Wiki / 装置 W7-X は、核融合・プラズマ物理学の装置。ドイツのグライフスヴァルトに建設された超伝導コイル方式の最適化ステラレーター(HELIAS)で、定常運転での核融合炉級プラズマの実証を目指す。周辺部にはアイランドダイバータを備え、磁場配位の柔軟な制御により輸送・安定性・排気の研究に用いられている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは265本ある。比重が最も大きかったのは2005–2009年で、その期間の論文の0.73%を占めた。直近の2025–2029年では0.51%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1990年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
Wendelstein 7-X
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 ヴェンデルシュタイン 7-X(Wendelstein 7-X、略称 W7-X)は、ドイツ・グライフスヴァルトのマックス・プランクプラズマ物理学研究所に建設された大型ヘリアス型ステラレータ 実験装置である。主要半径5.5 m、プラズマ小半径0.55 m、磁場強度2.5 T(設計値3 T)、磁場周期数5という規模を持ち、超伝導コイル系と10 MW級の電子サイクロトロン加熱 (ECRH)によって、核融合炉に関連するパラメータでの定常状態 運転を実証することを主目的としている。ステラレータはトカマクと異なりプラズマ電流に依存しない三次元磁場で閉じ込めを行うため、原理的に定常運転に適する一方、非軸対称性に起因する新古典輸送 が本質的な弱点となる。W7-Xはこの弱点を磁場形状の最適化によって抑え、ステラレータ路線の炉可能性を検証するために設計された、いわば最適化概念の総合試験台である。
fig.1 Observation of impurity accumulation and its compatibility with high plasma performance in W7-X (2023) · CC BY 4.0
View of the stellarator W7-X with five-fold magnetic topology and the five pairs of symmetrically installed graphite divertor units. The allocation of the selected diagnostic tools, such as the bolometers, the VUV spectrometer HEXOS, and the PHA system for monitoring the impurity radiation, and the ECE, XICS as well as the TS system for measuring the main plasma parameters, at different toroidal positions is shown.
図は装置全体の五周期構造と、上下対称に設置された五組の黒鉛ダイバータ ユニット、ならびにボロメータ、真空紫外分光器、X線撮像分光器、 といった主要診断のトロイダル配置を示す。以下、装置の設計思想、工学システム、境界プラズマの処理、加熱と定常運転、そして炉への道筋の順に概観する。
W7-X
種別 装置
論文数 265 本
初出 1990 –1994 年(1本)
最盛期 2005 –2009 年 0.73%
直近 2025 –2029 年 0.51% 索引にもどる
最適化原理と装置の概要 W7-X の設計の核心は「最適化ステラレータ 」の概念にある。非軸対称磁場では、粒子が磁面に閉じ込められずドリフトによって磁面を横切る新古典輸送 が、トカマクに比べて桁違いに大きくなりうる。W7-X は磁場を自由に設計できることを利用して、この損失経路を可能な限り塞ぐようコイル形状を数値最適化した。具体的には、深い磁気井戸の形成、磁面のシアの制御、そして平均トロイダル曲率の低減が最適化の基本要素であり、最後のものは擬似対称性(クイシアイソトロピー)によって粒子のドリフトを相殺する発想である。その結果、エネルギー閉じ込め が磁場配位に強く依存せず、ベータ値(プラズマ圧力と磁気圧力の比)の高い運転でも閉じ込めが劣化しないことが設計目標とされた。
回転変換(トロイダル方向一周あたりの磁力線のねじれ量)は境界部で 5/6 から 5/4 の範囲で可変であり、これはモジュラーコイルに加えて平面コイルを備えることで実現されている。低シアであることも特徴で、境界の回転変換を低次の有理数に設定すると、磁面の局所的な破れとして固有の磁気島 が形成される。W7-X ではこの島を閉じ込め領域の欠陥としてではなく、ダイバータ の磁場構造として積極的に利用する。この点は後述の島ダイバータ の節で詳しく述べる。
最適化の対象は閉じ込め物理だけではない。プラズマの平衡が高いベータでも安定であること、磁面の品質が保たれること、そして境界の磁場構造が熱・粒子排出に適した形になることが、一つの自己整合的なコイル設計の中で同時に追求された。この「多目的最適化」こそが W7-X の設計上の革新であり、その成否がステラレータ路線全体の信頼性を左右する。
超伝導磁場系と装置工学 W7-X の磁場系は、非軸対称磁場を高精度に実現する必要があるため、装置工学上も最も要求の厳しい部分である。50 個のモジュラーコイル(非平面コイル)が五周期のねじれた磁場を生み、20 個の平面コイルが回転変換の制御と磁場強度の調整を担う。いずれも超伝導コイルであり、4.5 K 級の極低温で運転される。コイルは製造段階から計測学(メトロロジー)による位置決めが行われ、組立時に蓄積した誤差をモジュール単位で調整することで、磁軸に対する正規化された n=1 誤差場成分を 0.3×10⁻⁴ 以下に抑えた。これは、わずか 10⁻⁴ 程度の誤差場でも境界の島構造が変化し、意図しない磁気島 や熱負荷 の非対称が生じうるためである。
誤差場の補正には、さらにトリムコイルと制御コイルが備わる。実験では、固有の 1/1 誤差場の振幅が (0.5–0.8)×10⁻⁴ 程度であることが測定され、トリムコイルに流すわずか 100 A 程度の電流でこれを相殺できることが示された(最大定格は 2000 A)。誤差場が残ると、ストライクライン(プラズマとダイバータ 板の交線)の位置が各ダイバータモジュールでずれ、中性粒子圧縮率の不均一や局所的な過熱を招く。このため誤差場の同定と補正は、定常運転の前提条件として継続的な研究課題となっている。
図は一つのダイバータモジュールにおけるトリムコイル(青)と制御コイル(赤)の配置を、プラズマ断面(水色)とともに示す。コイル系の冷却は超伝導クライオマグネット試験施設での事前試験を経て実機に組み込まれ、コイル支持構造、絶縁、ボルト接合といった要素技術もそれぞれ検証が重ねられた。これらは炉規模の超伝導ステラレータ に向けた工学上の重要な実績となる。
島ダイバータとパワー排出
W7-X の境界部では、回転変換が 5/5 などの低次有理数に設定されると、磁面が局所的に破れて幅の広い磁気島 が形成される。島ダイバータ は、この固有の島の断面を黒鉛のターゲット板で横切らせ、閉じ込め領域から流出した熱と粒子を島内の磁力線に沿ってターゲットへ導く方式である。トカマクの X 点 を用いるポロイダルダイバータ と異なり、磁場の三次元性をそのまま利用するため、装置の周方向に五対(上下十箇所)のダイバータユニットが配置される。ターゲットは定常で 10 MW/m² の熱負荷 に耐える設計であり、湿潤面積は全ダイバータ合計で約 1.5 m² に及ぶ。磁場設計によって熱負荷が十枚のダイバータに均等に分散されるよう配慮されている。
図は標準真空磁場配位における磁力線拡散計算の結果で、5/5 磁気島のポアンカレ断面(青)と、それがターゲット板に作るストライクライン(橙の熱負荷分布)を重ねて示す。島の構造がそのまま熱負荷の空間分布を決める様子が読み取れる。
島ダイバータの運転上の鍵は「ディタッチメント(離脱)」の状態にある。これは、境界プラズマの熱の大部分を体積放射(主として不純物 イオンからの放射)で散逸させ、ターゲットへの粒子・熱フラックスを大幅に低減させる状態である。W7-X では不純物シードおよび主ガス密度供給の両方によって制御されたディタッチ運転が実証されている。三次元境界輸送コード EMC3-EIRENE による解析は、W7-X の磁面が内側と外側でより対称的であるため、放射層が周方向・内外方向に均一に広がり、ターゲット熱負荷の低減も均一になることを予測し、これは実験結果と整合している。先行機 W7-AS では部分的なディタッチしか安定に達成できず、高放射化に伴う熱的不安定性が問題であったが、W7-X では島が大きく、放射の分布が対称的であることが有利に働く。一方で、ディタッチ時の炭素などの不純物が閉じ込め領域に侵入する問題、再結合中性粒子による燃料供給 の低下、島の大きさとディタッチ性能の関係など、最適な運転窓の探索が継続的な課題である。放射パワーのトロイダル対称性の検証のため、赤外線ビデオボロメータなど新しい診断も導入されている。
加熱システムと定常運転
W7-X の主加熱手段は ECRH である。これはマイクロ波を電子のサイクロトロン共鳴 面に照射して電子を直接加熱する方式で、装置の定常運転目標に最も適合する。磁場 2.5 T に対して 140 GHz の周波数が用いられ、これは電子の第二高調波共鳴に対応する。10 MW 級の ECRH プラントは、1 MW 級ジャイロトロン を複数束ねた準光学伝送系によってプラズマへ導かれる。
fig.1 High-performance ECRH at W7-X: experience and perspectives (2021) · CC BY 4.0
W7-X ECRH system. Here, one out of two models with five gyrotrons/beams is shown. The individual gyrotron beams, marked by different colours, are combined into a bundle and sent over a long distance with large common mirrors, the so called multi-beam section. They are divided into individual beams close to the vacuum vessel. Inside the vacuum vessel the beams are launched into the plasma by steerable mirrors.
図は ECRH 系の構成を示し、五基のジャイロトロンからのビーム(色分け表示)が共通のマルチビーム伝送部で一束にまとめられ、遠距離を伝送した後、真空容器 近傍で個別ビームに分離され、操舵可能なミラーからプラズマへ入射される様子を描く。
ECRH の物理的な制約は密度上限である。第二高調波 X モードは共鳴面で完全に吸収されるが、伝播できる密度は 1.2×10²⁰ m⁻³ までであり、第二高調波 O モードは 2.4×10²⁰ m⁻³ まで伝播できるものの単一パスでは吸収が不完全である。一方、エネルギー閉じ込め の正の密度スケーリングと電子・イオン間の衝突結合を考えると、高密度運転が高性能の鍵となる。このため、ビームを壁で反射させて複数回プラズマを通過させるマルチパス方式が開発され、O2 モードの吸収率を 90% 以上に達成した。純電子加熱 は、核融合炉でアルファ粒子 が電子にエネルギーを渡す状況を模擬する実験手段としても重要である。補助加熱として中性粒子入射 (NBI)と高周波加熱(ICRF )も整備され、運転の柔軟性を高めている。ジャイロトロンの高出力化、ダイヤモンド出力窓の設計検証、中央制御系の構築といった工学開発も、長パルス運転の基盤となっている。
定常運転の実現には、加熱だけでなく不純物 制御が不可欠である。ステラレータ では新古典輸送 理論により、イオンルート(負の半径方向電場 )では不純物が内側へ集まる傾向がある一方、中心の電子温度がイオン温度を大きく上回る電子ルートでは外向き対流が生じる。W7-X では ECRH 加熱プラズマにおいて輸送が乱流的に支配されており、不純物の輸送時間は新古典理論の予測(数秒)よりはるかに短い約 50–100 ms である。このため通常の運転では不純物の顕著な蓄積は観測されず、放射は主としてプラズマ縁の低 Z 不純物(炭素・酸素)に局在する。この縁局在放射はダイバータ の寿命にとって有利であり、高密度 ECRH プラズマでは安定なディタッチ状態が自然に成立する。一方、長パルス放電の一部では、ボロメータ断層撮影によって中心部(正規化半径 0.3–0.4)の放射が縁と同程度まで上昇する高放射相が観測された。鉄などの高 Z 不純物濃度の増加を伴うにもかかわらず熱崩壊は起こらず、むしろエネルギー閉じ込めが ISS04 スケーリングに達する高性能相であることが判明した。このような運転窓の解明は、ステラレータの定常運転の展望を左右する重要な課題である。
実験成果と HELIAS 炉への道筋
W7-X の最終目標は、最適化ステラレータ の概念が炉として成立しうることを実証することである。この路線の炉概念は HELIAS(ヘリアス型核融合炉)と呼ばれる。W7-X から HELIAS 炉への移行を検討する研究では、物理・工学パラメータの直接外挿、最適化理論の更なる発展、無次元パラメータ解析と経験的閉じ込めスケーリングの組み合わせという複数の視点から開発段階が評価され、W7-X と炉の間には中間段階としての燃焼プラズマ ステラレータが必要であるという結論が得られている。システムコードと輸送シミュレーションを組み合わせた概念設計では、ブランケットを持たない低磁場の低コスト装置から、ブランケットを備え正味発電を行う実証炉類似の装置まで、幅広い設計選択肢が示された。
実験面では、W7-X は既に数秒から数十秒に及ぶ放電を実現し、島ダイバータ でのディタッチ運転、誤差場の同定と補正、高密度 ECRH 運転など、定常運転に必要な要素技術を順次実証してきた。エネルギー閉じ込め は多くの運転条件で ISS04 スケーリングをやや下回るものの、高性能相ではこれに達することが確認されている。イオン温度は通常 1.5 keV 程度に制限されるが、これは純電子加熱 という運転様式に起因するものであり、NBI や ICRH による直接イオン加熱 によって改善が期待される。炉では磁場が 5 T を超えるため、吸収の良い第一高調波 O モードが使え、電流駆動 やオフ軸加熱を含む ECRH の柔軟性が完全に発揮される。
W7-X が検証すべき課題は、閉じ込め性能の定量的確認、高ベータ運転での安定性、ディタッチダイバータ の長時間安定化、不純物 制御、そして超伝導磁場系を含む定常運転技術の統合である。これらの成果は、トカマクと並ぶ磁場閉じ込め のもう一つの路線として、ステラレータが炉設計の選択肢たりうるかを判定する根拠となるものであり、W7-X はその判定を担う世界最大のステラレータ実験装置として位置づけられている。
W7-Xの研究史 — FusionPapers