MASTは、核融合・プラズマ物理学の装置。MAST(Mega Ampere Spherical Tokamak)は、英国の核融合研究所に建設された球状トカマク装置であり、低アスペクト比と高ベータ運転を特徴とする。プラズマ閉じ込め、Hモード遷移、ELM制御、高速イオン物理など、核融合炉の実現に必要な諸課題の研究に供されている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは302本ある。比重が最も大きいのは直近の2025–2029年で、その期間に発表された論文の1.02%を占める。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Mega Ampere Spherical Tokamak
解説
MAST(Mega Ampere Spherical Tokamak、メガアンペア球状トカマク)は、イギリス原子力公社(UKAEA)が運用した大型の球状トカマク装置であり、その改造機であるMAST Upgrade(MAST-U)とあわせて、低アスペクト比トカマク物理とプラズマ排気研究の世界的な拠点となっている。球状トカマクとは、中心柱を細くして主要半径と小幅半径の比(アスペクト比)を1.5前後まで下げたトカマクで、断面がドーナツ形というより「芯を抜いたリンゴ」に似る。代表値としては、MAST-Uは主要半径0.85 m、小幅半径0.65 m(アスペクト比約1.3)、プラズマ電流2.0 MA以下、軸上トロイダル磁場0.8 T以下、パルス長5秒未満であり、NSTX-U(米・プリンストン)と並ぶ大型球状トカマクである。
装置と球状トカマクの概念

fig.1 Chasing the multi-modal plasma response in MAST-U (2024) · CC BY 4.0
(a) Poloidal cross section of MAST-U. In black the limiter, in cyan the position of the RMP coils, in magenta and green the position of the arrays of saddle loops with their acronyms (CSA is the saddle loop array on the CenterStack Above the midplane, CSB that Below the midplane, USL and LSL the Upper and Lower Saddle Loop arrays respectively and OML and OMS the Outboard Midplane Large and Small saddle loop arrays respectively). The dotted blue lines are the experimental flux surfaces of the considered equilibrium, with the solid blue line showing the experimental last closed flux surface (LCFS). The solid red line is the LCFS used for the MARS-F simulations. In (b) there is the experimental safety factor (q) radial profile in blue and the modified q radial profile for the MARS-F simulations in red.
図はMAST-Uの断面図と安全係数分布を示す。左図にはリミッター、共鳴摂動コイルの位置、真空容器内のサドルループ配列、実験で再構成された磁束面と最外殻磁束面(LCFS)が描かれ、右図には正規化磁束に対する安全係数qの半径方向分布が実験値とシミュレーション用の修正値の比較で示されている。
球状トカマクの利点は磁場構造そのものに由来する。トロイダル磁場は主要半径に反比例して減衰するため、低アスペクト比では磁場の曲率がプラズマの内側で良好(安定側)になり、粒子は曲率の安定な内側表面に長く留まる。その結果、同じ磁場強度でもプラズマ圧力と磁気圧力の比(ベータ値)を高い値に安定して保てる。先行装置START(1990年代)が記録的なベータ値を達成したことが球状トカマク研究の勃興のきっかけとなり、MASTは1999年の運転開始以降、NSTXとともにメガアンペア級の世代を担ってきた。一方で課題もある。表面積当たりの熱流束が大きくなること、中心柱にソレノイドを置く空間が乏しく電流駆動・長パルス維持が難しいことである。後者の制約は、MAST系の装置で開発されたマージング・コンプレッション(プラズマ環の合体による圧縮起動)や、起動時のプラズマ・バーンスルー(不純物の完全電離に必要な加熱を見極める過程)の精密モデリングという形でも研究されてきた。
MASTの物理プログラムは、高分解能診断(ビーム発光分光、ドップラーバックスキャッタリング、高速可視カメラ、コヒーレンスイメージングなど)を理論・数値モデリングと密に結合させる方針を特徴とし、ITERの運転課題とDEMO以降の設計選択への寄与を軸としている。低アスペクト比ゆえの小型・低コストな工学構造も、比較研究装置としての価値を高めている。
MAST Upgrade:能力と設計
MAST Upgradeは2010年代後半の大改修で、元のMASTを基盤に性能を大きく拡張した。中心となるのは22本の極向き場コイルによる形状制御の自由度で、コアの形状を閉じ込めと安定性のために最適化しつつ、厳密にバッフルされた別個のダイバータ室でダイバータ形状を独立に変えられる。外側ストライクポイントの主要半径を約0.8 mから約1.45 mまで変化させられる可変性は、後述のスーパーXダイバータ研究の要である。また、エルム制御用の共鳴磁場摂動(RMP)コイル(容器内に中間面上方4本・下方8本の2列)と、固有誤差磁場補正用の容器外コイル2対を備える。オン軸・オフ軸の両方の中性ビーム入射装置により、核融合反応生成物に近い超アルフベン速さの高速イオンの閉じ込め研究も可能になった。
装置組み立て時に極向き場コイルをミリメートル・ミリラジアン精度で整列させることで固有のn=1誤差磁場を低減する戦略が取られ、起動後の同定実験では補正に要する電流が数百アンペア程度と評価された。旧MASTではキロアンペア級の補正電流を要したことと対照的で、受動的な誤差磁場低減策の成功を示している。運転制御面でも、プラズマ垂直位置制御の高性能化、ロックモード予測への機械学習の適用などが進められている。
ダイバータ物理とスーパーX配置
低アスペクト比トカマクでは、外側ストライクポイントを大きな主要半径に置くことで排気を根本的に緩和できる。接続長Lを含む2点モデルでは、ターゲット上の平行熱流束密度はターゲット位置の全磁場にほぼ比例し、トロイダル磁場が主要半径に反比例することから、ストライクポイント主要半径を大きくするだけでターゲット熱流束が下がり、電子温度は下がり電子密度は上がる。これがデタッチメント(ターゲット前面でのプラズマの分離・再結合による熱負荷遮断)への到達閾値を大幅に下げる。さらにスーパーX配置では外側磁束脚のポロイダル磁場を弱めて磁力線を長くし(外側中央面からターゲットまでの接続長は標準配置の約2倍に達しうる)、熱の分散と散逸を促進する。 デタッチメント後も、磁力線脚に沿った磁場勾配が放射フロントのX点への移動を受動的に安定化すると予測されており、ソルバーを用いた輸送解析は、デタッチメント閾値が上流密度で標準配置の半分以下になること、放射フロントがX点に達する前に受動的に安定化されることを示している。

fig.8 Benefits of the Super-X divertor configuration for scenario integration on MAST Upgrade (2024) · CC BY 4.0
(Left) Equilibrium reconstructions in conventional (red) and Super-X (blue) divertor configurations in shot 47154 at 0.25 s and 0.38 s respectively and (right) radial profiles of parallel connection length, poloidal flux expansion and field line incidence angle.
図は同じ放電内で再構成された標準配置とスーパーX配置の平衡と、接続長・磁束膨張・磁力線入射角の半径方向分布を比較したものである。スーパーX配置で接続長と磁束膨張が大きく、入射角が浅くなる様子が読み取れる。
低加熱電力のLモード実験でこれらの利点は初期に確認され、続いて高性能Hモード放電での統合シナリオ実験に展開された。ガスパフ位置やダイバータ閉鎖性がデタッチメント条件に与える影響、ダイバータ内の対流・流れの役割なども調べられており、一方、内側ストライクポイントの主要半径が小さくなる球状トカマク特有の内側ダイバータ熱負荷問題に対しては、上下非対称のダブルヌル配置(2つの分離面の間隔を熱流束減衰長の20%未満に保つ)で内側への流入電力を抑える運転が標準とされている。
ペデスタル、エルム、共鳴磁場摂動
Hモードでは縁に急峻な圧力勾配層(ペデスタル)が形成されて閉じ込めが向上するが、その不安定化で周期的に粒子上エネルギーが放出されるエルム(ELM)が生じる。エルムの爆発的な熱負荷はITER以降の炉壁に対して許容不能と予測されるため、その抑制・緩和は最重要課題の一つである。MASTではトロイダルモード数n=2,3,4,6のRMPによるエルム緩和が、高・低衝突率、Hモード遷移直後の初回エルム、電流上昇期、回転する摂動など多様な条件下で実証された。ガスやペレットによる燃料補給とRMPには相乗効果があり、緩和されたエルムは粒子をより少なく失うため閉じ込めを損なわずにターゲット ピーク熱流束を下げられる。 ペデスタル物理の側面では、L-H遷移でのベータ走査によりペデスタル高さがコア圧力に強く依存してスケールすることが示され、コア圧力が縁の安定性を安定化させる効果が明らかにされた。ドップラーバックスキャッタリングによるエルム間の不安定観測はペデスタル内のマイクロティアリングモードのジャイロキネティック計算と整合し、ビーム発光分光ではエルムの前兆とフィラメント形成過程が高分解能で捉えられた。エルムに伴う二次フィラメントの放出がX点近傍の表面との相互作用に相関すること、エルムの構造とエネルギー沈着分布も解析されている。 RMP側の物理では、印加摂動に対するプラズマ応答のモード構造(MHDコードによる予測と実験の比較)や、摂動によって生じる縁の三次元的な凹凸、乱れた磁場内のストカスティック層の解析が進められた。球状トカマクでは従来型トカマクで達成されているRMPによるエルム完全抑制が難しく、緩和にとどまっているが、これは摂動のポロイダルスペクトルとプラズマ応答の関係の最適化が鍵とされており、MAST-Uではサドルループ配列による応答の直接測定能力を活かしてスペクトル最適化が図られている。 なお、RMPは高速イオン閉じ込めにも影響し、縁近傍に摂動との共鳴が集中する輸送層(エッジ共鳴輸送層)の概念が高速イオン損失検出器を用いた実験とモンテカルロ輸送計算で検証されている。
乱流、高速粒子、閉じ込め物理

fig.2 Effect of n = 2 externally-applied magnetic perturbations on fast-ion confinement in MAST-U (2025) · CC BY 4.0
3D scheme of the RMP layout in MAST-U, with 4 coils in the upper row and 8 coils in the lower row.
図はMAST-UのRMPコイル配置を立体で示したもので、中間面上方の4本と下方の8本のコイル列からなる。この配置が摂動のポロイダル・トロイダルスペクトルを決め、エルム制御性能と高速イオン損失の両方を支配する。
エネルギー閉じ込めの実験的スケーリングは高電力・低衝突率の装置を有利にする傾向を示し、これは電子スケール乱流のジャイロキネティック・モデリングと整合する。ビーム発光分光によるイオンスケール乱流測定では、流れシアが乱流渦を傾けて乱流対称性を破ることが示され、乱流渦の傾きの増大とともにジャイロ・ボーム正規化イオン熱輸送が減少する相関が得られた。非線形安定閾値近傍では流れシアが密度揺動の相関関数を傾け振幅分布を歪めることも観測され、さらに非線形マイクロティアリングモードがストカスティック層を形成しうることが解析されている。オーム性Lモード縁ではジオデシック音響モードが特性化された。 高速イオン物理では、ニュートリノームの再分配(redistribution)、サウィトゥースによる通過粒子・閉じ込め粒子の等分配輸送(m=1摂動と高速イオン軌道の共鳴が支配的と示唆)、エネルギー粒子モードによる輸送が密度に依存し臨界密度以上で「古典的」な閉じ込め領域に到達することなどが明らかにされた。中性粒子分析計を用いたマージング・コンプレッション起動中のイオン・電子加速の観測や、核融合生成物の損失測定から中心部近似(ガイディングセンター近似)の限界を示唆する結果も得られている。縁のスクレイプオフ層では、フィラメント(バルク状の構造)が粒子輸送を担い、フィラメント間の相互作用は速度への影響が小さく独立に運動する近似が有効であること、非相互作用フィラメントの重ね合わせによる統計モデルが時間平均分布をよく再現すること、フィラメントによる半径方向フラックスが抵抗率と磁場幾何に強く依存すること(BOUT++計算)が示された。ダイバータ近傍では、X点から正規化磁束1.02程度までフィラメントの存在しない静穏領域が高速カメラで観測され、磁力線脚と曲率ベクトルのなす角が交換不安定性機構を介して私的磁束領域への輸送を支配することがシミュレーションで示されている。燃料滞留の全体評価は全ガス収支法により行われている。
MAST-Uは現在、コア・ペデスタル・排気の統合(core-pedestal-exhaust integration)を主軸に運転されており、その成果はITERの運転準備のみならず、球状トカマクを採用する英国のSTEPなど将来の発電炉概念設計への知見として位置づけられている。
この解説が根拠にした論文から
- Overview of new MAST physics in anticipation of first results from MAST UpgradeNuclear Fusion 2019
- Overview of MAST resultsNuclear Fusion 2015
- Development of full electromagnetic plasma burn-through model and validation in MASTNuclear Fusion 2022
- Benefits of the Super-X divertor configuration for scenario integration on MAST UpgradePlasma Physics and Controlled Fusion 2024
- Chasing the multi-modal plasma response in MAST-UPlasma Physics and Controlled Fusion 2024
- Overview of physics results from MAST upgrade towards core-pedestal-exhaust integrationNuclear Fusion 2024
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推移
研究の変遷
1995–200428本 · 0.28%
初期実験と基盤計測
MASTの初期的な結果報告と装置特性の把握が中心である。H-mode、スクレイプオフ層、プラズマ制御、ELMに並んで、データ取得系や軟X線といった計測技術が論じられており、装置立ち上げ期の総合的な実験研究を示す。代表的な論文として「First results from MAST」や「Overview of recent experimental results on MAST」がある。
同時に語られた主題Hモード、スクレイプオフ層、プラズマ制御、周辺局在モード、データ収集システム、データ収集
この時代の論文から
- First results from MASTNuclear Fusion 2001
- Overview of recent experimental results on MASTNuclear Fusion 2003
- Stability at high performance in the MAST spherical tokamakNuclear Fusion 2004
- Exhaust, ELM, and halo physics using the MAST tokamakNuclear Fusion 2003
2005–2014125本 · 0.81%
ELM制御とRMP研究の最盛期
この時代のMAST研究はELMと密接に関わり、外部・内部コイルによる共鳴磁場摂動(RMP)を用いたELM制御実験が主要な位置を占める。H-mode、ペデスタル、スクレイプオフ層などの周辺物理に加え、MASTとITERとの比較やASDEX-Upgradeとの関連が現れ、装置間の知見共有が進む。論文では「Resonant magnetic perturbation experiments on MAST using external and internal coils for ELM control」や「Modelling of plasma response to resonant magnetic perturbation fields in MAST and ITER」が代表的である。
同時に語られた主題周辺局在モード、磁場摂動、共鳴磁場摂動、Hモード、スクレイプオフ層、ペデスタル
この時代の論文から
- Resonant magnetic perturbation experiments on MAST using external and internal coils for ELM controlNuclear Fusion 2010
- Modelling of plasma response to resonant magnetic perturbation fields in MAST and ITERNuclear Fusion 2011
- Saturated ideal modes in advanced tokamak regimes in MASTNuclear Fusion 2010
- Understanding edge-localized mode mitigation by resonant magnetic perturbations on MASTNuclear Fusion 2013
2015–2026149本 · 0.60%
MAST Upgradeに向けた物理検証
MASTの物理成果を総括し、MAST Upgradeの初結果を予告する段階に移る。高エネルギー粒子、L-mode、ダイバータ剥離、ペデスタル、SOLPS-ITERなどが並び、測定手法としてドップラー後方散乱や高速可視イメージングを取り上げた論文が登場する。論文数は前時代より多いが、コーパス全体に占める割合は0.58%に低下しており、他装置との比較検証(ASDEX Upgrade、DIII-D、NSTX-U)やITERへの外挿を意識した研究が特徴的である。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題高エネルギーイオン、周辺局在モード、ダイバータ剥離、ペデスタル、Lモード、SOLPS-ITER
この時代の論文から
- Effect of resonant magnetic perturbations on low collisionality discharges in MAST and a comparison with ASDEX UpgradeNuclear Fusion 2015
- Doppler backscattering for spherical tokamaks and measurement of high-k density fluctuation wavenumber spectrum in MASTNuclear Fusion 2015
- Overview of new MAST physics in anticipation of first results from MAST UpgradeNuclear Fusion 2019
- Dependence of intrinsic rotation reversals on collisionality in MASTNuclear Fusion 2015
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文120本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、8本の論文(うち全文6本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
