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重水素

Deuterium

重水素(Deuterium)は、核融合・プラズマ物理学の材料。原子核に陽子と中性子を各1個もつ水素の安定同位体。核融合燃料として、重水素プラズマや中性子ビーム、ペレットの形でトカマクなどの実験装置に供給される。重水素同士あるいはトリチウムとの反応で核融合出力と中性子を生む。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは747本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の2.14%を占めた。直近の2025–2029年では2.00%。

Hydrogen isotope used as fuel.

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4よく登場する装置
  5. 5関連項目
  6. 6この数字の作り方

解説

重水素(deuterium、記号 D)は、水素の原子核に中性子を一つ加えた同位体であり、質量数が 2 である点で普通の水素(プロチウム)と異なる。核融合研究において重水素は燃料の主役である。重水素と三重水素(トリチウム、T)の反応 D–T 反応は、核融合炉で最も低いプラズマ温度で高い反応断面積を与えるため、現在計画されているほぼすべての磁場閉じ込め炉および慣性核融合炉が D–T 燃料を前提に設計されている。一方で重水素は非放射性であり、トリチウムを扱えない装置では D–D 反応による模擬実験や、D–T 運転に向けた準備実験の標準的な作動ガスとして使われている。

Phase contrast image of deuterium ice layer viewing from equator plane.

fig.2 Demonstration of indirectly driven implosion experiments with cryogenic pure deuterium layered capsules on the Shenguang Laser Facility (2023) · CC BY 4.0

Phase contrast image of deuterium ice layer viewing from equator plane.

図は慣性核融合用の低温標的に用いられる重水素氷層の位相コントラスト像である。カプセル内壁(CH 層)の内側に形成された重水素氷層と、CH 層との界面が写っている。このように重水素は、極低温で固体の燃料層として標的に封入される形でも、また磁場閉じ込め装置にガスやペレットとして注入される形でも、核融合実験の物理的な出発点となる物質である。

重水素という核融合燃料

核融合燃料として重水素が選ばれる理由は、反応のしやすさと資源の両方にある。D–T 反応は 17.6 MeV のエネルギーを α 粒子(3.5 MeV)と中性子(14.1 MeV)に分けて放出し、その断面積は 10 keV 程度の温度で他の核融合反応より桁違いに大きい。重水素同士の D–D 反応は断面積が D–T 反応の約 100 分の 1 しかなく、放出中性子のエネルギーも数分の 1 に下がる。このため D–D 反応を主反応とする炉は実現がはるかに困難だが、逆にこの性質を利用して、D–T 燃料の代わりに純重水素燃料を用いれば放射化や中性子環境が大幅に緩和されるという利点が生まれる。実際、慣性核融合の間接駆動点火研究では、トリチウムを含まない低温重水素層カプセルの圧縮実験が、D–T 点火設計の代理実験(サロゲート)として位置づけられている。D–T 反応と比べて α 加熱の寄与が分離できるため、点火失敗の要因を切り分ける診断手段にもなる。

磁場閉じ込めの分野では、トリチウムを扱える装置が極めて限られている(これまで稼働したのは JET と TFTR のみ)ため、ほとんどのトカマクは水素または重水素プラズマで運転し、D–T 運転に向けた物理・技術の準備を重水素実験で進めている。重水素は中性子放出を伴う D–D 反応を起こすため、中性子源としての利用(例えば小型放電型中性子源)や、ビーム入射加熱・ペレット入射など燃料供給技術の開発にも使われる。

D–T 実験と同位体効果

重水素とトリチウムの混合比を変えた実験は、プラズマ閉じ込めが同位体質量にどう依存するかを調べるほぼ唯一の手段である。エネルギー閉じ込め時間や輸送係数の同位体質量スケーリングは、ITER や原型炉の性能予測を左右する重要な不確実性とされてきた。過去の実験結果は一様ではなく、L モードでは強い正の質量依存性(例えば閉じ込め時間が質量のべき乗で増加するという報告)が示された一方、H モードでは質量依存性が弱い、あるいはほぼ零という報告もあり、コアとペデスタルの結合の強さが結果を左右すると考えられている。無次元パラメータ(イオン・ラーマー半径、衝突頻度、ベータなど)を重水素とトリチウムの放電間で一致させた「無次元同位体スケーリング実験」では、温度・密度・電流・磁場を質量に応じてスケールさせた対放電が用いられる。

Comparison of the main dimensionless and scaled dimensional plasma profiles between the Deuterium (blue) and Tritium (magenta) discharges as a function of the normalized toroidal flux co-ordinate. The solid and dashed curves in the top left panel are the electron and ion temperature profiles, respectively. The temperature and density profiles are scaled accordingly to reflect better the achieved dimensionless isotope match.

fig.2 Isotope mass scaling and transport comparison between JET Deuterium and Tritium L-mode plasmas (2023) · CC BY 4.0

Comparison of the main dimensionless and scaled dimensional plasma profiles between the Deuterium (blue) and Tritium (magenta) discharges as a function of the normalized toroidal flux co-ordinate. The solid and dashed curves in the top left panel are the electron and ion temperature profiles, respectively. The temperature and density profiles are scaled accordingly to reflect better the achieved dimensionless isotope match.

図はそのような無次元マッチング実験の一例で、重水素放電とトリチウム放電の電子・イオン温度、密度、安全係数 q、および無次元パラメータ ρ*、ν*、β_n のプロファイルを規格化された磁束座標で比較したものである。温度と密度は質量に応じたスケーリングを施して示されており、無次元量がよく一致していることが分かる。この種の比較により、コア輸送の同位体依存性を定量的に切り出すことができる。

同位体効果は閉じ込めだけではない。H モードへの遷移に必要な入力電力しきい値(P_LH)も有効同位体質量に依存し、水素プラズマは重水素プラズマよりしきい値が高く、しきい値が密度に対して極小を持つ密度も質量とともに移動する。トリチウムや D–T 混合プラズマでは、補助加熱なしのオーミック H モード遷移が観測されるなど、軽水素系では見られない挙動が報告されている。また D–T プラズマでは核融合で生じた α 粒子による自己加熱が加わり、損失電力の評価に α 加熱項が入る。エネルギー粒子(ビーム入射イオンや D–D 反応で生じるトリトン)が MHD 不安定性によって輸送される現象も、重水素プラズマで中性子やトリトンの計測を通じて研究されている。

燃料供給と D–T 燃料サイクル

プラズマへの燃料供給は、ガス注入とペレット入射に大別される。炉心まで効率よく燃料を届けるには、低温に凍結した重水素(またはトリチウム)ペレットを高磁場側から超高速で打ち込む方法が主流であり、H モードプラズマでのペレット入射は密度変動や MARFE(縁の局所的な高密度放射領域)の移動など縁プラズマの応答を伴いながら密度を制御する手段となる。一方、ガス注入は炉心の燃料効率が極めて低いものの、ダイバータの密度や熱負荷のフィードバック制御には有用であり、実際、炉心はトリチウムペレットで、縁は重水素ガスで制御するという運転が D–T 燃焼割合の向上に有効だとする解析がある。ペレットの破砕を利用したディスラプション緩和(shattered pellet injection)も重水素ペレットで開発が進められている。

D–T 燃料サイクルの観点では、重水素そのものは豊富で問題ないが、トリチウムの自給自足が最大の課題である。燃焼割合(プラズマ中で実際に燃えるトリチウムの割合)は ITER 相当の運転では 1% 未満と低く、排気プラズマの再処理時間、燃料供給効率、炉の稼働率がトリチウム在庫と自給可能性を決める鍵となる。排気ガスからトリチウムを回収する同位体分離系、水のトリチウム汚染を処理する水トリチウム除去設備(重水素運転の設計にも影響する)など、燃料サイクル全体が炉の成立性を左右する。重水素はこの燃料サイクル開発において、トリチウムを実際に消費しない試験運転の媒体としても使われる。

プラズマ対向材料中の重水素保持

重水素はプラズマ対向材料に侵入・蓄積するため、材料中の水素同位体保持(retention)は炉の安全性和よびトリチウム在庫評価の中心課題である。タングステンはダイバータ材料の第一候補だが、中性子や重イオン照射が作る格子欠陥(空孔など)が重水素のトラップとして働き、保持量を大幅に増やすことが知られている。例えば中性子照射を受けたタングステンでは、未照射材では無視できるほど小さかった重水素保持量が、773 K での重水素曝露後に 6.0 × 10^21 D m^-2 に達するという報告がある。損傷量(dpa)の増加とともに保持量が飽和に向かうこと、また欠陥中の空孔に重水素が占有されることが、保持機構の基本像である。

Total D retention in all the analyzed samples. To illustrate how D retention depends on D-induced surface blistering, the blistering area ratio for each sample is also indicated in the figure.

fig.7 Deuterium retention in tungsten under the combined influence of displacement damage and helium (2025) · CC BY 4.0

Total D retention in all the analyzed samples. To illustrate how D retention depends on D-induced surface blistering, the blistering area ratio for each sample is also indicated in the figure.

図は種々の前処理を施したタングステン試料の全重水素保持量を曝露フルエンスに対して示したもので、各試料のブリスタリング(表面のふくれ)面積比も併せて示している。鉄イオンによる損傷前照射を受けた試料では保持量が未処理材より大きく増加している一方、ヘリウムプラズマを先に曝露した試料では保持量の上昇が抑えられていることが読み取れる。

後者の効果は重要である。ヘリウムプラズマ曝露はタングステン表面近傍にナノスケールのヘリウム泡層を形成し、この層が重水素の拡散に対する障壁として働くことで、内部への侵入と欠陥への捕獲を抑制する。泡の周囲のひずみ場や、泡が連結してできる多孔構造が表面での再結合を促進し、重水素を速やかにプラズマへ戻す(リサイクルさせる)ためである。中性子損傷による保持増加とヘリウムによる保持低減という逆方向の効果が重なったときの相乗作用は、損傷誘起ブリスタリングとの絡みもあり単純ではなく、現在も活発に研究されている。同様の保持・透過の問題は酸化エルビウムコーティングなどのトリチウムバリア材料や、リチウム系トリチウム増殖材(ペブル床)の放出特性にも当てはまり、重水素はトリチウムの代替としてこれらの材料試験に広く用いられている。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Overview of the JET preparation for deuterium–tritium operation with the ITER like-wallNuclear Fusion 2019
  • [2]Physics and technology considerations for the deuterium–tritium fuel cycle and conditions for tritium fuel self sufficiencyNuclear Fusion 2021
  • [3]L-H transition studies in tritium and deuterium–tritium campaigns at JET with Be wall and W divertorNuclear Fusion 2023
  • [4]Isotope mass scaling and transport comparison between JET Deuterium and Tritium L-mode plasmasNuclear Fusion 2023
  • [5]Demonstration of indirectly driven implosion experiments with cryogenic pure deuterium layered capsules on the Shenguang Laser FacilityNuclear Fusion 2023
  • [6]Overview of the third JET deuterium-tritium campaignPlasma Physics and Controlled Fusion 2025

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推移

0.01.22.5重水素197019801990200020102020%
図1 — 重水素が、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1970–198416本 · 0.65%

初期のトカマク実験と固体ターゲット

この時代の論文は、PLTトカマクやTFR 600といった装置での重水素ビーム注入とスクレープオフ層計測、固体重水素ターゲットへのレーザー吸収を扱っている。トリチウムや重水素-トリチウム反応と関連づけられ、核融合中性子生成の文脈で重水素が現れる。

同時に語られた主題トリチウム、重水素-トリチウム、スクレイプオフ層、中性粒子入射、新古典輸送、慣性核融合

この時代の論文から

  • [1]Fusion neutron production during deuterium neutral-beam injection into the PLT tokamakNuclear Fusion 1981
  • [2]Solid deuterium evaporation in a fusion plasmaNuclear Fusion 1973
  • [3]Deuterium ion fluxes, temperatures and densities in the scrape-off layer of TFR 600Nuclear Fusion 1980
  • [4]Conductivity and transport in neon deuterium discharges in the PLT tokamakNuclear Fusion 1984

1985–199439本 · 0.71%

重水素-トリチウム燃焼実験への準備

JETやTFTRでの重水素-トリチウム実験のシミュレーション、核融合エネルギー生成、イオンサイクロトロン放射計測など、核燃焼に向けた研究が中心である。同時に炭素基材への重水素侵入といった材料科学的側面も見られる。

同時に語られた主題トリチウム、重水素-トリチウム、重水素プラズマ、核融合生成物、イオンサイクロトロン放射、電子サイクロトロン放射

この時代の論文から

  • [1]Fusion energy production from a deuterium-tritium plasma in the JET tokamakNuclear Fusion 1992
  • [2]Simulations of deuterium-tritium experiments in TFTRNuclear Fusion 1992
  • [3]Ion cyclotron emission measurements during JET deuterium-tritium experimentsNuclear Fusion 1993
  • [4]The physics of burn in magnetized deuterium-tritium plasmas: spherical geometryNuclear Fusion 1986

1995–200488本 · 0.89%

高性能DTプラズマと材料との相互作用

JETやTFTRでの重水素-トリチウム高性能プラズマ実験、ITERを見据えた物理検討が行われている。ダイバータ材料との相互作用として、重水素保持や炭素の化学スパッタリング、液体リチウム中の重水素保持も扱われている。

同時に語られた主題トリチウム、重水素-トリチウム、重水素プラズマ、イオンサイクロトロン加熱、中性粒子入射、核融合中性子

この時代の論文から

  • [1]High fusion performance from deuterium-tritium plasmas in JETNuclear Fusion 1999
  • [2]Deuterium retention in liquid lithiumNuclear Fusion 2002
  • [3]Flux dependence of carbon chemical erosion by deuterium ionsNuclear Fusion 2004
  • [4]Overview of ITER physics deuterium-tritium experiments in JETNuclear Fusion 1999

2005–2014130本 · 0.84%

タングステン中の重水素保持と損傷

プラズマ対向材料としてのタングステンに焦点が当てられ、重水素-ヘリウム混合プラズマ曝露による保持抑制やブリスター形成、照射損傷が重水素保持に与える影響が調べられている。DIII-DやASDEX Upgradeなどでの実験とITERへの応用が見据えられる。

同時に語られた主題タングステン、重水素保持、トリチウム、重水素プラズマ、ヘリウム、重水素-トリチウム

この時代の論文から

  • [1]Observations of suppressed retention and blistering for tungsten exposed to deuterium–helium mixture plasmasNuclear Fusion 2009
  • [2]Blister bursting and deuterium bursting release from tungsten exposed to high fluences of high flux and low energy deuterium plasmaNuclear Fusion 2007
  • [3]The influence of displacement damage on deuterium retention in tungsten exposed to plasmaNuclear Fusion 2009
  • [4]Saturation of deuterium retention in self-damaged tungsten exposed to high-flux plasmasNuclear Fusion 2012

2015–2026470本 · 1.88%

炉心・材料・燃料サイクルの広がり

LHDの重水素実験開始による運転領域拡大、JETのITER類似壁での重水素-トリチウム運転準備、核融合燃料サイクルとトリチウム自己充足条件など、炉心プラズマから材料・燃料サイクルまで研究が広がっている。タングステンの照射損傷と重水素保持の関係も継続して調べられている。

この記述以降に論文が追加されている

同時に語られた主題トリチウム、タングステン、重水素-トリチウム、重水素プラズマ、重水素保持、重水素透過

この時代の論文から

  • [1]Extension of the operational regime of the LHD towards a deuterium experimentNuclear Fusion 2017
  • [2]Overview of the JET preparation for deuterium–tritium operation with the ITER like-wallNuclear Fusion 2019
  • [3]Irradiation effect on deuterium behaviour in low-dose HFIR neutron-irradiated tungstenNuclear Fusion 2015
  • [4]Physics and technology considerations for the deuterium–tritium fuel cycle and conditions for tritium fuel self sufficiencyNuclear Fusion 2021

よく登場する装置

jet99lhd34tftr25iter25asdex-upgrade15east14diii-d12textor2

関連項目

  • ·重水素透過Deuterium permeation
  • ·重水素プラズマDeuterium plasma
  • ·重水素保持Deuterium retention
  • ·重水素-トリチウムDeuterium-tritium

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文120本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、7本の論文(うち全文6本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

重水素

種別
材料
論文数
747 本
初出
1970–1974 年(4本)
最盛期
2020–2024 年2.14%
直近
2025–2029 年2.00%
主な装置
jetlhdtftriter

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