図は装置の真上からの俯瞰図(左)とポロイダル断面(右)を示し、複数のNBI源(Q3からQ8)の配置、軸上入射時のビーム堆積領域(赤)、および高速イオンDα分光(FIDA)の観測視線(青とマゼンタ)が描かれている。このように加熱系と計測系が密接に組み合わされた設計は、ASDEX Upgradeが「よく計測され、よく制御された装置」として機能してきたことの表れである。
装置の役割を特徴づけるもう一つの要素が放電制御システム(DCS)である。ASDEX Upgradeでは、平衡再構成を行うコード、一次元輸送ソルバ、ECRHの加熱・電流駆動堆積を計算するコード、さらにNBIの加熱・電流駆動・高速イオン圧力を計算するコードなどが、実時間で制御系に組み込まれて運転されている。これにより、例えば新古典テアリングモードの実時間抑制制御のように、測定量に基づいて直接プラズマ状態を操作する高度な制御が実証されてきた。さらに、プラズマモデルとセンサ・アクチュエータ・制御系のモデルを組み合わせたシミュレータにより、放電を実行前に設計・検証する運用も定着している。この「制御された実験装置」としての性格は、後述するエッジ物理や排気物理の研究を支える基盤となっている。
磁場配置とプラズマ形状
トカマクの閉じ込め性能と排気特性は、プラズマの断面形状とダイバータ近傍の磁場構造に強く依存する。ASDEX Upgradeでは、三角形度(プラズマ断面の下側を尖らせる度合い)を変える実験が古くから行われており、三角形度が閉じ込め、密度限界、Hモードのプロファイル剛性に影響を与えることが系統的に調べられてきた。強く整形された平衡では、主セパラトリックスの内側に副セパラトリックスが現れるような磁場配置も作られ、プラズマ縁の構造が排気や安定性に及ぼす影響の研究に用いられている。
図は強く整形されたHモード放電のポロイダル断面と、磁気平衡の再構成結果を示す。色分けされた磁束面、太い実線で示された主セパラトリックス、一点鎖線で示された副セパラトリックスが読み取れ、下部ダイバータに向かって磁束が収束する様子がわかる。
この種の磁場配置の柔軟性は、近年の大型改修によってさらに拡張された。装置は新しい上部ダイバータの設置のための停止期間を経ており、この改修では平坦なタングステン被覆ターゲット、冷却能力の向上、クライオポンプに加え、容器内に2つの新しいコイルが導入された。これらのコイルにより、従来の単一X点配置に加えて、X点を分離させたXダイバータ、コンパクト放射ダイバータ、スノーフレーク配置といった非標準的なダイバータ磁場構成が選択可能となっている。これらの構成は、磁束の分岐点を増やすことで排気領域の熱負荷を分散させることを狙ったものであり、下部ダイバータをITER幾何のまま保存することで、排気研究の連続性も保たれている。
加熱・電流駆動・計測
ASDEX Upgradeの加熱系は、NBI、ECRH、ICRHの三本柱からなる。NBIは8系統の入射源を持ち、そのうち2系統はビームの入射角を可変とできる。また、加速ギャップを放電間で調整できる「可変ギャップ」機構が導入され、低加速電圧での入射電力を増やすことが可能になった。これは、加熱電力と入射トルクを独立に掃引する実験、例えばHモード遷移閾値や回転依存性の研究において重要な自由度である。ECRHは電子加熱の主手段であり、電子加熱が支配的なシナリオや、実時間制御系と組み合わせたテアリングモード抑制にも用いられる。ICRHは、高原子番号金属壁との共存を考慮してアンテナが最適化されており、金属壁環境での高周波加熱運転の知見を与えている。
高速イオンの閉じ込めは、自己加熱プラズマの成立を左右する核心的問題である。核融合で生じる3.5メガ電子ボルトのアルファ粒子は閉じ込められて熱イオンにエネルギーを渡さねばならず、局所的な損失は壁に深刻な損傷を与えうる。ASDEX Upgradeでは、NBIによって生成される高速イオンをFIDA分光で直接観測し、モンテカルロ輸送コードの計算と定量的に照合する検証作業が進められている。速度空間のトモグラフィー的逆解析により、測定されたスペクトルから局所的な高速イオン分布関数そのものを再構成し、シミュレーションと直接比較できる点がこの装置の強みである。
計測・制御の面では、ドップラー反射計による密度揺らぎの波数スペクトル測定、中性子検出器の校正と計測モデルの整備、実時間反射計によるプラズマ位置・形状のフィードバック制御など、幅広い診断技術が運転に組み込まれている。ガス導入系も継続的に改良されており、ペレット入射による燃料供給と、密度勾配駆動の微視的不安定性・乱流の研究を結びつける実験も行われている。
タングステン壁とダイバータ物理
ASDEX Upgradeの歴史における最も重要な転換点の一つは、2007年以降、第一壁を全面的にタングステンで被覆したことである。タングステンは高原子番号(高Z)材料であり、スパッタリングしにくく、不純物としてプラズマに侵入しても輻射損失が大きいため、その導入には大きなリスクが伴った。しかし、この選択は先見的であった。タングステン壁での長年の運転経験は、ITERの主容器プラズマ対向材料がベリリウムからタングステンへ変更される議論において、直接参照できる唯一のデータとなっている。
タングステン壁への転換がもたらした最も定量的な変化は、水素の保持(リテンション)の大幅な低減である。表面分析とガス収支の測定によれば、ダイバータ板の堆積物中の重水素含有量は炭素壁時代に比べて13分の1に低下し、投入された水素のうち壁に保持される割合は約0.7パーセントとなった。ITERに関連する高密度Hモード放電での平均保持率は、タングステン壁で約8パーセント、炭素壁で約23パーセントであり、タングステン壁では壁の飽和が観測され、定常状態に達した後の追加保持は誤差範囲内でほぼ零となる。このように炭素の共堆積に起因するトリチウム保持の問題が構造的に解消されたことは、タングステン壁採用の決定的な利点として認識されている。
一方、高Z壁は排気物理を本質的に難しくする。タングステンは輻射損失が大きいため、入射加熱電力が約12メガワットを超える運転では、ダイバータのタングステン被覆を保護するために窒素シードによるダイバータ冷却が不可欠となった。窒素は原子番号が比較的低いため、輻射をダイバータ近傍に局在させながら中心プラズマへの汚染を抑えられ、実際、窒素シードはエネルギー閉じ込めをむしろ改善し、中性子発生率の希釈効果を上回る利得をもたらすことが示された。フィードバック制御された窒素シードは現在では日常的な運転手段であり、窒素がタングステン表面に吸着・放出される挙動(未負荷の壁では消費が増え、注入後数放電にわたって放出が遅延する)も定量化され、制御系の設計に反映されている。重要なのは、窒素の壁からの放出がスパッタリング様の過程で起こるため、制御不能な放出の暴走が観測されないことであり、これが高Zトカマクの安定運転を可能にしている。
排気物理の観点では、ヘリウム灰の排出が将来炉の設計を左右する問題として精力的に研究されてきた。燃焼プラズマでは、ヘリウムの滞在時間とエネルギー閉じ込め時間の比を7から15程度、ITER設計では10以下に保つ必要がある。ヘリウム排気の効率は、排気ガス中のヘリウム量と閉じ込めプラズマ中のヘリウム量の比(圧縮度)、およびそれと主燃料の圧縮度との比(濃縮度)で評価され、ITERでは濃縮度0.1から0.2以上が要求される。複数の装置で行われた研究の総体として、ヘリウム排気は中心輸送ではなく、スクレイプオフ層での輸送と外部ポンプ能力に律速されること、そしてダイバータ幾何の最適化——再結合したヘリウム原子をポンプへ直接導き、主容器への逆流を最小化すること——が鍵であることが確立された。タングステン壁での再検証実験では、タングステンが炭素よりヘリウム原子を多く保持しうること、したがって壁保持がヘリウムの動態に与える影響が炭素壁時代より大きくなりうることが示され、プラズマ・壁相互作用を自己無撞着に扱う輸送モデルによる解釈が進められている。また、副ダイバータ領域への窒素注入が炭素の再堆積を抑制する効果も確認されており、壁材料と排気・不純物制御の相互作用が多層的に研究されている。
Hモード、ELMとエッジ物理
ASDEX Upgradeの科学的アイデンティティを最も強く形づくっているのはエッジ物理である。そもそもHモード(高閉じ込めモード)は、この装置の前身であるASDEXで1982年に発見された。Hモードでは、プラズマ縁に急峻な圧力勾配層(ペデスタル)が形成され、閉じ込めがLモードから大幅に改善される。今日のほぼすべての炉設計がHモード級の閉じ込めを前提としている以上、LモードからHモードへの遷移(L-H遷移)がどの電力で起こるかを予測することは炉設計の直結問題であり、ASDEX Upgradeはこの分野で中心的役割を果たしてきた。
L-H遷移の研究から浮かび上がった描像の骨子は次の通りである。遷移の閾値電力は密度、磁場強度、主イオン種、壁・ダイバータ状態、磁場配置など多くのパラメータに依存し、単一の経験則では将来装置への外挿ができない。ASDEX Upgradeの実験は、遷移の条件をエッジへのイオン熱流束と、それが作るエッジ半径方向電場、ひいてはE×B剪断流の形成と結びつける方向に理解を進めた。また、水素と重水素、ヘリウムと重水素といった主イオン種を変えた比較により、遷移閾値と閉じ込めのイオン種依存性が系統的に調べられ、遷移直前のLモードエッジ乱流とE×B剪断流の相互作用、遷移を挟んだL-H/H-Lサイクルにおける密度発展など、遷移の動的な側面も追跡されている。遷移の根本機構についてはなお決定的な理解が得られておらず、これが現在も続く研究課題である。
Hモードのペデスタルは同時に、エッジローカライズドモード(ELM)という巨大な不安定を駆動する。ペデスタルの勾配が安定性限界を超えると、密度と温度が急緩和し、大きな熱・粒子流がダイバータターゲットに打ち込まれる。大規模ELMがもたらす過渡熱負荷は将来炉の材料が耐えられない水準であり、ELMの抑制または回避は炉設計上の必須要件である。ASDEX UpgradeのELM研究は二つの方向で展開された。第一はELMの緩和である。容器内に設置された能動的なサドルコイルによる共鳴磁場摂動(RMP)を印加してELMを緩和する実験が行われ、コイル位相とプラズマ応答の関係が磁気流体計算と対照されてきた。低磁気剪切プラズマではコイル位相の選択がコアのキンク応答の強弱を左右し、実験で最良のELM緩和が得られた位相が、エッジ共鳴磁場成分とX点近傍の表面変位を最大化する最適位相と一致することが示された。また、外部磁場摂動が新古典テアリングモードに及ぼす影響の研究も行われている。第二の方向は、ELMを一切持たない高閉じ込め領域の開拓である。その代表がEDA Hモード(enhanced Dα Hモード)であり、ASDEX UpgradeではECRH加熱により定常的なELMなしHモードが実現された。この領域では、準一貫モード(QCM)と呼ばれるエッジ揺らぎが局所輸送を増強し、ペデスタルをELMを起こさずに定常保つと考えられている。タングステン壁との両立性、高密度、低不純物、低入力電力・低トルクでの到達可能性といった性質から、ECRH主体の加熱を想定するITERにとって有力なELMなし候補と見なされており、加熱電力・燃料供給・プラズマ電流の掃引実験に基づく経験則の構築が進められている。さらに、X点近傍の輻射を制御してELMを抑制する放射領域の実現や、ペレット入射プラズマでの乱流研究など、エッジとコア・排気を貫く物理の統合的理解が目指されている。
ELMクラッシュそのものの物理も、この装置で深く掘り下げられた。典型的な放電でのELM崩壊は互いに独立な二つの相から構成され、第一相はペデスタル圧力が一定である限りプラズマパラメータ掃引の影響を受けず、第二相の持続時間はセパラタス密度と強く逆相関し、窒素シードによるダイバータ冷却で抑制できる。この事実は、ELM崩壊の進展をELM直前のペデスタルプロファイルだけでは説明できず、スクレイプオフ層の状態が本質的な自由度であることを示しており、エッジと排気領域を一体として扱う必要性を端的に物語っている。ペデスタル性能自体は、ガスパフなしの低三角形度運転では炭素壁とタングステン壁で変わらないが、タングステン壁では自然密度が高くなり、ガスパフ運転ではさらに高密度となるため衝突性が上がること、ただしペデスタル圧力と閉じ込めは大量の重水素パフを行わない限り劣化しないことも確かめられている。
これらの研究は、ASDEX Upgradeが単なる一装置の実験を超えて、磁場閉じ込め核融合の「エッジの問題」——高閉じ込めコアと、材料が耐えうる排気との両立——に対する国際的な参照点であり続けていることを示している。ITERの第一壁材料変更や新ITERベースラインの下での波加熱主体の運転構想は、タングステン壁とECRHを組み合わせたこの装置で培われた知見の価値を、今後さらに高めていくであろう。