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中性ビーム入射装置

Neutral beam injector

中性ビーム入射装置(Neutral beam injector、beam injector、neutral beam injectors)は、核融合・プラズマ物理学の装置。プラズマ加熱・電流駆動のために、イオン源で生成した正・負イオンを高電圧で加速し、中性化セルでの電荷交換により高速中性粒子ビームとして磁場閉じ込め装置へ入射する装置である。ビームラインは残留イオン除去、真空排気、冷却などの要素から構成され、核融合実験炉ではメガワット級・長パルス運転が要求される。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは153本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.36%を占めた。直近の2025–2029年では0.19%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4よく登場する装置
  5. 5この数字の作り方

解説

中性ビーム入射装置(NBI)は、磁場閉じ込め核融合実験においてプラズマを直接加熱し、電流を駆動するための装置である。水素または重水素のイオンビームを高電圧で加速した後、中性化して電荷を取り除き、磁場の影響を受けない高速中性原子としてプラズマ中に注入する。プラズマの物理的条件にほとんど依存せずコア加熱ができる点が最大の特徴で、ITERでは主要な加熱システムと位置づけられている。装置はイオン源、加速器、中性化器、残留イオンダンプ、真空・ポンプ系から構成される。

Overview of the injector design showing the different components in the vacuum vessel.

fig.19 CIGALE: an innovative gas neutralizer based high efficiency neutral beam injector concept for future fusion reactors (2024) · CC BY 4.0

Overview of the injector design showing the different components in the vacuum vessel.

図は装置全体の構成を示す。1 MVブッシング、ポスト加速器、ガス中性化セル、ビームターゲット、偏向電極などが真空容器内にどのように配置されているかが分かる。

磁気核融合における中性ビーム入射の役割

中性ビーム入射の原理的な利点は、ビームが中性原子であるためトカマクやステラレータの磁場と相互作用せず、プラズマの密度や温度、不純物条件にかかわらず確実にエネルギーを投入できることにある。中性原子はプラズマ中のイオンとの電荷交換や衝突電離によって再び帯電すると、磁場に捕らえられ、コア領域でエネルギーを放出する。この性質により、高閉じ込めプラズマの立ち上げや、プラズマ不安定性が活発な状況でも安定した加熱が可能になる。

加熱に加えて、中性ビームはプラズマ電流を駆動する機能も持つ。ビームの入射方向を電流方向に対して斜めに、あるいは逆向きに選ぶことで、高速イオンがプラズマ中を進む際の運動量付与により電流を発生させる。さらに、高速イオンの寄与はプラズマの回転を生み出し、閉じ込め特性の改善にも関係する。このように加熱・電流駆動・回転付与という複数の機能を一つの装置で担えることが、多くの主要装置で中性ビームが主加熱システムの座を保ってきた理由である。

一方で、ビームのエネルギーはプラズマのサイズに応じて高くする必要がある。小型装置では数十keVで十分だが、ITER級の大型プラズマのコアまで到達させるには1 MeV級が求められる。このエネルギー領域では正イオンの中性化効率が急激に低下するため、負イオンを用いる方式への転換が不可欠となった。

イオン源とビーム引き出し

イオン源は、低温プラズマを生成し、そこからイオンを引き出す装置の「能動素子」である。正イオン方式では、フィラメント放電で生成したプラズマを多極カップ磁場で閉じ込め、数万ボルトの加速電圧で引き出す。この方式は技術的に成熟しており、数十keV、数MW級のビームを長パルスで供給できる。ただし、長パルス運転では電極グリッドの熱除去や、加速電場で逆流する電子のダンプへの集中加熱といった課題があり、これらはシミュレーションと実験の両面から対策が進められている。

負イオン方式では、セシウムを蒸着したプラズマグリッド表面で原子やイオンが電子を付加されて負イオンに変換される。負イオンの生成には電子温度が1 eV程度以下の低温プラズマが適するため、磁場フィルタで高エネルギー電子を抽出領域から遮る。現在使われているイオン源は、日本で発展したフィラメント放電型(カマボコ型と呼ばれる平面マルチカップ構成)と、欧州で発展した高周波駆動型(円筒状のドライバで約1〜2 MHzの誘導放電を起こす)の二系統に大別される。いずれも抽出孔での負イオン電流密度は200〜300 A/m²程度を狙い、そのためにプラズマチャンバ壁面には1〜4 MW/m²の入力が必要となる。

(a) Kamaboko plasma source, which is a planar multi-cusp, magnetic DC configuration; (b) the cylindrical RF-driver plasma source, which is an axially symmetric magnetic configuration. The red arrows indicate the direction of ion extraction.

fig.1 A novel plasma source concept for negative ion generation in neutral beam injectors for fusion applications (2024) · CC BY 4.0

(a) Kamaboko plasma source, which is a planar multi-cusp, magnetic DC configuration; (b) the cylindrical RF-driver plasma source, which is an axially symmetric magnetic configuration. The red arrows indicate the direction of ion extraction.

図はこの二つのイオン源方式の磁場構成を比較したものである。(a)が平面マルチカップ磁場で閉じ込めたフィラメント放電型、(b)が円筒形の高周波ドライバ型で、赤い矢印はイオン引き出しの方向を示す。

両方式にはそれぞれ固有の制約がある。フィラメント型はタングステンフィラメントの寿命が短く、定期的な保守アクセスが必要になる。高周波型では磁場線がチャンバ壁に交わることで粒子が壁へ高速輸送されること、コイルの電力が金属構造物の渦電流として失われることが課題である。また共通して、横磁場による粒子ドリフトが引き出しビームの不均一性を招く。この効率の低さは装置全体のプラズマ増倍率Qに直結するため、双極子磁場構成を用いるなど、より効率的な負イオン源の新概念が模索されている。

高エネルギー負イオンビームの加速

1 MeV級の負イオンビームを得るには、多段の静電加速器で大電流ビームを安定に加速しなければならない。ここで最大の技術的障害となるのが、巨大なグリッドの絶縁耐力である。面積が数m²に及ぶグリッドでは、均一電場を設計基準にしても実際の耐圧はそれを大きく下回り、局所的な電場集中が破壊放電の原因となることが分かっている。グリッド間ギャップ長を実験とビーム光学計算に基づいて調整することで、大型グリッドでも600 kV級の耐圧を確保でき、500 keV・1 A級の水素負イオンビームの安定加速が実証されている。この知見はITER加速器の設計にも反映されている。

もう一つの損失要因は、加速器内の残留ガス分子との衝突による負イオンの剥離(ストリッピング)である。剥離で生じた正イオンは加速電場で逆流し、グリッドに熱負荷を与える。この損失を抑えるには加速器内のガス圧を下げる必要があり、抽出領域の圧力は0.3 Pa以下に保たれる。イオン源と加速器全体を真空に浸す真空絶対絶縁型ビーム源の設計では、ガス流の伝導を高めて剥離損失を従来設計の約半分に抑え、加速効率を84%から94%へ改善できることが示された。さらにプラズマ閉じ込めの改善により負イオン生成が表面過程に支配される条件を作れば、運転圧力を0.15 Paまで下げ、剥離損失13%、加速効率97%まで高められると予測されている。

中性化、残留イオン処理とエネルギー回収

加速された負イオンは中性化器で電子を失い中性原子になる。現行の方式はガスターゲット方式で、ガス分子との電荷交換により中性化が起こる。負イオンの中性化効率は数割程度でしかなく、中性化されなかった残留イオンは電磁石で偏向してビームライン脇の残留イオンダンプに受け止める。このダンプには数十MW級のビーム出力の相当部分が熱として集中するため、高熱流束機器となり、装置全体の効率を大きく制約する。

残留イオンのエネルギーを電力として回収する試みも行われている。ダンプの代わりに回収電極を設けて減速電場をかけ、イオンの運動エネルギーを電源回路に戻す方式の実験結果が報告されている。将来の炉級装置では、1 MeVの残留負イオンをそのまま回収するシステムが効率向上の鍵とされ、ガス注入を極力減らした低圧中性化器と組み合わせた新しい注入器概念が提案されている。光中性化やプラズマ中性化はガス注入を不要にできる可能性があるが、現時点では未成熟とされる。

ビームライン工学:真空、クライオポンプと熱負荷

ビームラインでは、中性化器を出たビームのうちプラズマに届くまでの損失と熱負荷を正確に見積もることが、長パルス・高出力運転にとって決定的に重要である。ビームは無数の細いビームレットの集合体であり、各ビームレットの発散やグリッド構造による影(シャドウイング)を考慮した三次元伝搬計算により、ダクト透過損失やビームライン内の部品への電力沈着、ビーム発光スペクトルが評価される。この種の解析はビームライン設計だけでなく、実験での幾何学的検証にも使われている。

中性化器やビームラインに注入される大量のガスを排気するため、クライオソープションポンプが用いられる。極低温の表面に吸着材を塗布し、ガス分子を物理吸着させる方式で、水素同位体を高速かつ大容量で排気できる。このポンプ系の状態監視や、ITER試験装置向けの設計も進められている。また、ビームで加熱される高熱流束部品の開発・調達はITER加熱中性ビームのビームラインにおける主要課題の一つであり、中性化器やダンプのパネルは熱機械的に厳しい環境にさらされる。

運転中の注入器と今後の開発

現在、世界の主要な磁気閉じ込め装置で中性ビーム入射装置が運用されている。トカマクではCOMPASSの40 keV級注入器、EASTの長パルス・高出力正イオン源(100秒・2 MW超を目標)、KSTARのイオン源の均一性改善、JT-60SA向けの開発、SST-1の5 MW級イオン源などが挙げられる。ステラレータのWendelstein 7-Xでも最初の注入器が運転を開始した。また、核融合プラズマ診断用に中性ビームを用いる開発も行われており、加熱用と診断用の両面で技術が共有されている。

ITERでは1 MVの負イオン注入器が計画されており、その実証機としてMITICA試験装置が建設されている。高電圧インシュレータやブッシング、伝送ラインなど1 MV電気系の統合設計・据え付け、磁気シールドや容器設計、磁場センサの適合性評価など、多方面での開発が進んでいる。ITERの次の段階であるDEMOでは、発電所としての電気効率と信頼性・可用性・保守性が設計の主眼となり、ITER型の注入器に対してビーム源、中性化器、真空ポンプ系に革新的な解決が導入される構想がまとめられている。その一つが、イオン源を接地電位に置いてロボット保守を容易にし、ガス注入を大幅に減らしたガス中性化・エネルギー回収型の概念である。

Scheme of the injector concept with six beamlines in parallel.

fig.1 CIGALE: an innovative gas neutralizer based high efficiency neutral beam injector concept for future fusion reactors (2024) · CC BY 4.0

Scheme of the injector concept with six beamlines in parallel.

図はその概念の全体構成を示す。6本のビームラインを並列に配置し、100 keVの予備加速器、ガス中性化器、偏向器、1 MeVの回収電極を経由してD0ビームを取り出す経路と、ビーム軸に沿った電位分布が描かれている。

中性ビーム入射装置は、加熱・電流駆動・回転付与を一つの系で実現できる唯一の手法として、現行実験装置から炉級装置への移行期にあり、負イオン源の効率化、1 MV加速の安定化、中性化とエネルギー回収の高効率化が今後の開発の中心課題である。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Achievement of 500 keV negative ion beam acceleration on JT-60U negative-ion-based neutral beam injectorNuclear Fusion 2011
  • [2]Conceptual design of the DEMO neutral beam injectors: main developments and R&D achievementsNuclear Fusion 2017
  • [3]Key issues for the filament-arc ion source of EAST neutral beam injector toward high-power and long-pulse operationPlasma Physics and Controlled Fusion 2020
  • [4]Analytical Beamlet Code 3D for neutral beam injectors: principles and applicationsPlasma Physics and Controlled Fusion 2020
  • [5]Development of negative ion sources for the ITER neutral beam injectorFusion Engineering and Design 2001
  • [6]CIGALE: an innovative gas neutralizer based high efficiency neutral beam injector concept for future fusion reactorsNuclear Fusion 2024

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推移

0.00.20.4中性ビーム入射装置197019801990200020102020%
図1 — 中性ビーム入射装置が、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1970–19843本 · 0.12%

要素技術の開発期

中性ビーム入射装置は、プラズマ生成器やパルスプラズマガンなどの要素技術に関連して登場した。この時代はワークショップ報告や基礎的な装置開発が中心である。

同時に語られた主題中性ビーム、イオンビーム

この時代の論文から

  • [1]Development of Neutral-Beam Injectors (Report on the Third Workshop, Gatlinburg, Tennessee, United States of America 19–23 October, 1981)Nuclear Fusion 1982
  • [2]Magnetic multipole line‐cusp plasma generator for neutral beam injectorsReview of Scientific Instruments 1979
  • [3]Pulsed plasma guns for intense ion beam injectorsReview of Scientific Instruments 1981

1985–19949本 · 0.16%

大型装置への適用開始

この時代、中性ビーム入射装置はITERやLHDなどの大型装置に関連して設計・検討が進んだ。放射線遮蔽やエネルギー回収、負イオン化といったテーマが現れる。

同時に語られた主題中性ビーム、トロイダル磁場コイル、遮蔽、負イオン、イオンビーム、重水素

この時代の論文から

  • [1]Negative ion based neutral beam injectorsNuclear Fusion 1992
  • [2]Experimental results of energy recovery on a neutral beam injectorPlasma Physics and Controlled Fusion 1989
  • [3]High specific pumping cryopanel for LHD neutral beam injectorFusion Engineering and Design 1993
  • [4]Radiation shielding for superconductive toroidal field coils around the neutral beam injector duct in the ITER designFusion Engineering and Design 1993

1995–200414本 · 0.14%

高性能化とシステム化

この時期は、負イオン源の高性能化やITER向けビーム源設計が進み、制御・データ収集システムや定常運転に対応した技術が開発された。TJ-IIやLHDなどの装置で実証が行われた。

同時に語られた主題中性ビーム、プラズマ診断、負イオン、プラズマ加熱、ITER中性粒子ビーム、データ収集

この時代の論文から

  • [1]Development of high performance negative ion sources and accelerators for MeV class neutral beam injectorsNuclear Fusion 2003
  • [2]European contributions to the beam source design and R&D of the ITER neutral beam injectorsNuclear Fusion 2000
  • [3]Development of cryosorption pump for neutral beam injectorFusion Engineering and Design 1996
  • [4]TJ-II neutral beam injectors control and data acquisition systemFusion Engineering and Design 2001

2005–201451本 · 0.33%

ITER向け最盛期

この時代、ITER向けの設計とR&Dが中心となり、電源、クライオポンプ、トモグラフィ診断などが詳細に扱われた。LHDやJT-60Uでの高パワー・長パルス達成が報告されている。

同時に語られた主題中性ビーム、ITER中性粒子ビーム、電源、プラズマ診断、負イオン、トリチウム

この時代の論文から

  • [1]High-power and long-pulse injection with negative-ion-based neutral beam injectors in the Large Helical DeviceNuclear Fusion 2006
  • [2]Achievement of 500 keV negative ion beam acceleration on JT-60U negative-ion-based neutral beam injectorNuclear Fusion 2011
  • [3]Cryopump design for the ITER heating neutral beam injectorNuclear Fusion 2009
  • [4]The tomographic diagnostic of ITER neutral beam injectorNuclear Fusion 2013

2015–202676本 · 0.30%

DEMOと長パルス運転への展開

近年では、DEMO設計やJT-60SA等での長期パルス運転が焦点となり、負イオン技術と放射線線量評価が重視されている。ITERに加えて様々な装置での適用が進んでいる。

この記述以降に論文が追加されている

同時に語られた主題中性ビーム、負イオン、電源、ITER中性粒子ビーム、プラズマ診断、イオンビーム

この時代の論文から

  • [1]Conceptual design of the DEMO neutral beam injectors: main developments and R&D achievementsNuclear Fusion 2017
  • [2]Exploring deuterium beam operation and the behavior of the co-extracted electron current in a negative-ion-based neutral beam injectorNuclear Fusion 2019
  • [3]100 s negative ion accelerations for the JT-60SA negative-ion-based neutral beam injectorNuclear Fusion 2022
  • [4]Performance evaluation of various diagnostics developed for a negative ion based neutral beam injector program in IPRNuclear Fusion 2019

よく登場する装置

iter41east9wendelstein-7x4jt-60sa4tj-ii3lhd3jet3textor2

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている(Neutral beam injector、beam injector、neutral beam injectors など)。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文36本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、7本の論文(うち全文2本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

中性ビーム入射装置

種別
装置
論文数
153 本
初出
1975–1979 年(1本)
最盛期
2005–2009 年0.36%
直近
2025–2029 年0.19%
ほかの綴り
beam injector、neutral beam injectors
主な装置
itereastwendelstein-7xjt-60sa

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