中性子放出(Neutron emission)は、核融合・プラズマ物理学の現象。核融合反応(主にD-D反応やD-T反応)によって生成される中性子の放出であり、プラズマ中の核融合出力や高速イオン分布を調べる重要な指標である。トカマクやプラズマフォーカスなどの装置で観測され、そのスペクトルや空間分布、時間変化からプラズマ状態の診断に用いられる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは79本ある。比重が最も大きかったのは1990–1994年で、その期間の論文の0.24%を占めた。直近の2025–2029年では0.19%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
中性子放出とは、核融合反応や核反応によって高エネルギーの中性子がプラズマから放出される現象である。核融合研究において中性子は、燃料イオンの反応で直接生まれる唯一の粒子のひとつであり、磁場や真空容器をほとんど遮られずにプラズマの外へ飛び出してくる。このため放出される中性子の量、空間分布、エネルギースペクトルを測ることは、プラズマ内部で起きている核反応と高速イオンの振る舞いを外部から直接知る、数少ない手段となる。トカマクのような閉じ込め装置からスパーク放電に近い小型装置まで、中性子放出は核融合プラズマ研究全般にわたる共通の観測対象である。
物理的起源と反応チャネル
核融合プラズマで中性子を生む主な反応は二つある。第一は重水素(D)同士の反応 D(d,n)³He で、約2.45 MeV の中性子を放出する。第二は重水素と三重水素(T)の反応 D(t,n)⁴He で、約14.1 MeV の中性子を放出する。後者は断面積が大きく、第一世代の核融合炉が重水素・三重水素燃料を想定する理由であり、燃焼プラズマではこの14 MeV 中性子が主な生成源となる。重水素プラズマでは D–D 反応が主だが、D–D 反応で生じた三重水素がさらに反応する「トリトン燃焼」による DT 中性子や、不純物を介した反応(例えばベリリウム上の ⁹Be(d,nγ)¹⁰B)が総収率の数パーセント程度を占めることがあり、測定の解釈では無視できない。
反応の相手方の性質によって、中性子の性質が変わる。熱化したイオン同士の反応(熱–熱反応)では、中性子スペクトルはイオン温度を反映した幅をもち、ほぼ等方的に放出される。一方、中性子ビーム入射(NBI)や高周波加熱で作られた高速イオンが熱イオンと反応する「ビーム–熱反応」は、高速イオンのエネルギーと進行方向をスペクトルと異方性に直接刻む。このため放出中性子は単なる「反応量の計量器」ではなく、高速イオン分布関数の情報を運ぶキャリアでもある。
トカマクとは異なる装置でも中性子放出は中心課題である。プラズマフォーカスや Z ピンチのようなパルス放電装置では、ピンチ圧縮で生じた高温高密度領域から短いパルスの中性子が放出される。ここでは熱核反応に加えて、電場で加速された重陽子ビームが背景プラズマと反応する非熱的機構が大きく寄与し、放出の等方成分と異方成分の分離、放電ごとの再現性、電極形状や希ガス混入の影響などが研究されてきた。例えば D₂ 放電にクリプトンやネオンを少量混ぜると放射冷却によって圧縮が強まり、装置の最適化状態に応じて中性子収率が増減することが報告されている。
核融合性能の指標としての中性子収率
中性子は燃料イオン一つ一つの融合反応に対応して一個ずつ生まれるため、単位時間あたりの中性子放出量(中性子収率)は核融合出力にほぼ比例する。燃焼プラズマ運転では、この収率をリアルタイムで監視して出力を制御することが不可欠であり、例えば JET の重水素・三重水素キャンペーンでは、生成中性子の総数が運転計画の枠組みとして管理され、その測定が運転の要とされた。総収率は核分裂検出器(フィッションチェンバー)などで連続的に測られ、中性子活性化測定による較正と組み合わされる。
収率が高いほど良いという単純な話ではない点も重要である。同じ総収率でも、それが熱–熱反応由来なのか、ビーム–熱反応由来なのかで意味が異なる。ビーム加熱だけに依存する収率は、自己組織的な熱核燃焼の証拠にはならないからである。このため総収率に加えて、反応種の内訳をスペクトルやモデル計算から見積もることが、装置の性能評価では標準的な手順となっている。
中性子放出分光と高速イオン診断
放出中性子のエネルギースペクトルを高分解能で測るのが中性子放出分光である。ビーム–熱反応が支配的な重水素プラズマでは、スペクトルの形状(幅、シフト、非対称性)が高速イオンの速度分布を直接反映する。熱運動によるドップラー幅からイオン温度が、スペクトル全体のシフトからプラズマ回転が、そして MeV 級の高速イオンの寄与はスペクトルの高エネルギー側の裾として現れる。NBI と高調波イオンサイクロトロン加熱(ICRF)を組み合わせると、有限ラーモア半径効果によって重陽子が MeV 級まで加速され、燃焼プラズマのアルファ粒子の実験的代替物となる。このような「3イオン加熱」シナリオや NBI–ICRF 併用加熱のプラズマで、中性子分光は高速イオン分布の変化を追う主要な診断となってきた。

fig.4 Investigation of fast ion characteristics via neutron emission spectroscopy in NBI–ICRF third-harmonic heating plasmas on EAST (2026) · CC BY 4.0
Schematic layout of neutron spectrometers and auxiliary heating systems on EAST.
図は EAST における中性子スペクトロメータの配置と補助加熱系の模式図である。トカマク真空容器の周囲に複数のスペクトロメータ(TOFOR、Stilbene 検出器、BC-501A、EJ-301)が異なる視線方向に置かれ、NBI と ICRF の加熱ビームの位置とともに示されている。視線方向を変えて測ることで、速度分布の平行成分と垂直成分を別々に感度よく捉えられる。
測定信号と速度分布の関係は、重み関数を用いて定式化される。測定量は高速イオン分布関数の線形汎関数として書けるので、重み関数は「あるエネルギー・ピッチ角のイオンがどれだけこの測定に寄与するか」を与える。これにより、個々の測定が共通通過軌道・逆行軌道・閉じ込められない軌道など、どの種類の高速イオン軌道に敏感かを分解できる。さらに複数の視線方向の測定を組み合わせれば、速度空間トモグラフィーによって二次元の高速イオン分布そのものを再構成できる。JET の重水素・三重水素プラズマでは、この手法によって MeV 級燃料イオンの分布再構成が実際に行われた。
中性子放出プロファイルとカメラ
総収率だけでは、プラズマのどこで反応が起きているかは分からない。そこでコリメータで細い視線方向を切り取り、複数方向の線積分放出率を測る中性子カメラ(プロファイルモニタ)が主要装置に備わっている。線積分データから放出率の空間分布を逆問題として解くには、チコノフ正則化、最小フィッシャー情報、最大エントロピー、最尤法などのデコンボリューション手法が用いられる。イオン分布がマクスウェル型で磁気面対称なら問題は一次元に縮約でき、ITER の放射方向中性子カメラでは約10 ms の時間分解で放出率プロファイルをリアルタイムに再構成し、燃焼制御に用いることが計画されている。

fig.2 Comparison of deconvolution techniques for 1D neutron emission profile reconstruction using ITER Radial Neutron Camera synthetic data and JET neutron camera measurements (2025) · CC BY 4.0
The layout of the LOS of the JET neutron camera presented with magnetic field contours and first wall for discharge #99523 (time slice t = 50.49 s).
図は JET 中性子カメラの視線方向配置を、磁場等高線と第一壁とともに示したものである。垂直方向と水平方向の二つの扇状のコリメータ群がプラズマ断面を貫き、各番号のチャネルが異なる動径位置の線積分を測る様子が分かる。
プロファイル測定の真価は、高速イオンの時間・空間的な再配分を捉える点にある。鋸歯状振動(ソートゥース)のクラッシュでは中心部の高速イオンが一斉に排出され、カメラの中心チャネルの信号が急落する。フィッシュボーンや長寿命の MHD モードでは、高速イオンの損失がバースト的あるいは連続的に現れる。共鳴磁気摂動や電荷交換も高速イオンの閉じ込めを変え、中性子放出に直接反映される。

fig.12 Comparison of deconvolution techniques for 1D neutron emission profile reconstruction using ITER Radial Neutron Camera synthetic data and JET neutron camera measurements (2025) · CC BY 4.0
JET discharge #99523: normalized neutron rate measured by neutron monitor (red dots), channel #4 (blue triangles) and channel #15 (green squares) of neutron camera. Sawtooth crash times are indicated by the grey dashed lines.
図は JET 放電における中性子モニタによる規格化中性子率と、カメラの中心近傍の2チャネル(チャネル#4 と #15)の信号の時間変化である。灰色の破線で示された鋸歯状クラッシュのたびに、中心を通るチャネルの信号が鋸歯状に変動しており、高速イオンの排出が空間分解されて観測されている。
モデリングと解釈
中性子放出の定量的な解釈は、プラズマ輸送・高速イオン生成の統合モデリングと結びついて行われる。標準的な計算連鎖では、TRANSP コード(NUBEAM モジュール)が NBI や高周波加熱による高速イオンの生成・減速・損失を計算し、その分布関数から中性子スペクトルが合成され、さらに中性子輸送コード(MCNP)によって検出器までの飛行を扱う。こうして得られる合成測定値を、フィッションチェンバーの総収率、カメラの放出率プロファイル、飛行時間型スペクトロメータのスペクトル、活性化測定という複数の独立した診断と突き合わせることで、モデル全体の妥当性が検証される。
解釈上の注意点も明らかになっている。ビーム–熱反応が支配的でないと線形関係の前提が崩れ、重み関数に基づく解析の適用が難しくなる。また D–D 以外の反応、すなわちトリトン燃焼による DT 中性子や不純物を介した反応は、総収率の数パーセントに達し、活性化測定では支配的寄与となることさえある。さらに測定器自体の感度には速度空間の偏りがあり、ある種の高速イオン軌道が特定の診断からまったく観測できない「見えない領域」が存在しうる。このため重み関数解析によって、測定値の減少や増加がどの軌道種の変化に起因するかを分解する手法が、速度空間トモグラフィーやパラメータスキャンよりも高速で解釈しやすい代替手段として整備されてきた。小型パルス放電装置の分野でも、収率の放電間再現性の統計的評価や、電極配置・ガス組成が収率に与える影響の系統的解析が進められており、装置の規模を問わず「測定された中性子が何を語っているか」を突き止めるモデリングが共通の基盤となっている。
この解説が根拠にした論文から
- TRANSP modelling of total and local neutron emission on MASTNuclear Fusion 2015
- Observation of fast ion behaviour with a neutron emission profile monitor in MASTNuclear Fusion 2012
- Experimental validation of an integrated modelling approach to neutron emission studies at JETNuclear Fusion 2021
- Fast-ion orbit origin of neutron emission spectroscopy measurements in the JET DT campaignNuclear Fusion 2024
- Comparison of deconvolution techniques for 1D neutron emission profile reconstruction using ITER Radial Neutron Camera synthetic data and JET neutron camera measurementsPlasma Physics and Controlled Fusion 2025
- Investigation of fast ion characteristics via neutron emission spectroscopy in NBI–ICRF third-harmonic heating plasmas on EASTNuclear Fusion 2026
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推移
研究の変遷
1970–19841本 · 0.04%
初期の単発測定
この時代の中性子放出に関する論文は1件のみであり、Alcator Cトカマクの立上げ段階における放出を調べたものである。共起する主題や他の装置はなく、この主題はごく例外的な扱いであった。
この時代の論文から
1985–19947本 · 0.13%
JETとTFTRでの測定とモデル化の開始
この時代の論文は、JETとTFTRにおける中性子放出の測定とモデル化が中心であり、トリチウム実験やサブショット、鋸歯状振動と高速イオン輸送、NBI加熱とエネルギー閉じ込めとの関連が論じられた。共起する主題として鋸歯状振動、高エネルギーイオン、トリチウム、中性子ビーム入射などがあり、装置はJETとTFTRに集中している。
同時に語られた主題鋸歯状振動、高エネルギーイオン、トリチウム、オーミック加熱、中性粒子入射、イオン輸送
この時代の論文から
- Neutron emission from TFTR supershotsNuclear Fusion 1993
- Neutron emission profile measurements during the first tritium experiments at JETNuclear Fusion 1993
- Theoretical study of the influence of sawtooth oscillations on fast ion transport and neutron emission in NBI experiments on JETNuclear Fusion 1994
- Role of neutral-beam fuelling profile in energy confinement and neutron emission on TFTRNuclear Fusion 1994
1995–200412本 · 0.12%
重水素-トリチウム燃焼と中性子分光の進展
この時代は、JETの重水素-トリチウム実験および高エネルギーイオンやRF加熱に関連する中性子放出のスペクトル測定と予測・モデル化が行われた。共起する主題として重水素-トリチウム、トリチウム、発光分光、重水素、イオンサイクロトロン加熱などがあり、装置はJETに限られる。
同時に語られた主題重水素-トリチウム、トリチウム、発光分光、重水素、プラズマ回転、中性ビーム
この時代の論文から
- Neutron emission spectroscopy of radio frequency heated (D)T plasmasNuclear Fusion 2002
- Measurement and interpretation of the spectrum of the triton burnup neutron emission from deuterium tokamak plasmasNuclear Fusion 2000
- Prediction/modelling of the neutron emission from hot-ion H-mode discharges in JETPlasma Physics and Controlled Fusion 1997
- Neutron emission from JET DT plasmas with RF heating on minority hydrogenPlasma Physics and Controlled Fusion 2002
2005–201418本 · 0.12%
高速イオンとMHD相互作用の診断として
この時代は、中性子放出分光法を用いて高速イオン分布とMHD活動との相互作用を測定し、ICRF加熱や中性子ビーム加熱で生成される高速イオンの研究が中心となった。装置はJETに加えてMASTやITER、EASTが現れる。
同時に語られた主題高エネルギーイオン、重水素-トリチウム、中性ビーム、発光分光、重水素、イオンサイクロトロン加熱
この時代の論文から
- Fast-ion distributions from third harmonic ICRF heating studied with neutron emission spectroscopyNuclear Fusion 2013
- Measurements of fast ions and their interactions with MHD activity using neutron emission spectroscopyNuclear Fusion 2010
- Calculated neutron emission spectrum with knock-on effects for RF heated (3He)D plasmasNuclear Fusion 2011
- Neutron emission generated by fast deuterons accelerated with ion cyclotron heating at JETNuclear Fusion 2010
2015–202641本 · 0.16%
高速イオン診断と核融合炉応用への展開
この時代は、ガンマ線と中性子放出スペクトルのトモグラフィー再構成、MASTでのTRANSPモデリング、JETでの燃料イオン比決定、LHDでの放出異方性観測など、多様な装置と手法による研究が進んだ。共起する主題としては重水素、中性子ビーム入射、高エネルギーイオン、発光分光、トリチウム、重水素-トリチウムなどがあり、装置はJET、MAST、EAST、LHD、ITERに広がる。
この記述以降に論文が追加されている
同時に語られた主題重水素、中性粒子入射、高エネルギーイオン、発光分光、トリチウム、中性ビーム
この時代の論文から
- MeV-range velocity-space tomography from gamma-ray and neutron emission spectrometry measurements at JETNuclear Fusion 2017
- TRANSP modelling of total and local neutron emission on MASTNuclear Fusion 2015
- Fuel ion ratio determination in NBI heated deuterium tritium fusion plasmas at JET using neutron emission spectrometryNuclear Fusion 2015
- Analysis of resonant fast ion distributions during combined ICRF and NBI heating with transients using neutron emission spectroscopyNuclear Fusion 2018
よく登場する装置
この数字の作り方
- 数え方 —
- 同じものが別の名前で書かれていてもまとめて数えている。綴りが変わった時期に推移が動いて見える、ということは起きない
- 割合 —
- その時代の収録論文全体に占める比率。コーパスは1970年代より2010年代のほうが9倍大きいため、本数のままではほとんどの主題が右肩上がりに見えてしまう
- 記述 —
- その時代の論文・共起する主題・登場する装置だけを根拠にAIが書いている
- 冒頭の定義 —
- 用語そのものの説明だけは、論文54本の要旨を読ませたうえでAIの分野知識で書かせている。ここだけは収録論文に書かれていることの要約ではない
- 解説 —
- では、7本の論文(うち全文4本)と3枚の図版を読ませたうえでAIが書いている
- 範囲 —
- 収録は6誌に限られる。ここで減っていることは、分野がその取り組みをやめたことを意味しない
