図は、EASTの新下部ダイバータ用に製作された外側ダイバータモジュールの実物大模型である。水平ターゲット板と垂直ターゲット板が角型エンドボックスを介して連結され、ターゲット面がモノブロックプラズマ対向ユニットの列で覆われ、冷却水がエンドボックスから流入・流出する配管構造が見て取れる。このようにタングステンダイバータは、単に材料をタングステンに替えるだけでなく、耐熱構造・冷却・排気・磁気配置を一体化した工学システムとして設計される。
材料選定の背景には、炭素系材料との対比がある。炭素は高温でも昇華せず熱衝撃に強い反面、水素と反応して炭化水素を生成しトリチウム保持が大きく、さらにプラズマ中で炭素イオンがスパッタを促進する。将来炉では対向面への年間イオンフルエンスが現在の装置より約5桁大きくなるため、侵食率を寿命許容値まで下げる必要があり、この要求がタングステンへの移行を決定づけた。
モノブロック技術と除熱
モノブロックは、タングステンの小片に軸方向の穴をあけ、銅の介在層を介して銅クロムジルコニウム合金製冷却管に接合した構造である。ターゲット面に入射する熱流はタングステン中を貫通して銅層・冷却管へ伝わり、管内を流れる水によって運び去られる。設計上の鍵は、タングステンと銅の熱膨張係数の違いによる熱応力を介在層で緩和しつつ、接合界面温度が許容値を超えないよう冷却水流速と水圧を設定することにある。EASTの上部ダイバータでは、冷却水流速4 m/s未満、水圧1 MPa未満の条件で定常10 MW/m²の除熱能力を実現しており、これはITERと同様のW/Cuモノブロック構造によるものである。
熱設計では、モノブロックの断面2次元の伝導問題と冷却水の流れ方向のエネルギー保存式を連成させた簡略化熱伝達モデルが用いられ、冷却水の流れ方向(トロイダル方向に対してポロイダル方向)に沿ったタイル温度分布を評価する。これにより、入射熱流のポロイダル分布が冷却水温上昇と表面温度ピークにどう反映されるかを、フル3次元解析よりはるかに少ない計算コストで見積もることができる。JETのバルクタングステンダイバータ列の発熱試験でも、この種の熱モデルと実測の比較による性能評価が行われている。
ITERのフルタングステンダイバータでは、日本において実機大プラズマ対向ユニット試作による技術認定が進められており、モノブロック接合技術の量産性・信頼性が工学上の焦点となっている。また中性子環境下での遮蔽・核発熱評価も設計の一部であり、炉規模の装置ではプラズマ負荷だけでなく核的設計制約も同時に満たす必要がある。
現在の装置におけるタングステンダイバータ
タングステンダイバータの実証は、複数の中型トカマクで段階的に進められてきた。ASDEX Upgradeは2007年にグラファイト対向面へのタングステン被覆により全タングステン装置となり、2013年には固体タングステンの新ダイバータ(Div-III)を設置した。これは外側ダイバータ形状の再設計により容器とのギャップを広げて排気効率を高めるとともに、クライオポンプにバイパスを設けて排気速度をエッジ密度に応じて調整できるようにしたものである。さらにダイバータ操作装置により、真空破壊なしにターゲット部材を交換・試験できる柔軟性を持ち、将来ダイバータ設計のための試験台として機能している。
EASTは超伝導トカマクとして長パルス運転を指向しており、2014年に上部ダイバータをグラファイトからITER類似のW/Cuモノブロック構造へ更新した。下部ダイバータが炭素のままであった時期には、約100秒のHモード長パルス運転が可能であったものの、約30秒以降にターゲット表面のホットスポットが発生し、炭素不純物濃度の上昇と密度制御の破綻を経てパルス長が制限されるという経験が得られた。これは炭素壁の多孔性・吸着性に起因する水素濃度の高さと、炭素不純物による金属壁スパッタの促進という問題を浮き彫りにし、全金属壁への移行動機となった。2020年以降は下部ダイバータもタングステン化され、上部・下部ともにタングステンダイバータを備えた運転が可能となっている。KSTARも下部ダイバータをタングステン化し、炭素からタングステンへの移行期における運転シナリオ・制御の検証を進めている。JETではITER類似タングステンダイバータの下で、グラファイトに対する燃料リサイクリングとトリチウム保持の低減が実証された。
これらの装置での共通の知見は、タングステンダイバータが単なる耐熱部材の交換ではなく、プラズマ・壁相互作用の制御を含む運転概念全体を変えるということである。長パルス・高効率運転では、熱負荷・粒子負荷・不純物源の三つを同時に管理する必要がある。
タングステンのスパッタ、コア汚染と不純物シード
タングステンダイバータ最大の物理的課題は、高Z不純物としてのコア汚染である。ターゲット表面に接するプラズマの電子温度が高ければ、入射イオンはタングステン原子を叩き出し、それがスクレイプオフ層を遡ってコアに輸送される。重水素イオンによるタングステンのスパッタしきい値は約8 eVであり、より重い不純物イオンではさらに低い。したがってターゲット近傍の電子温度をこのしきい値以下に保つことが、タングステン源を抑える基本条件となる。
スクレイプオフ層中の不純物輸送は、磁力線平行方向の力の釣り合いでほぼ決まる。摩擦力は不純物をターゲット側へ下流へ押しやり、イオン温度勾配力は上流(コア側)へ押し戻す。両者がスクレイプオフ層の大部分でほぼ釣り合っているという最近のモデリング知見は、不純物の運命がイオン化された瞬間に受ける正味の力でほぼ決まることを示唆する。タングステンは電荷状態が74通りあり、全電荷状態を扱う2次元流体シミュレーションは計算コストが高いため、電荷状態を束ねる近似や、不純物をトレース量として静的な背景プラズマ上でモンテカルロ輸送を解く手法が用いられる。
運転上の緊張関係は、不純物シードとタングステン源の相互作用にある。ネオン等の低Z不純物ガスはダイバータ内で輻射により排熱を体積的に分散させるためにほぼ全ての装置で注入されており、ITERやSPARCでも想定されている。しかしシード不純物イオンはタングステンよりスパッタしきい値が低いため、タングステンターゲット上ではシードガス自体がタングステン侵食を促進しうる。EASTでのネオンシード実験では、ダイバータ運転領域(付着・部分脱離)に応じてタングステン侵食量が変化することが示されている。このため、シード量を最小限に抑えつつ十分な輻射を得ること、およびターゲット温度をしきい値以下に保つことが、タングステンダイバータ運転の「レシピ」設計の核心である。
脱離と排熱制御
将来炉で想定される非緩和の熱流束は、対向面技術の許容値(定常でおよそ10〜20 MW/m²)を1桁以上上回る。したがってタングステンダイバータは、付着状態では運転できず、プラズマをターゲットから「脱離」させて熱・運動量を体積的に分散させることが前提となる。脱離は、スクレイプオフ層へのガス注入により電離・電荷交換・輻射でエネルギーと運動量を散逸させ、十分な密度でイオン流束が止まり、再結合が起こることで実現する。部分的にのみ脱離した状態を部分脱離、イオン流束がほぼ完全に止まった状態を完全脱離と呼ぶ。
ITERの基準運転では、セパラトリックスを横切る熱流は約100 MWと見積もられ、その約9割をダイバータで処理する必要がある。ターゲット熱流束を技術的許容値以下に保つ唯一の手段はネオン等の不純物による体積輻射であり、シミュレーションではダイバータ体内で50〜65 MWを輻射する必要があるとされる。垂直ターゲット配置は脱離を促進するための幾何学的工夫であり、ストライクポイントはV字領域の深部に置かれる。ただしストライクポイントはプラズマ位置制御の不確かさや損傷回避のために移動しうる。上方移動は排気性能低下を、下方への大きな移動は反射板へのストライクポイント逸脱をもたらしうるため、熱負荷評価は設計上重要である。
脱離制御には二つのアプローチがある。第一は輻射出力分布(ダイバータ体内・スクレイプオフ層・最後の閉じた磁気面内への配分)を制御するもので、各装置でボロメータや真空紫外線発光を用いた輻射フロント位置制御として実証されてきた。第二はターゲット板近傍のパラメータ(表面温度、ターゲット電子温度、イオン飽和電流)を直接制御するものである。KSTARではイオン飽和電流などから導出した「付着率」という制御変数を用いた脱離制御が行われており、タングステンダイバータ下でのその堅牢性が検証されている。さらに、2次元輸送シミュレーションの大規模データベースから構築した機械学習サロゲートモデルを用いて、ターゲット到達熱流束をリアルタイム推定し閉ループ制御に用いる試みがKSTARで初めて実証された。将来炉では利用可能なセンサが極めて限られるため、この種のモデルベース制御は実用上不可欠と考えられている。
脱離の深さには運転上のトレードオフがある。完全脱離はターゲット侵食を抑える上で望ましいが、従来の垂直ターゲット型ダイバータでは輻射フロントが閉じた磁気面内に侵入してX点MARFEを形成し、コア閉じ込め性能を劣化させることが知られている。一方、部分脱離では遠方スクレイプオフ層の電子温度が高く留まり、長寿命が要求される炉では侵食が許容できない。この両難を解くため、磁気配置を操作して熱流を分散させるスノーフレーク型・Xダイバータ型・スーパーX型などの先進ダイバータ概念と、中性粒子を閉じ込めて脱離を促進する閉鎖型スロットダイバータの二系統が研究されており、EASTの新下部ダイバータは後者の閉鎖型アプローチに沿って設計され、炉内コイルによるXダイバータ運転も可能としている。閉鎖型は内部コイルを要さず、必要な不純物注入量を小さく抑えられるため、コア不純物濃度の最小化と良好な閉じ込めの両立が期待される。
タングステンダイバータは、ITER以降の炉で標準的な排熱ソリューションとして確立されつつあり、現在の中型装置では長パルス運転・不純物制御・脱離制御の三つを統合的に検証する段階に入っている。残る課題は、タングステン源をしきい値以下に抑えながら十分な輻射散逸を維持する運転点の制御であり、これに対して磁気配置・閉鎖幾何・モデルベース制御の三方向からの接近が進んでいる。