液体リチウム対向材料としての特長
リチウムが対向材料として注目される理由は、物理的・化学的な性質の組み合わせにある。まず、リチウムは最軽金属であり、プラズマ中に混入しても有効核分裂電荷の増加が小さく、中心プラズマの希釈や放射損失を招きにくい。次に、リチウムは水素同位体を吸蔵する能力が極めて高く、水素化リチウムとして表面に取り込むことで、プラズマへの水素の再放出(リサイクリング)を強く抑制する。再循環が下がるとプラズマ端の中性粒子密度が下がり、端の温度が上がって閉じ込め性能が改善する。さらに、リチウムの化学活性は酸素やカーボンなどの不純物とも化合物を作るため、端の不純物放射(酸素・炭素由来の光)を減らす効果もある。
熱的な観点では、液体という状態そのものが本質的な利点を持つ。固体対向壁では、繰り返しの熱負荷が材料の疲労や再結晶、スパッタによる侵食として蓄積し、寿命を律速する。液体であれば、表面が溶融・流動しており、損傷が「固化して自己修復」する。また、熱負荷が極端に高い場合には表面からの激しい蒸発が起こるが、この蒸気雲は入射するプラズマ粒子に対して遮蔽(蒸気シールド)として働き、表面への実効的な熱流束を下げる。蒸発によって失われたリチウムは再付着・再蒸着するため、固体材料のスパッタ侵食とは異なり、原理的には定常運転が可能である。
トカマク実験:リミターとダイバータ
液体リチウム対向壁の概念は、小型トカマクでの実証実験によって現実のものとなった。米国プリンストンの球状トーラスCDX-Uでは、面積2000平方センチメートルのトロイダル状液体リチウムプールリミターが世界で初めて大型の液体リチウム第一壁として運用された。この実験では、液体リチウムリミターを用いた放電でループ電圧が約4分の1に低下し、同程度の密度を維持するのに必要なガス燃料供給が5〜8倍に増加した。これはリサイクリングが強く抑制されたことを直接示す結果であり、輸送計算によれば有効核分裂電荷が2.4から1.2未満に下がり、電流チャネルが広がって中心電子温度が25%上昇した。分光測定でも端の酸素・炭素由来の放射が大幅に減少したことが確認された。
球状トーラスNSTXでは、多孔質モリブデンの表面を持つ銅裏打ち構造の液体リチウムダイバータ(LLD)が2010年の運転で実装された。リチウムは蒸着によって多孔質層の空隙に充填され、最終的に空隙率を150%超える量が注液された。表面電流密度が10万アンペア毎平方メートルを超える条件下でも、リチウムのマクロな飛散(イジェクション)は観測されず、リチウムが多孔質層を濡らして保護膜を形成することが分光学的に確認された。一方で、酸素に汚染されたリチウム表面との相互作用が続いていることが不純物発光から示唆され、定常的な対向壁を得るには表面層の品質管理、すなわち完全な流動系が必要であるという教訓が得られた。
欧州のFTUでは、水冷基板上の液体リチウムリミターが高出力放電に供され、リチウム流入の分光測定と端輸送モデルの検証が行われた。中国のEASTでは、流動液体リチウムリミター(LLL)が開発され、流れの均一性を改善した改良型が高出力放電で運用された。EASTのLLLはトロイダル・ポロイダル方向に局在しているため、放出されたリチウムイオンの端プラズマ中の分布は軸対称ではなく、三次元端輸送コードEMC3-EIRENEによる解析が行われた。それによれば、イオン化ポテンシャルの低いLi1+はリミター近傍の低磁場側に留まり、より深く侵入したLi2+は磁力線に沿って高磁場側へ移動し、Li3+はほぼ軸対称分布となる。この三次元発光パターンの計算は、CCDカメラによるLiII発光の観測と定性的に良い一致を示した。
水素・ヘリウムの保持とリサイクリング
リチウム表面での粒子制御は、液体リチウム対向壁の利点の中核をなすものであり、専用の実験装置で定量的に調べられている。リチウムターゲットにイオンを入射し、水素のHα発光とヘリウムのHe I発光を分光監視する実験では、イオン衝撃エネルギーを浮遊電位から100 Vまで変え、リチウム温度を室温から300 ℃まで掃引してリサイクリング挙動が比較された。
その結果、静止した液体リチウムからの水素リサイクリングは、固体リチウムに比べて著しく低いことが分かった。この機構は、リチウム表面への水素イオンの注入に対して、水素化リチウム(LiH)の微粒子が形成され、それがイオンの注入深さを超えて輸送されるためと考えられている。固体では水素は注入深さの範囲に留まり、再放出されやすいのに対し、液体では化学反応生成物がバルクへ運ばれるため、再循環が一桁以上下がる。この水素保持は、CDX-Uで観測された低リサイクリング状態の直接的な原因である。
一方、ヘリウムについては逆説的な結果が得られている。ヘリウムは化学的に不活性でリチウムとは化合物を作らないが、室温の固体リチウムからの定常リサイクリングは液体リチウムからのそれよりむしろ低い。これは固体リチウム中の格子欠陥がヘリウムを捕獲するためであり、液体ではその捕獲サイトが失われるためである。この結果は、ヘリウム灰の除去という観点では液体リチウムが必ずしも有利ではないことを示しており、対向壁材料としてのリチウムの利点と欠点を切り分ける上で重要な知見である。
工学的実装:流動系、CPS、熱除去
液体リチウムを炉規模の対向壁として使うためには、熱を除去し、リチウムを供給・循環させる工学的手段が必要となる。主要なアプローチは二つある。第一は流動液体リチウム(FLiLi)方式で、リミターやダイバータの表面をリチウムの薄膜流が流れる構成である。EASTの流動リチウムリミターでは、流路の均一性確保と、ガス冷却による実時間の熱除去が課題として開発が進められた。銅とステンレスの二金属板の製作と熱試験など、流動層を支える基板の熱設計も行われている。流動系は表面の不純物汚染を絶えず洗い流せるという利点があり、NSTXでの教訓(表面層の品質が性能を律する)に応える構成でもある。
第二のアプローチは毛細管多孔質システム(CPS)である。これは多孔質構造の毛細管力で液体リチウムを保持し、重力に逆らって表面に供給する方式で、厚い液体層を持たないためメルト層の流動不安定性や飛散に対して本質的に強い。さらに、CPSを電気的に絶縁された微細な毛細管セルの集合体として構成し、セル間の導通を断つことで、MHD効果によるリチウムの飛散(スプラッシング)を抑制する提案がある。この種のターゲット板のモデル計算では、1ミリ秒に10 MJ毎平方メートルという高エネルギー密度の入射に対しても、激しい蒸発による蒸気シールド効果によって表面温度の上昇が抑えられ、耐えうることが示されている。
液体リチウムの応用は対向壁にとどまらない。国際中性子源IFMIFでは、高速度の液体リチウムジェットを真空に打ち出し、そこに重陽子ビームを当てて中性子を発生させる液体リチウムターゲットが設計されており、高速ジェットの表面波の計測技術や熱流動特性、背面プレートの熱構造解析などが開発課題となっている。また、ITERの自己冷却増殖ブランケットの設計概念では、液体リチウムがトリチウム増殖と熱除去の両方を担う。核融合炉のループ技術としては、水素同位体をリチウムから除去する蒸留塔の開発も進められている。
課題:飛散、不純物、腐食、トリチウム
液体リチウム対向壁の実用化には、いくつかの本質的な課題が残されている。第一は飛散(イジェクション)である。高熱負荷やプラズマの乱れ、MHD力によって液体表面からリチウム液滴がプラズマ中に放出されると、放射損失や放電の乱れの原因となる。CPSによる保持や、前述の電気絶縁セル構成は、この飛散を抑えるための対策である。NSTXのLLDでは、高い電流密度下でもマクロな飛散が観測されないという有望な結果が得られているが、より過酷な炉条件での検証はまだない。
第二は不純物の問題である。リチウムは化学活性が高いため、酸素や炭素、窒素と容易に反応する。表面が酸化リチウムや炭化リチウムで汚染されると、リチウム本来の低リサイクリング・低不純物効果が損なわれる。NSTXでの観測は、リチウム表面が酸素汚染の影響を受けていることを示しており、表面の清浄度の維持、あるいは汚染層を絶えず除去する流動系が定常運転には不可欠である。逆に、リチウムが酸素・炭素を化学的に取り込む性質は、端の不純物を減らすという利点にもなっており、汚染の管理がそのまま性能を左右する。
第三は構造材料との適合性である。高温の液体リチウムは腐食性が高く、ループや構造材の金属成分を溶出する。バナジウム合金の液体リチウム暴露後の引張特性の変化や、873 K以下での腐食現象の評価など、材料適合性の研究が進められている。また、リチウム鉛合金のような液体金属増殖材では、腐食保護のための酸化エルビウム被覆や鉄層の効果が検討されている。
第四はトリチウムの管理である。リチウムの水素同位体保持能力は、プラズマ性能の面では利点だが、炉の燃料収支の面では両刃の剣である。リチウムに吸蔵されたトリチウムは、炉の増殖・回収システムに戻す必要があり、そのための蒸留による水素同位体除去技術が開発されている。IFMIFのリチウムループでは、リチウム中に生成するベリリウム7の挙動の推定と制御も、放射線安全の観点から課題となっている。これらの課題——飛散の抑制、表面の清浄度、材料腐食、トリチウム回収——は相互に関連しており、液体リチウム対向壁が炉の実用技術となるかは、これらを統合的に解決できるかにかかっている。