Wiki / 装置 KSTAR (kstar tokamak)は、核融合・プラズマ物理学の装置。韓国が建設した完全超伝導トカマク装置で、定常運転と先進トカマク物理の実証を使命とする。主半径1.8m、プラズマ電流2MA級の設計で、ELM抑制や高ベータ運転などITER・K-DEMOへ向けた研究に使われている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは402本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の1.30%を占めた。直近の2025–2029年では0.89%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 KSTAR
種別 装置
論文数 402 本
初出 1995 –1999 年(2本)
最盛期 2020 –2024 年 1.30%
直近 2025 –2029 年 0.89%
ほかの綴り kstar tokamak Analysis of nonlinear signal drift from magnetic probes located on the outboard side of the plasma in the high-temperature long-pulse plasma operation. Figure (a) describes a schematic cross-section of the KSTAR device, including the vessel, PFCs, and magnetic probes. In the KSTAR configuration, the PFC on the outboard side of the plasma in the midplane is open to the vessel. Figure (b) presents the signal drift S analysis obtained from magnetic probes, MPZ and MPR, on the plasma outboard side at the midplane. Figure (c) presents ΔRout obtained from EFIT analyses in long-pulse discharges.
図はKSTARの断面模式図と長パルス運転で生じた計測上の問題を示す。(a)は真空容器 、プラズマ対向機器 (PFC)、磁気プローブの配置を示す断面図であり、(b)(c)はアウトボード側中間面の磁気プローブ信号のドリフト量と、それを補正した場合としない場合の平衡再構成 における外側半径のずれの時間発展を示す。このようにKSTARでは、数十秒を超える放電が装置側の計測・制御系にも長時間の安定性を要求することになる。
装置の設計:超電導磁石、真空容器、プラズマ整形
KSTARの設計思想の中心には「定常運転能力」と「先進トカマク 物理」の二つの使命がある。定常運転のために、トロイダル磁場コイル とポロイダル磁場コイルの双方に超電導磁石が採用された。銅コイルでは磁場コイル自身のジュール加熱がパルス長を数秒から数十秒に制限するのに対し、超電導コイルは磁場を準定常的に維持できる。設計当初、ポロイダル磁場系が誘導的に供給できるパルス長は20 s程度とされ、非誘導電流駆動 と組み合わせることで300 s級の運転を目標とした。このため容器内機器 はすべて能動冷却され、極低温システムと脱イオン水冷却系が装置の一部として設計された。
先進トカマク物理の側では、柔軟なプラズマ整形、二重ヌルダイバータ 、受動安定器、容器内制御コイルが設計に組み込まれた。プラズマ断面を上下に引き延ばし、三角形度 を持たせる整形は、プラズマ圧力に対する安定性限界(正規化ベータ)を高め、高ベータ運転の窓を広げる。容器内制御コイルは、後述する共鳴磁気摂動(RMP )によるELM制御 や、抵抗壁モードの能動制御に用いられる。この磁場制御の自由度の高さが、KSTARを3次元磁場物理の実験場として特徴づけている。
加熱、電流駆動と計測
プラズマの加熱と電流駆動 は、中性ビーム 入射(NBI )、イオンサイクロトロン波 、下混成波、電子サイクロトロン波 (ECH /ECCD )という複数の系で構成される。目的は単なる加熱ではなく、電流分布 と圧力分布の柔軟なプロファイル制御にある。特に電子サイクロトロン電流駆動は局所的な電流プロファイル制御を可能にし、高ベータ長パルス放電では磁気流体(MHD )不安定の制御手段としても機能する。NBIは高速イオンを供給するため、燃焼プラズマ 中のアルファ粒子 に相当する高速イオンの閉じ込め研究の手段にもなる。
計測については、プラズマ制御 ・性能評価・物理理解を目的とした包括的な計測体系が当初から計画された。干渉計 による密度計測、トムソン散乱 、電子サイクロトロン放射 計測、荷電交換分光、ビーム放射分光 (BES)などの空間分解計測が整備され、特に乱流揺らぎを直接観測する先進的揺らぎ診断は、輸送と乱流の物理研究の強みとなっている。放電制御システムも開発段階から統合的に構築され、実時間平衡制御と実時間プロファイル制御を長パルスにわたって支えている。
長パルス先進トカマク運転
トカマクのパルス長は本質的にポロイダル磁場コイルのフラックス供給能力で制限されるため、長パルス化の鍵は非誘導電流割合を高めることにある。非誘導電流はブートストラップ電流 (圧力勾配が自発的に駆動する電流)と外部駆動電流の和であり、いずれもプラズマの正規化ベータを高めることで増える。したがって長パルス高性能運転とは、高ベータ状態を電流分布 の崩壊時間(KSTARのような中型装置では約10~100 s)とプラズマ・壁平衡時間(約10~100 s)にわたって維持する問題である。
KSTARは2015年頃から長パルス運転を本格化し、NBI と電子サイクロトロン加熱 を主軸として約90 s級の高性能長パルス放電を実現してきた。正規化ベータ3程度の放電が低q最小値シナリオで12 s維持され、10 keV級のイオン温度が30 sにわたって達成されている。KSTARが採用した高ポロイダルベータ運転では、DIII-D などで見られる内部輸送障壁 (ITB)形成によらず、電子サイクロトロン波 の入射位置を制御してトロイダル・アルフベン固有モード(TAE )を抑制し、高速イオン閉じ込めを改善することで高ベータ状態を保つ点が特徴である。
図は20 sを超えるハイブリッドシナリオ 長パルス放電の時間波形である。プラズマ電流、NBIと電子サイクロトロンの加熱パルス、正規化ベータ(2.4以上を20 s以上維持)、ループ電圧、線平均密度、Dα光、ダイバータ 部材温度、超電導コイル電流が並べて表示されている。ループ電圧が放電後半でほぼ零に漸近し、非誘導状態に近づいていること、またダイバータ温度が数十秒かけて単調に上昇する様子が読み取れる。後者は長パルス運転で排熱管理が本質的な制約になることを示している。
長パルス化が明らかにした工学的課題も多い。ビーム駆動高速イオンの軌道損失によるPFC の急速な温度上昇、磁気プローブ信号の非線形ドリフト、100 s級の放電で不足するポロイダルフラックス、そして数10 sの時間スケールで進行する性能劣化(最大で約2割)である。性能劣化はエネルギー閉じ込め 時間の約1000倍の時間スケールで現れる現象であり、短パルスでは見えない物理・工学の相互作用を長パルス放電が露呈させた例といえる。この種の課題への対処は、DIII-Dとの共同実験によるシナリオ移転を通じて進められ、超電導コイル環境とタングステンダイバータ の下でのハイブリッドシナリオの成立性が示された。
エッジ・ダイバータ物理:ELM制御、RMP、タングステンダイバータ
Hモード プラズマのエッジには圧力の急峻なペデスタル が形成され、高閉じ込めをもたらす一方、ペデスタルが周期的に崩壊するELM がダイバータ に大きな熱パルスを打ち込む。炉規模装置ではこの熱パルスが材料損傷の脅威となるため、ELM制御 は定常運転の必須要件である。KSTARは容器内制御コイルを用いた共鳴磁気摂動(RMP )によるELM制御で国際的に先行する成果を上げてきた。制御コイル電流の位相を変えることでELMの応答が抑制にも緩和にも変わること、最も共鳴に近い位相配置ではタイプI ELMの完全抑制が達成されることが示された。ITER 類似の三列コイル配置を用いた実験では、ELM抑制状態を維持したままダイバータ熱流束制御が行われ、抑制状態の定常化には機械学習を用いたコイル位相の最適化も導入されている。RMP以外の手法として、超音速分子ビーム入射 、プラズマ柱の高速上下振動、ペデスタル部への電子サイクロトロン電流駆動 なども検証され、それぞれELMのペースメーキングや緩和に有効なことが確認された。
熱排気のもう一つの柱がダイバータのデタッチメントである。スクレイプオフ層 に不純物 気体(窒素 、ネオン、アルゴン など)をシードして放射損失を増やし、プラズマのエネルギー・運動量を散逸させると、プラズマとターゲット板の相互作用が板から離れ、熱負荷 が下がる。ただし不純物の過剰注入はペデスタルやコアへの侵入を招き、閉じ込めの劣化やディスラプションのリスクとなるため、リアルタイムのフィードバック制御が要る。KSTARではダイバータのラングミュアプローブ によるイオン飽和電流を、付着状態で期待される値で規格化した「付着率」という制御変数を用い、不純物ガス注入のフィードバック制御によってデタッチメント状態の長時間維持を実現した。さらに、多数の二次元輸送シミュレーションから訓練した機械学習サロゲートモデルをリアルタイムに走らせ、ダイバータ熱流束を直接推定して制御に用いる試みも行われ、この種のモデルによる熱排気制御の初の実証となった。RMPによるELM抑制とアルゴンシードによるデタッチメントの両立も示され、ELM抑制状態でも放射デタッチメントが可能なことが確認された。
装置材料の面では、長年のカーボン壁運転の経験を経て、ダイバータがタングステン モノブロックに更新された。タングステンは融点が高くエロージョンに強くトリチウム 保持が低い一方、原子番号が大きいためわずかなコア侵入でも放射損失が大きい。ターゲット板の電子温度をスパッタリング閾値(重水素 イオンで約8 eV)以下に保つことがコア汚染防止の条件となる。このため、ホウ素化による壁コンディショニング が重要となるが、超電導装置では磁場中でグロー放電 を維持できないため、放電中にホウ素粉末を投入して壁をその場で被覆する手法が開発された。ホウ素粉末注入は酸素のゲッターとして働き、放射損失と不純物侵入を低減する効果がLモード ・Hモードの双方で確認され、運転を中断せずに壁条件を回復できる手法として長パルス超電導装置に適合するものと位置づけられている。プラズマ対向部の全面タングステン化は段階的に進められており、K-DEMO を念頭に置いた高ベータ定常運転シナリオの開発が現在の中心課題となっている。
KSTARの研究史 — FusionPapers