Wiki / 手法 ガスパフ (Gas puff、gas puffing)は、核融合・プラズマ物理学の手法。プラズマ装置へ外部から中性ガスを短時間噴出する手法で、燃料供給や密度制御、不純物入射、ディスラプション緩和などに用いられる。噴出したガスは周辺プラズマを冷却・局所的に変調し、計測のための発光源としても利用される。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは83本ある。比重が最も大きかったのは1975–1979年で、その期間の論文の0.24%を占めた。直近の2025–2029年では0.19%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1975年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 ガスパフ(gas puff、ガスパフイングとも呼ぶ)とは、核融合プラズマの周辺部に中性ガスを短時間・制御的に吹き込む操作のことである。高速バルブを介して水素や重水素 、ヘリウム 、ネオンなどの気体を真空容器 内へ放出させ、プラズマの粒子補給(燃料供給 )、密度制御、あるいは意図的なプラズマ終息といった目的に使われる。同時に、吹き込まれた中性ガスがプラズマ端で発光する様子を高速カメラで撮影することで、プラズマ端の乱流を二次元的に観測する診断(ガスパフイメージング)の媒体としても重要である。装置の運転と診断の両面にまたがる、極めて基本的なプラズマ操作である。
fig.1 X-point and divertor filament dynamics from gas puff imaging on TCV (2022) · CC BY 4.0
TCV X-point GPI system. CAD image of the gas injection system in sector 6 of TCV, with the gas puff in the tip of a LFS baffle tile. The X-point GPI viewing geometry and camera field of view (FoV) is illustrated in cyan. A typical plasma separatrix at the toroidal angle of the gas puff is shown in red. A raw image acquired with this setup is shown on the right. Certain parts of the FoV are discarded due to low signal-to-noise ratio (SNR) or baffle shadowing. The crosses indicate the CAS trigger locations.
図は、トカマク装置TCV におけるX点 近傍のガスパフイメージング診断の構成を示したものである。低磁場側バッフルタイルの先端に設けたノズルからガスを噴出させ、それを高速カメラで撮影する。ガス注入バルブ、毛細管、視野(シアン)、そして典型的なセパラトリックス(赤)が描かれており、右側にはこの系で得られた実際の撮像画像が示されている。ガスパフが「装置の壁に近い場所から中性気体を局所的に供給する」という物理的な実体がよく分かる。
ガスパフ
種別 手法
論文数 83 本
初出 1975 –1979 年(2本)
最盛期 1975 –1979 年 0.24%
直近 2025 –2029 年 0.19%
ほかの綴り gas puffing
ガスパフとは何か、どのように供給されるか プラズマは磁場で閉じ込められているため、粒子を補給するには中性原子あるいは分子の形でプラズマに近づけ、端の領域で電離させて取り込むしかない。ガスパフはこの最も単純な方法であり、容器の外に置いた貯蔵部から高速バルブ(電磁弁や圧電素子駆動の弁)を通じて気体を数ミリ秒から数百ミリ秒の時間スケールで放出する。バルブの開口時間と圧力を制御することで、注入する粒子数(マスビット)を調整できる。近年のパルスプラズマ実験向けには、立ち上がりが速くマスビットを可変できる専用バルブの開発も進んでいる。
通常のガスパフでは、気体は音速以下で広がりながら容器内を満たす。これに対し、ラバルノズルを備えたバルブから高圧気体を超音速で噴射する超音速ガスパフという変法がある。これは短時間(ミリ秒程度)のうちに端領域へ大量の粒子を局所的に供給でき、低密度プラズマ では通常のガスパフの2倍以上、約20%という高い燃料供給 効率が得られると報告されている。供給された粒子はまず端で電離され、その後拡散によって中心部へ運ばれるため、効率は目標密度が高いほど下がるという特性を持つ。
燃料供給と密度制御 ガスパフの第一の役割は、プラズマ密度を運転目標に保つことである。プラズマは排気や核融合反応で粒子を失うため、損失を補う注入が常に必要になる。ガスパフは応答が速く、連続的・繰り返し的に制御できるため、フィードバック制御のアクチュエータとしても使われる。例えば、Hモード 運転ではペデスタル (端の高密度層)頂上の電子密度がELM 抑制やダイバータ detachment (プラズマとターゲット板の接触を弱める状態)の成立可否を左右するため、ガスパフ量をリアルタイムで調整してペデスタル密度を目標値に追従させる制御系が実現されている。ここでは中性ビーム 入射などと併用し、ガスパフを主に端の密度を上げる方向の制御に用いる。
ただしガスパフによる粒子供給は本質的に端寄りである。中性粒子はプラズマ中で短い距離しか進めず、電離は端の数センチ程度の領域に集中する。中心部への供給は拡散に頼るため効率が低く、深い中心密度の制御にはペレット注入(凍結燃料の高速固体注入)が併用される。粒子供給源の位置が端の構造(ペデスタル)をどう決めるかは、ガスパフとペレットを比較する実験で調べられている。
診断としてのガスパフ:ガスパフイメージング ガスパフは診断にも使われる。端のプラズマに中性ガスの雲を局所的に作ると、その雲はプラズマと混ざり合い、電子密度に応じた輝度で発光する。この発光を高速カメラで撮影すると、端の乱流構造(フィラメント、いわゆるブロブ)が二次元の動画として直接観測できる。これがガスパフイメージング(GPI)である。プローブや反射計が一点または一次元の情報しか与えないのに対し、GPIはポロイダル・半径方向の二次元平面内で、乱流の形・伝播速度・統計的性質を高時空間分解能で捉えられる。
fig.7 X-point and divertor filament dynamics from gas puff imaging on TCV (2022) · CC BY 4.0
False colour raw image sequence of discharge #70644 viewing below the X-point in the divertor leg. Every third frame is shown for better visibility of the structures. The red line shows the separatrix and blue dashed lines indicate flux surfaces at ρΨ = [0.98, 1.02, 1.04, 1.06], a convention followed throughout this paper.
図は、X点 の下のダイバータ 脚を撮影したGPIの連続画像(偽色)である。赤線がセパラトリックス、破線がその外側の磁束面を示し、ミリ秒以下の間隔でフィラメント状の構造が移動・変形していく様子が分かる。このような画像列から、乱流構造の径方向速度や統計的モーメント(歪度・尖度など)が求められる。
GPIの観測対象は外側中平面の乱流にとどまらない。X点近傍やダイバータ領域にガスパフを設置することで、磁場のX点周辺やダイバータ脚におけるフィラメントの生成・運動が調べられている。X点近傍では磁束管の圧縮と磁気シア によってフィラメントが中平面のものと切り離され、形状や速度が大きく変わることが分かってきた。
fig.9 X-point and divertor filament dynamics from gas puff imaging on TCV (2022) · CC BY 4.0
Shapes of 2D filaments observed in CAS trigger locations at the outboard midplane (a) and above the X-point on ρΨ ≈ 1.035 (b). Filaments in the divertor near-SOL (c) at ρΨ ≈ 1.035 and in the far-SOL (d) ρΨ ≈ 1.06 are alos shown. For each case, the long and short edge size (l blue line and s red line resp.) is specified. The black dashed contour in (b) and (d) corresponds to the field-line tracing of the midplane contour in (a).
図は、外側中平面(a)とX点上方(b)、ダイバータ近SOL (c)・遠SOL(d)で観測されたフィラメントの二次元形状を比較したものである。中平面のフィラメントはポロイダルに引き伸ばされた楕円形をしているのに対し、X点近傍やダイバータでは長軸の向きやアスペクト比が大きく異なり、磁場構造の変化が乱流の形に直接反映されていることが読み取れる。
多色のガスを使い分けたり、複数波長で同時撮影したりする手法も開発されており、発光の強度比から電子密度と電子温度の二次元時間発展を同時に求める試みもなされている。また、乱流統計(エッジ乱流の統計的特徴)の測定や、Lモード からHモード への遷移(L–H遷移 )に伴うポロイダル流シア層の変化の観測にもGPIは広く使われている。
位置の効果:端プラズマ、SOL、高周波結合
ガスをどこから吹き込むかは、端プラズマの性質を大きく左右する。磁力線に沿った輸送が支配的なため、注入位置と磁力線の接続関係がそのまま密度分布 に反映される。三次元シミュレーションと実験の両方から、中平面からのガスパフはスクレイプオフ層 (SOL)の密度を最も大きく、しかし局所的に増やすのに対し、頂部(top)からの注入はトロイダルに一様だが増加の程度は小さいこと、ダイバータ からの注入はSOL密度への効果が最も小さいことが示されている。
この位置依存性が実用上特に重要になるのが、高周波加熱(ICRF )の電力結合である。ICRFアンテナはプラズマをカットオフ密度以上に保つ必要があり、アンテナ前面のエバネッセント層が薄いほど結合が良い。SOL密度が低いとカットオフ面がアンテナから遠ざかり、結合抵抗が下がって反射電力が増える。そこでアンテナ近くの中平面からガスをパフして局所的にSOL密度を上げる手法が広く用いられており、Hモード プラズマで結合抵抗が2倍程度(100%増)に向上した例が複数の装置で報告されている。ITER の設計でも、アンテナ近傍へのガス注入口を設けて結合を最大化する戦略が採られており、シミュレーションではダイバータ注入と比べて結合抵抗が最大150%増加すると見積もられている。また、複数アンテナに対しては、主容器に分散配置した注入口からのパフを組み合わせることで、同時に複数のアンテナの結合を改善できることが示されている。
さらに、ガスパフの位置やタイミングを非対称にすることで端のトロイダル流 を変化させたり、SOLの対流輸送を抑制して閉じ込めを改善したりといった効果も報告されており、ガスパフは単なる燃料供給 を超えて端プラズマの状態を操作する手段として使われている。
破裂緩和とプラズマ終息のためのガスパフ
トカマクのディスラプション(プラズマの急速な終息)は、巨大な電磁力と熱負荷 を壁に与える重大な事故であり、これを緩和する手段の一つとして高速ガスパフがある。ディスラプションの検出直後に大量の不活性気体(ヘリウム など)を注入すると、密度が密度限界 を超えてプラズマが冷却・終息し、電流減衰が速まる。これにより、ハローカレントの低減、 runaway電子の抑制、次放電のための条件改善が図られる。ヘリウムが選ばれるのは、壁への吸着による次放電への悪影響が最も小さい元素だからである。初期の実験では、1ミリ秒以内に10 mbar・L程度のヘリウムを放出する高速バルブでこれらの緩和効果が実証された。この用途では、通常の燃料供給 とは逆に「プラズマを確実に終わらせる」ことが目的であり、大量の気体を一挙に、かつ高速で注入できるバルブ技術が鍵となる。ネオンなどの不純物 ガスパフを放射損失源として使う研究もあり、ダイバータ 放電での輻射冷却による熱負荷低減にもガスパフが利用されている。
1本 · 0.02%
JT-60Uでの変調実験の孤立事例
1985年から1994年のcorpusでは、JT-60Uでのガスパフ変調実験が1件のみ記録され、全体に占める割合も0.02%と極めて小さい。他の主題や装置と並ぶ記載がなく、ガスパフ手法がこの時期の主要な研究動向と結びついていないことを示す。
ガスパフ(Gas puff)の研究史 — FusionPapers