X線トモグラフィー
X-ray tomography
X線トモグラフィー(X-ray tomography)は、核融合・プラズマ物理学の計測。プラズマ断面を横切る多数の視線に沿って軟X線強度を計測し、再構成によって断面のX線放射率分布を二次元像として得る診断法である。磁場閉じ込めプラズマの内部構造、特にMHD不安定性や鋸歯状振動の解析に用いられる。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは34本ある。比重が最も大きかったのは1985–1989年で、その期間の論文の0.20%を占めた。直近の2025–2029年では0.02%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1980年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
解説
X線トモグラフィー(X-ray tomography)とは、プラズマから放出される軟X線を複数のピンホールカメラで線積分測定し、その測定値から放射強度の二次元分布を数値的に再構成する診断法である。磁気探傷コイルなどが磁場の境界情報しか与えないのに対し、この手法はプラズマ内部の放射分布そのものを直接映し出す点に特徴があり、トカマクやステラレータのMHD活動、プラズマ位置、不純物分布の研究で標準的な診断となっている。また、同じ「X線トモグラフィー」という名前のもとに、プラズマ診断とは目的を異にする材料・部材の三次元構造可視化(いわゆる工業用CT)も核融合開発の現場で広く使われており、本項では両者を扱う。
何を測るのか
軟X線トモグラフィーが測定するのは、プラズマのX線放射の局所強度(放射率)である。核融合プラズマでは、電子がイオンに衝突して生じる制動放射(自由自由放射)と、不純物イオンの束縛電子の再結合・励起に伴う放射(自由境界放射・線放射)が主なX線源であり、その強度はおおむね電子密度の二乗と電子温度に強く依存する。したがって再構成された放射率分布は、電子温度・密度分布および不純物分布の複合情報を与える。
測定そのものは線積分である。各カメラの各検出素子は、ピンホールを通して見た細い視線に沿った放射率の積分値を返す。一本の視線からは分布を復元できないが、異なる方向・位置から多数の視線を交差させれば、二次元分布を逆問題として解くことができる。これが「トモグラフィー」の名の由来であり、医療のCTと原理的には同じ発想である。ただし核融合装置では視線の本数が有限で、かつ真空容器のポート配置の制約から視線方向が偏りがちであるため、医療CTよりはるかに不良設定(ill-posed)な逆問題となる。この制約をどう補うかが、後述する再構成手法の核心である。
放射率分布は磁面に沿ってほぼ一定である、という物理的知見が重要な役割を果たす。X線の放射は電子温度・密度の急峻な勾配を持つスケールより磁面の空間スケールのほうが大きいため、放射率は磁気座標系ではなめらかな関数になる。この性質を仮定に組み込むことで、限られた視線からでも磁面形状に沿った安定な再構成が可能になる。
装置:カメラ、検出器、視線配置
典型的なシステムは、真空容器の窓に設置したピンホールカメラの列からなる。カメラ内部にはシリコンフォトダイオードのアレイ検出器が置かれ、各素子が一本の視線に対応する。例えば大型ヘリアカルロンW7-Xでは、三角形断面のプラズマ容器に上下対称に20台のピンホールカメラが配置され、計360本の視線で1〜12 keV帯のX線を16ビット分解能・2 MHzサンプリングで記録する。サンプリングが速いのは、後述のように鋸歯状振動やMHDモードの時間発展を追うために時間分解能が本質的に必要だからである。増幅器の帯域は数百kHz程度に及び、揺らぎ測定にも耐える設計となっている。
視線の幾何配置が診断の性能を決める。トカマクでは一般に、プラズマ断面を複数の方向から覆うようにカメラ群を置くが、ポートは限られ、視線は完全な角度被覆を与えない。断面形状を自在に変えられるTCVのような装置では、形状変化に追従して内部磁面形状を再構成できるよう視線配置が設計される。ステラレータのTJ-IIやトーラス実験装置KTXのように、断面が円形でない、あるいはアクセスが限られる装置向けには、任意断面・限定アクセスを前提とした系の設計が独自の課題となる。また、視線のエネルギー応答は検出器効率とプラズマスペクトルの両方に依存するため、実際のプラズマパラメータを考慮してスペクトル依存の検出効率を見積もる「動的校正」が再構成品質の向上に寄与することが示されている。
逆問題と正則化
再構成は、視線積分値のベクトルを放射率分布に写す線形系を解く問題に帰着する。視線数は分布を表す基底関数の数より少なく、系はランク落ちするため、素朴な最小二乗解は激しく振動する「ゴースト」を生む。そこで正則化、すなわち解に物理的な事前情報を課すことが不可欠である。
古典的な手法は線形正則化で、解のなめらかさ(勾配の二乗ノルム)にペナルティを課して振動を抑える。正則化パラメータの選び方は再構成品質を直接左右し、最適正則化法として系統的に扱う試みも行われている。これに対し最大エントロピー法は、解のエントロピーを最大化する方向に解を引くことで、非負性となめらかさを自然に実現する。さらにフィッシャー情報に基づく手法や、特異値分解による解析も用いられてきた。特異値分解は、系が実際に決定できる空間モードと決定できないモードを分離する道具として有用で、事前にモード構造を仮定せずにMHDモードを同定できる点が強調されてきた。
物理的知見を組み込む方向の進展として、ハミルトン流の性質に適合した磁気座標(フラックス座標)で逆問題を定式化する方法がある。放射率を磁束関数の関数として展開すれば、境界条件を自然に満たし、直交座標系での展開に比べてゴーストが大幅に減る。さらに、得られた放射率分布を磁気測定を入力とした平衡コードの磁束関数の改善に逆に用いるという、診断間の融合も行われている。不純物密度の導出を目的に帯域フィルタ付き視線を用いる変法や、X線トモグラフィーと電荷交換再結合分光を統合して有効イオン価数(Zeff)を決める試みもあり、測定のエネルギー選択性が不純物診断の適用範囲を広げている。
計算コストは長年の課題であった。従来の反復再構成は時間がかかり、多数の放電を速く処理できない。近年は、実験データと従来の再構成コードで学習させた畳み込みニューラルネットワークにより、数ミリ秒で再構成を完了させる深層学習手法が実用段階に入りつつある。EASTでの応用では、完全畳み込みネットワークが鋸歯状振動の二次元時間発展を従来法と整合的に再現し、数日の学習で得たモデルが大量の放電を即時に処理できることが示された。
物理応用:MHD、鋸歯状振動、プラズマ位置
軟X線トモグラフィー最大の強みは、MHD活動の空間構造を直接見られる点にある。鋸歯状振動はトカマク中心部の温度が周期的に急落下する現象で、そのクラッシュ前には内部のm=1モードが成長する。トモグラフィーはこのプレカーサーの空間構造を、放射率分布を空間固有関数とその時間依存に分解することで抽出し、コアの磁面再結合の描像を実測で検証してきた。TCVでは、プラズマ三角形性を変えた放電系列で鋸歯状振動の挙動がどう変わるかが調べられ、断面形状制御とコアMHDの関係を論じる実験手段となった。
プラズマ位置制御への応用も重要である。プラズマの重心や磁軸の位置は放射率分布のモーメントから求められ、磁気プローブによる位置測定と独立のクロスチェックを与える。特に高ベータ化や内部インダクンスが急変する過渡期には、磁気測定だけでは位置推定が偏りうるため、軟X線トモグラフィーは位置測定の現状と将来の役割として位置づけられている。また、半径方向に剪断された電場が揺らぎに与える効果を捉えるための高速・高感度な系の設計など、揺らぎ診断への拡張も進んでいる。ST40のような高磁場球状トカマクや、JIPP T-IIのような中小型装置でも系が整備され、装置の規模を問わず標準診断として定着している。
関連用途:材料・部材のX線トモグラフィー
プラズマ診断としてのX線トモグラフィーとは別に、X線源と検出器を物体の周りで回転させ、透過X線の吸収から内部の三次元密度構造を再構成する工業用CTも、核融合装置の開発で不可欠な道具となっている。こちらはプラズマの時間発展ではなく、固体・部材の静的な内部構造をマイクロメートルからミリメートルのスケールで見る技術である。
応用は多岐にわたる。代表的な例がペブルベッドである。ブランケットの増殖材や遮蔽材として使われる微小球の充填層は、熱伝導と応力緩和が球の配列・空隙構造に敏感であり、CTにより非破壊で三次元構造を可視化できる。同様に、超伝導マグネット用ケーブル(CICC)では、ストランドから実機サイズ導体までの多スケール構造をCT画像解析でモデル化し、圧縮・熱サイクルによる内部変形を追う研究が行われている。セラミックスと金属の接合部のようなブランケット構造材では、接合界面のボイドやき裂が熱抵抗と破壊強度を支配するため、CTによる欠陥検査が品質評価の中心手段の一つである。さらに、IFMIF高熱流試験施設のような照射環境に置かれた材料を、照射後の放射性試料のまま検査できるかの評価も進んでおり、非破壊・遠隔検査としてのX線トモグラフィーの役割は核融合炉の工学設計において拡大し続けている。燃料ペレット(ICFシェル)の壁厚分布を三次元で再構成する応用もあり、慣性核融合のターゲット品質管理にも用いられている。
このように「X線トモグラフィー」は、プラズマの放射を逆投影で再構成する診断と、透過X線で物体内部を可視化する計測という、逆問題としては共通の数学を持ちながら対象と目的を異にする二つの技術群を包括する語である。核融合研究では前者がプラズマ物理の実証を、後者が炉心機器の信頼性を、それぞれ支えている。
X線トモグラフィー(X-ray tomography)の研究史 — FusionPapers