導起動と長パルス維持の困難として、球状トカマク研究の中心的課題の一つになっている。
歴史と主要装置
低アスペクト比トカマクが科学的目的で最適化された例は長くなかった。転機は1990年代初頭の英国カラム研究所のSTART(主半径0.3〜0.37 m、A≈1.3〜1.45)である。STARTはベータ値30%をエネルギー閉じ込め時間の数倍にわたり維持することに成功し、理論的予測を実証してメガアンペア級球状トカマクの時代を開いた。1999年以降の主力は、米プリンストンプラズマ物理研究所のNSTX(主半径0.85 m、A=1.27)と英国のMAST(主半径0.85 m、A=1.3)であり、両装置(および強化機NSTX-U、MAST-U)は2007年以降、国際エネルギー機関の協定の下で継続的な比較研究を進めてきた。
その後、各国の大学級小型装置(日本、ロシア、韓国、スペインなど)が個別の物理・工学課題を担った。ロシアのGlobus-Mは0.9 T級の比較的高磁場運転に進み、後継Globus-M2で主イオン温度4 keVを達成した。日本では九州大学のQUESTが電子サイクロトロン電流駆動と共軸ヘリシティ注入を用いた非誘導起動と長パルス運転を主目標とし、金属壁(タングステン系ホットウォール)による粒子制御を特徴とする。近年の注目点は民間主導の高磁場化である。英国トカマクエナジー社のST40は銅磁石のコンパクト高磁場機として、0.6 MA、1.9 Tの条件で重水素イオン温度9.6±0.4 keV(1億度超)を達成した。これは同程度のサイズのトカマクで得られた最高温度であり、従来は体積が15倍以上大きい装置でしか得られていなかった値である。この成果は、後述する高温超伝導磁石との組み合わせが小型化の鍵であることを示している。
高ベータ閉じ込めと安定性物理
球状トカマクの閉じ込め性能は、通常トカマクのスケーリング則を上回る傾向が複数の装置で確認されている。Globus-M2、NSTX、MASTの実験結果から得られた新しい閉じ込めスケーリングでは、エネルギー閉じ込め時間のトロイダル場依存性がほぼ線形であり、ITERのスケーリングに対する倍率(HH因子)がGlobus-M2で約2に達する。つまり同じ磁場強度でも低アスペクト比の方が閉じ込めが良い傾向があり、これが小型化の根拠の一つになっている。NSTXでは、将来の核融合プラズマで期待される低衝突周波数領域で閉じ込めがさらに向上することも示された。
乱流の観点からは、低アスペクト比特有の強い流れシアが電子スケール乱流を抑制する効果などが、ジャイロ運動論シミュレーションと実験(ビーム放射分光などによる乱流イメージング)の両面から研究されてきた。また高ベータ運転では、中性ビーム注入で生じる高速イオンが励起するアルフベン固有モードなどの不安定性が重要な研究主題であり、高速イオン損失のダイナミクスや、ベータ値への依存性が詳細に調べられている。抵抗壁モードに対する運動論的安定化も、高ベータを長時間維持するうえで鍵となる主題である。
高ベータ・高熱流束という固有の条件は、プラズマ境界の制御にも新機軸をもたらした。MAST-Uで実証されたスーパーエックスダイバータは、磁力線を長い経路に沿って導くことで熱負荷を分散させる方式であり、スノーフレークダイバータもNSTXで研究された。ただしスノーフレーク構成に必要なX点近傍の極向き場コイルは中性子照射・熱負荷の観点で炉への適用が難しく、スーパーエックス方式の実証が将来炉設計上の有望な選択肢となっている。
加熱・電流駆動とソレノイドなし起動
中心ソレノイドを持たない球状トカマクでは、プラズマ電流の起動と維持を非誘導的に行う技術が不可欠である。この課題に対して複数の手法が開発されてきた。電子サイクロトロン電流駆動(ECCD)と共軸ヘリシティ注入(CHI)はQUESTで採用され、下部混成波を用いた電流駆動はGlobus-Mで初めて実証された。TST-2では下部混成波を外側・上方から入射する起動実験が行われ、駆動効率は理論予測をやや上回る一方、標準トカマクの下部混成波電流駆動よりは低いことが分かった。ST40では合体圧縮コイルによる起動が用いられており、図に示した平衡再構成では、中心柱から離れた位置に形成されたプラズマ断面と磁束面の構造が見て取れる。

fig.2 Achievement of ion temperatures in excess of 100 million degrees Kelvin in the compact high-field spherical tokamak ST40 (2023) · CC BY 4.0
Plasma magnetic equilibrium reconstruction computed using EFIT at the time of maximum ion temperature for pulse #10009.
加熱については、中性ビーム注入がイオン加熱の主力であり、ST40の高温イオンモードでは1.6 MWの重水素中性ビームでイオン温度が電子温度の2倍以上という状態が実現した。電子加熱・電流駆動としては電子サイクロトロン波に加え、電子バーンシュタイン波が注目されてきた。これは高ベータで共鳴層が密度上限を超える球状トカマクで特に有効とされる波動であり、STEPやST40での加熱・電流駆動の予測解析が進められている。
球状トカマク発電所へ
球状トカマクの小型化の利点は、発電所概念として本格的に評価されるようになっている。システムコードを用いた設計研究では、ITER級と第n号機発電所の中間の物理・工学前提で、パイロットプラント(小型の正味発電と核融合原子核科学技術研究を両立する装置)としての球状トカマク構成が有望視されており、ブランケット設計、磁石系、保守方式、トリチウム自給などの構成課題が比較検討されてきた。中性子源としての体積中性子源の概念も提案されている。
現在進行中の具体化の例が英国政府がコミットしたSTEP(核融合発電を目指す球状トカマク)であり、その設計では電子バーンシュタイン波加熱・電流駆動の相対論的シミュレーションなどが進められている。米国でも実証装置を目指す設計研究が進む。鍵となる技術要素は高温超伝導磁石(REBCO)であり、これによって従来の銅磁石や低温超伝導では到達できなかった高磁場をコンパクトな中心柱で実現できる。ST40が示した小型装置での1億度級イオン温度と、高磁場超伝導磁石、スーパーエックスダイバータに代表される排熱技術、非誘導電流駆動の進展を組み合わせることが、より小型で低コストの核融合発電への現実的な道筋として、球状トカマク研究の中心に位置づけられている。
この解説が根拠にした論文から
- Prospects for pilot plants based on the tokamak, spherical tokamak and stellaratorNuclear Fusion 2011
- Review of Globus-M spherical tokamak resultsNuclear Fusion 2015
- Achievement of ion temperatures in excess of 100 million degrees Kelvin in the compact high-field spherical tokamak ST40Nuclear Fusion 2023
- Overview of recent spherical tokamak resultsPlasma Physics and Controlled Fusion 2001
- The basics of spherical tokamaks and progress in European researchPlasma Physics and Controlled Fusion 2003
- Overview of recent results from the ST40 compact high-field spherical tokamakNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1985–19942本 · 0.04%
球状トカマクの概念確立と初期進展
この時代の論文はわずか2本であり、球状トカマクの概念的な特徴と実験の進捗を報告している。1992年の論文は「自然伸長」を扱い、1994年の論文は球状トカマク全体の進展を総括しており、装置名としてはまだ特定のマシンは登場しない。
この時代の論文から
- 'Natural elongation' of spherical tokamaksNuclear Fusion 1992
- Progress on spherical tokamaksPlasma Physics and Controlled Fusion 1994
1995–200457本 · 0.58%
MASTによる装置的確立と統合研究
球状トカマクはMAST装置を中心に実験的・理論的に発展し、磁気リコネクション、定常運転、中性粒子ビーム、Hモード、 energetic particle などと併せて議論された。代表的な論文として、Culhamの球状トカマク計画やSTARTでの中性粒子ビーム加熱、TS-3でのリコネクション加熱実験における高ベータ特性が挙げられる。また、統合プラズマモデリングによる発電炉設計も現れ始めた。
同時に語られた主題磁気リコネクション、定常状態、中性粒子入射、中性ビーム、Hモード、磁場反転配位
この時代の論文から
- Initial results from the TST-2 spherical tokamakNuclear Fusion 2001
- The spherical tokamak programme at CulhamNuclear Fusion 1999
- Integrated plasma physics modelling for the Culham steady state spherical tokamak fusion power plantNuclear Fusion 2004
- Neutral beam heating in the START spherical tokamakNuclear Fusion 2002
2005–201492本 · 0.60%
高性能化と周辺物理の深化
この時代では、MASTに加えてQUESTやNSTX-Uといった装置が登場し、球状トカマクの高性能化が進んだ。周辺局在モード、電子バーンスタイン波、アルフヴェン波、定常運転、分光計測、渦電流などが主な共起テーマであり、Hモード閉じ込めのスケーリングやエネルギー輸送の研究が代表的である。また、LATE装置でのECHによる平衡形成や、Globus-Mの成果を基にしたコンパクト球状トカマク設計も報告された。
同時に語られた主題周辺局在モード、電子バーンスタイン波、バーンスタイン波、アルフヴェン波、定常状態、発光分光
この時代の論文から
- Prospects for pilot plants based on the tokamak, spherical tokamak and stellaratorNuclear Fusion 2011
- Scaling of H-mode energy confinement with Ip and BT in the MAST spherical tokamakNuclear Fusion 2009
- Collisionality and safety factor scalings of H-mode energy transport in the MAST spherical tokamakNuclear Fusion 2011
- Globus-M results as the basis for a compact spherical tokamak with enhanced parameters Globus-M2Nuclear Fusion 2013
2015–2026205本 · 0.82%
原型炉とコンパクト融合炉への展開
球状トカマクは核融合科学施設やパイロットプラント、コンパクト融合炉の基盤として位置づけられ、QUESTやMAST、NSTX-Uで研究が進められた。プラズマ診断、高エネルギー粒子、磁気リコネクション、イオン加熱、電流駆動、定常運転、プラズマ立ち上げ、MHDといったテーマと密接に関連し、特にQUESTでの完全非誘導第二高調波電子サイクロトロンランプアップやGlobus-M2の設計・統合・建設といった具体的な装置開発が代表的な論文である。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題プラズマ診断、高エネルギーイオン、磁気リコネクション、電流駆動、イオン加熱、定常状態
この時代の論文から
- Fusion nuclear science facilities and pilot plants based on the spherical tokamakNuclear Fusion 2016
- Compact fusion energy based on the spherical tokamakNuclear Fusion 2018
- Spherical tokamak Globus-M2: design, integration, constructionNuclear Fusion 2017
- Fast particle behaviour in the Globus-M spherical tokamakNuclear Fusion 2015
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Spherical tokamak、spherical tokamaks など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文120本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、8本の論文(うち全文4本)と2枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
