増殖性能の指標はトリチウム増殖比(TBR)で、プラズマで燃焼したトリチウム1個に対して増殖されたトリチウム核数の比として定義される。自給のためには1.0を超えることが必須だが、燃料サイクル中の損失や再起動用の備蓄を考慮すると、実際には1.05から1.15程度の範囲が目標とされる。TBRはリチウム6(6Li)の濃縮度、増殖材の体積と配置、中性子増倍材の種類と量、炉の幾何形状など多くの設計パラメータで決まる。6Liは核融合中性子エネルギー域で大きな捕獲断面積を持つが、反応確率は中性子が減速されるほど急増するため、中性子を減速・反射してリチウム領域に戻す工夫が増殖比の向上に直結する。中性子増倍材としては固体方式でベリリウム、液体方式で鉛が用いられ、これらの(n,2n)反応が1個の中性子から複数の中性子を生み出して増殖反応に回す。近年は、ブランケット領域を複数の層に分割し、層ごとに異なる増殖材を割り当てて中性子スペクトルを制御するといった、材料配置そのものを最適化変数とする手法も提案されている。ブランケットは炉心の外周を覆う多層構造であり、内側の第一壁から外側の遮蔽層へと向かって機能が連続的に変化する。
図は液体増殖方式の一つ(DCLL概念)におけるブランケット流路の三次元形状を示したものである。第一壁(FW)に沿ってポロイダル方向(上下方向)に伸びる流路があり、液体金属は入口から底部の折り返し部を経て出口へと流れる。中性子発熱は第一壁から外側へ指数関数的に減衰するため、図の縦方向に長い流路内で密度差が生じ、後述するような熱対流と磁場の相互作用が設計上の重要課題となる。
固体セラミック増殖方式
固体方式では、トリチウム増殖材としてオルトケイ酸リチウム(Li₄SiO₄)やメタチタン酸リチウム(Li₂TiO₃)などのセラミックスを直径1 mm程度のペブルに成形し、容器内に充填層として詰める。この二つの材料は耐熱性・機械的強度・化学的安定性に優れるが、メタチタン酸リチウムはリチウム密度が低く増殖能力で不利であるため、6Li濃縮度を上げるか、増倍材や反射材の配置で補う。ペブル充填層とする理由は、照射による膨張や熱応力をペブルの再配置で吸収できること、および増殖材の交換を可能にすることにある。ただし充填層の有効熱伝導率はペブル接触状態に依存し、これが設計上の重要な物性値となる。トリチウムは固体中で生成した後、拡散して粒界や表面へ移動するため、増殖材を高温に保つことが抽出の条件であり、一方で温度上限も材料が決める。このため、ヘリウムパージガスを充填層に流してトリチウムを回収するとともに、冷却管配置や増殖材と冷却器の間の伝熱設計によって温度窓を維持する。能動的な温度制御の実験研究も行われている。
冷却材には加圧水、超臨界水、ヘリウムが用いられる。日本では超臨界水冷却の固体増殖ブランケットの概念設計が行われ、熱効率41%超の発電が可能なこと、第一壁の熱応力が低活性フェライト鋼F82Hの許容値内に収まること、正味TBRが1.05を超えられることが示された。第一壁と容器構造の製造技術では、熱間静水圧接合した冷却溝付きF82H模擬体が2.7 MW/m²の高熱流束試験に耐え、またゾル―ゲル法製Li₂TiO₃ペブル充填層の熱伝導率測定により設計用相関式が検証された。中国のCFETR(中国核融合工学試験炉)では加圧水冷却セラミック増殖ブランケットの概念設計が進められ、全モジュールの熱流体力解析、熱機械評価、想定事故解析などが行われている。欧州ではヘリウム冷却ペブルブランケット(HCPB)が固体方式の代表概念であり、ITERの試験モジュール計画にも採用されている。
液体金属・溶融塩増殖方式
液体方式は、増殖材そのものが流体である点で固体方式と根本的に異なる。共晶組成のリチウム鉛合金(Pb-Li、欧州ではPb-17Li、中国の計画ではPb-16Liが用いられる)は、リチウムによる増殖と鉛による中性子増倍を一つの流体で兼ね、しかも自らを冷却材として循環させられる。トリチウムは液体金属中に比較的容易に拡散するため、連続的な抽出が可能という利点がある。一方、磁場閉じ込め炉では液体金属の流れが強い磁場と相互作用する磁気流体力学(MHD)効果が本質的な課題となる。導電性流体が磁場中を動くと誘導電流が生じ、これが磁場からローレンツ力を受けて流れを抑え、圧力損失を急増させる。代表する無次元数は、電磁力と粘性力の比を表すハートマン数であり、ブランケット条件では非常に大きくなって境界層が極端に薄くなる。さらに、中性子発熱が第一壁から外側へ指数関数的に減少するため流体中に不均一な浮力が生じ、MHD強制流と熱対流が混ざったMHD混合対流が形成される。DCLL(双冷却リチウム鉛)概念を対象とした数値解析では、この混合対流が流路内の熱・物質(トリチウム)輸送に顕著な負の影響を与えうることが示されている。DCLL概念では、リチウム鉛を低速(約0.1 m/s)で増殖・除熱用に流す一方、第一壁や構造材の冷却には高流速の加圧ヘリウムを用いる二重冷却構造をとり、高い熱効率と高いTBRの両立を狙う。欧州では水冷却式と双冷却式の二概念が長年検討され、トリチウム制御とMHDの二点に研究の重点が置かれてきた。MHD圧力損失を抑える手段として流路内に電気絶縁性のライナ(流路挿入体)を置く工夫も研究されている。計算面では、磁場中の導電性流体の乱流や壁との電磁結合、浮力と物性値の温度依存性を扱う必要があり、並列計算にスケーラブルなオープンソースMHDソルバーの整備が進められている。
溶融塩方式は、フッ化リチウム―フッ化ベリリウム(LiF-BeF₂、通称FLiBe)に代表される。溶融塩は電気伝導性が弱いためMHD問題が液体金属より大幅に軽減され、循環させて冷却材を兼ねさせられるうえ、化学的に不活性で高温運転に向く。核分裂分野での溶融塩炉研究の経験もあり、高磁場コイルでコンパクト化したトカマク設計(ARC)で増殖兼冷却材として採用が計画され、実験装置での適合性評価も進んでいる。課題は高い融点と構造材への腐食であり、ITERの試験モジュール計画には採用されなかったが、有力な次世代候補とみなされている。
中性子学、材料、トリチウム抽出
ブランケットの設計は中性子学計算に大きく依存する。14 MeV中性子は増倍材で増やされ、減速されながら6Liの(n,α)反応でトリチウムを生む。この過程は中性子エネルギースペクトルの空間分布で決まるため、増倍材層の厚さや配置、6Li濃縮度、反射材(ベリリウム、鉛、黒鉛など)の選択が増殖比を左右する。計算の信頼性は実験による検証が不可欠で、D-T中性子源を用いたブランケット模擬体実験が行われてきた。水冷却セラミック増殖ブランケットの模擬体をD-T中性子源で照射した実験では、トリチウム生成率をオフライン測定(Li₂TiO₃ペブル)とオンライン測定(小型リチウムガラス検出器)の二系統で計り、金やジルコニウムの箔活性化による反応率測定で補強した結果、計算と実験の比が0.97から1.08の範囲に収まることが確認された。ヘリウム冷却ペブルブランケットの模擬体による中性子学実験も同様の目的で実施されている。
構造材料には、照射による誘導放射能と崩壊熱を抑える低活性フェライト/マルテンサイト鋼(RAFM鋼)が標準であり、欧州のユーロフェル(EUROFER)や日本のF82Hが代表である。ブランケットは炉心に最も近いため、長期照射後の放射化と崩壊熱は事故解析や廃棄物評価の入力となり、DEMO用ブランケットを想定したユーロフェルの長期放射化ポテンシャルの評価が行われている。バナジウム合金は高熱負荷・高温度運転に適した候補として研究されてきた。固体増殖材自体の材料開発も続き、照射後のセラミックス中での水素(重水素)の熱拡散挙動の測定などがトリチウム回収設計の基礎データを与える。
トリチウム抽出は方式ごとに異なる。固体方式ではヘリウムパージガスで増殖材からトリチウムを運び出し、コールドトラップや低温分子ふるい吸着塔、あるいはゼオライト膜やパラジウム膜反応器といった分離技術で回収・精製する。液体方式では液体金属自体がトリチウムを輸送し、専用の抽出系で分離するが、水冷却式では蒸気発生器を介したトリチウムの透過漏えいが評価対象となる。液体リチウム鉛を循環させる方式では、活性化した鉛リチウム流が持つ放射能と崩壊熱も機器設計の制約となる。
試験計画と設計統合
増殖ブランケットは、その性能が炉全体の燃料自給と発電成否を決めるため、実機規模の前に段階的な試験と統合設計で検証される。最大の試験機会はITERの試験ブランケットモジュール(TBM)計画であり、6概念が承認されている。多くは冷却材(水かヘリウム)と増殖材(固体セラミックか液体リチウム鉛)の組合せの違いによるもので、固体方式はベリリウムペブル、液体方式は鉛を中性子増倍材とする。韓国案は黒鉛反射材を、インド案は液体リチウム鉛と固体セラミックを併用した唯一のハイブリッド概念を掲げる。試験は当初、赤道ポート2か所に最大4基を同時装着して行われ、約8年後の発電運転段階で追加試験が計画されている。
その先のDEMO(実証炉)では、TBMで得られる工学データを基に発電用ブランケットを設計統合する段階となる。欧州DEMOでは水冷却リチウム鉛(WCLL)やヘリウム冷却リチウム鉛(HCLL)概念の核性能解析、活性化と崩壊熱評価が進められ、日本では超臨界水冷却固体増殖概念がDEMO候補として設計された。中国のCFETRでは水冷却セラミック増殖ブランケットの概念設計が加圧水炉技術を基盤に進められ、模擬体を用いたD-T中性子照射下でのトリチウム増殖実験まで実施されている。英国のSTEPでは、予備概念選定の段階でブランケット設計全体を統合シミュレーションで評価する手法が導入されている。設計の自由度は冷却材、増殖材、増倍材、反射材、構造配置の組合せとして膨大であり、ブランケット領域を複数層に分割して層ごとに材料を割り当てるモデル化により、少数のパラメータ操作で多様な概念を再現し、中性子スペクトルを通じて増殖比を最適化するアプローチも示されている。
図はそのようなモデル化の一例で、トカマク断面を16層の同心領域に分割した計算用モデルである。最内の緑色の層が第一壁、その外側にブランケット各層が積み重なり、底部の橙色の領域がダイバータに相当する。第一壁とダイバータはタングステンとされ、外側の層の色の違いが層ごとの材料割り当ての違いを表す。この種のモデルにより、材料配置と中性子スペクトルの関係を系統的に調べることが可能になる。
安全性の面では、冷却材喪失事故(LOCA)をはじめとする想定事故の解析手法の整備と、ヘリウム冷却ペブルブランケットへの適用、ITER類似条件でのCFETR固体増殖ブランケットの事故評価が行われている。増殖ブランケットは核発熱、トリチウム増殖・回収、構造強度、安全性という複数の要求を一つの機器で同時に満たす必要があり、その設計は核融合炉開発の中でも最も統合性の高い工学課題と位置づけられている。