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液体リチウム

Liquid lithium

液体リチウム(Liquid lithium)は、核融合・プラズマ物理学の材料。融点が約180.5℃と低く、液体金属の状態でプラズマ対向材料(リミターやダイバータ)として用いられる。水素同位体を吸蔵してリサイクリングを低減し、蒸発による放射冷却で熱負荷を緩和する。さらに液体ブランケットの増殖材・冷却材や中性子源ターゲットとしても利用される。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは142本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.44%を占めた。直近の2025–2029年では0.06%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。

目次

  1. 1解説
  2. 2推移
  3. 3研究の変遷
  4. 4よく登場する装置
  5. 5この数字の作り方

解説

液体リチウムは、核融合炉のプラズマ対向材料(プラズマ対向壁)として用いられる、溶融状態の金属リチウムである。固体のタングステンやカーボンに代わる「液体金属対向壁」構想の代表格で、リチウムの強い化学活性と低い原子番号を利用して、プラズマからの水素同位体の再循環を抑え、不純物放射を減らし、高い熱負荷を蒸発によって受け止めることを狙う。トカマクのリミターやダイバータ、中性子源の液体リチウムターゲット、増殖ブランケットなど、幅広い装置・機器への応用が研究されてきた。液体リチウム表面がプラズマと接する様子を装置内で観測するためには、可視光での撮像が有力な手段となる。図はその一例で、トカマク内に設置された液体リチウムリミターと、それから放出されるリチウムイオンの可視発光を撮影するCCDカメラ系統の配置を示したものである。

Sketch of the LLL and the CCD camera system installed on EAST.

fig.01 EMC3-EIRENE modelling of edge plasma and impurity emissions compared with the liquid lithium limiter experiment on EAST (2018) · CC BY 4.0

Sketch of the LLL and the CCD camera system installed on EAST.

液体リチウム対向材料としての特長

リチウムが対向材料として注目される理由は、物理的・化学的な性質の組み合わせにある。まず、リチウムは最軽金属であり、プラズマ中に混入しても有効核分裂電荷の増加が小さく、中心プラズマの希釈や放射損失を招きにくい。次に、リチウムは水素同位体を吸蔵する能力が極めて高く、水素化リチウムとして表面に取り込むことで、プラズマへの水素の再放出(リサイクリング)を強く抑制する。再循環が下がるとプラズマ端の中性粒子密度が下がり、端の温度が上がって閉じ込め性能が改善する。さらに、リチウムの化学活性は酸素やカーボンなどの不純物とも化合物を作るため、端の不純物放射(酸素・炭素由来の光)を減らす効果もある。

熱的な観点では、液体という状態そのものが本質的な利点を持つ。固体対向壁では、繰り返しの熱負荷が材料の疲労や再結晶、スパッタによる侵食として蓄積し、寿命を律速する。液体であれば、表面が溶融・流動しており、損傷が「固化して自己修復」する。また、熱負荷が極端に高い場合には表面からの激しい蒸発が起こるが、この蒸気雲は入射するプラズマ粒子に対して遮蔽(蒸気シールド)として働き、表面への実効的な熱流束を下げる。蒸発によって失われたリチウムは再付着・再蒸着するため、固体材料のスパッタ侵食とは異なり、原理的には定常運転が可能である。

トカマク実験:リミターとダイバータ

液体リチウム対向壁の概念は、小型トカマクでの実証実験によって現実のものとなった。米国プリンストンの球状トーラスCDX-Uでは、面積2000平方センチメートルのトロイダル状液体リチウムプールリミターが世界で初めて大型の液体リチウム第一壁として運用された。この実験では、液体リチウムリミターを用いた放電でループ電圧が約4分の1に低下し、同程度の密度を維持するのに必要なガス燃料供給が5〜8倍に増加した。これはリサイクリングが強く抑制されたことを直接示す結果であり、輸送計算によれば有効核分裂電荷が2.4から1.2未満に下がり、電流チャネルが広がって中心電子温度が25%上昇した。分光測定でも端の酸素・炭素由来の放射が大幅に減少したことが確認された。

球状トーラスNSTXでは、多孔質モリブデンの表面を持つ銅裏打ち構造の液体リチウムダイバータ(LLD)が2010年の運転で実装された。リチウムは蒸着によって多孔質層の空隙に充填され、最終的に空隙率を150%超える量が注液された。表面電流密度が10万アンペア毎平方メートルを超える条件下でも、リチウムのマクロな飛散(イジェクション)は観測されず、リチウムが多孔質層を濡らして保護膜を形成することが分光学的に確認された。一方で、酸素に汚染されたリチウム表面との相互作用が続いていることが不純物発光から示唆され、定常的な対向壁を得るには表面層の品質管理、すなわち完全な流動系が必要であるという教訓が得られた。

欧州のFTUでは、水冷基板上の液体リチウムリミターが高出力放電に供され、リチウム流入の分光測定と端輸送モデルの検証が行われた。中国のEASTでは、流動液体リチウムリミター(LLL)が開発され、流れの均一性を改善した改良型が高出力放電で運用された。EASTのLLLはトロイダル・ポロイダル方向に局在しているため、放出されたリチウムイオンの端プラズマ中の分布は軸対称ではなく、三次元端輸送コードEMC3-EIRENEによる解析が行われた。それによれば、イオン化ポテンシャルの低いLi1+はリミター近傍の低磁場側に留まり、より深く侵入したLi2+は磁力線に沿って高磁場側へ移動し、Li3+はほぼ軸対称分布となる。この三次元発光パターンの計算は、CCDカメラによるLiII発光の観測と定性的に良い一致を示した。

水素・ヘリウムの保持とリサイクリング

リチウム表面での粒子制御は、液体リチウム対向壁の利点の中核をなすものであり、専用の実験装置で定量的に調べられている。リチウムターゲットにイオンを入射し、水素のHα発光とヘリウムのHe I発光を分光監視する実験では、イオン衝撃エネルギーを浮遊電位から100 Vまで変え、リチウム温度を室温から300 ℃まで掃引してリサイクリング挙動が比較された。

その結果、静止した液体リチウムからの水素リサイクリングは、固体リチウムに比べて著しく低いことが分かった。この機構は、リチウム表面への水素イオンの注入に対して、水素化リチウム(LiH)の微粒子が形成され、それがイオンの注入深さを超えて輸送されるためと考えられている。固体では水素は注入深さの範囲に留まり、再放出されやすいのに対し、液体では化学反応生成物がバルクへ運ばれるため、再循環が一桁以上下がる。この水素保持は、CDX-Uで観測された低リサイクリング状態の直接的な原因である。

一方、ヘリウムについては逆説的な結果が得られている。ヘリウムは化学的に不活性でリチウムとは化合物を作らないが、室温の固体リチウムからの定常リサイクリングは液体リチウムからのそれよりむしろ低い。これは固体リチウム中の格子欠陥がヘリウムを捕獲するためであり、液体ではその捕獲サイトが失われるためである。この結果は、ヘリウム灰の除去という観点では液体リチウムが必ずしも有利ではないことを示しており、対向壁材料としてのリチウムの利点と欠点を切り分ける上で重要な知見である。

工学的実装:流動系、CPS、熱除去

液体リチウムを炉規模の対向壁として使うためには、熱を除去し、リチウムを供給・循環させる工学的手段が必要となる。主要なアプローチは二つある。第一は流動液体リチウム(FLiLi)方式で、リミターやダイバータの表面をリチウムの薄膜流が流れる構成である。EASTの流動リチウムリミターでは、流路の均一性確保と、ガス冷却による実時間の熱除去が課題として開発が進められた。銅とステンレスの二金属板の製作と熱試験など、流動層を支える基板の熱設計も行われている。流動系は表面の不純物汚染を絶えず洗い流せるという利点があり、NSTXでの教訓(表面層の品質が性能を律する)に応える構成でもある。

第二のアプローチは毛細管多孔質システム(CPS)である。これは多孔質構造の毛細管力で液体リチウムを保持し、重力に逆らって表面に供給する方式で、厚い液体層を持たないためメルト層の流動不安定性や飛散に対して本質的に強い。さらに、CPSを電気的に絶縁された微細な毛細管セルの集合体として構成し、セル間の導通を断つことで、MHD効果によるリチウムの飛散(スプラッシング)を抑制する提案がある。この種のターゲット板のモデル計算では、1ミリ秒に10 MJ毎平方メートルという高エネルギー密度の入射に対しても、激しい蒸発による蒸気シールド効果によって表面温度の上昇が抑えられ、耐えうることが示されている。

液体リチウムの応用は対向壁にとどまらない。国際中性子源IFMIFでは、高速度の液体リチウムジェットを真空に打ち出し、そこに重陽子ビームを当てて中性子を発生させる液体リチウムターゲットが設計されており、高速ジェットの表面波の計測技術や熱流動特性、背面プレートの熱構造解析などが開発課題となっている。また、ITERの自己冷却増殖ブランケットの設計概念では、液体リチウムがトリチウム増殖と熱除去の両方を担う。核融合炉のループ技術としては、水素同位体をリチウムから除去する蒸留塔の開発も進められている。

課題:飛散、不純物、腐食、トリチウム

液体リチウム対向壁の実用化には、いくつかの本質的な課題が残されている。第一は飛散(イジェクション)である。高熱負荷やプラズマの乱れ、MHD力によって液体表面からリチウム液滴がプラズマ中に放出されると、放射損失や放電の乱れの原因となる。CPSによる保持や、前述の電気絶縁セル構成は、この飛散を抑えるための対策である。NSTXのLLDでは、高い電流密度下でもマクロな飛散が観測されないという有望な結果が得られているが、より過酷な炉条件での検証はまだない。

第二は不純物の問題である。リチウムは化学活性が高いため、酸素や炭素、窒素と容易に反応する。表面が酸化リチウムや炭化リチウムで汚染されると、リチウム本来の低リサイクリング・低不純物効果が損なわれる。NSTXでの観測は、リチウム表面が酸素汚染の影響を受けていることを示しており、表面の清浄度の維持、あるいは汚染層を絶えず除去する流動系が定常運転には不可欠である。逆に、リチウムが酸素・炭素を化学的に取り込む性質は、端の不純物を減らすという利点にもなっており、汚染の管理がそのまま性能を左右する。

第三は構造材料との適合性である。高温の液体リチウムは腐食性が高く、ループや構造材の金属成分を溶出する。バナジウム合金の液体リチウム暴露後の引張特性の変化や、873 K以下での腐食現象の評価など、材料適合性の研究が進められている。また、リチウム鉛合金のような液体金属増殖材では、腐食保護のための酸化エルビウム被覆や鉄層の効果が検討されている。

第四はトリチウムの管理である。リチウムの水素同位体保持能力は、プラズマ性能の面では利点だが、炉の燃料収支の面では両刃の剣である。リチウムに吸蔵されたトリチウムは、炉の増殖・回収システムに戻す必要があり、そのための蒸留による水素同位体除去技術が開発されている。IFMIFのリチウムループでは、リチウム中に生成するベリリウム7の挙動の推定と制御も、放射線安全の観点から課題となっている。これらの課題——飛散の抑制、表面の清浄度、材料腐食、トリチウム回収——は相互に関連しており、液体リチウム対向壁が炉の実用技術となるかは、これらを統合的に解決できるかにかかっている。

この解説が根拠にした論文から

  • [1]Recent liquid lithium limiter experiments in CDX-UNuclear Fusion 2005
  • [2]Liquid lithium divertor characteristics and plasma–material interactions in NSTX high-performance plasmasNuclear Fusion 2013
  • [3]Particle control in steady state magnetic fusion reactors by solid and liquid lithium plasma-facing componentsNuclear Fusion 2006
  • [4]EMC3-EIRENE modelling of edge plasma and impurity emissions compared with the liquid lithium limiter experiment on EASTNuclear Fusion 2018
  • [5]A physical model of an ejection suppressed CPS liquid lithium divertor targetNuclear Fusion 2015

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推移

0.00.30.5液体リチウム197019801990200020102020%
図1 — 液体リチウムが、5年ごとにその期間の全論文に占めた割合。コーパスは2010年代が1970年代の9倍あるため、件数のままでは何もかもが増加して見える

研究の変遷

1985–19941本 · 0.02%

慣性核融合応用を目指したイオン放出の研究

この時代、液体リチウムに関する論文は1本のみであり、慣性核融合応用に向けたイオン放出を扱っていた。共起する主題はLithiumのみで、プラズマ対向機器や炉概念との関連はまだ見られない。

同時に語られた主題リチウム

この時代の論文から

  • [1]Ion emission from liquid lithium for inertial-confinement-fusion applicationsPHYSICAL REVIEW LETTERS 1991

1995–200413本 · 0.13%

リミター・ブランケットの材料としての検討開始

この時代、液体リチウムはLithium target、Limiter、Thermal-hydraulics、MHD flowなどと共に論じられ、iter向けの自冷ブランケット設計やCDX-Uでの大型液体リチウム表面とのプラズマ相互作用、Li3リミター実験などが行われた。定常状態や窒素との関連も現れ、プラズマ対向機器としての応用が模索され始めた。

同時に語られた主題リチウム、リチウム標的、リミッター、熱水力、定常状態、窒素

この時代の論文から

  • [1]Deuterium retention in liquid lithiumNuclear Fusion 2002
  • [2]Liquid lithium self-cooled breeding blanket design for ITERFusion Engineering and Design 1998
  • [3]Spherical torus plasma interactions with large-area liquid lithium surfaces in CDX-UFusion Engineering and Design 2002
  • [4]Plasma interaction with liquid lithium: Measurements of retention and erosionFusion Engineering and Design 2002

2005–201463本 · 0.41%

ダイバータ・リミター実験とモデリングの進展

この時代、液体リチウムはLimiter、Lithium target、Plasma-facing componentとともに、CDX-U、FTU、nstx-u、tj-ii、eastなどの装置で研究された。特にnstx-uでの液体リチウムダイバータ実験やFTUの液体リチウムリミター結果、表面応答モデリングが代表的であり、腐食、表面波、定常状態の粒子制御も主題となった。EVEDAとの共起から、装置開発との関連が強まったことがうかがえる。

同時に語られた主題リチウム、リミッター、リチウム標的、EVEDA、腐食、表面波

この時代の論文から

  • [1]Recent liquid lithium limiter experiments in CDX-UNuclear Fusion 2005
  • [2]Liquid lithium divertor characteristics and plasma–material interactions in NSTX high-performance plasmasNuclear Fusion 2013
  • [3]FTU results with a liquid lithium limiterNuclear Fusion 2011
  • [4]Lithium surface-response modelling for the NSTX liquid lithium divertorNuclear Fusion 2011

2015–202665本 · 0.26%

eastでの流動リミター実験とダイバータターゲットへの展開

この時代、液体リチウムはLimiter、Divertor target、Tungsten、Stainless steel、Deuteriumなどと共に論じられ、eastでの流動液体リチウムリミター実験(2017年、2019年)や液体リチウムダイバータターゲットの電力処理限界(2018年)、液体リチウムループシステム(2017年)などが代表的な成果である。nstx-uやeastが主要な装置として現れ、腐食や重水素保持などの材料課題も注目された。ただし、全体に占める割合は前期から低下しており、周辺分野の成長と比較して相対的な伸びは鈍化した。

同時に語られた主題リチウム、リミッター、腐食、ダイバータターゲット、タングステン、ステンレス鋼

この時代の論文から

  • [1]Mitigation of plasma–material interactions via passive Li efflux from the surface of a flowing liquid lithium limiter in EASTNuclear Fusion 2017
  • [2]Results from an improved flowing liquid lithium limiter with increased flow uniformity in high power plasmas in EASTNuclear Fusion 2019
  • [3]Liquid lithium loop system to solve challenging technology issues for fusion power plantNuclear Fusion 2017
  • [4]Power handling limit of liquid lithium divertor targetsNuclear Fusion 2018

よく登場する装置

east9nstx-u8tj-ii1iter1

この数字の作り方

数え方 —
同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
割合 —
その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
記述 —
その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
冒頭の定義 —
用語そのものの説明だけは、論文37本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
解説 —
では、5本の論文(うち全文1本)と1枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
範囲 —
収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない

液体リチウム

種別
材料
論文数
142 本
初出
1990–1994 年(1本)
最盛期
2005–2009 年0.44%
直近
2025–2029 年0.06%
主な装置
eastnstx-utj-iiiter

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