Wiki / 装置 EU-DEMO (european demo)は、核融合・プラズマ物理学の装置。欧州の核融合ロードマップでITERの後に建設が計画されている実証炉の概念設計である。商用規模での発電とトリチウム燃料の自己供給を実証することを主目的とし、ブランケットやダイバータ、プラズマ性能等の統合的な設計検討が進められている。この用語集が追う論文のうち、タイトルにこの主題が現れるものは165本ある。比重が最も大きかったのは2020–2024年で、その期間の論文の0.91%を占めた。直近の2025–2029年では0.58%。この用語集がこの主題を最初に拾うのは1995年以降で、それ以前の収録論文には現れない。
目次
1 解説 2 推移 3 研究の変遷 4 よく登場する装置 5 この数字の作り方 解説 EU-DEMO(European DEMO)は、欧州の核融合ロードマップにおいてITER の次に位置づけられた実証炉(DEMO 、demonstration power plant)であり、発電の実証と閉じた燃料サイクル(トリチウム の増殖・回収)の実現を目指す、ITERと商業炉との間をつなぐ単一のステップとして構想されているトカマク型炉である。欧州ではEUROfusionの下で2010年代から予備概念設計(pre-conceptual design)、続く概念設計(conceptual design)段階の研究が進められており、炉心物理からブランケット、ダイバータ 、安全設計まで広範な設計研究の対象となっている。
fig.01 European DEMO design strategy and consequences for materials (2017) · CC BY 4.0
Schematic of a DEMO power plant.
図はDEMO発電プラントの主要システム構成を示したブロック図である。トカマク本体(真空容器 ・磁石・ブランケット・ダイバータ)を中心に、増殖したトリチウムを回収する燃料回収系、一次冷却系と中間ループを経由してタービン発電機へ熱を送る系統、パルス電源 や定常電源、クライオプラント、遠隔保守 用ホットセルなどが一つの発電所として描かれている。DEMOが単一の実験装置ではなく発電プラント全体として設計対象であることを示す図である。
欧州融合ロードマップにおける位置づけ
欧州のロードマップでは、ITER で核融合の物理・技術基盤を確立した後、 によって実際に電力網への送電と閉燃料サイクル運転を実証し、その後の商業炉につなぐこととされている。DEMOはITERのように単一の物理実験装置ではなく、数百MW規模の正味電力を発生させる発電所として設計されるため、設計思想が大きく異なる。ITERがQ=10(入力加熱電力に対する核融合出力の比)の設計点を持つのに対し、DEMOははるかに高い核融合出力、高い正規化ベータ、プラズマ全領域にわたる高温、高い 率、高いコア放射損失割合という、より厳しい条件に直面する。
EU-DEMO
種別 装置
論文数 165 本
初出 1995 –1999 年(1本)
最盛期 2020 –2024 年 0.91%
直近 2025 –2029 年 0.58%
ほかの綴り european demo 設計の進め方としては、各サブシステムの技術的成熟度を技術準備レベル(TRL)で評価し、最終解を待たずに成熟した技術から選定する「低外挿(low extrapolation)」のアプローチが初期の設計統合研究の基礎となった。各サブシステムで究極の最適解を待つことは融合電力の実現を無期限に先送りするというロードマップ上の判断がその背景にある。このためDEMOは「点設計(point design)」として、物理・技術の不確実性を明示的にマージンとして扱うシステムエンジニアリング的手法で設計が進められている。
設計点と設計駆動要因 EU-DEMOの0次元設計点はシステムコードPROCESSを用いて導出され、2017年に公式なベースラインが作成された。その後のG1ゲートレビュー(2020年)では、設計上の重大な問題が複数指摘された。すなわち、閉じ込め性能の仮定に対する感度が高すぎて設計マージンがないこと、95%磁気面の安全係数 q95 が運転上限と考えられる3.0に設定され余裕がないこと、再接合時の異常事象でダイバータ 熱流束が許容値を超えること、軸上トロイダル磁場が高く低温マスの機械構造が大型・高価になること、中央ソレノイドの繰り返し数が多く疲労設計を支配すること、ブランケットの遠隔保守 に実現可能な解がないこと、である。
これを受けて、閉じ込めのエピステミック(認識論的)不確実性に対して q95 を介した設計マージンを設計最適化問題に自己無矛盾に組み込む手法が開発された。プラズマ性能が想定より低い場合には定常運転からパルス運転へ後退して性能を回復する戦略も設計に織り込まれている。ステークホルダー要求としては正味電力300〜500 MWe、パルス長2時間以上が掲げられている。2018年ベースラインでは主要半径約9 m、プラズマ電流約17.5 MA、軸上トロイダル磁場約5.9 T、核融合出力2 GW、パルス長7200秒という規模が示されている。
図はパルス運転EU-DEMO 2018ベースラインの主要パラメータ表(左)と、シミュレーションで用いられた真空容器 と磁束面の断面形状(右)である。表には主要半径9.0 m、プラズマ電流17.75 MA、軸上磁場5.85 T、核融合出力2 GW、パルス時間7200秒、補助加熱130 MWなどが並んでおり、右図にはイオンの∇|B|ドリフト方向も示されている。この規模感が、後述するダイバータやブランケット設計の境界条件を定めている。
炉心シナリオと物理基盤
DEMO の設計を支える物理知見は「DEMO物理基盤(DEMO Physics Basis)」として体系化が進められており、シナリオモデリング、輸送、MHD 、加熱・電流駆動 、高速粒子、プラズマ壁相互作用 、ディスラプションの各分野が研究対象となっている。ITER からの外挿がITER自体の外挿より大きいため、設計点の一貫性を詳細レベルで確保することが課題となる。
経済性の観点からは、エネルギー閉じ込め 時間を最大化する高閉じ込めモード(Hモード )運転が最有力候補であり、L-H遷移 へのアクセスが設計上の鍵となる。特にDEMOでは加熱が電子サイクロトロン加熱 (ECRH)など電子加熱 に偏る可能性があり、L-H遷移しきい値がイオン熱流束に依存するという実験的知見の下では、純電子加熱での遷移達成が自明でない。核融合生成アルファ粒子 による加熱がこのしきい値の達成を助ける役割を果たすことが、ASTRA等を用いた輸送解析で検証されている。また、タングステン 等の不純物 (アルゴン 、キセノン等)の注入濃度が遷移条件とダイバータ 排熱の両方に影響するため、シナリオ設計とパワー排気 戦略は密接に結びついている。
増殖ブランケットとトリチウムシステム
DEMO の閉燃料サイクルを実現する中核部品が増殖ブランケット であり、欧州ではヘリウム冷却ペブルベッド 方式(HCPB)と水冷却リチウム 鉛方式(WCLL )の2概念が並行して開発されてきた。HCPBは固体増殖材 を用いヘリウム で冷却する方式、WCLLは液体リチウム 鉛(LiPb )を増殖材兼冷却材とする方式である。両方式についてブランケットモジュール の熱構造設計、LiPbループの統合、トリチウム の浸透を抑える防食・抗浸透バリアコーティングの開発、トリチウム抽出 システムと冷却材精製システムの概念設計が進められている。
G1ゲートレビュー以降、両ブランケット概念の性能評価が進むと、プラント正味電力の観点でHCPBが有利との評価が示され、設計の重点がHCPB側に移る方向となった。ブランケットの遠隔保守 はゲートレビューで解が見えていなかった課題の一つであり、モジュール交換の概念も設計統合の重要な駆動要因となっている。また、増殖ブランケットを備えた炉での安全性評価として、冷却材喪失事故 (LOCA)や真空容器 真空喪失事故(LOVA)などの設計基準事故・設計基準を超える事故について、MELCOR等を用いた決定論的解析が実施され、トリチウムやタングステン ダストの移行・放出評価、水素爆発リスク評価まで含めた安全設計研究が行われている。
ダイバータとパワー排気
DEMO 設計上最も厳しい課題の一つが、プラズマから放出される巨大な熱出力の処理である。核融合出力2 GW級の炉では、主プラズマとダイバータ での放射冷却によって総加熱電力の8割以上(frad ≥ 0.8)を放射で除去することが必要とされる。これはITER で求められる0.6〜0.7を上回る値であり、同時にダイバータターゲット のピーク熱流束を中性子照射 環境下で10 MW/m²レベルに抑えなければならない。このため、不純物 (アルゴン 等)シードによる放射冷却を用いた排熱シナリオが中心となり、SOLPS-ITER 等を用いたプラズマ周縁シミュレーション(ドリフトや運動論的中性粒子を含む解析)と、カセット構造の熱流動・熱構造解析が組み合わされて設計が進められている。ダイバータ保護の評価指標(figure of merit)の整備も行われている。
図はダイバータカセット1枚の設計例である。カセット本体、インボード・アウトボードのターゲット板、中性子遮蔽ライナ、リフレクタ、冷却水の入口・出口配管、ウォッシュボーン(支持・位置決め部材)などの構成要素が示されている。ターゲット部にはタングステン モノブロックが用いられ、その背後のヒートシンク構造で10 MW/m²級の熱流束を冷却水へ除去する。垂直変位 イベントなどの電磁過渡がカセットに与える機械的影響も設計解析の対象となっている。
加熱・電流駆動とプラント統合
G1ゲートレビュー以降、EU-DEMOの加熱・電流駆動 系は電子サイクロトロン(EC)のみで構成する方針が採られた。総計130 MWの補助加熱電力を想定し、そのうち約30 MWを炉心部のバルク加熱に、約30 MWを新古典・ティアリングモード(NTM )などMHD 不安定の局所制御用の狭いビームに、さらに約70 MWをタングステン 流入時の放射不安定対策としてプラズマ縁での入射に備える、という配分が概念設計の基礎となっている。電源 は2 MW級同軸キャビティジャイロトロン をクラスタにまとめ、真空波導管と準光学系を組み合わせた伝送路でトカマク建屋まで送り、赤道ポート のミラーアンテナから入射する構成が検討されている。スリット型ICRF アンテナの設計研究など、他の加熱方式の選択肢も残されている。プラズマ立ち上げ ・立ち下げの支援やブレークダウン支援もEC系の任務に含まれる。
プラント統合の観点では、加熱・燃料供給 ラインのブランケット内での配線・配管統合、二次系統(発電系)のサイクル設計、水冷却系の水化学と腐食 対策、中性子輸送解析のためのモンテカルロ計算ツールの整備など、個別部品設計を発電所全体として矛盾なく組み上げるための研究が進められている。これらの設計研究は、ITER の建設経験と産業界の参画を得ながら、商業炉への道筋を示す概念設計として2020年代半ばのゲートレビューに向けて更新が続けられている。
Fusion Engineering and Design 2014
EU-DEMOの研究史 — FusionPapers