図は、シミュレーションで追跡した通過型ビームイオン一個の完全ジャイロ軌道(白線)と、ビームイオン集団のスローダウン分布の空間分布を示したものである。白線の螺旋がラーマ運動を、その包絡線がビーム軌道のドリフトを表し、背景の色はビームイオン密度がプラズマ中心近傍に局在して減速しながら広がる様子を示す。ビームイオンの軌道は熱イオンよりはるかに大きく、この「有限軌道幅」が後述の損失や不安定の鍵となる。
軌道の種類と古典的閉じ込め
磁場中の荷電粒子は、ラーマ運動の中心(ガイドセンター)が磁力線に沿って動きながら、磁場強度の空間変化によるドリフトを重ねて運動する。トロイダル装置では磁場強度が内側で強いため、粒子は垂直方向にドリフトするが、このドリフトは粒子の並進方向(共方向か反方向か)とピッチ角(速度の磁場に対する角度)によって異なる挙動を示す。ビームイオンは速度が速い分だけドリフトも大きく、軌道幅が磁面の幅に比べて無視できない。
運動の保存量(磁気モーメントとエネルギー、およびトロイダル運動量)に基づいて、軌道は大きく三つに分けられる。磁力線にほぼ沿って周回する「通過軌道」、磁場強度の弱い領域(トカマクの外側)で磁場ミラーに捕らえられて往復する「捕獲軌道(バナナ軌道)」、そしてトカマクの軸周りを大きく漂う「停滞軌道」である。どの軌道になるかはピッチ角で決まり、閉じ込められるか失われるかもこれでほぼ決まる。トカマクでは、ビームをプラズマ電流と同方向(共方向)に入射するか逆方向(反方向)に入射するかで損失率が大きく変わる。反方向入射ではドリフト方向と軌道の組み合わせが不利になり、有限軌道幅のために初周回で損失する割合(プロンプトロス)が共方向の数パーセントに対して数十パーセントに達する例が報告されており、これは軌道位相空間の構造そのものから来る定性的な差である。
ヘリカル装置(ステラレータ)では、軸対称性がないためトロイダル運動量が保存せず、軌道の分類もトカマクとは異なる。ヘリカル装置特有の「ヘリカル捕獲軌道」は、磁場ミラーに捕らえられた粒子が装置の周方向にほとんど進めない軌道であり、閉じ込めにとって不利な場合と有利な場合がある。損失境界までの距離が軌道位相空間でどう配置されているかが装置ごとの閉じ込め性能を決め、静磁場の配置(コイル配置)の最適化の主要な評価関数となっている。
図は、ヘリカル装置におけるビームイオンと核融合生成トリチオンの軌道をポアンカレプロットで示したものである。左から順に、通過軌道を描くビームイオン、ヘリカル捕獲されたビームイオン、通過軌道のトリチオン、ヘリカル捕獲されたトリチオンであり、色の違いはピッチ角とエネルギーの違いに対応する。同じ装置でもピッチ角とエネルギーによって軌道の占める領域がまったく異なり、これが粒子種・生成経路ごとに閉じ込め評価を分けて行う必要がある理由を示している。
磁場のトロイダルリップル(コイルの離散性による磁場の周方向の凹凸)も古典的閉じ込めを損なう要因である。リップルの谷に捕まった粒子はリップルに沿って縦に落ちるように拡散し、エネルギーが高いほどこの損失が顕著になる。リップル損失はストカスティック(確率的)拡散として理解され、ビームイオンやアルファ粒子の損失経路の一つとしてトカマクで広く研究されてきた。
ビームイオンの損失機構
ビームイオンの損失は、その発生機構によっていくつかに分類される。第一に「シャインスルー」は、ビームがプラズマに入射した直後に電離されずにそのまま対向壁に当たる損失であり、ビームの入射エネルギーが高いほど、プラズマ密度が低いほど大きくなる。ビーム経路長と電離確率で決まる定量的に予測可能な損失であり、ビーム入射窓の熱負荷設計の基準となる。第二に「プロンプトロス(初周回損失)」は、電離された直後の軌道が損失軌道であるために失われるもので、前節の軌道論理そのものが支配する。入射方向(共方向か反方向か)とビームのピッチ角分布、プラズマの磁気平衡によって決まり、反方向接線入射では数十パーセントに達しうる。損失した高速イオンは壁の特定の位置(多くはダイバータ近傍や中間平面の下)に集中した熱負荷をもたらすため、壁の保護の観点からも軌道追跡シミュレーションによる予測が不可欠である。
第三に「電荷交換損失」は、ビームイオンが背景の中性原子と電荷交換反応を起こして中性原子に変わり、磁場の閉じ込めを失って飛び去るという機構である。プラズマ中の中性原子は主に端部(ペリフェリー)に分布するため、ビームイオンが大半径方向に外側へ移動した際にこの損失を受けやすい。球状トカマクでは中心プラズマと壁の距離が短く中性密度が相対的に高いため、この損失が加熱効率を大幅に下げる要因となることが知られ、中性粒子の空間分布を正確に扱うシミュレーションが閉じ込め評価に不可欠となっている。第四に「リップル損失」は前述の通り磁場の凹凸による拡散損失であり、装置の磁場設計(コイル数や配置)に依存する。
これらの古典的・準古典的損失に加えて、第五のカテゴリとしてMHD不安定による損失がある。これは次節で扱うが、不安定による損失はモード振幅に対して線形(対流的な押し出し)の場合と二次(拡散的な拡散)の場合があり、どちらが支配的かはモードの空間構造と粒子軌道の関係で決まる。不安定による損失は、モードが成長して粒子を位相空間の損失境界まで運ぶという描像で理解され、モード振幅に閾値が見られない場合(モード粒子ポンピング)もあれば、バースト的な「雪崩」で広いピッチ角範囲の粒子が同時に失われる場合もある。
アルフベン固有モードとMHD不安定の駆動
ビームイオンの速度がアルフベン速度(磁場中を伝わるアルフベン波の位相速度)に近いとき、粒子は波と共鳴してエネルギーを波に渡す。これが高エネルギー粒子駆動不安定の基本機構であり、ビームイオンはこの研究の主要な「駆動源」である。トカマクのトロイダル対称性によってアルフベン連続スペクトルに隙間(ギャップ)が生じ、その中では連続スペクトルによる減衰(連続体減衰)が弱まるため、わずかな駆動でも固有モードが不安定化しやすい。トロイダル性によるギャップに存在するトロイダルアルフベン固有モード(TAE)が最も代表的で、そのほか磁気シア分布の反転点で励起される逆シアアルフベン固有モード(RSAE)、圧縮性効果によるベータ誘起アルフベン固有モード(BAE)、さらに駆動が強い場合には連続スペクトルの中に直接現れる高エネルギー粒子モード(EPM)などがある。
ビームイオン駆動の特徴は、駆動源の分布関数が入射ビームによってほぼ既知である点にある。これにより、モードの成長率や周波数チャーピング(時間とともに周波数が掃引される現象)の理論を実験と精密に比較できる。周波数チャーピングは、共鳴粒子が波と相互作用して位相空間に「穴と島」構造を作る非線形現象の現れであり、高速な周波数掃引が起こる際にはしばしば中性子放出率の低下と高速中性子流の増加、すなわち高エネルギー粒子の損失が観測される。TAEの「雪崩」では、複数のモードが重なって軌道位相空間にストカスティック領域を形成し、ビームの注入エネルギー近くの粒子が広いピッチ角範囲にわたって同時に失われることがある。また、高エネルギー粒子駆動の地理的音響モード(EGAM)によるビームイオン損失も観測されており、アルフベン固有モード以外の周波数帯のモードでも損失が起こりうることが示されている。
アルフベン固有モードによる損失は、単に加熱効率を下げるだけでなく、高エネルギー粒子が第一壁やダイバータに局所的な熱負荷を与えるという工学的問題も引き起こす。一方で、この種の不安定は核融合炉のアルファ粒子駆動不安定の代理系としても重要である。アルファ粒子駆動の不安定を直接研究するには重水素・トリチウム(DT)プラズマが必要だが、現存する装置ではDT実験の機会が限られるため、ビームイオンや核融合生成粒子(重水素反応で生じる1 MeVトリチオンなど)を用いた類似実験がアルファ粒子物理の知見の主要な供給源となっている。ビームイオンの速度とアルフベン速度の比、およびビームの圧力ベータを系統的に変える実験・理論研究を通じて、燃焼プラズマでのアルファ粒子閉じ込めの安定条件が評価されてきた。
診断とビームイオンの有益な利用
ビームイオンの振る舞いを測る診断は、その性質(中性子を放出する、中性原子と電荷交換する、波を励起する)を利用したものが中心である。最も広く使われるのは中性子診断である。重水素ビームイオンが背景の重水素イオンと融合反応を起こすと2.5 MeVの中性子が放出されるため、中性子放出率の時間変化はビームイオンの閉じ込めの良し悪しの指標となる。中性子放出率が理論予測(全閉じ込めを仮定した値)を下回れば、その落差が損失の量を与える。空間分解した中性子カメラや、エネルギー分解した中性子スペクトロメータ、スクリンチレータ光ファイバ検出器などが組み合わせて用いられ、損失がどの空間位置からどのエネルギーの粒子で起きているかを特定する。
図は、ヘリカル装置における中性ビーム入射装置の配置と、それを取り囲む包括的な中性子診断系の配置を示したものである。複数の中性ビーム入射口(接線入射と垂直入射)に対して、中性子流量モニタ、垂直中性子カメラ、中性子変動検出器、中性子放出スペクトロメータ、スクリンチレータ検出器などが異なる視線方向に配置されている。ビームイオンの閉じ込め研究では、このように複数の診断を組み合わせて空間・エネルギー・時間情報を同時に得るのが標準的な手法となっている。
中性子を用いない診断としては、高速中性粒子分析器(NPA)とその撮像版であるイメージング中性粒子分析器(INPA)がある。これらはビームイオンが周囲の中性原子と電荷交換して中性化される際に放出される中性粒子をエネルギー・空間分解で検出し、閉じ込められている高速イオンの分布を再構成する。磁気流体的に静かなプラズマでの検証実験では、測定された像がビーム入射エネルギー近傍で数割以内の精度で古典的輸送のシミュレーションと一致することが示されており、これが「異常な」輸送(不安定による輸送)を見分ける基準線となっている。また、損失した高速イオンを直接受ける高速イオン損失検出器(スクリンチレータ型など)は、損失粒子のエネルギーとピッチ角を測定し、シミュレーションの予測と比較することで損失機構を同定する手段となる。
一方、ビームイオンは単なる研究対象ではなく、プラズマ運転の道具としても使われる。第一の利用は加熱と電流駆動であり、これはNBIの本来の目的である。第二に、ビームイオンをイオンサイクロトロン周波数帯の高調波でさらに加速して、サドコッシルレーション(プラズマ中心の温度崩壊現象)の制御に用いる手法が開発されている。高速波動で加速されたビームイオンは、サドコッシルレーションを引き起こす内部クラインク不安定を安定化するのに十分な高エネルギー粒子圧力を中心部に供給できる。第三に、ビームイオンは高エネルギー粒子駆動不安定の研究において「調整可能な駆動源」として使われ、ビームの入射パワー、エネルギー、方向、タイミングを変えることで、モードの安定性を系統的に掃引することができる。この制御可能性こそが、ビームイオンがアルファ粒子物理の代理系であり続ける理由である。